CGL通信 vol45 「Beを含む天然ブルーサファイアのナノインクルージョン」

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CGL通信 vol45 「Beを含む天然ブルーサファイアのナノインクルージョン」

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リサーチ室 江森 健太郎、北脇 裕士

京都大学大学院理学研究科 三宅 亮

要約

コランダム中に天然由来のBeが存在することは知られているが、その起源についてはまだ解明されていない。本研究ではマダガスカル、ディエゴ産のブルーサファイアを用いてBeの起源を明らかにするための調査を行った。LA–ICP–MSで分析した30個のサンプルのうち、27個のコランダムにBeが検出され、Be、Nb、Taとの間に相関関係が認められた。さらに天然Beを多く含むサンプルについて透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。Beを含む領域では、幅10 nm、長さ40 nm程度のナノインクルージョンが観察され、それらはTi、Nb、Taを含む、コランダムではない結晶であることが判明した。このナノインクルージョンはBe、Ti、Nb、Taからなる未知の鉱物である可能性がある。

 

◆背景と目的

コランダムのベリリウム(Be)拡散加熱処理は2001年後半にタイのバンコクとチャンタブリで同時に開発された。このBe拡散加熱処理は後にコランダムをクリソベリルの粉末と一緒に高温で加熱し、クリソベリル中のベリリウムをコランダムに拡散し、色変化を起こしているものであることが明らかになった(文献1)
Be拡散加熱処理が出始めた当初は、天然コランダムにはBeは内在しないと考えられてきた(文献2)が、処理が行われていないコランダムからもBeが検出される事例が複数報告された(文献3)。その後、天然由来のBeか否かを判定する方法はある程度確立されたが(文献4)、天然Beの起源についてはいまだ不明のままである。
Shen et al.(2012)(文献5)はマダガスカル、イラカカ産の非加熱原石を調査し、その原石のクラウド部分にBeと同時にNb、Taを検出した。Beが検出されたクラウド部分を透過型電子顕微鏡(TEM) で調べたところ、長さ20–40 nm、幅5–10 nmサイズのTiに富み、TiO2のα–PbO2構造のナノインクルージョン結晶が見つかったと報告している。しかし、その報告ではナノインクルージョン結晶とBe、Nb、Taについての関係は明らかにされていない。
本研究は、コランダム中の天然由来のBeについてその起源となるナノインクルージョンを明らかにすることを目的とする。

 

◆サンプルと手法

本研究には、マダガスカル、ディエゴ産非加熱ブルーサファイア30個を用いた(図1)。分析には、LA–ICP–MS装置として、LA(レーザーアブレーション装置)はNew Wave Research UP–213を、ICP–MSはAgilent 7500aを使用した。標準試料にはNIST612を用い、内標準として27Alを用いた。またTEM用試料作製の為、FIB(Focused Ion Beam、集束イオンビーム)装置としてFEI社(現Thermo Fisher Scientific社)Quanta 200 3DS、TEMとして日本電子製JEM–2100Fを用いた。それぞれの装置の分析条件は表1の通りである。

 

図1 分析に用いたサンプル(1個は破損のため未掲載)
図1 分析に用いたサンプル(1個は破損のため未掲載)

 

表1 分析条件
表1 分析条件

 

◆結果および考察

1. LA–ICP–MS分析結果

サンプル30個(diego01~diego30)について、LA–ICP–MS分析を行った。それぞれのサンプルにつき5点ずつ測定を行い、Beの最小値と最大値を求めた。結果を表2に記す。30個のサンプル中27個にBeの存在が確認され、Beの最大値は26.07 ppmwであった。

 

表2 ブルーサファイア30個の分析結果(bdlは検出限界未満)
表2 ブルーサファイア30個の分析結果(bdlは検出限界未満)

 

Beが検出限界未満~14.16 ppmw検出されたdiego10について詳細な検査を行った。レーザーアブレーションのスポット径80 μm、一定間隔で線分析を行った。分析点01–30、分析点31–57と2つの線分析を行った。それぞれのBe、Ti、Nb、Taの線分析結果を図2、図3に示す。

 

図2–1 diego10、分析点01–30の線分析結果
図2–1 diego10

 

図2–2 diego10、分析点01–30の線分析結果
図2–2 diego10、分析点01–30の線分析結果

 

図3–1 diego10、分析点31–57の線分析結果
図3–1 diego10

 

図3–2 diego10、分析点31–57の線分析結果
図3–2 diego10、分析点31–57の線分析結果

 

BeとNb、Taには非常によい相関関係が認められるが、Tiとは相関関係は認められない。また、分析点01–57について、Be–Nb、Be–Taの濃度プロットを行った結果を図4に示す。これらは筆者らの先行研究でカンボジア、ナイジェリア、ラオス等の玄武岩関連のブルーサファイアに見られた相関関係に一致する(文献4)。Be、Nb、Taの濃度関係からmol比を見積もったところ、Be : Nb : Ta ≒ 3 : 1 : 4の結果を得ることができた。

 

図4 diego10のBeとNb、Taの濃度関係
図4 diego10のBeとNb、Taの濃度関係

 

 

« FIB(Focused Ion Beam、集束イオンビーム)装置とは »

FIB装置は、集束したイオンビームを試料に照射することにより観察や加工を行う装置である。

 

図A FIB装置
図A FIB装置

 

図B FIB装置の概略図
図B FIB装置の概略図

 

図Aは本研究で用いたFIB装置、FEI社Quanta200 3DS(京都大学地球惑星科学科地質学鉱物学分野鉱物学研究室所属)の写真である。
SEM(Scanning Electron Microscopy、走査型電子顕微鏡)で観察しながら、所定の位置をnm〜μmの正確さで切り出すことが可能である。TEM(Transmission Electron Microscopy、透過型電子顕微鏡)観察試料には厚さ100 nm程度の薄膜に試料を切り出さなければならないため、TEM観察試料の作成にFIBを使用することが近年では一般的である。
図BはFIB装置の概略図である。
LIMSは液体金属イオン源(Liquid Metal Ion Source)の略であり、イオン材料として通常Ga(ガリウム)が用いられる。Ga(ガリウム)をイオン材料として使う理由には原子量が69.723と比較的重く、加工に十分なスパッタリング速度が得られること、また融点が29.8℃と低く、加熱後は過冷却減少で室温でも液体の状態を維持でき、針材料のW(タングステン)と反応せず流れが安定すること、が挙げられる。このLIMSから放出されたイオンを設定領域に照射し、加工を行うのがFIB装置ということになる。

 

本研究では、TEM観察のため、コランダム試料から15 μm × 10 μm × 0.1 μmのサイズの観察試料を切り出した。その手順を下図Cに記す。まず表面の赤く塗りつぶした部分をイオンで削り、(a)の右図の状態にする。その後、中央にできた板の部分の左右下を削り(b)、針で試料の上端を保持しつつ、切り離し、TEM試料を得る(c)。図DにFIB加工後のコランダムの表面の写真を記す。上部にある丸い穴がLA–ICP–MS分析でできたスポット(直径80 μm)であり、その下部にある四角い穴がFIB加工の穴である。非常に小さな加工痕しか残らないことがわかる。

 

図C FIBによるTEM試料作製の手順
図C FIBによるTEM試料作製の手順

 

 

図D FIB加工痕。中央部の丸い穴がLA-ICP-MS分析痕あ(直径80μm)、下部の四角い穴がFIB加工痕である
図D FIB加工痕。中央部の丸い穴が LA–ICP–MS分析痕(直径80μm)、下部の四角い穴が FIB加工痕である

 

2. TEMによる観察・分析結果

サンプルdiego10において、Be濃度が一番高く検出されたスポット、Beが検出されなかったスポットの2ヶ所の近傍でFIBを用いてTEMとして切り出し、TEM観察・分析を行った。両方の箇所のADF–STEM(環状暗視野走査型透過電子顕微鏡)像を図5に示す。ADF–STEM像はおおよそ平均質量数の軽い場所が暗いコントラスト、平均質量数の重い場所が明るいコントラストとして観察される像である。

 

図5–1 diego10のADF–STEM像。上像はBeが検出された箇所(x 100,000) 像の上部がコランダムの表面となる
図5–1 diego10のADF–STEM像。Beが検出された箇所(x 100,000)
像の上部がコランダムの表面となる

 

図5–2 diego10のADF–STEM像。下像はBe未検出の箇所(x 100,000) 像の上部がコランダムの表面となる
図5–2 diego10のADF–STEM像。Be未検出の箇所(x 100,000)
像の上部がコランダムの表面となる

 

Beが検出された箇所では周囲に対し白く小さなインクルージョン(周囲に対し白く見えるということは周囲の平均質量数よりその箇所の平均質量数が大きいことを示す)が観察されるのに対し、Beが未検出の箇所ではインクルージョンは見当たらないことがわかる。なお、表面に見える深さ200 nm程度の暗いコントラストはコランダムの表面を研磨したときにできた損傷由来のコントラストである。その他、Beが検出された部分では暗いコントラストのモヤのようなものが複数観察されている。
このインクルージョン(以下ナノインクルージョン)を拡大して観察したADF–STEM像を図6に示す。

 

図6 Beが検出された箇所に観察されるナノインクルージョンのADF–STEM像( x600,000)
図6 Beが検出された箇所に観察されるナノインクルージョンのADF–STEM像( x600,000)

 

このナノインクルージョンは長さ40 nm、幅10 nm程度であり、Shen et al. (2012)(文献5)で観察されたナノインクルージョンの観察結果と調和的である。このナノインクルージョンと、その外側部についてTEM付属のEDXを用いて化学分析を行った。結果を表3に示す。また、今回使用したEDXはBeの測定が行えないため、Beの濃度を得ることはできなかった。

 

表3 TEM–EDXによる分析結果 (GaはFBIのスパッタリング由来、Cuは試料を保持するホルダー由来の元素)
表3 TEM–EDXによる分析結果
(GaはFIBのスパッタリング由来、Cuは試料を保持するホルダー由来の元素)

 

ナノインクルージョン部分からはAl、Ti、Fe、Ga、Nb、Taが検出され、ナノインクルージョン外側からはAl、Feが検出されている。また、ナノインクルージョンとその周囲を元素マッピングした結果を図7に示す。

 

図7 ナノインクルージョンとその周辺の元素マッピング結果。左上から右にTEM像(明視野)、Al、Ti、左下から右にFe、Nb、Taをマッピングしたもの
図7 ナノインクルージョンとその周辺の元素マッピング結果。左上から右にTEM像(明視野)、Al、Ti、左下から右にFe、Nb、Taをマッピングしたもの

 

分析結果とマッピングを比較したところ、ナノインクルージョン部から測定されるAlとFeはナノインクルージョン外部にも含まれることから、ナノインクルージョンはTi、Nb、Ta、そしてわずかなFeを含む相である可能性が高い。また、分析結果から、TiとTaの比はおよそTi : Ta ≒ 4 : 1であることが明らかになった。
LA–ICP–MS分析の結果、BeとNb、Taの量には相関関係が存在し、Beが検出されない箇所からはNb、Taも検出されないことがわかっている。ナノインクルージョンにはNb、Taが存在し、ナノインクルージョン以外の場所からはNb、Taが検出されないことを合わせると、Beはナノインクルージョン中に含まれる元素であり、Beの濃度はナノインクルージョンの存在密度に比例するものと考えられる。また、LA–ICP–MSで見積もったBe、Nb、Taの比と併せると、Ti : Be : Nb : Ta ≒ 16 : 3 : 1 : 4という結果が得られた。
さらにこのナノインクルージョンの相を同定するため、TEMを用いて回折図形を取得した。結果を図8に示す。

 

図8 ナノインクルージョンの回折図形 (a)回折図形を得た箇所の明視野像 (b)得られた回折図形。強く光っているスポットはコランダムによるもの (c)『(b)』を拡大したもの。コランダムの回折スポットの間に別の回折スポットが観察される(矢印部)
図8 ナノインクルージョンの回折図形
(a) 回折図形を得た箇所の明視野像
(b) 得られた回折図形。強く光っているスポットはコランダムによるもの
(c)『 (b) 』を拡大したもの。コランダムの回折スポットの間に別の回折スポットが観察される(矢印部)

 

回折図形ではコランダムの回折スポットに加え、コランダム以外の回折スポットが観察される(図8 (c))。これはナノインクルージョン由来の回折スポットであり、コランダムとは別の相を持つ結晶であることを示す。しかし、今回の実験では1方向のみの回折図形しか得られなかったこと、観察試料が厚く明瞭なスポットが得られなかったため、構造解析は行えなかった。

 

◆結論

マダガスカル、ディエゴ産ブルーサファイアに含まれるBeの起源についてLA–ICP–MS、TEMを用いて検討を行った。LA–ICP–MS分析の結果、Beの濃度とNb、Taの濃度には他の玄武岩関係のブルーサファイアと同様の相関関係があり、それらのモル比はBe : Nb : Ta ≒ 3 : 1 : 4であることが新たにわかった。また、透過型電子顕微鏡観察の結果、Beが含まれる部分には幅10 nm、長さ40 nm程度のナノインクルージョンが存在することが判明し、Ti、Nb、Taが含まれており、Ti、Taのモル比はTi : Ta ≒ 4 : 1程度であることがわかった。回折像を調べた結果、コランダムとは相が異なる鉱物であることがわかったが、相は明らかにできなかった。LA–ICP–MSとTEMの結果を合わせると、ナノインクルージョンはBe、Ti、Nb、Taからなる鉱物であり、検出されるBeはナノインクルージョンの存在密度に比例すると考えられる。また、Be、Ti、Nb、Taのモル比はBe : Ti : Nb : Ta ≒ 3 : 16 : 1 : 4程度であり、本研究では構造を決定することはできなかったが、Shen et al. (2012)(文献5)の結果と併せて考慮すると、知られていない未知の鉱物である可能性がある。

 

◆文献

1.Emmett J.L., Scarrat K., McClure S.F., Moses T., Douthit T.R., Hughes R., Novak S., Shigley J.E., Wang W., Bordelon O., Kane R.E. (2013) Beryllium diffusion of Ruby and Sapphire. Gems & Gemology, 39(2), 84–135
2.Emmett, J.E., Wang W. (2007) The Corundum group, Memo to the Corundum Group: How much beryllium is too much in blue sapphire – the role of quantitative spectroscopy. 26 August 2007
3.Shen A., McClure S., Breeding C. M., Scarratt K., Wang W., Smith C., Shigley J. (2007) Beryllium in Corundum: The Consequences for Blue Sapphire. GIA Insider, Vol.9, Issue 2
4.Emori K., Kitawaki H., Okano M., (2014) Beryllium-Diffused Corundum in the Japanese Market, and Assessing the Natural vs. Diffused Origin of Beryllium in Sapphire. Journal of Gemmology, 34(2), 2014, 130–137
5.Shen A. and Wirth R. (2012) Beryllium-bearing nano-inclusions identified in untreated Madagascar sapphire. Gems and Gemology, 48(2), 150–151