Gemmy 137 号 「ラボトピックス「ガーネット2」」

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Gemmy 137 号 「ラボトピックス「ガーネット2」」

ガーネット2

前回の赤色系パイラルスパイト系列のガーネットに続き、今回はウグランダイト系列とよばれるガーネットの中で、緑色のものについてご紹介します。

『ウグランダイト系列』の分類

『ウグランダイト』とは、ウバローバイト(Uvarovite)、グロッシュラー(Grossular)、アンドラダイト(Andradite)の頭文字をとったところからきています。(因みに、『パイラルスパイト』は、パイロープ(Pyrope)、アルマンディン(Almandine)、スペサルティン(Spessartine)からとっています)
このウグランダイト系列の3種のガーネットであるウバローバイト、グロッシュラー、アンドラダイトはそれぞれ端成分(一切まじりけのない状態)です(図1)。しかし、前号でご紹介した赤色系ガーネットの端成分同士とは関係が異なります。赤色系ガーネット(パイロープ、アルマンディン、スペサルティン)は、任意の割合で混ざり合い連続的な固溶体(※)となりましたが、ウグランダイト系列のガーネットで混ざるのは、グロッシュラーとアンドラダイトの相互間だけで、ウバローバイトとグロッシュラー、ウバローバイトとアンドラダイトとは一部しか混ざり合いません。なぜならば、グロッシュラーとアンドラダイトとを構成している元素、アルミニウム(Al)と鉄(Fe)はイオンの大きさが近いため、お互いが元素を交換し合い混ざり合うことが可能なのですが、ウバローバイトを構成しているクロム(Cr)は、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)とイオンの大きさが異なるため、混ざり合うことができません。
混ざり合うことが可能なグロッシュラーとアンドラダイトは、赤色系ガーネットと同様に連続的な固溶体となり中間タイプが存在します(Gemmy136号P.8、ガーネット化学式と表を参照)。この中間タイプは、マリ・ガーネット(商標ネーム)と呼ばれています。
※固容体:適度な温度と圧力下で相互の成分が混ざり合い、ひとつの結晶体になること。

図1 ウグランダイト系列の分類と特性

図1 ウグランダイト系列の分類と特性

『ウグランダイト系列』の変種

これら3種のガーネットは宝石としての一般的な色相は緑色系と思われがちです。しかし実際は他の色相もあり、その色相によって更に細かく変種が分けられることもあります(表1)。
今回は緑色系ガーネットの代表とも言える、デマントイドとグリーンのグロッシュラーを紹介します。

表1 ウグランダイト系列の変種

 アンドラダイト   ・デマントイド(黄緑~緑色)
 ・アンドラダイト(褐緑色)
 ・トパーゾライト(黄色)
 ・メラナイト(黒色)
 グロッシュラー   ・グロッシュラー(ホワイト・イエロー・ゴールデン・オレンジ・グリーン)
 ・ヘソナイト(褐赤色・橙赤色・橙黄色)
 ・ハイドログロッシュラー(ホワイト・グリーン・ピンク)
 ウバローバイト(緑色)   

デマントイドとグリーングロッシュラーの採掘の歴史

緑色系のガーネットは赤色系ガーネットに比べ歴史は意外と浅く、19世紀半ばにロシアのウラル山脈でデマントイドが最初に発見されました。ロシア帝国の貴族にこよなく愛された宝石のひとつでしたが、ロシア革命により宝石の採掘は途絶えてしまいました。その後、緑色系ガーネットの代表となったのは、東アフリカから発見されたグリーングロッシュラーガーネットでした。小さいながらも濃い緑色のグロッシュラーガーネットは一躍人気を集め、現在でも、最初に発見されたケニアのツァボ国立公園に因んだ「ツァボライト」の名称で親しまれています。また、デマントイドも20世紀末のソ連崩壊により採掘が再開されました。ダイヤモンドと同じようにキラキラとした虹色の輝きをもつデマントイドはとても特徴的で、「デマントイド」という名称はダイヤモンドのようなという意味からきています。現在では、ロシアの他、アフリカのナミビアやカナダ等からも採掘されています。

デマントイドとグリーングロッシュラーの特性

写真1

写真1

次に、デマントイドとグリーングロッシュラーの色相、屈折率、比重についてお話します。
写真1は、左側から、A.グリーングロッシュラー、B.デマントイドです。

〔色相〕
グロッシュラーは、色となる元素を元々持っていないので、理想的な端成分は無色です。そこに、微量のクロム(Cr)とバナジウム(V)が入ることで、緑色のグリーングロッシュラーとなります。一方、デマントイドは、アンドラダイトが化学組成上、色となる鉄(Fe)元素があるため元から黄色や褐色の色相を持っていますが、そこにクロム(Cr)が入り黄緑から緑の色相となります。

〔屈折・比重〕
グリーングロッシュラーとデマントイドとでは、グリーングロッシュラーのほうが屈折率、比重ともに低く、デマントイドは高いです。これは、赤色系ガーネットと同じように鉄(Fe)が原因です。

〔分光性〕
ハンドタイプの可視分光器では、グリーングロッシュラーは特徴的な吸収は観察されません(色因となるバナジウム(V)の吸収は不明瞭)。一方、デマントイドには、440nm付近に鉄(Fe)の吸収バンドが見られ、濃緑色のものには690,685,634,618nmにクロム(Cr)による吸収が見られるものもあります。

デマントイド可視分光

デマントイド可視分光

  屈折率 比重 分光性 インクルージョン
グリーングロッシュラー 1.740 3.66 特徴的な吸収はなし 針状、液体
デマントイド 1.81以上 3.83 クロム(Cr)微弱,鉄(Fe) ホーステール

終わりに

ガーネットにはあらゆる色相があり、また多くの変種が存在します。今回は紹介できませんでしたが、糖蜜状組織と切りかぶ状インクルージョンで有名なヘソナイトガーネットや、アレキサンドライトのように変色性をもつカラーチェンジタイプのガーネット、最近レインボーガーネットの愛称で人気を集めていた天川村のアンドラダイトガーネットなどがあります。ガーネットは、類質同像(※)であるがゆえに多くの特徴的な変種が存在し、魅力的な鉱物のひとつになっています。地球の内部には、何十億年前にできた未知のガーネットがまだまだ眠っていて、そのようなガーネットがこれからも産出されるかもしれません。
※類質同像:類似の化学組成をもち、共通の結晶構造を有する鉱物の関係。

当研究所の分析報告書のご紹介

デマントイドガーネットには、繊維状の結晶が放射状に伸びて馬のしっぽのようにみえる「ホーステールインクルージョン」とよばれる結晶が多く観察されます。このインクルージョンはデマントイド特有のインクルージョンです。当研究所では、ホーステールインクルージョンが入っている場合、ご希望によりそのガーネットの拡大写真付の分析報告書を発行しています。(※通常の鑑別書+内部世界分析報告書という形での発行となります)

大阪支店  山根 千恵