CGL通信 vol35 「中国におけるダイヤモンドの高圧合成」

CGL通信


CGL通信 vol35 「中国におけるダイヤモンドの高圧合成」

中国吉林大学超硬材料国家重点実験室 教授 賈 暁鵬

概要

中国で合成ダイヤモンドが誕生してから半世紀にわたり発展を続けてきた。同国では、主に立方体式高圧装置(キュービック・プレス)を用いてダイヤモンドが合成されている。近年来、中国は砥粒ダイヤモンドの国際的な生産国となるまで急速に成長してきた。2015年、中国国内の合成ダイヤモンド生産量は150億カラット以上に達した。大型ダイヤモンド単結晶の合成は温度差法を用いることによって成功し、商品化・量産され、それらの商品の殆どは切削工具市場及び宝石市場で取引されている。現在、3mm以下のIIa型のダイヤモンド単結晶の生産量は20万カラット/月に達した。中国のダイヤモンド合成技術は著しく進歩してきたが、特殊な高品質砥粒ダイヤモンドのハイエンド製品、及び良質な大型ダイヤモンド単結晶の製造は未だ発展の途上にある。
本文では、中国におけるダイヤモンドの高圧合成技術の発展史、及び現状について紹介し、併せて今後の発展について展望を記す。

 

1.立方体高圧装置(キュービック・プレス)の中国国内開発史

中国の立方体式高圧装置(キュービック・プレス)は元機械工業部済南鋳鍛研究所によって設計され、1964年に誕生した。シリンダーの直径(口径)はΦ230(mm)で、その外観を図1に示す。しかしそれ以降、約20年間にわたりプレスの開発は停滞していた。1985年、桂林鉱産地質研究所の設計、長沙鉱冶研究院および桂林冶金機械総工場の共同開発によって製造されたΦ260–Φ320型プレスによって再び開発が進むことになった。1993年、咸陽202研究所は、Φ360–Φ400型を発表し、プレスの大型化を展開した。1999年、Φ500型が登場すると、プレスの大型化が加速し、たちまち、ダイヤモンド生産用のメイン設備となった。
表1は、現在中国において主流となっているプレスの口径と砥粒ダイヤモンドの生産能率の関係を示すものであり、口径の拡大につれて、ワンサイクルのダイヤモンドの生産量が急激に増加するという相関関係がわかる。

 

図1中国式立方体高圧装置(キュービック・プレス)
図1.中国式立方体高圧装置(キュービック・プレス)

 

表1:プレスのパラメータと単位生産量との関係
表1:プレスのパラメータと単位生産量との関係

 

中国国内で最大手のダイヤモンドメーカーである「中南」・「黄河」・「華晶」の三社は、このようなプレス大型化の進行を牽引するという重要な役割を果たした。
現在は主にΦ650、Φ700、Φ750の大型プレスが使用されている。中国国内にあるダイヤモンド合成用のプレスは1万台を超え、そのうちΦ600より大きいサイズのものがその過半数と言われている。また、プレスの制御技術も飛躍的に向上され、制御の精密度と自動化の程度も著しく進歩した。そして、群制御技術とネットワーク技術の使用も開始された。

 

図2.ある会社のダイヤモンドの合成生産現場の写真
図2.ある会社のダイヤモンドの合成生産現場の写真

 

2.砥粒ダイヤモンド合成の発展史

1963年、中国で初めてダイヤモンドの合成に成功した。1966年、中国鄭州三磨研究所が砥粒ダイヤモンドの商品化・生産を開始し、年産は約1万カラットであった。年代別に分けてみると、商品化生産は、大まかに以下の三つの歴史的段階に分けられる。1980–1990年代、生産会社は主に東北地域の遼寧省に集中していた。当時はメーカーの規模が小さく、Φ320–360型プレスが主流で、年産は1億カラットであった。1990–2000年代、生産の本拠地は徐々に湖南省、安徽省など南の省に移るようになり、Φ360–Φ460型プレスがこの時期の主流となって、年産は15億カラットにも達した。2000年以降、主な生産地は河南省に移った。現在、河南省には、「中南」・「黄河」・「華晶」の三大ダイヤモンド生産メーカーが所在するほか、数多くの中小規模のダイヤモンド生産会社が所在している。河南省は、中国における合成ダイヤモンドの主要生産地域となり、「90%以上のダイヤモンド合成企業は河南省に所在し、市場に流れる95%以上のダイヤモンドは河南省で生産されている」と言われている。
1980–2000年という20年余りの期間にわたり、砥粒ダイヤモンド合成は片状触媒、直接加熱という立遅れた技術を踏襲していた。エネルギーの高消耗、生産能力の低下、結晶体の低品質はこの時期の合成技術と製品の典型的な特徴であった。2000年より、粉末触媒、間接(旁熱)加熱など新たな合成技術の開発に成功し、また、各メーカーによる新合成技術の迅速な導入を受け、国内の合成ダイヤモンドの生産量と品質は実質的に飛躍的な発展を遂げた。2005年、多くのダイヤモンドメーカーが全面的な生産モデルチェンジに成功し、中国の砥粒ダイヤモンドは国際市場を支配するようになった。以降、中国のダイヤモンド生産は高度発展期に突入した。2015年、年産は既に150億カラットに達し、全世界の生産量の90–95%を占めるようになった。図3には、中国における合成ダイヤモンド生産量の推移を示してある。

 

図3.中国におけるダイヤモンド生産量の推移
図3.中国におけるダイヤモンド生産量の推移

 

3.大型ダイヤモンド単結晶の高圧合成についての研究

中国における大型ダイヤモンド単結晶の高圧合成についての研究と開発の歴史は、1980年代に遡る。1980年当初、上海珪酸塩研究所が温度差法を用いて、約3mmのダイヤモンド結晶体を合成したが、良質なものを作ることはできなかった。1990年頃、「高温高圧法による大型単結晶の育成」は、国の「863プロジェクト」中の重要プロジェクトの一つとして立ち上げられたが、核となる技術が確立されていなかったため、高圧法を用いた大型単結晶ダイヤモンド合成の研究は中断された。

 

図4.10mm、2.45ctのIb型単結晶
図4.10mm、2.45ctのIb型単結晶

 

図5.高濃度窒素含有のダイヤモンド単結晶
図5.高濃度窒素含有のダイヤモンド単結晶

 

図6.Ia型ダイヤモンド単結晶
図6.Ia型ダイヤモンド単結晶

 

同研究が本格的に再始動されたのは、1999年末からであった。当時、吉林大学で筆者が率いた研究チームは、立方体高圧装置(キュービック・プレス)に対して、一連の技術改造を実施したことによって合成条件の精密な制御を実現し、2000年、4.5mmの良質なIb型単結晶の合成に成功した。さらに2004年、4.3mmのIIa型と4.0mmのIIb型の良質な単結晶の合成に成功し、2011年、約10mm、2.45ctのIb型の単結晶(図4)の合成に成功した。そのほかに研究チームは、高濃度窒素含有の緑色のダイヤモンド(図5)、Ia型(図6)、硼素と水素含有、水素含有のIbおよびПa型、水素と窒素含有のIbおよびIa型、また、水素と酸素の共同含有などの大型単結晶ダイヤモンドの合成に相次いで成功した。2006年、筆者は河南理工大学においても大型単結晶の合成研究を行った。

 

4.大型ダイヤモンド単結晶の商品化生産

2010年6月、河南省焦作市の美晶科技有限公司は、最初に単結晶の商品化生産を始め、3x3x1mm のIb型単結晶片(図7)を市場に提供した。2012年12月、鄭州華晶金鋼石股份有限公司と焦作美晶科技有限公司は、共同で出資し、焦作華晶ダイヤモンド有限公司を設立し、Ib型単結晶片の量産を開始した。2014年9月、鄭州華晶金鋼石股份有限公司(シノ·ダイヤモンド)が1.0–2.0mmサイズのIIa型単結晶(図8)を宝飾市場に提供し始めた。2015年下期、技術漏洩によって、河南省では十数社の企業が「シノ・ダイヤモンド」と同様の技術で宝飾用無色合成ダイヤモンドの生産を始めた。生産能力は当初の約1万カラット/月から、2015年4月の20万カラット/月まで達した。その後、1.0–2.0mmサイズのIIa型単結晶の価額も生産量の激増によって急激に下落し、わずか二年間で、当初の1カラット60米ドルから、現在の1カラット16~18米ドルまで下落した。

 

図7.3x3x1mm のIb型単結晶片
図7.3x3x1mm のIb型単結晶片

 

図8.1.0–2.0mmのIIa型単結晶
図8.1.0–2.0mmのIIa型単結晶

 

図9.黄河旋風の2–3mmのIIa型単結晶
図9.黄河旋風の2–3mmのIIa型単結晶

 

黄河旋風股份有限公司は、現在3000台以上のプレスを保持しており、中国国内最大規模のダイヤモンドメーカーの一つである。 同社は、2001年から大型単結晶ダイヤモンドの合成についての研究開発を推進し、現在、Ib型単結晶片だけではなく、2.0–3.0mmサイズのIIa型単結晶(図9)も宝飾市場に提供している。資料によれば、同社が宝石用の大型単結晶ダイヤモンド合成プロジェクトへ投資した総額は4.30億元、生産ラインも建設する予定とのことである。このプロジェクトを実現すれば、宝飾用の無色IIa型単結晶は年間73.50万カラット、板状単結晶は年間49.28万カラットという莫大な生産能力を有することになる。

中南钻石股份公司も3000台以上のプレスを保有するなど、世界一の規模と言われるメーカーである。同社では粉末触媒成長技術を用いて、自発核生長法により1–2mmの粗粒度のIb型ダイヤモンド(図10)を生産している。粗粒度の結晶体の品質は良好だが、価格は高く設定されている。現在、同社はまだ温度差法を用いて合成した単結晶ダイヤモンドを市場に出していない。

 

図10.中南の1–2mmのIb型ダイヤモンド
図10.中南の1–2mmのIb型ダイヤモンド

 

済南中烏新材料有限公司(略称:中烏新材)は2013年に設立され、2015年6月に中烏貝斯特公司から名称変更した会社である。小規模な会社で、現在70台ほどのプレスを所有している。注目すべき点は、同社ではウクライナの合成技術を用いて、Ib、IIa及びIIb型単結晶(図11)を生産していることである。製品一粒の質量は10ctにも達している。同社は、中国で唯一3.5mm以上の良質なIIa型の単結晶を宝飾用に商品化したメーカーであるが、製品の価格は高価である。

 

図11.中烏新材のIb、IIa、IIb型ダイヤモンド単結晶
図11.中烏新材のIb、IIa、IIb型ダイヤモンド単結晶

 

現在、中国は既に大型ダイヤモンド単結晶生産の中心となっている。これらのメーカーは殆ど河南省と山東省の両省に集中しており、毎月1.0–2.0mmサイズの宝飾用IIa型ダイヤモンド単結晶を16–20万カラット生産している。

 

5.結論

1) 中国のダイヤモンド合成技術は著しく進歩してきたが、特種な砥粒単結晶ダイヤモンドと大型単結晶ダイヤモンドの合成技術は外国と比べ、未だに大きな成長の幅がある。
2) 3mm以下のIIa型ダイヤモンドについては、すでに量生産ができており、宝石市場に入り天然ダイヤモンド市場に衝撃を与えている。

 

6.展望

上記に紹介した、既に大型単結晶ダイヤモンドの生産能力を有する数社のほか、幾つかのダイヤモンドメーカーも現在、3mm程度のIIa型単結晶ダイヤモンドの研究開発と生産に注力している。研究開発の進歩に伴い、やがてカラットレベルのIIa型ダイヤモンドの大規模な生産時代が訪れ、間違いなく宝石・装飾市場に大きな衝撃を与えることになるであろう。以上◆

 

− 賈 暁鵬 氏 −

 

Jia先生2CMYK統合2

【略 歴】
1962.12.15生
1980.09−1984.06  中国吉林大学物理学系 (大卒)
1984.09−1987.06  中国吉林大学原子と分子物理研究所(理学修士取得)
1990.04−1992.03  筑波大学工学研究科物質工学専攻(工学修士取得)
1992.04−1996.03  筑波大学工学研究科物質工学専攻(工学博士取得)
1996.04−1997.04  筑波大学物質工学系 外国人研究員
1997.05−1998.03  無機材質研究所 COE特別研究員
1998.04−1999.11  金属材料研究所 外国人研究員
1999.12−現在    中国吉林大学超硬材料国家重点実験室 教授