Gemmy 129 号 「ラボトピックス「ジェメシス社製 合成ダイヤモンド」」

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Gemmy 129 号 「ラボトピックス「ジェメシス社製 合成ダイヤモンド」」

ジェメシス社製 合成ダイヤモンド

大阪支店 山根 千恵  

先日、1ctをこえるアメリカ ジェメシス社製合成ダイヤモンドが持ち込まれました。色相はYellow Orangeで照射処理をされていました。以下当該石の鑑別特徴について報告します。

はじめに

1955年アメリカGE社が初の合成ダイヤモンド育成の成功を公表して以来、合成ダイヤモンドの製造技術が発展し生産量の増加だけではなく、今日では1ctを超える合成ダイヤモンドが商業ベースで宝飾市場に流通しています。

特に各色カラーダイヤモンドの合成は天然カラーダイヤモンドの人気に伴い、現在ではジェメシス社の他にチャザム クリエイテッド ジェムズ社、ルーセントダイアモンズ社などが合成カラーダイヤモンドを大量に販売しています。そして今後さらに供給量が増加すると考えられています。

写真1

写真2

写真3

写真4

写真5

写真6

ジェメシス社製合成ダイヤモンド

ジェメシス社はアメリカ フロリダ州サラソタを本拠地とし、Yellow、Orange Yellow、Yellow Orange色相のIbタイプ合成ダイヤモンドを主に商業ベースで製造しています。

ジェメシス社の製造方法はHPHT(高温高圧)法で「BARS」とよばれるダイヤモンド成長装置を使用し、成長条件は5.0~6.5ギガパスカル、1350~1800℃の環境で育成させます。また育成方法は、鉄、ニッケル、コバルトなどを溶媒とし、成長室の上部に原料となる炭素を、下部にダイヤモンドの種結晶を置き、上下部分に温度差を生じさせ結晶化を促す「温度勾配」法での育成です。

ジェメシス社製合成ダイヤモンドの鑑別

今回のこの石は、ダイヤモンドのソーティングとして持ち込まれました(写真1)。色相は、Fancy Vivid-Deep Yellow Orangeで、重量は1.180ctでした。クラリティはSI2、カットはVery Goodでした。(通常、合成石にはグレードは適用していません) 

またこの石には、ガードルに『GEMESIS CREATED』の刻印がありました(写真2)。

紫外線蛍光反応は長波紫外線は faint Orange に、短波紫外線は Medium Orangeに発光し、長波短波とも中央部分にGreenish Yellowのクロス形模様が見えました。拡大下では、テーブル下にピンポイント状の金属インクルージョンが分散したクラウドがあり、天然のクラウドよりレリーフが高く感じられることと、クラウドがセクターに依存した配列なのが特徴的でした(写真3)。

パビリオン側から観察すると、全体的にオレンジの色相の中にイエローの色相部分がありカラーゾーニングが明瞭に見えました(写真4)。これはHPHT法合成ダイヤモンドに特徴的で、八面体に平行に成長してきた領域と六面体に平行に成長してきた領域とが生じることでみられるセクターゾーニングです。

次に、DTC製ダイヤモンドビューで蛍光像を観察したところ、セクターの発光が明瞭に確認されました(写真5,6)。この蛍光像は明らかに天然ダイヤモンドとは異なるものです。

FTIRでは、1344cm-1、1130cm-1の吸収が現れ典型的なIbタイプでした。1282cm-1の吸収も出現しIaA要素も含まれています。また照射処理に由来する、H1a(1450cm-1), H1b(4935cm-1)の吸収も現れました。

紫外-可視分光ではN-V‐センタ(637nm)が明瞭に現れ、この合成ダイヤモンドはイエローの色相だったものを照射処理されオレンジベースの色相に改変されたことがわかります。

以上のように、ジェメシス社製合成ダイヤモンドは典型的なHPHT法の特徴を示しました。注意深く対応することで天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドは充分識別可能と思われます。