Gemmy 136 号 「ラボトピックス「ガーネット」」

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Gemmy 136 号 「ラボトピックス「ガーネット」」

ガーネット

1月の誕生石として知られるガーネットは、赤色の宝石と思われがちですが、実は、オレンジ、緑といった、色彩豊かな変種が存在します。今回のラボ・トピックスでは、店頭で目にすることが多い「赤色系」と「緑色系」のガーネットについて2回にわたってご紹介します。

ガーネットにさまざまな色合いが存在する理由は、ガーネットが類質同像(同形)をとる宝石だからです。「類質同像」――聞きなれない難しそうな専門用語ですが、つまりガーネットは、共通の結晶構造を持ちつつも、その構造に取り込まれる成分が少しずつ異なる鉱物なのです。そのため、それぞれの色・屈折率・比重・分光性が異なり多種多様なガーネットが生まれます。

ガーネット族(ガーネット化学式)

化学的に説明しますと、ガーネットの化学組成を表す一般式は、X3 Y2(SiO43です。
X3には、カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)・鉄(Fe・二価)、マンガン(Mn)が入ります。Y2には、アルミニウム(Al)・鉄(Fe・三価)・クロム(Cr)が入ります。このX3とY2の組み合わせによってガーネットは多数の変種ができるのです。このようにしてできる一連の鉱物グループを、「ガーネット族」と呼んでいます。ガーネット族の変種は鉱物学的には16種類あり、そのうち宝石としてとり挙げられているのは6種類です。この6種類は成分の構成上から、赤色系のガーネットである『パイラルスパイト系列』と緑色系ガーネットの『ウグランダイト系列』とに分かれます。

赤色系ガーネット『パイラルスパイト系列』の分類

パイロープ、アルマンディン、スペサルティンガーネットは、パイラルスパイト系列とよばれ、主に赤色系のガーネットが多く存在します。図1の三角の角にあるパイロープ、アルマンディン、スペサルティンは、端成分といいます。端成分とは、一切混じりけの無い状態です。しかし、それぞれの端成分ガーネットの化学組成を構成する元素、マグネシウム(Mg)・鉄(Fe)・マンガン(Mn)は性質が似ているため、適度な温度と圧力下で相互の成分が混ざり合い、ひとつの結晶体になることがあります。
このことを固溶体といいます。また、端成分同士が任意の割合で混ざり合うことが可能ですので、中間タイプを生みます。
中間タイプの代表例として、紫赤色で人気のあるロードライトガーネットが挙げられます。これは、パイロープ/アルマンディンの中間タイプです。その他、コマーシャルネームで知られるマラヤガーネット(別名ウンバライト)やカラーチェンジタイプガーネットは、パイロープ/スペサルティンの中間タイプになります。アルマンディン/スペサルティンの中間タイプも存在します。

図1 パイラルスパイト系列の分類と特性

赤色系ガーネットの特性

次に、パイラルスパイト系列ガーネットの色相、屈折率、比重、分光性についてお話をしていきます。

写真1

<色 相>
写真1は左側から、A.パイロープ、B.ロードライト、C.アルマンディン、D.スペサルティンです。それぞれ同じ赤色系ですが、ピンク色・赤紫色・暗赤色と色相の違いが分かると思います。色相に違いがでてくるのは、鉄(Fe)が原因なのです。
パイロープは、アルマンディンやスペサルティンと違い化学組成の中に色となる元素を持っていないため、純粋な成分のものは無色透明です。しかし、一般的なパイロープは、クロム(Cr)と鉄(Fe)が不純物として混ざっているので色相は「炎のような」真紅色です。ですが、クロム(Cr)と鉄(Fe)が不純物として混ざる分量によっては色相が真紅色ではなく、ピンク色や無色(かなり希少)になることもあります。今回のAのパイロープは、クロム(Cr)と鉄(Fe)の量がかなり少ないためピンク色です。一方、Cのアルマンディンは、暗い赤色に見えます。鉄(Fe)は、色相を赤くしますが、多く入ると黒っぽくなる性質があります。パイロープに含まれるマグネシウムに置き換わって鉄の成分が多くなっていくと赤色になりますが、さらに鉄の含有率が高くなるアルマンディン寄りになると色相が赤黒くなります。
Cのアルマンディンも、当研究所の蛍光X線元素分析するとかなりの分量の鉄(Fe)が検出されました。
Dのスペサルティンの橙色は、マンガン(Mn)によるものです。

<屈折率・比重>
パイラルスパイト系列の中で、屈折率と比重が一番低いのはパイロープです。パイロープにアルマンディン成分の鉄(Fe)が増えると屈折率、比重の数値が高くなります。鉄(Fe)の量と屈折率、比重は比例関係にあります。サンプルAのパイロープとCのアルマンディン表1とでは、屈折率、比重にかなりの差が生じているのが分かると思います。そして、Bのロードライトは、両者の中間あたりの数値です。またスペサルティンのマンガン(Mn)も多くなるにしたがい、屈折率・比重が高くなります。

<分光性>
 ハンドタイプの分光器では、色因となる元素の吸収がみられます。表1に示したとおり、パイロープではクロム(Cr)の吸収がみられます。ロードライトやアルマンデインでは、鉄(Fe)バンドと呼ばれる吸収帯がみられます。スペサルティンはマンガン(Mn)バンドがみられます。中間タイプのガーネットでは、鉄(Fe)バンドとマンガン(Mn)バンドの両方がみえることもあります。

表1

  色相 屈折率 比重 分光性 インクルージョン
A パイロープ ピンク色 1.734 3.63 クロム(Cr) 針状、結晶
B ロードライト 赤紫色 1.767 3.91 鉄(Fe) 針状、結晶
C アルマンディン 暗赤色 1.81以上 4.19 鉄(Fe)強 針状
D スペサルティン 橙色 1.81以上 4.15 マンガン(Mn) 液膜、結晶

パイラルスパイト系列の赤色系ガーネット、パイロープ、アルマンディン、スペサルティンは中間タイプが存在するということが特徴です。したがって、ガーネットの種類を識別するには屈折率・比重・分光性の検査が大切です。
当研究所では、AGLで定められている屈折率、比重、分光性の基準に基づいて識別をしています。(屈折率・比重・分光性のAGLの基準数値は図1参照。 )
緑色系の『ウグランダイト系列』のガーネットについては、次号ご紹介致します。(つづく)

当研究所の分析報告書のご紹介

ラマン分光器によるダイヤモンド中パイロープガーネットの分析

図3 ラマン分光分析

図4 フォトルミネッセンス分析

今回ご紹介した赤色系のガーネットのひとつであるパイロープは、他のガーネットと異なり、かんらん岩やキンバリー岩などの高い圧力をうけてできた岩石中に存在し、ダイヤモンドと共に発見されます。南アフリカ、ロシア、カナダのダイヤモンド鉱床からも見つかっています。また、ダイヤモンドの中にパイロープの結晶がとりこまれていることもあります。このようなダイヤモンド中のガーネットをラマン分光分析すると、ガーネットと特定することができます(図3)。表面に結晶が達している場合は、蛍光X線による元素分析を行うとクロム(Cr)が検出されることもあります。また、フォトルミネッセンス分析では、700nm付近に発光スペクトル(683・686・689・693nm)が観察されます(図4)。これは、パイロープの不純物として含まれる、クロム(Cr)による発光で、この結晶が明らかにパイロープガーネットであることを意味しています。
ダイヤモンド中にガーネットが入っている場合、ご希望によりそのガーネットの拡大写真付きの分析報告書を発行致します。(※通常の鑑別書+内部世界分析報告書という形での発行となります)