CGL通信 vol44 「モザンビーク産ルビーの低温加熱処理について -加熱温度の違いによる諸特徴の変化-」

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CGL通信 vol44 「モザンビーク産ルビーの低温加熱処理について -加熱温度の違いによる諸特徴の変化-」

Adobe_PDF_file_icon_32x32-2018年5月PDFNo.44

 

リサーチ室 北脇 裕士、江森 健太郎、岡野 誠
ジェムリサーチジャパン 福田 千紘

モザンビーク産ルビーの原石を300℃〜1000℃まで100℃刻みで加熱処理を行い、温度の違いによる宝石学的特徴の変化を記録した。処理前後において内部特徴にはほとんど変化が見られなかったが、結晶の表面に達したフラクチャーに充填された鉄サビは赤味を帯びて暗くなる傾向が見られた。FTIRによる透過スペクトルにおいて、未加熱時に見られたH2O関連の吸収ピークが加熱温度とともに小さくなり、最終的にはほぼ消失した。また、未加熱時に見られたダイアスポアの吸収ピークも加熱温度とともに小さくなり、一旦OH関連の新たな吸収ピークが出現するが、これらも最終的には完全に消失した。フラクチャーの鉄サビを顕微ラマン分光法で測定したところ、未加熱時はゲーサイトのピークが検出されたが、加熱したあとではヘマタイトのピークが検出された。このように内部特徴に明瞭な加熱の履歴に関する特徴が見られないものについても、FTIRおよびラマン分光法が、モザンビーク産ルビーの低温加熱の検出に役立つことが改めて確認された。

 

1.背景

モザンビークは2008年の発見以降、宝石質ルビーの世界的に有数の供給源となっている。同国ではNiassa州とCabo Delgado州の複数の鉱山からルビーを産出しているが、Cabo Delgado州のMontepuezは2009年2月に新しい鉱山として発見され(文献1)、現在ではもっとも重要な産出地として知られている。モザンビークから産出するルビーの品質は様々であり、もっとも高品質のものはそのまま非加熱で取引されているが、ほとんどのものは加熱による色の改良が施されている(文献2)。また、一部のクラリティの低いものは鉛ガラス含浸処理の素材としても利用されている(文献3)
モザンビーク産ルビーの加熱は、主にタイのバンコクやチャンタブリで行われており、伝統的な加熱手法が用いられている。クラリティの高いものはそのまま加熱されるが、低品質のものはフラクチャーを癒着させるためのフラックスが使用されている(文献4)文献5および文献6によると、2015年頃からスリランカにおいてモザンビーク産ルビーの低温加熱が行われており、倫理観の欠如した取引業者によって非加熱として販売されている。その後の研究において、これらの低温加熱は青色味を除去するのに有効であることが示されたが(文献5)、内部特徴へ与える影響は少なく、インクルージョンの観察に基づく鑑別のみでは看破が困難である。FTIRなどの赤外分光法は加熱の履歴を検証するために有効であるが(文献7、文献8)、そのスペクトルの詳細な解析には試料の加熱前後の系統立てた研究の蓄積が必要不可欠である。また、FTIR分析において鑑別特徴となるデータが個々の試料に必ずしも得られるとは限らない。最近になって、表面に達したフラクチャーに充填される鉄サビを顕微ラマン分光法で分析したところ、500℃〜600℃の加熱でゲーサイトからヘマタイトに変化することが確認され、低温加熱を看破するための有効な指標になることが示された(文献6)
本研究では、モザンビーク産ルビーの低温加熱実験を行い、その加熱前後の諸特徴を記録することで、加熱の履歴を検証するための判定基準の確立をめざした。特にFTIR分析による加熱温度に伴うスペクトルの変化の理解と顕微ラマン分光法によるゲーサイトからヘマタイトへの転移温度の検証を主たる目的とした。

 

2.試料と分析方法

試料はモザンビークで最も産出量の多いMontepuez鉱山産の非加熱原石試料5個(①0.352ct、②0.638ct、③0.377ct、④0.460ct、⑤0.456ct)を用いた(図1)。これらは一次鉱床(変質した角閃岩)から直接採取されたもので、研磨は行っていない。Montepuez鉱山産のルビーは大きさ、形、色、クラリティにより品質分類されている。クラリティが3Aおよび2Aランクの高品質のものは主にタイやスリランカでカット・研磨され、Aランク以下のものはインドに輸出されている。今回用いた試料はAランクに相当する(阿依 私信、2018)。

 

図1:本研究で用いたモザンビーク、Montepuez鉱山産のルビー非加熱原石試料5個  (上段左より①0.352ct、②0.638ct、③0.377ct、下段左より④0.460ct、⑤0.456ct)
図1:本研究で用いたモザンビーク、Montepuez鉱山産のルビー非加熱原石試料5個
 (上段左より①0.352ct、②0.638ct、③0.377ct、下段左より④0.460ct、⑤0.456ct)

 

図2:加熱処理に用いたマッフル炉     (ADVANTEC製 FUM312DA)
図2:加熱処理に用いたマッフル炉   
 (ADVANTEC製 FUM312DA)

 

図3:加熱処理に用いたるつぼ (ジルコニウムるつぼの中にムライト質磁製るつぼを配置)
図3:加熱処理に用いたるつぼ
(ジルコニウムるつぼの中にムライト質磁製るつぼを配置)

 

試料の加熱処理はジェムリサーチジャパンにおいてADVANTEC FUM312DA マッフル炉を用いて行った(図2)。試料は内径30mm容量10mlのムライト質磁製るつぼ内にアルミナ粉末を充填し、その中に埋設した。磁製るつぼは底面炉材保護のためさらにジルコニウムるつぼに入れて炉内に配置した(図3)。加熱ピーク温度は300℃〜1000℃まで100℃刻みとし、同一試料を用いて低温から順に計8回熱履歴を与えた。温度調整はPID制御とし、室温からピーク温度までの昇温時間を2時間、ピーク温度の保持時間を2時間、ピーク温度から室温までの降温時間を4時間の3pathと設定し、炉内は酸化雰囲気(周囲雰囲気)で加熱した。設定温度と実測温度には必ず差異が生じるが、PID制御は単位時間当たりの温度変化の微分値をフィードバックすることで温度の変動を抑制し、かつ設定温度と実測温度の差を時間軸で積分した面積が最小になるように誤差を制御する方法で他の制御方法に比べると差異や変動を少なくすることができる。降温時間は実際には4時間では室温まで降下しないため室温に戻るまで十分な時間をおいてから試料を取り出した。室温は水銀温度計で実験ごとに校正しピーク温度は工場出荷時の校正設定とした。
宝石学的検査および分析はすべてCGLのリサーチ室にて行った。外部特徴および包有物の観察にはMotic製の双眼実体顕微鏡GM168を用いた。紫外–可視–近赤外分光分析には日本分光製V650を用いて分析範囲は220nm–860nm、バンド幅2.0nm、分解能0.5nm、スキャンスピード400nm/minで室温にて測定を行った。赤外分光分析には日本分光製FTIR4200を用いて分析範囲は5000–1500cm–1、分解能は4.0cm–1、積算回数はauto(21〜512回)で測定を行った。顕微ラマン分光分析にはRenishaw社製 inVia Raman MicroscopeとRenishaw社製 Raman system–model 1000を用いて488nmのレーザーを励起源として50倍の対物レンズを使用した。ラマンスペクトルのマッチングにはCGLのサンプルデータベースとArizona Univ.の鉱物データベースを参照した。

 

3.結果と考察

◆内部特徴
今回用いた試料はサイズが小さく未研磨であったこともあり、処理前後を通じて内部特徴に大きな変化を確認することはできなかった。唯一、結晶の表面に達したフラクチャーに充填された鉄サビの色が橙色から赤橙色に変化したものが見られた(図4)。これらの変化は300℃および400℃の加熱で確認することができたが、ルビー自体の赤色が濃いために処理前の状態と比較しなければその差異は判り難い。

 

図4:試料③0.377ctの未加熱および300℃〜1,000℃までの100℃刻みの加熱後の概観の比較:未加熱時には黄色かった液膜(写真左上)が加熱により赤味と暗味を増す
図4:試料③0.377ctの未加熱および300℃〜1,000℃までの100℃刻みの加熱後の概観の比較:未加熱時には黄色かった液膜(写真左上)が加熱により赤味と暗味を増す

 

今回の実験では確認できなかったが、文献5にモザンビーク産ルビーの低温加熱によって青色味(青色色帯)が除去できることが示されている。したがって、この青色味の除去が低温加熱の目的と思われるが、色の変化が何℃で生じるかは明確にされていない。別の文献では、ルチルなどのコランダム中の析出物が溶解を始める温度(1200〜1350℃)以下が低温加熱と定義しており、青味の除去(Fe2+/Ti4+の破壊)には900〜1,100℃が必要としている(文献9)。筆者(K.H)の過去のMong Hsu産ルビーの加熱実験において、1,000℃の加熱において青色味が除去できたものとできないものがあり(文献10)、商業的な低温加熱は1,000℃前後で行われていると推測できる。

 

◆紫外–可視–近赤外分光分析
紫外–可視–近赤外透過スペクトルには5個の試料すべてにおいて加熱による明瞭な変化は認められなかった。
図5に試料⑤0.456ctの未加熱および300℃〜1,000℃まで(100℃刻み)の加熱後の透過スペクトルを示す。縦軸はそれぞれのスペクトルを比較しやすいようにずらしている。紫外–可視–近赤外透過スペクトルに加熱による変化が見られないのは、見掛けの色調にほとんど変化がみられないことと調和的である。

 

図5:試料⑤0.456ctの未加熱および300℃〜1,000℃まで(100℃刻み)の加熱後の透過スペクトル:縦軸はそれぞれのスペクトルを比較しやすいようにずらしている
図5:試料⑤0.456ctの未加熱および300℃〜1,000℃まで(100℃刻み)の加熱後の透過スペクトル:縦軸はそれぞれのスペクトルを比較しやすいようにずらしている

 

◆FTIR分析
FTIRスペクトルには5個の試料すべてに加熱温度による明瞭な変化が認められた。試料④(0.460ct)の透過スペクトルを図6および図7に示す。図6は加熱温度の違いによる変化を比較しやすいように縦軸をずらしているが、図7は吸収の深さの違いが判りやすくするために縦軸の補正を行っている。

 

図6:試料④(0.460ct)の加熱前後のFTIRによる透過スペクトル(加熱温度の違いによる変化を比較しやすいように縦軸をずらしている)
図6:試料④(0.460ct)の加熱前後のFTIRによる透過スペクトル(加熱温度の違いによる変化を比較しやすいように縦軸をずらしている)

 

図7:試料④(0.460ct)の加熱前後のFTIRによる透過スペクトル(吸収の深さの違いが判りやすくするために縦軸の補正を行っている)
図7:試料④(0.460ct)の加熱前後のFTIRによる透過スペクトル(吸収の深さの違いが判りやすくするために縦軸の補正を行っている)

 

すべての未加熱の試料に3440–3410cm–1と3235–3230cm–1を中心とする幅広いH2O分子の拡張振動による吸収が認められた。これらの吸収は加熱温度とともに小さくなり、3235–3230cm–1ピークは500〜600℃で消失したが、3440–3410cm–1ピークは1,000℃でほぼ消失した。また、H2O分子の振動による3698 cm–1と3620 cm–1のうち、前者は500〜600℃で消滅しているが、後者は800℃まで残存している。同様に1637 cm–1のH2O分子に伴う吸収が試料①0.352ct、②0.638ct、④0.460ctに見られたが、いずれも500℃以上では消失した。すべての試料において、非加熱時にはなかった3086 cm–1と2520 cm–1にOHの拡張振動による吸収が、300℃〜600℃の加熱で新たに出現し、700℃以上では消失した。これらのFTIRで検出されるH2O分子は、微小包有物や吸着水としてコランダム中に存在することが知られている(文献11)。本試料で見られた吸収ピークは、双晶面やマイクロクラックなどの結晶の間隙に吸着したH2O分子に由来すると思われる。高品質のモザンビーク産ルビーのFTIRスペクトルにはH2O分子の振動吸収が検出されないことも多いが(文献12、文献13)、検出できた場合は加熱の履歴に関する重要な情報源となりうる。
すべての試料に2955、2925および2850 cm–1にCH拡張振動による吸収が認められた。通常、これらのピークは含浸されたオイル等に起因するものである。ルビーの鉱山ではしばしば採掘されたルビーの原石をオイルに漬けて保管することも行われており(堀川 私信、2018)、CH吸収の原因となることも考えられる。モザンビーク産ルビーが市場に流通を始めた当初、海外のある鑑別機関ではレポートのコメント欄にしばしば “Wax is present in surface reaching fractures.” とワックス含浸の記載をしており、業界内でも問題視されたが、その後はほとんど記載されなくなっている。本研究に用いた試料は一次鉱床から採掘されたままの原石である。したがって、これらのCH関連のピークは含浸物質ではなく、皮脂等の汚染に起因すると思われる。
試料①0.352ct、②0.638ct、④0.460ctの3個の未加熱試料にダイアスポアに起因する2112 cm–1と1974 cm–1のピークが見られたが、600℃の加熱温度ですべて消失した。ダイアスポア(α–AlO(OH))はアルミナ(Al2O3)の水和相であり、コランダム中の微細な包有物(例えばMong Hsu産ルビー)として含まれる場合や、フラクチャーにアルミナ(Al2O3)変質物として介在することがある。ダイアスポアは400〜500℃でコランダムに転移することが知られており(文献14)、ダイアスポアのピークはルビーやサファイアが加熱されているか否かの判定に有効である(文献7、文献15)。Mong Hsu産ルビーのように包有物としてダイアスポアを含有するルビーを1,000℃以上で加熱すると、3309、3234および3185 cm–1に新たな一連のピークが出現し、加熱の証拠とされている(文献7、文献10、文献15)。これらのピークは構造的に結合したOHとTi等の陽イオンが関与したものと解釈されている(文献7、文献11)。本研究においては1,000℃の加熱においてもこれらのピークは出現しなかった。したがって、本研究の試料から検出されたダイアスポアは結晶内部に包有物として存在していたのではなく、フラクチャーの介在物と考えられる。

 

◆顕微ラマン分光分析
すべての試料について、表面に達したフラクチャーに見られる鉄サビを狙って分析を行った。その結果、試料①0.352ctと試料③0.377ctの未加熱時にゲーサイトのピークが検出された(図8)、(図9)

 

図8:試料①0.352ctの加熱前後のラマンスペクトル:未加熱時にはゲーサイトのラマンスペクトルが、700℃ではヘマタイトのラマンスペクトルに変化している
図8:試料①0.352ctの加熱前後のラマンスペクトル:未加熱時にはゲーサイトのラマンスペクトルが、700℃ではヘマタイトのラマンスペクトルに変化している

 

図9:試料③0.377ctの加熱前後のラマンスペクトル:未加熱時にはゲーサイトのラマンスペクトルが、800℃ではヘマタイトのラマンスペクトルに変化している
図9:試料③0.377ctの加熱前後のラマンスペクトル:未加熱時にはゲーサイトのラマンスペクトルが、800℃ではヘマタイトのラマンスペクトルに変化している

 

ゲーサイトは含水酸化鉄でFeO(OH)の化学式で表される直方晶系(斜方晶系)の鉱物である。これらは母体結晶(ルビー)の生成後に後生的に沈積したものである。鉄分を豊富に含む地下水が結晶表面に達するフラクチャー、へき開面や成長管などに浸入し、残留した液体の水分が蒸発することにより水和した鉄鉱物が沈積する(文献16)。モザンビーク産ルビーにはしばしば橙色~赤橙色の液膜として観察される。試料を加熱していくと、ゲーサイトが検出された鉄サビと同じ箇所を測定しても、300℃~600℃までは明瞭なピークを得ることはできなくなった。試料①0.352ctでは未加熱時にゲーサイトが検出された鉄サビ(図10–a)は700℃の加熱後にヘマタイトのピークが検出され(図8)、この時液膜の色は赤味を増していた(図10–b)

 

図10:(a)試料①0.352ctでは未加熱時の鉄サビは黄色味を帯びる
図10:(a)試料①0.352ctでは未加熱時の鉄サビは黄色味を帯びる

 

図10:(b)700℃の加熱後の液膜の色は赤味が増した
図10:(b)700℃の加熱後の液膜の色は赤味が増した

 

同様に、試料③0.377ctにおいては800℃の加熱後に明瞭なヘマタイトのピークが検出され(図9)、液膜の色は赤味を増していた(図11–a,b)

 

図11:(a)試料③0.377ctでは未加熱時の鉄サビは黄色味を帯びる
図11:(a)試料③0.377ctでは未加熱時の鉄サビは黄色味を帯びる

 

図11:(b)800℃の加熱後の液膜の色は赤味が増した
図11:(b)800℃の加熱後の液膜の色は赤味が増した

 

ゲーサイトとヘマタイトのラマンシフトは200–700cm–1の範囲では良く似ているが、ヘマタイトには1320 cm–1に半値幅の大きなピークがあり、両者を区別することができる。

 

ヘマタイトはFe2O3の化学式で表される三方晶系の鉱物である。ゲーサイトを加熱すると、250℃から脱水し、ヘマタイトへの転移が始まるとされている(文献17)。この変化は以下のように表される。

2α–FeO(OH)     ⇒     α– Fe2O3+ H2O
加熱(250℃以上)

宝石中の包有物においてもしばしばこれらの変化が見られることがある。加熱により黄褐色のゲーサイトが赤褐色のヘマタイトに変化する例が知られており、この変化は300℃〜400℃で生じるとされている(文献16、文献18)文献6ではモザンビーク産ルビーの鉄サビを分析しており、500℃および600℃の加熱後にゲーサイトからヘマタイトに変化したと報告している。いずれにしても、コランダムの低温加熱に利用される温度(おそらく900〜1100℃:少なくとも700℃以上(阿依 私信、2018))以下でゲーサイトからヘマタイトへ変化することは確実である。したがって、ルビーのフラクチャーに見られる鉄サビがゲーサイトであることが確定できれば非加熱であり、ヘマタイトであれば加熱の証拠となりうる。
顕微ラマン分光法でコランダム中の鉄サビを測定する際、サビを含む液膜の厚み、位置、方位等の要因により、ゲーサイトやヘマタイトのピークが検出できる場合とできない場合がある。したがって、いずれかのピークが検出されるまで顕微鏡下で観察される鉄サビを根気良く分析する必要がある。

 

4.まとめ

モザンビーク産ルビーの低温加熱についての理解を深めるために加熱実験を行った。加熱の履歴の検証には宝石顕微鏡による拡大検査が重要であることは言うまでもないが、常に加熱の兆候が確認できるとはかぎらない。特に低温加熱(900〜1100℃以下)では、その変化は捉え難い。フラクチャーに充填された鉄サビの色の赤味が強い場合は加熱の疑いがあるが、確証には至らない。FTIR分析において、H2O分子に起因する吸収やOH関連の吸収の存在は低温加熱の否定あるいは検出に有効である。また、ダイアスポアの吸収は600℃以上の加熱を否定する根拠となる。
顕微ラマン分光法によるフラクチャー中の鉄サビの分析において、ゲーサイトが検出されれば非加熱と判断することができ、ヘマタイトであれば加熱の証拠として捉えることができる。したがって、加熱の履歴の検査においては、顕微鏡による拡大検査において兆候が得られない場合でも、FTIR分析や顕微ラマン分光分析を組み合わせて総合的に判断することが必要である。

 

5.謝辞

Tokyo Gem Science LLC.の阿衣アヒマディ博士には、今回実験に用いたモザンビーク産ルビーの試料をご提供いただいた。ここに記して感謝いたします。◆

 

6.文献

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https://www.gia.edu/doc/Expedition–report–Ruby–mining–sites–Northern–Mozambique.pdf
2.Chapin M., Pardiew V., Lucas A. (2015) Mozambique: A ruby discovery for the 21st Century.
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3.Smith C. (2010) Mozambique rubies. Gems & Jewellery, vol.19, No.1, pp3–5
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https://www.gia.edu/doc/FAPFH–GFF–Treated–Ruby–from–Mozambique–A–Preliminary–Report.
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