CGL通信 vol13 「GIT2012:第3回 国際宝石・宝飾品学会に参加して」

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CGL通信 vol13 「GIT2012:第3回 国際宝石・宝飾品学会に参加して」

研究室 北脇裕士 

会議後のツアーで訪れたカンボジア、パイリンのWat Phnom Yat 寺院

会議後のツアーで訪れたカンボジア、
パイリンのWat Phnom Yat 寺院

本会議の会場となったインペリアルクイーンズパークホテル

本会議の会場となったインペリアル
クイーンズパークホテル

昨年12月12日(水)~13日(木)までの2日間、表題の国際会議がタイのバンコクで行われ、翌14日(金)~16日(日)までの3日間、ポストカンファレンスツアー(会議後の原産地視察)としてタイのチャンタブリ~カンボジアのパイリン鉱床の視察が行われました。当研究所から3名の技術者が参加し、それぞれ口頭発表を行いました。
以下に概要をご報告致します。

GIT 2012とは・・・・

International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)はGIT(The Gem and Jewelry Institute of Thailand)が主催する国際的に有数の宝飾関連学会の一つです。第一回目は2006年、第二回目は2009年、そして今回は2012年12月に第三回目としてGIT 2012が開催されました。GITはLMHC(ラボマニュアル調整委員会)にも属する国際的にも著名な宝石検査機関で、当研究所とは科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を諮っています。本学会はGITが主催していますが、TGJTA(タイ宝石・宝飾品協会)、CGA(チャンタブリ宝石・宝飾品協会)、チュラロンコン大学、国家商工省、鉱物資源局などが後援しており、まさに国を挙げての国際会議といえます。また、本会議運営のため15ヵ国31名の国際技術委員会が結成され、当研究所の堀川もその一役を担いました。


本会議

本会議はバンコク市内のインペリアルクイーンズパークホテルが会場となり、世界30ヵ国から500名を超える参加者が集いました。オープニングセレモニーではCIBJO会長のGaetano Cavalieri氏、ICA会長のWilson K.W. Yuen氏らが宝飾業界の未来に向けて力強い基調講演を行いました。
一般講演は1.宝石の特性、2.鑑別-命名、3.鑑別-処理(1)、4.鑑別-処理(2)、5.ダイヤモンド、6.貴金属、7.有機宝石、8.宝飾デザイン、9.宝石学-探鉱、10.宝石学-政策ほか、の10のセッションで構成されており、2つの会場に分かれて同時進行しました。口頭発表は総計で48件、ポスター発表は45件のエントリーがありました。当研究所からは技術顧問の赤松が有機宝石セッションで『養殖真珠-その誕生と現状』、堀川が鑑別-命名セッションで『宝石用語としての“翡翠”の再考』、筆者が鑑別-処理セッションで『LA-ICP-MS分析による合成ルビーの鑑別』についてそれぞれ口頭発表を行いました。
各発表の詳細な要旨集がGITのウェブサイトhttp://www.git.or.th/index_en.html に掲載されております。フリーでダウンロードすることが可能ですので、ご興味のある方はご覧下さい。

基調講演でアジアのジュエリー産業の未来について語るICA会長のWilson K.W. Yuen氏

基調講演でアジアのジュエリー産業の未来について
語るICA会長のWilson K.W. Yuen氏

本会議のメイン会場となったインペリアルクイーンズパークホテルのボールルーム

本会議のメイン会場となったインペリアル
クイーンズパークホテルのボールルーム


会場に張り出された45件のポスター発表。口頭発表の合間には熱心な研究者が著者に質問を投げかける

会場に張り出された45件のポスター発表。
口頭発表の合間には熱心な研究者が
著者に質問を投げかける

鑑別-命名セッションで『宝石用語としての“翡翠”の再考』について講演する堀川所員

鑑別-命名セッションで『宝石用語としての
“翡翠”の再考』について講演する堀川所員
 


ポストカンファレンスツアー(会議後の原産地視察)

本会議終了後、約90名の参加者が3日間のチャンタブリ~カンボジアのパイリン地区の視察に参加しました。
タイは昔からルビー・サファイアの重要な産地です。1850年の鉱床発見以来、19世紀後半から世界のルビー・サファイアの宝石需要を支え続け、1980年代の最盛期には4000万ct程の生産量があったという記録があります。しかし、1990年代以降鉱床は枯渇気味で、現在は宝石産地であると同時に世界的な宝石と宝飾品の加工と流通の中心になっています。特にバンコクやチャンタブリでは常にコランダムの新しい加熱技術が発達し、世界中の宝石関係者の注目の的となっています。タイのコランダム産地はカンチャナブリ地区、チャンタブリ地区、フィラエ地区などが知られています。今回のツアーではチャンタブリ地区のKhao Ploi Waen鉱区を訪れました。ここはタイで始めてサファイアが発見された土地として知られています。この地区はカンチャナブリ地区に比較すると産出量は少なく、ブルー・サファイアは色が濃すぎて黒っぽく見えますが、美しいグリーンサファイアが産出します。ここでは地下3~8mに分布する灰色~褐色の風化玄武岩の土が重機で掘られ、選鉱プラントでは高圧水で洗浄し、比重選鉱されています。

チャンタブリ地区のKhao Ploi Waen鉱区。風化玄武岩の二次鉱床

チャンタブリ地区のKhao Ploi Waen鉱区。
風化玄武岩の二次鉱床

高圧水を使用して風化玄武岩の土を洗い流す

高圧水を使用して風化玄武岩の土を洗い流す
 


比重選鉱機を用いてサファイアを選別

比重選鉱機を用いてサファイアを選別
 

Khao Ploi Waen鉱区から産出したグリーンサファイア

Khao Ploi Waen鉱区から産出した
グリーンサファイア


タイの東方、カンボジアとの国境を横切ってパイリン地区のサファイア鉱区が広がります。この地ではブルー・サファイアとルビーが産出します。不思議なことにカラレス、イエローやグリーンの産出がほとんどありません。この地のブルー・サファイアは品質が良く、現地の人の自慢でもあります。全体的に濃色ですが、小粒のものが多いようです。全体的にチャンタブリ地区のサファイアに似ています。カンボジア側から産出したものもタイ産としてチャンタブリやバンコクで加熱され、市場に出て行くと言われています。今回はSanang川の河川鉱床とBo Yaka地区の露天掘り鉱床を視察しました。河川鉱床での採掘は自由に行うことが可能で、現地の農民が副収入の糧として採掘されています。いっぽう露天掘り鉱床は国から採掘権を購入し、重機を用いて採掘されています。

カンボジア・パイリンのSanang川流域での採掘

カンボジア・パイリンのSanang川流域での採掘

わんかけをして得られたサファイア類の原石

わんかけをして得られたサファイア類の原石


カンボジア・パイリンBo yaka地区の露天掘り。高圧水で土砂を崩し、ポンプで吸い上げて選鉱機に運ぶ

カンボジア・パイリンBo yaka地区の露天掘り。高圧水で土砂を崩し、ポンプで吸い上げて選鉱機に運ぶ