CGL通信 vol35 「中国河南省、宝飾用合成ダイヤモンドの製造会社を訪問して」

CGL通信


CGL通信 vol35 「中国河南省、宝飾用合成ダイヤモンドの製造会社を訪問して」

リサーチ室 北脇  裕士

2016年9月6日(火)~13日(火)の一週間、中国河南省にあるHPHT合成ダイヤモンドの工場を訪問し、中国における宝飾用合成ダイヤモンド製造の現況について調査しました。河南省では宝飾用にHPHT合成ダイヤモンドが盛んに製造されており、その品質とサイズは漸次向上しています。今後、宝飾ダイヤモンドの流通に与える影響が懸念されます。以下に概要をご報告致します。

 

中国製HPHT合成ダイヤモンドの台頭

合成ダイヤモンドは、鑑別・グレーディングの日常業務において1990年代半ば頃から時折発見され、その都度話題となってきました。しかし、その検出頻度はごくわずかなもので、これまで無色の合成ダイヤモンドがジュエリーに混入していた例もほとんどありませんでした。しかしながら、2015年後半頃から世界各地の宝石鑑別ラボよりジュエリーに混入した小粒合成ダイヤモンドの事例が相次いで報告されるようになりました。当研究所においても2015年の9月頃からジュエリーに混入したメレサイズの無色合成ダイヤモンドが確認されており、現在も増加傾向にあります。これらの合成ダイヤモンドはほとんどがHPHT法によるもので、中国で合成されたものと考えられます。中国では2014年頃から宝飾用合成ダイヤモンドが大量に製造されており、今後もその動向を慎重に見守る必要があります。

 

河南省:世界の合成ダイヤモンド産業の中心地

河南省は、黄河の下流域にあることが省名の由来となっています(Fig.1)。省全体に黄河の堆積物による広大な平野が広がる重要な農業生産地域です。河北省、山東省、安徽省、山西省、陝西省、湖北省に隣接しています(Fig.2)。河南省は中国8大古都のうち4つ(鄭州、洛陽、開封、安陽)を有しており、中国文明の発祥の地といわれます。中国における33の行政区分の中で面積は17番目ですが、人口では広東省と山東省に次いで3番目です。黄河による水害や旱魃(かんばつ)などにより経済発展は緩慢でしたが、1970年代後半~1980年代にかけて国策により合成ダイヤモンドの製造会社が次々に立ち上げられていきます。工業用途のダイヤモンド砥粒や焼結体の生産が中心でしたが、高圧装置の大型化、操作技術のインテリジェント化、溶媒金属の選択やグラファイト原料の粉末化などの技術革新によって単結晶合成ダイヤモンドの大規模生産が成し遂げられていきます。

 

Fig.1河南省鄭州市北部を流れる黄河
Fig.1河南省鄭州市北部を流れる黄河

 

Fig.2中国河南省鄭州市の位置
Fig.2中国河南省鄭州市の位置

 

河南省には大小合わせると80社以上の合成ダイヤモンドの製造会社があります。中でも河南黄河旋風股份有限公司、中南钻石股份有限公司、鄭州華晶金剛石股份有限公司は中国における合成ダイヤモンド業界の「3大巨頭」と称され、これら3社を合わせると高圧合成装置(キュービック型マルチ・アンビル装置)は8,000台以上、ダイヤモンド生産量は120億ct以上に達し、全世界の合成ダイヤモンドの需要を支えられるといわれています。まさに河南省は合成ダイヤモンド製造の世界の中心地といえます。

 

河南省鄭州市:急速に発展する都市

鄭州市は河南省の州都(1954年~)です。人口937万人(2014年)の大都市です。日本のさいたま市とは1981年に姉妹・友好都市提携が結ばれています。3500年前には商(殷)王朝の都があったとされる歴史深い街ですが、近年は機械・食品・繊維などの産業による新興工業都市としてもめざましい発展を遂げています。鄭州は京広線(北京~広州市を南北に結ぶ)と隴海線(連雲港市~蘭州市を東西に結ぶ)が交差する中国鉄道交通の要所です。鄭州駅は1904年に開業しており、2010年に現在の駅舎が完成しました(Fig.3)。

 

Fig.3鄭州駅駅舎
Fig.3鄭州駅駅舎

 

また、高速鉄道(新幹線)が停車する鄭州東駅が2012年9月に開業し、中国では杭州東駅と南京南駅に次いで3番目に広い建築総面積を誇ります。市内には地下鉄網が現在建設中で、東西に延びる1号線は2013年12月に、南北に延びる2号線は2016年の8月に開通したばかりです。空の玄関口は鄭州新鄭国際空港で、2016年の4月には就航する全33社の航空会社が新たに増設されたターミナル2に移行したばかりです。シンガポール、シドニー、フランクフルトやロサンゼルスなどと結ばれており、成田からも直行便が就航しています。
2001年以降から旧市街の東部に面積約150平方キロで150万人規模の新都市(鄭東地区)が建設されています。新たにCBD(中心業務地区)を建設し、コンベンションセンター、アートセンター、高層住宅、高層オフィスが人工湖を囲むように建ち並んでいます(Fig.4)。この新都市のマスタープランは建築家の黒川紀章の立案といわれています。

 

Fig.4鄭州市新都心のビル群を望む
Fig.4鄭州市新都心のビル群を望む

 

河南省での宝飾用HPHT合成の現状

河南省の大手合成ダイヤモンド製造会社は、それぞれにおいて結晶育成の技術開発が進み、現在では無色の宝石品質のダイヤモンドを量産できるレベルに達しています。そして利益率の低い工業用途のダイヤモンド砥粒生産から新たな市場として宝石ダイヤモンドの生産にシフトしてきています。
鄭州華晶金剛石股份有限公司では2014年末頃から2mm以下の宝飾用合成ダイヤモンドの量産を開始しており、河南黄河旋風股份有限公司では2015年前期から2〜3mm以下の原石を量産しています。その後、他の中小の砥粒製造会社も続々と宝石事業に参入しており、河南省だけで10社以上が宝飾用の小粒ダイヤモンドを製造していると思われます。

 

宝飾用HPHT合成ダイヤモンド製造会社訪問

河南省力量新材料有限公司(Henan Province Liliang New Materials Co.,Ltd)は、2010年に設立された新興の会社で主にダイヤモンドの微粉末を製造していました。目覚しい技術革新によって高品質の単結晶が育成できるようになり、2015年に社名を河南省力量钻石股份有限公司(Henan Liliang Diamond Co.,Ltd)に改名しました。2014年以降、宝飾用の無色合成ダイヤモンドを製造しており、その生産量は中国において上位4社に入る勢いです。同社の邵增明(Shao Zengmin)社長の招待により、今回の筆者の訪問が実現しました(Fig.5)。

Fig.5河南省力量钻石股份有限公司の邵增明社長(左)
Fig.5河南省力量钻石股份有限公司の邵增明社長(左)

 

Fig.6河南省力量钻石股份有限公司の工場玄関
Fig.6河南省力量钻石股份有限公司の工場玄関

 

河南省力量钻石股份有限公司は、鄭州市の新都市中心業務地区にオフィスがありますが、ダイヤモンド生産工場は鄭州市から南東へ車でおよそ3時間の商丘市柘城県にあります(Fig.6)。柘城県は河南省の中でも最大の微粉末の製造(砥粒ダイヤモンドの粉砕加工)拠点です。中国全体の70%を占めるともいわれています。河南省力量钻石股份有限公司は、1990年に前進となる小さなダイヤモンド粉末製造工場として出発しました。急速な経済成長の波に乗り、機敏にチャンスを捉えて順調に業績を伸ばしました。2010年には3.8億元(およそ50億円)を投資して、143,334m2(東京ドーム3個分)の広大な敷地に10棟の生産工場および加工場が建てられました(Fig.7)。

 

Fig.7工場の鳥瞰図(図版提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.7工場の鳥瞰図(図版提供:河南省力量钻石股份有限公司)

 

そしてシリンダー径700mmの大型キュービック型マルチ・アンビル装置が多数設置されました(Fig.8)。邵社長によると、300台ある装置のうち現在150台が宝飾用単結晶合成ダイヤモンドの製造に使用されており(Fig.9)、月産で150,000ctの原石が生産されているとのことです。

Fig.8キュービックマルチ・アンビル装置(写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.8キュービックマルチ・アンビル装置(写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)

 

Fig.9キュービックマルチ・アンビル装置近影
Fig.9キュービックマルチ・アンビル装置近影

 

生産されている宝飾用合成ダイヤモンド原石の90%は直径2mm程度で(Fig.10、Fig.11)、研磨すると0.01ct程度になるそうです。直径3mm以上の原石は全体の5%以下で、これらは0.1~0.2ctになるとのことです。製造技術は漸次向上しており、1年以内には0.5ctのカット石の量産を目指しているそうです。生産された原石の90%はインドで研磨されているそうですが、一部は中国国内で研磨しているとのことです。また、セールスマネージャーの陈宁宁(Lynn Chen)氏によると、同社では自社製品(無色合成ダイヤモンド)を用いたジュエリーも製造しており、販路を広く世界に求めて開拓中とのことです。

 

Fig.10宝飾用原石 (写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)
Fig.10宝飾用原石
(写真提供:河南省力量钻石股份有限公司)

 

Fig.11宝飾用原石拡大
Fig.11宝飾用原石拡大

 

このように中国河南省は今なお経済発展の途上にあり、鉄道、都市整備などが着々と進行中です。合成ダイヤモンド産業も利益率が低くなった砥粒生産から宝飾用合成ダイヤモンドの製造へシフトしていますが、生産過剰のため技術革新の遅れた会社はすでに宝飾事業から撤退し、もとの砥粒生産に回帰しているところもあるようです。今後、彼らはさらなる利益を求めて結晶の高品質化とともに大型化を目指していくと思われます。また、各色のファンシーカラーダイヤモンドの生産、鑑別が困難な種々の性質を改良したものが出現することも予測の範囲にとどめておく必要がありそうです。◆