CGL通信 vol25 「宝石鑑別に応用される分析技術とその発展」

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CGL通信 vol25 「宝石鑑別に応用される分析技術とその発展」

リサーチルーム 室長 北脇裕士

⑪ダイヤモンドビュー(Diamond View™)

1990年代より高温高圧法による宝飾用合成ダイヤモンドの商業的な生産が始まり、宝飾業界からはその情報開示と明確な天然と合成の識別法の確立が切望されるようになりました。DTC(Diamond Trading Company)ではこれらの声に応えるためにダイヤモンド判別機の製作・販売を開始しました。ダイヤモンドシュア(Diamond Sure™)はダイヤモンドのタイプ判別を簡易的に行う機器で、ダイヤモンドビュー(Diamond View™)は紫外線蛍光を用いた画像診断装置です。さらにDTCは、1999年に出現した新たなHPHT処理の検出のためにダイヤモンドプラス(Diamond Plus™)を世に送り出しました。今日のダイヤモンド鑑別にはこれらの装置もしくはこれらと同等の機能を有する分析機器は無くてはならない必需品と言えます。

◆ダイヤモンドビューの基本原理

天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドでは成長環境の相違により結晶形態が異なります。そして、このことが天然と合成とを識別する重要な手がかりとなります。しかし、宝石ダイヤモンドは既にカット・研磨が施されているため、結晶の外形や表面の観察はほぼ不可能であり、成長履歴を読み取るためには結晶内部に残された不均一性を検知する必要があります。ダイヤモンド内部の不均一性はさまざまな方法を用いて研究されてきましたが、宝石品質のダイヤモンドの鑑別には非破壊で行えるカソードルミネッセンス法や紫外線ルミネッセンス法が有効であることが知られています。
ダイヤモンドに紫外線を照射すると、原子レベルの欠陥や微量な含有元素の影響で蛍光を発します。微視的に研磨面を見た場合、欠陥や微量元素の濃度が成長時や成長後にこうむる環境の変化によってわずかに異なるためさまざまな蛍光像が観察できます。これが紫外線ルミネッセンス法であり、このような蛍光像はダイヤモンドの成長履歴を反映するために、天然と合成では明確な相違がみられ、その判別を行う上で非常に有効な手がかりになります。
ダイヤモンドビューは、この紫外線ルミネッセンス法の一種で、ダイヤモンドの天然と合成を識別することを目的としてDTCにより開発された装置です。ダイヤモンドの研磨面に225nm以下の波長をもつ強い紫外線を照射することによって、表面直下に励起された蛍光像を観察することができます。この蛍光像は、ダイヤモンドの成長構造に対応し、これをオペレーターが結晶学的な解釈を加えて天然・合成の判断を下します。従って、ダイヤモンドビューによる観察には技術者の経験と知識が不可欠となります。

◆ダイヤモンドビューの操作方法

2007年末に市場投入された最新式ダイヤモンドビュー(Fig.1)は第3世代にあたり、1996年に発表された初代のもの(Fig.2)に比べると本体が小型化したと共に、サンプルの設置方法や紫外線の照射方向が改良されています。
ダイヤモンドをルースで観察する時は、キューレットあるいはテーブル面を下にしてホルダーにセッテイングし、ポンプで吸引することで固定します。これにより、テーブル面およびパビリオン側双方の観察が可能となります。また、リングやペンダントもステージに固定することが可能ですが、この場合はテーブル方向だけからの観察となり、得られる情報が少なくなります。マニュアルでは、0.05ct〜10ctが観察可能とされていますが、装置の制約上焦点を合わせきれないほど小さい試料や、ステージに固定しきれないほど大きい製品でない限りは観察が可能です。ステージはつまみによって回転したり、傾きを変えたり、試料の方向を容易に変えてあらゆる方向から観察することができます。最新式のダイヤモンドビューは、このような観察方法を採用することで、初代のものと比べて観察できる試料の大きさや形状の幅が広がり、ステージの可動範囲も増しているため、操作性が大幅に向上していると思われます。また、紫外線のエネルギー強度も初代のものより高くなっており、イメージの質が向上しています。試料室奥にはCCDカメラが装着されており、イメージをパソコンのディスプレイ上に表示して観察します。得られる画像の倍率・画質は一定ですが、細部を観察しやすいようにデジタルズームで拡大することが可能となっています。観察には可視モード、蛍光モード、燐光モードが用意されており、照射する紫外線の強度は制御ソフトウェアを用いて自由に調整することができます。また、燐光を発するダイヤモンドを見落とすことがないように、蛍光モードで蛍光像をキャプチャーした際には、自動的に燐光像も撮影できるようになっています。

最新ダイヤモンドビュー
Fig.1 最新のダイヤモンドビュー:コンパクトになり、操作性も向上している。モニターにはCVD合成ダイヤモンドのイメージが映し出されている。

 

旧タイプダイヤモンドビュー
Fig.2 初期のダイヤモンドビュー:パソコンのモニターには高温高圧合成ダイヤモンドのイメージが映し出されており、鑑別技術者にはこれあを解釈する結晶学的な知識が必要とされる。

 

⑫ダイヤモンドビュー(Diamond View™)−2−

天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドでは成長環境の相違により結晶形態が異なります。そして、この形態の相違に着目した鑑別法がDiamond View™による紫外線(UV)ルミネッセンス法です。それではDiamond View™観察の基礎となるダイヤモンドの結晶形態(専門的にはモルフォロジーといいます)について考えてみましょう。

◆ダイヤモンドのモルフォロジー

結晶の形態を決めるのは、結晶の構造と環境条件(外的要因)です。そこで後者を無視して構造だけを反映したモルフォロジーが判れば、これをその結晶の基準モルフォロジーと考えることができます。
ダイヤモンドの結晶構造から導き出された基本の形は平滑な{111}で囲まれた正八面体となります(Fig.3−A)。(結晶学では八面体の面を{111}、六面体の面を{100}、十二面体の面を{110}と表記します。これをミラー指数といいます)

ダイヤモンドの形態
Fig.3 ダイヤモンドに見られる形態
A:{111}で囲まれた八面体(天然ダイヤンドに一般的)
B:{100}で囲まれた六面体
C:{111}と{100}がよく発達した六・八面体の外形(高圧合成に一般的)

 

しかし、実際の天然結晶は正八面体であることは少なく、たいていはマグマ中での融解により丸みを帯びています。また、まれに{111}と{100}が共存したミックスド・ハビット・グロースと呼ばれるものが存在します。この際、{100}は平滑な面ではなく曲面であるためキューブ(六面体)ではなく、キューボイドと呼ばれています。
一方、金属溶媒中で成長する高温高圧法合成ダイヤモンドでは{111}と{100}が共によく発達した六・八面体の外形(Fig.3−C)をとるのが一般的で、他に{110}などを伴うこともあります。高温高圧法合成ダイヤモンドは溶媒の種類や成長温度によっても形態が変化することも知られています。比較的低温では{100}が優勢に、逆に高温では{111}が優勢になります。
また、CVD法合成ダイヤモンドでは水素ガス中での成長となり、表面自由エネルギーの計算からも{100}が最も形態的に安定な面となることが知られています。

◆ダイヤモンドビューによる天然ダイヤモンドの観察例

Ⅰ型の無色の天然ダイヤモンドには、四角形の年輪のような成長縞が観察されます。これはピラミッド(八面体の上半分)を真上から見ると四角形に見えるのと同じで、ダイヤモンドが八面体を維持して成長してきたことを示しています。
また、ほとんどのダイヤモンドにおいてN3センタによる青白色の発光色が確認できます。N3センタは窒素が地質学的な時間を経て凝集したカラーセンタです。余程でない限り(高圧下で長時間加熱処理するなど)、人工的には作り出せないため天然特徴となります。ちなみにN3のNはNitrogen(窒素)ではなく、Natural(天然)の頭文字です。このようにDiamond View™では直接発光色が観察できるというメリットもあり、天然・合成の判断に有効です。
さらに、このようなダイヤモンドのルミネッセンス像は個体ごとに異なり、個体識別にも応用が可能です。天然ダイヤモンドは地球の深部で育まれ、地表で産出するまでに自然界の多くの環境変化をこうむるため、その成長履歴は決して一様ではありません。そのため、まったく同じルミネッセンス像を示すダイヤモンドは二つと存在しません。しかし、Fig.4に示すようにひとつの結晶からカット研磨された二つのダイヤモンドなら貝合わせのようにこの断面のルミネッセンス像が一致します。

Fig.4 ツインダイヤモンドの模式図。ひとつの原石からカット研磨された2つのダイヤモンドは相似形のルミネッセンス像を示す
Fig.4 ツインダイヤモンドⓇの模式図。ひとつの原石からカット研磨された2つのダイヤモンドは相似形のルミネッセンス像を示す。

Fig.5で示す二つのダイヤモンドは相似形のルミネッセンス像を示しており、同一の原石からカットされたと考えられます。このような組み合わせをまったく無作為のダイヤモンドから見つけることは困難ですが、あらかじめひと組とされているダイヤモンドの双子の真偽を確認するには有効です。
CGLではこのように同じ原石から得られた二つのダイヤモンドを双子のダイヤモンドという意味を込めてツインダイヤモンド®と呼んでおり、ツインダイヤモンド®レポートサービスを行っております。

 

05ツインA

Fig.5 ツインダイヤモンドの例。
Fig.5 ツインダイヤモンドⓇの例(上・下)。2つのダイヤモンドのDiamond View™によるUVルミネッセンス像は相似形をしており、ひとつの原石からカットされたことが判ります。

 

⑬ダイヤモンドプラス(Diamond Plus™)

我々鑑別機関における日常のダイヤモンド鑑別において最も重要な項目のひとつに天然ダイヤモンドに施されたHPHT処理の看破があります。HPHTはHigh-Pressure High-Temperatureの略語で、合成ダイヤモンドを製造する大型の高圧発生装置を用いた高温高圧下での熱処理のことです。ダイヤモンドを高温で熱処理する際にグラファイト(石墨)化を防ぐために高圧が必要というわけです。
窒素含有量のほとんどないⅡ型の天然褐色ダイヤモンドをHPHT処理すると無色にすることができます。これは米国のGE社が開発した手法で1999年に公表されました。以降、複数の製造者がこのHPHT処理を適用して種々のカラーを生み出しています。最近ではHPHT処理に放射線照射やその後の熱処理を組み合わせたマルチプロセスによる新たな処理色も出現しており、ダイヤモンド鑑別を非常に困難なものにしています。
さて、Ⅱ型の褐色ダイヤモンドが無色化できる事実が知られるようになると、すべてのⅡ型無色ダイヤモンドに潜在的なHPHT処理の可能性が考慮され、検査の対象となります。現在、HPHT処理の看破には各種の励起波長を用いたフォトルミネッセンス(PL)分析が有効であることが判っており、先端的な鑑別ラボでは日常の業務にPL分析を導入しています。

◆ダイヤモンドプラスとは

Diamond Plus™はDTCにより開発され、2009年から市販されているHPHT処理を粗選別するためのコンパクトな装置です。鑑別ラボが使用しているフォトルミネッセンス分析装置は大型でコストもかかり、得られた結果の解釈にダイヤモンドの格子欠陥に関する深い知識が要求されます。そのため宝飾用ダイヤモンドが取引されているあらゆる場面において設置可能な器具としてDiamond Plus™が設計されました。
検査対象は無色の天然Ⅱ型ダイヤモンドのルースです。サイズは0.05ct〜10ctまでが測定可能です。事前にDiamond Sure™やFTIRなどでⅡ型であることを確認しておく必要があります。この装置では15秒以内の測定時間で“PASS”あるいは“REFER”などと結果が表示されます。

 

Diamond Plus
DTC社製 Diamond Plus™

 

◆ダイヤモンドプラスの原理と使用方法

Diamond Plus™は液体窒素を試料室に注ぎ、サンプルホルダーに取り付けたダイヤモンドを本体にセット、測定ボタンを押すだけで測定がはじまるという非常にシンプルな分析機器です。Diamond Plus™は液体窒素温度でのフォトルミネッセンス分析を行っています。詳細は公表されていませんが、ある特定波長の発光センタの強度と半値幅を測定していると思われます。

 

ダイヤモンドプラスの使用方法
ダイヤモンドプラスの使用方法
◆測定結果の解釈

Diamond Plus™で測定した結果には5種類の表示が用意されています。
PASS と表示されたものはHPHT処理が施されていないダイヤモンドと判断できます。従って、これ以上の検査の必要はありません。
REFER と表示されたものはHPHT処理された天然ダイヤモンドである可能性があるため、鑑別ラボで使用する、より高度なPL分析を行う必要があります。また、合成ダイヤモンドの可能性もあり、他の検査において確認する必要があります。
REFER ( IRRADIATED? ) と表示されたものは照射処理された可能性があります。地色が緑味を帯びていないかどうかのチェックが必要です。
REFER ( CVD SYNTHETIC? ) と表示されたものはCVDダイヤモンドの特徴である737nmの発光ピークを検出した際に表示されます。
NO DIAMOND DETECTED と表示されたものはダイヤモンドのラマンピークが検出されなかった際に表示されます。ダイヤモンドではないものや、セッティング状態が悪い可能性があります。◆