CGL通信 vol01 「CVDダイヤモンドについて」

CGL通信


CGL通信 vol01 「CVDダイヤモンドについて」

はじめに

2005.3.23発売のニューズウイーク誌に “あなたのダイヤ「本物」ですか” という刺激的なタイトルで発表された合成ダイヤモンドの記事は、お読みになりましたか?
この記事では、米国Apollo Diamond社で製造しているCVD合成ダイヤモンドを取り上げ、鑑別が難しいと書かれていますが、当中央宝石研究所は昨年(2004年)の早い段階でサンプルを入手し、6月の宝石学会でCVDダイヤモンドの特徴を示し、日本では当社のみが所有しているデビアス社製ダイヤモンドビューTM等を用いれば、鑑別が可能であることを発表しています。

今回のCGL通信第1号では、このCVDダイヤモンドを取り上げ、その特徴と鑑別法をできるだけ分かり易く皆様にお伝えしたいと思います。また、今後もホットな話題を(不定期ですが)配信していくつもりです。

CVDの意味は

CVDとは Chemical Vapor Deposition の略で、化学的に気体状態から積層させる合成法を意味します。日本語では「化学気相成長法」や「化学蒸着法」と呼ばれます。MPCVDと書かれている場合は、Microwave Plasma Chemical Vapor Deposition の略でマイクロ波プラズマ法と呼ばれています。
最近話題となっているApollo Diamond社(ボストン・マサチューセッツ州)の合成ダイヤモンド法を用いて作られています。
CVD合成ダイヤモンドがこれ程までに市場で問題化した背景には、Apollo Diamond社が2004年にCVD法で製造したタイプII a合成ダイヤモンドを1年以内に商品化すると発表したことに始まります。その直後、このCVD合成ダイヤモンドがこれまでの高温高圧(HPHT)法の合成ダイヤモンドの鑑別特徴では看破出来ないと発表されたことから、市場では『天然ダイヤモンドと識別がつかない』という間違った情報に変化して大問題に発展しました。

昨年春、当社はApollo Diamond社製CVDダイヤモンドのファセットカット石および原石(合計3石)を検査する機会を得、その後同社製のより高品質CVDダイヤモンド原石を更に3石調査致しました。その検査結果はすでに昨年度の宝石学会で当社スタッフの間中が発表し、当社の情報誌であるGemmy(121号/2004年11月発行)でも紹介いたしました。今回ニューズウイーク誌で取り上げられたことでCVDダイヤモンドが鑑別できないという間違った情報が広がるのを防ぐため、再度これらの石についての鑑別特徴を紹介させていただきます。

ファセットカット石 原石
CVD合成ダイヤモンド

CVD合成ダイヤモンドが作られているところ。プラズマ化したガスは白い雲のように見えている。

写真3

CVD合成装置の例:モデルAX6600
(写真はセキテクノトロン社のHPより引用)


CVDダイヤモンドの特徴

外観特徴

写真11

製造が始まったばかりのCVDダイヤモンドでは厚さ方向に成長させるのに時間がかかるため、原石からの歩留まりを考慮すると写真のような形となってしまいます。
合成ダイヤモンドには通常グレーディングを行いませんが、敢えてクラリティ検査を行うと、このカット石のグレードはI-1になります。これは網目状に入った表面上の割れ(フラクチャ)によるものであって内包物(インクルージョン)は実際には多くありません。将来、大型のCVD結晶が得られるようになればかなり高品質のカット石も出来るでしょう。

CVD合成ダイヤモンド

上記のカット石の写真を見ても分かる様に、非常にフラットな形状を示します。

鑑別

偏光検査
ヨー化メチレンに液浸し、偏光(クロスニコル)下で観察するとCVDダイヤモンドは天然II型に現れるタタミマットと良く似た干渉模様が観察されました。天然のII型ダイヤモンドは偏光下で回転させても合成スピネルに見られるような石全体にわたるタビー状のゆらぎは見られないのに対して、CVDダイヤモンドでは偏光下で回転させるとタビー状の異常消化が観察されるため、これらは通常観察における区別の指針となるでしょう。この他にも特有の模様が見られます。

写真5

偏光(クロスニコル)下で観察するとCVDダイヤ
モンドはタタミマットと良く似た模様が
観察されます。

写真6

他の石で見られる特有の模様
 
 



拡大検査

写真7

CVDダイヤモンドは、基盤に平行に成長するため、その痕跡が残ってしまいます。高屈折率の液体に浸すと、テーブルに平行な特有の成長模様(褐色)を観察する事ができます。分析機器を用いずに観察できる重要なポイントです。
ただし、今後高品質化された場合、観察しづらくなると予想されるため、別の方法で観察できる方法が必要になるでしょう。



ダイヤモンドビュー(Diamond ViewTM)による観察

ダイヤモンドビューは、デビアス系のDTC(Diamond Trading Company)で合成ダイヤモンドを区別するために開発された装置です。ダイヤモンドに紫外線を当て蛍光像をモニターで観察しながらあらゆる角度で石の検査を可能にした機器で、カソードルミネッセンス(CL)像と同様に天然と合成を判別できますが、よりスピーディに検査が行えます。
この装置でCVDダイヤモンドを観察すると前ページで観察された成長線が蛍光の差となって見ることができます。成長線がみづらい石に遭遇したときにこの装置は非常に有効な手段となります。

写真8

Diamond ViewTM
 
 

写真9

ダイヤモンドビューにより観察される
テーブルに平行な蛍光像
(前ページと同じCVDダイヤモンド)



その他の特徴的なCVDダイヤモンド

次の写真は円柱状に研磨されたCVDダイヤモンドですが、従来の高温高圧法による合成ダイヤモンドを基盤に使用したためその部分が残ってしまい、高温高圧法ダイヤモンド特有のクロスした模様が観察される例です。

写真10

高温高圧合成ダイヤモンドの基盤が残った
CVDダイヤモンド

全体にはN-Vの欠陥(Nは窒素・Vは空孔)によるオレンジ色の発行が見られますが、写真下部にクロスした高温高圧法合成ダイヤモンドの典型的な模様が見られます。これにより基盤には合成ダイヤモンドが用いられていることがわかります。反対側の面には、このクロス模様は見られません。
※ダイヤモンドビューは、本来このような合成ダイヤモンド特有のクロス模様を見るために開発されたものです。



フォトルミネッセンス(PL)
フォトルミネッセンスの検査には、顕微ラマン分光分析装置(レニショー社製システム1000およびジョバンイボン製ラブラムインフィニティ)を用いてサンプル石を-150℃以下に冷却し測定を行いました。異なる波長のレーザーと組み合わせてフォトルミネッセンス測定を行うことで、予期しない特徴が捕まえられることがありますので、3種類のレーザー(325nm、514nm、633nm)で検査を行いました。

514nmレーザー励起(れいき)
N-Vセンターと呼ばれる欠陥の特徴が575nmと637nmに明瞭に見られ、さらにはシリコンに関連する737nmの強い発光ピークも観察されました。このシリコンは、製造装置のカプセル由来であって、基盤がシリコンであるためではないと言われています。シリコン基盤でダイヤモンドの製造は可能ですが、多結晶質になりやすいため、単結晶のダイヤモンドを作る場合は単結晶ダイヤモンドを基盤として用います。

633nmレーザー励起
シリコンによる737nmは励起している波長に近いため、より強いピークとして観察されます。2004年のG&G春号ではデビアス系のエレメントシックス社で製造されたCVDダイヤモンドが紹介され、最新のCVDダイヤモンドでは既にシリコンのピークが検出されなくなってきているそうですが、このシリコン関連のピークが検出されればCVD合成のダイヤモンドであると考えて良いでしょう。

325nmレーザー励起
CVDダイヤモンドには天然石と比べてたくさんのピークが存在し、特徴的なピークとしては天然石には観察されない533nmの発光が検出されました。

中央宝石研究所では、CVD合成ダイヤモンドがいずれ市場に出回ることを予測しデータを集め、現段階で鑑別は可能とであることが分かっております。今後も様々な状況変化にできるだけ迅速に対応し、皆様のご期待に添えるよう努力してまいります。

以上