CGL通信 vol15 「宝石学会(日本)」

CGL通信


CGL通信 vol15 「宝石学会(日本)」

埼玉県立自然の博物館

埼玉県立自然の博物館

平成25年の宝石学会(日本)講演会・総会が6月15日に埼玉県・秩父郡の埼玉県立自然の博物館講堂にて、また見学会が16日に開催されました。

今号では懇親会および見学会の様子と、発表のありました一般講演の内容を要約してご紹介します(○:発表者)。

宝石学会(日本)は「科学者と、宝石界との良き協力関係を生み出し、両者が有無相通じ合うことによって宝石学を振興し、その成果を還元する公共的な媒体となる(趣意書の一部抜粋)」ことを目的として、昭和49年(1974年)に設立され、上野の国立科学博物館で創立総会が行われました。その後、毎年一回の講演会・総会が開催され、今期は会計年度で第42期目を迎えます。

本年度の講演会および総会はキャプションのとおり埼玉県立自然の博物館で行われました。同館は秩父鉄道が設立した「鉱物植物標本陳列所」の資料を引き継いで昭和56年(1981年)に開設された埼玉県立自然史博物館を前身としています。平成18年(2006年)に名称も新たにリニューアルされています。本館は風光明媚な長瀞渓谷にほど近く、木々の緑も深く学術的な会合を行う環境としては最適です。

会館の講堂は収容人数が120名と広く設備も充実しており、講演会の会場としては申し分がありません。講演会の参加者は総勢70名で内訳は鑑別技術者を中心に業界団体職員、大学・研究職者、宝飾業者およびその他と本学会の趣意である“科学者と宝石界との良き協力関係・・・”に則したものと言えそうです。

15日(土)は午前10時から受付が開始され、10時半から一般講演14題が行われました。昼食後の総会においては今期の会計報告、収支予算が報告され、承認を得ました。また、宮田会長が評議委員会の刷新とさらなる学会の発展を想念し、自ら会長職を辞すこと、選挙委員会を設けて評議員選挙を行うことを報告しました。さらに、本学会の設立当初から会長として長年ご活躍いただいた砂川一郎東北大学名誉教授の訃報が伝えられました。

一般講演は質疑応答を含めて1テーマにつき20分で行われました。講演内容の内訳は、ダイヤモンド関連2題、コランダム関連2題、色石鑑別関連2題、真珠関連3題、産地関連2題およびその他研究3題でした。それぞれの各項目の中でも鑑別技術に関する内容が多く、鑑別技術者が多く参加している本会の会員構成を如実に表していました。そのような中でもジュエリーを歴史的見地で捉えた報告や結晶を素材としてその有用性を論じた発表も見られ、講演会の裾野の広がりを感じさせました。中央宝石研究所からは、研究室の江森所員と久永所員がそれぞれの日頃の研究成果を発表しました。発表内容につきましては本誌上で順次掲載の予定です。

今年度の一般講演の概要は以下の通りです。

一般講演 1
埼玉県内に産出する鉱物・宝石 ー天然記念物緊急調査報告書よりー

聖徳大学川並弘昭記念図書館

  ○

林  政彦

早稲田大学創造理工学部 環境資源工学科

 

山崎 淳司

演者である林氏が1999年~2001年に埼玉県教育委員会より委託された委員として実施した天然記念物緊急調査の報告書を元に埼玉県内で産出する鉱物について報告しました。埼玉県内で産出する鉱物は現在199種あり、ひすい輝石、方解石、スピネル、アンドラダイトガーネットなども含まれます。また、秩父も登録されたジオパークについても紹介しました。

一般講演 2
いわゆる「トラピッチェ」と呼ばれるダイヤモンドと最近観察された珍しいダイヤモンドについての報告

(株)東京宝石科学アカデミー

  ○

渥美 郁男

 

 

西村 文子

トラピッチェダイヤモンドとして販売されている3方向に放射状模様を示す薄片状に研磨されたダイヤモンド(ジンバブエ産)についての研究結果を報告しました。放射状を呈するクラウド部はDiamond ViewTMなどで黄緑色に蛍光し、電子顕微鏡による観察において針状のものと丸みのある六角形の2種類があるとされました。また、東大大学院理学系研究科の協力の下これらの結晶方位の決定を試みました。

一般講演 3
非開示で持ち込まれた1ct upのCVD合成ダイヤモンド

発表中の久永所員

発表中の久永所員

中央宝石研究所

  ○

久永 美生

 

 

北脇 裕士/山本 正博

 

 

岡野  誠/江森健太郎

非開示で鑑別機関に持ちこまれたものとしては最大級のサイズと思われるCVD合成ダイヤモンドについて報告しました。標準的な宝石鑑別手法では識別が困難ですが、DiamondViewTMによるルミネッセンス像の観察および各種波長によるフォトルミネッセンス分析が有効であるとしました。
*この発表は「CGL通信No.12」に詳述されておりますのでご参照ください。


一般講演 4
ベリリウム拡散加熱処理サファイア鑑別の現状

発表中の江森所員

発表中の江森所員

中央宝石研究所

  ○

江森健太郎

 

 

北脇 裕士

 

 

岡野  誠

ベリリウム拡散加熱処理の現状について統計結果を交えながら報告しました。近年はコランダムに天然起源のベリリウムが含有されることが知られるようになり、処理の鑑別がさらに困難になっています。これらの識別方法について種々の例を挙げて詳細な発表がなされました。
*本研究の発表内容は次号以降掲載予定です。


一般講演 5
ミャンマー産ルビーのインクルージョンの特徴

株式会社モリス

  ○

森  孝仁

ミャンマーに現地法人を10年前に立ち上げ、今なおルビーの採掘を継続している演者が、実際に採取したNam-Ya鉱山およびMogok鉱山産ルビーの特徴について報告しました。 一般にNam-Ya産のシルクは細く、糖蜜状組織は見られないものが多いのに対し、Mogok産のシルクは太くて細かく、糖蜜状組織は頻度高く観察されるとしました。また、市場が開放されたことで価格が高騰したため、モザンビーク産のルビーがタイ国境付近からミャンマーにもたらされているとの報告がなされました。

一般講演 6
新しく処理されたブルーサファイア

Hanmi Gemological Institute, Laboratory

  ○

李 宝炫 (Lee Bo-Hyun)

(Hanmi Lab)

 

崔 賢珉 (Choi Hyun-Min)

 

 

金 永出 (Kim Young-Chool)

韓国で開発中のコランダムの新しい処理について韓国の鑑別機関に所属する演者が報告しました。この新しい処理はロシアで使用されていたダイヤモンド合成用のHPHT装置を用いた高圧下での加熱処理です。通常の加熱処理で効果が得られなかったサファイアを原材にして透明度の良いブルーを得ているとのことです。詳しい処理の情報は公開されていませんが、鑑別可能な特徴として赤外分光で3040~3050cmに吸収が現れると報告しました。

一般講演 7
スピネルのフォトルミネッセンスとラマン分光

株式会社彩

  ○

中島 彩乃

日独宝石研究所

 

古屋 正貴

近年スピネルの人気の高まりもあり、市場に各種合成法のスピネルや加熱処理スピネルが確認されるようになっています。演者らはフォトルミネッセンス分析とラマン分光法を用いてこれらの比較検証を行いました。フォトルミネッセンス分析において、天然は638.5nmにシャープなピークが見られ、合成には687.3nmにブロードなピークが観察されるとしました。また、天然スピネルを加熱すると本来の細かなピークが弱まったり、消失することが判りましたが、色調に大きな変化は認められないと報告しました。

一般講演 8
パラサイト起源のペリドットの特徴

日独宝石研究所

  ○

古屋 正貴

Palladot Inc.

 

チャールズ M. エリアス

パラサイト中のペリドットと地球起源のペリドットの比較検証の結果が報告されました。サンプルはAdmire隕石中に含まれていたペリドットが使用され、通常の宝石学検査に加えて蛍光X線分析およびFT-IR分析が行われました。パラサイト起源のペリドットは周囲の金属部と独特な針状インクルージョンを含有し、偏光下で強い歪が認められました。比重はパラサイト起源が大きくなる傾向があり、成分分析では地球起源より、Ni(ニッケル)分が低い傾向にあるとしました。

一般講演 9
ルビー、スピネルおよびフォルステライト結晶の発光現象

東洋大理工

  ○

勝亦  徹

 

 

相沢 宏明

 

 

小室 修二

東洋大院工

 

佐久間 崇

演者らはセンサ応用を目的として各種の蛍光体結晶の結晶育成と結晶評価を行っています。
今回、Cr(クロム)やMn(マンガン)を不純物として添加したルビーやスピネル、フォルステライトをFZ法で育成し、市販のベルヌイ合成ルビーを含め、加工およびX線照射に伴う発光の有無と発光スペクトルを測定しました。Cr添加の発光は紫外~緑色光で励起した蛍光と蛍光スペクトルと同様のスペクトルで、Mn添加のスピネルやフォルステライトからはX線励起による発光が観察でき、それぞれの蛍光スペクトルと良く一致したと報告しました。

一般講演 10
南極大陸セールロンダーネ山地産アマゾナイトと他の産地との識別

ジェムリサーチジャパン株式会社

  ○

福田 千紘

 

 

宮﨑 智彦

島根大学総合理工学部 地球資源環境学科

 

亀井 淳志

 

 

赤坂 正秀

昨年報告した南極産のアマゾナイトについて、薄片を作製し、内部組織の観察、EPMAを用いた定量分析および面分析の結果が新たに報告されました。それぞれの産地から産出したアマゾナイトの内部組織は異なった特徴が観察され、EPMAによる面分析の結果、南極産アマゾナイトのRb(ルビジウム),Sr(ストロンチウム),Cs(セシウム),Fe(鉄),Pb(鉛)の含有量分布は、Rb,Sr,FeはK(カリウム)と似た挙動を示すが他の元素はあまりラメラ構造に影響されなかったと報告しました。

一般講演 11
聖書の中の宝石

お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 比較社会文化学専攻

  ○

下村 道子

大学で比較社会文化学を専攻する演者によって聖書中の宝石についての報告が行われました。聖書に記載されている祭司の聖なる祭服に留められた12種の宝石について、この宝石の名前と順序が聖書の版によって異同があることが具体例を挙げて詳細に述べられました。
一例をあげると16世紀に英訳された「ジュネーブ版聖書」と17世紀の英国王ジェームズⅠ世の「欽定訳聖書」と現在の「ニューインターナショナル版聖書」では、胸当ての最初の宝石はそれぞれ、ルビー、サルディウス、ルビーとなっておりそのほかにも違いがあるとしました。

一般講演 12
真珠の反射分光スペクトル測定における干渉色の影響についての考察

真珠科学研究所

  ○

山本  亮

 

 

南條沙也香

 

 

齋藤 友恵

真珠を分光測定する際に、反射分光スペクトルには反射干渉色の影響が出現するとの報告がなされました。ゴールド系真珠の着色の有無について分光分析が行われますが、一部の真珠に着色の有無が判別できないものがあります。これらの真珠には干渉色が強く現れる特徴があり、実体色の影響を受けにくい反射干渉色が分光スペクトルに影響しているのであれば検査の際に注意しなければならないと報告しました。

一般講演 13
真珠と模造真珠の干渉色の発現の違いとその要因についての考察

真珠科学研究所

  ○

矢崎 純子

 

 

小松  博

真珠、模造真珠を拡散光源に近づけた際の色の表れ方の相違についての考察が報告されました。雲母にチタンコーティングして作られた真珠箔を樹脂に混ぜてガラスに塗布して45度の角度から白色光を当てると真珠層薄片と同じように反射干渉色と透過干渉色の補色が観察できますが、真珠箔を塗布した模造真珠にはテリの良い真珠に拡散光を近づけた際に現れる同心円状の縞模様が見られないとしました。

一般講演 14
バイオレット系真珠の特性とその出現機構についての考察

真珠科学研究所

  ○

庄司 文香

 

 

牧野  翠

 

 

小松  博

一部のクロチョウ真珠にみられる370nmと500nmの特有の吸収について報告しました。
これらは貝殻外層の稜柱層に含有されるポルフィリン類や真珠袋の細胞の分泌異常が関与していると推定され、蛍光分光測定や紫外線ライトによる蛍光検査が鑑別法として利用できるとされました。

懇親会

懇親会の様子

懇親会の様子

1日目の講演会終了後、発表会場に隣接する老舗の観光旅館「養浩亭」に場所を移し、懇親会が行われました。和やかな雰囲気の中、立食パーティの形式で行われ学会参加者同士が交流を深めたり、質疑応答時に質問できなかったことなどを熱心に話し合う姿も見受けられました。


見学会

2日目は、講演会会場となった埼玉県立自然の博物館と秩父鉱山前の河原において見学会が行われました。
自然の博物館は、「過去から未来へ埼玉3億年の旅 そして自然と人との共生」というテーマに沿い地質展示と生物展示がされています。

虎岩

虎岩

地質展示では鉱物・岩石・地層・化石が古い方から新しい方へ順に並んでいて、長瀞の変成岩などの岩石が直接手で触れることができます。また、巨大な化石の骨格復元模型の迫力ある姿を見ることもできました。
一方の生物展示では平地や山地に住む動植物のジオラマが本物のように秩父の自然を再現しています。 さわれる剥製コーナーではイノシシ、キツネ、タヌキ、ノウサギ、テンやカラスなどを直接さわることができ、毛並みの違いを体感できます。
館外には「日本地質学発祥の地」の記念碑があり、少し足を運べば、岩畳(地下20~30kmの深部で変成された結晶片岩)が広がっている所や虎岩(茶褐色のスティルプノメレンと白色の石英・長石・方解石とが折り重なって褶曲を見せることから名付けられた)が観察できました。

河原での採集の様子

河原での採集の様子

午後は秩父鉱山前の河原で石の観察会が行われました。鉱山までの道のりは現地近くで道が細くなり大型バスが入れないため、マイクロバス2台に分乗しての行程となりました。現在の秩父鉱山は石灰岩を24時間体制で採掘していますが、かつては金を含め多種多様の鉱石が採掘されていました。金は近くの荒川流域で砂金としても産出しました。


さて、観察会の河原では、石を拾うばかりでなくハンマーを振るう方や初めから水の中に入れるように長靴を持参した方もいて熱心に鉱物を探されていました。金属鉱物としては黄鉄鉱(パイライト)が見つかり、宝石に近いものでは柘榴石(ガーネット)を採集。この他には磁鉄鉱(マグネタイト)や大理石も観察されました。 この地域は「ジオパーク秩父」として知られています。ジオパークとはジオ(地球)に親しみジオツーリズムを楽しむ場所のことです。
秩父地域は豊かな自然が残り、地質、鉱物の観察に相応しい場所であり、見学会に参加された方々にとっては、大変有意義な一日となりました。