Gemmy 136 号 「小売店様向け宝石の知識「アンティークジュエリー4」」

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Gemmy 136 号 「小売店様向け宝石の知識「アンティークジュエリー4」」

アンティークジュエリー・Antique Jewellery 4

アンティークジュエリー。それは古美術的骨董装身具。

百年以上を経っても、なお輝きを失わず、寧ろますます価値が上がり輝きを増す宝石・貴金属の古美術的装身具や古美術的工芸品をさす。

アンティーク業界には、お値打ち品、掘り出し物、出世物、家宝、心の勲章という仲間用語があるようだ。骨董品には想像以上の価値あるものに出会い、思わず感動して手にしたりすることがある。しかもその品物が出世することである。所有する骨董品が時代を経るにつれて一層輝きを増し、価値が上昇していく出世する骨董品である。いわゆる、ほんとうのお値打ち骨董品である。

また骨董品は心の勲章ともいわれる。先祖から受け継がれてきた骨董品、家の先祖代々が愛用してきた骨董品は、それは金額が高い安いに関係なく、自分にはかけがえのない骨董品・家宝である。それを大事に所有愛用することは、その人にとって誇りであり、先祖に感謝し、心の癒しとなり、心の勲章になる。骨董美術品を所有することは歴史を感じ、生活に豊かさを与え、心の癒しとなり、目には見えない心の誇りとゆとりになるというわけだ。

さて歴史を振り返れば、どの民族も古くから装身具を身に付けている。特にヨーロッパではジュエリーの歴史は古い。一点一点、職人たちが精魂を込めて製作した細工の素晴らしさ、今となっては再現不可能な精緻な技法もそのジュエリーにはある。時代の息吹を伝えるデザインが今の人にも十分な魅力が横溢している。しかし日本人にとって宝石・貴金属ジュエリーは、不思議なことに無縁の時代が長かった。気軽につき合えるようになったのは、実はごく最近のことだ。アンティークジュエリーは、われわれ日本人にとって時間とお金をかけて探求に価する、美しく、価値ある、いまだ謎に満ちた、やや遠い存在といえるだろう。

われわれが宝石・貴金属ジュエリーを、なにかの記念に、自分なりに感動をともなって、あつらえ取り揃え、一生涯愛用し、その後は子供に孫にと次世代に伝えられようであれば、これにすぐる物はない。これこそ将来にわたって、その家族子孫にとって、本当の意味でのアンティークジュエリーに出世していくだろう。これは金額の高低に関係なく、その家の超お宝ジュエリーとなるだろう。

ここで提言したいのは、アンティークジュエリーは何も高いお金を出して、欧米で探すだけが唯一の考え方ではない。わが家の将来のアンティークジュエリーを自分なりに創造、創作、蒐集したら如何かと思う。遠い将来にわたって、わが家の子孫が、百年以上前のジュエリーを所有愛用してもらえる喜びを想像してみたい。今年のアカデミー賞授与式のインタビューで、受賞の有名女優が司会者に「貴女は素晴らしい宝石を身に着けている」と問われて、彼女は「これはわが家に伝わるファミリージュエル(家宝)」と正に心の勲章とばかりに応答していた。自分なりに一生に一つでもエステートジュエリーを今から用意すること、これも一つの骨董に対する見方・考え方といえる。心に残る感動のジュエリーを創作する、または蒐集して残すことは将来子孫に受け渡し、受け継いでいく家宝(Family Jewellery)となりうる。今はたまたま自分が持っているだけという気持ち。そして将来子孫の心の財産となり、心の勲章にもなるファミリージュエリー。ヨーロッパのアンティークジュエリーの中には、故人の遺髪を用いて作られたものや、銘を彫ったものなどモーニングジュエリーが存在するほどである。日本でも宝石・貴金属ジュエリーを次世代に受け渡していく大切な遺産(エステート)として、ジュエリーに対する考え方をそろそろ持つ時代になってきたようだ。

アンティークジュエリーは、その所有する人にとって何か由緒があれば、その人の追憶や誇りとなり、心の癒しとなり、心の勲章となる。その人に歴史を感じさせることになる。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊