CGL通信 vol46 「無色~ほぼ無色のHPHT合成ダイヤモンドへの電子線照射処理実験報告」

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CGL通信 vol46 「無色~ほぼ無色のHPHT合成ダイヤモンドへの電子線照射処理実験報告」

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リサーチ室 北脇裕士、江森健太郎

無色~ほぼ無色のメレサイズのHPHT合成ダイヤモンドに電子線を照射する実験を行った。その結果、照射の強度に応じて蛍光および燐光が共に弱くなり、最終的には燐光がほぼなくなった。この際、照射強度を強くすると地色が淡青色に変化したが、見かけ上無色のままの照射強度において完全に燐光が消えたものは一部だけであった。

 

2015年頃から世界的な宝石市場において大量のメレサイズのHPHT合成ダイヤモンドが流通を始めており、業界関係者はその対応に追われている。紫外線透過性、紫外線発光、赤外分光などを応用した各種の判別器機が開発されているが、装置の原理が未公表のブラックボックス的なものも販売されている。これらの中で紫外線下での燐光を検出する装置はルースでもジュエリーにセットされた状態でも短時間で検査できるという利便性があり、国内の輸入業者を中心に幅広く利用されている。
2018年4月、香港の器機開発業者から「HPHT–grown diamonds might escape detection as synthetics, once they are treated with irradiation」というアラートが配信された(Diamond Services, 2018)。HPHT合成ダイヤモンドは紫外線照射後、ミリ秒~数十秒の燐光があり、燐光を示さない天然と区別する事ができる。しかし、一旦照射処理が施されると室温で燐光を測定する装置では識別ができなくなるというものである。このアラートに呼応してIIDGRやGIAは自社製の判別装置における信頼性に問題はないと報告している(Rapaport News, 2018)。
さて、このような背景のもと、電子線照射により無色~ほぼ無色のHPHT合成ダイヤモンドの燐光が減衰するのかの実験を行った。実験に用いた試料は0.008–0.032ctの見かけ上無色の中国製HPHT合成ダイヤモンドで、それぞれ5個ずつAとBの2つのグループに分けて段階的に照射を行った。
電子線はコッククロフトウォルトン型の放射線発生装置を用いて、
試料Aグループには総線量:1.0×1015e/cm2、10.0×1015e/cm2、50.0×1015e/cm2
Bグループには総線量:5.0×1015e/cm2、25.0×1015e/cm2、100.0×1015e/cm2をそれぞれ照射した。
これらを国内での利用率の高い中国製の判別装置を用いて照射前後の蛍光と燐光の写真を撮影した。その結果を図–1と図–2に示す。試料Aグループにおいて総線量:1.0×1015e/cm2では燐光に減衰は見られないが、10.0×1015e/cm2では若干の燐光の減衰が見られた。50.0×1015e/cm2では明らかな減衰が見られ、②の試料では完全に消滅した。試料Bグループにおいては総線量:5.0×1015e/cm2で燐光に若干の減衰が見られ、25.0×1015e/cm2では明らかな減衰が見られ、①の試料では完全に消滅した。100.0×1015e/cm2では未処理で燐光の非常に強かった試料②を除いて他の4個はすべて燐光が消失した。図–3は試料Aグループの50.0×1015e/cm2照射後の試料と燐光の写真である。試料①③⑤は白色のグレーダーの上に乗せてルーペで観察するとわずかに青色味を感じる。これは電子線照射により、GR1センタが形成したためである。しかし、この程度の淡い色調はジュエリーにセットされてしまえばほぼ無色に見えると思われる。図–4は試料Bグループの100.0×1015e/cm2照射後の試料と燐光の写真である.グレーダーに乗せてルーペで観察すると、②の試料はほぼ無色のままであったが、他の4個は明らかなGR1センタに因る青色味が感じられた。このように照射する電子線の強度が強いとGR1センタに因り青色に着色する。青色に着色する程度の強度で照射されたものはほぼ燐光がなくなったが(5個中4個)、ほぼ無色のまま変化のない強度では燐光が完全に消滅したのは一部(5個中1個)であった。

 

以上のようにメレサイズのHPHT合成ダイヤモンドに電子線を照射することで燐光を減衰あるいは消滅できることがわかった。しかし、ダイヤモンドを無色のままで燐光を完全に消滅させるのは困難である。したがって、燐光の画像を目視して観察者自身が判別する装置の信頼性は今後もある程度担保されるが、その解釈には慎重な対応が必要となろう。◆

 

図1:グループAの蛍光及び燐光画像
図1:グループAの蛍光及び燐光画像

 

図2:グループBの蛍光及び燐光画像
図2:グループBの蛍光及び燐光画像

 

図3:グループAに50.0 x 1015e–/cm2の電子線を照射した後の地色と燐光画像
図3:グループAに50.0 x 1015e/cm2の電子線を照射した後の地色と燐光画像

 

図4:グループBに100.0 x 1015e–/cm2の電子線を照射した後の地色と燐光画像
図4:グループBに100.0 x 1015e/cm2の電子線を照射した後の地色と燐光画像

 

【参考文献】
Eaton–Magaña S., Shigley J.E. and Breeding C.M., 2017. Observations on HPHT–grown synthetic diamonds: A review. Gems & gemology, 53(3), 262–284
Diamond Services, 2018. HPHT–grown diamonds might escape detection as synthetics, once they are treated with irradiation, Lab Alert 2018
Rapaport News, 2018. Labs Refute Claims HPHT Escaping Detection, Apr 25, 2018