CGL通信 vol50 「ダイヤモンドの結晶と欠陥」

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CGL通信 vol50 「ダイヤモンドの結晶と欠陥」

PDFファイルはこちらから2019年4月PDFNo.50

関西学院大学 理工学部 鹿田 真一

常日頃ダイヤモンドを扱われているCGL通信読者の方も、結晶や欠陥について考える機会は多くない、のではないでしょうか。「合成ダイヤモンド」元年といわれる2019年の今、一度、基本に戻ってお読み頂き、天然と合成の違いを考えるのも「をかしき」ことかと、しばしお付き合い願えれば幸いです。

 

1)sp3混成軌道と単位格子

ダイヤモンドの全性質がここに起因する基本である。炭素Cは6個の電子を持ち、周期律表の1段目K核に2個、2段目のL核に4個ある。順番に詰めると図1のa)に示すような軌道であるが、エネルギー的に安定なb)の sp3 混成軌道(Hybrid orbital)が形成され、c)のような形の軌道が形成される。この正四面体構造を取る sp3結合の形が「対称性」を決め、「物性」を決め、「転位」を決める。

図1.ダイヤモンドの電子軌道(左からa)、b)、c))
図1.ダイヤモンドの電子軌道(左から  a)、b)、c))

a)軌道に順番に電子を詰めた場合

b)sとpが混ぜられたsp3混成軌道

c)sp3混成軌道の形

 

図2にダイヤモンドの単位格子と(010) (110) (111) 面への投影図を示す。(面の定義は後述する。)単位格子の角(1〜8)はまたがる他の単位格子と共通の原子で1/8の寄与、白抜きの原子(A〜F)は角面の中心にあり、隣の単位格子と折半(1/2の寄与)しており、橙色の4原子(a~d)は全て格子内にあり、位置は格子定数の1/4入ったところである。つまり合計8個の炭素を単位格子に含む勘定である。ちなみに、Siは周期律表3段目のM核で、全く同様のsp3結合を構成しており、結晶構造も全く同じである。b)c)d)は、各々(010)、(110)、(111)面から見た投影図である。外に記載の数字、アルファベットは重なって裏にある原子を示している。

図2.ダイヤモンド単位格子と投影図
図2.ダイヤモンド単位格子と投影図(左から  a)、b)、c)、d))

a)単位格子

b)(010)面投影図

c) (110)面投影図

d)(111)面投影図

 

2)面指数と方向指数

後述の欠陥を記述するため、先に面指数の付け方を復習し、図3に示す。まずは面と軸の交点を出し、その逆数を取り、整数に直す事で面指数が求まる。マイナスの場合は、

メイ11バー0

のように上に線をつけて(イチ イチバー ゼロ)と読む。

印刷の都合で(1–10)と書く場合もある。なお、中央の図で、2つは等価面であり、右端の例では

メイ11バー0と1バー10

も等価面である。

図3. 面指数の付け方
図3. 面指数の付け方

 

続いて、方位の付け方を図4に示す。r = ha + kb +lc の3成分を [h k l ] 方向とする。付け方としては原点からの座標を出し、整数に直すだけである。なお、等価面をまとめて示すことも多く、例えば

111×4

をまとめて{111}と記載する。

方向も

[111]×4

をまとめて<111>と表示する。

図4.方向指数の付け方
図4.方向指数の付け方

 

模型が手元にあると、面や方位の勘違いや記載ミスがなくなるので、便利である。図5に示す結晶の模型はTALOUという会社が作っているモル・タロウ(http://www.talous–world.com/)のダイヤモンドセットで、透明、ブルー、ピンクの3種類あるので、是非作って1つ手元に置いて頂ければ、販売店のデコレーションにも、顧客との会話にもプラスになろうかと思います。
1–138–0571 モル・タロウ ダイヤモンドセットクリスタルブルー  CDC-1
1–138–0560 モル・タロウ ダイヤモンドセットクリスタルピンク   CDC-2
1–138–0561 モル・タロウ ダイヤモンドセットブリリアントクリア CDC-3
ちなみにwwwで簡単に購入可(https://www.kenis.co.jp/onlineshop/product/11380583)が安い。図5に示した模型は単位格子の角をピンクにして、わかりやすくした作成例である。ちなみに、ブルーはドーパントのつもりでいれた。図5の右下に映っている紙の模型も面方位の理解に役に立つ。簡単に作成できる。末尾付録図に展開図を入れたので、これをA3の厚紙か、和紙に拡大コピーして作成下さい。

図5.モルタロウで作成した結晶模型と付録図の展開図で作った面表示模型
図5.モルタロウで作成した結晶模型と付録図の展開図で作った面表示模型

 

3)ダイヤモンドの結晶欠陥

結晶中のsp3結合の図を図6のa)に示す。中央の炭素は2,3,4の番号をつけた炭素で支えられ、2,3,4の平面よりわずかに位置が高い。また直上に1番の炭素がある方向が[111]方向であり、この位置関係は等価の4種類あることがわかる。この中央と2,3,4が連なるとb)に示すように六角形にみえる疑似平面(中央炭素のみが少し高い)ができる。これを斜めから見たのがc)である。これが(111)面を切り出した面となる。

図6. sp3結合と(111)面の一層を切り出した図 (欠陥を考える基本となる)
図6. sp3結合と(111)面の一層を切り出した図 (欠陥を考える基本となる)(左から  a)、b)、c))

a)sp3結合

b)(111)面の一層の上から見た図

c)b)の斜め横から見た図

 

次に、二層目の疑似平面を通常の結晶の規則に従って結合させたのが図7である。b)はsp3におけるa)の茶色の炭素の位置を示す。c)は一層目と二層目のsp3の重なりを表し、左は正常、右は60°ねじれた場合を示す。通常ダイヤモンドは、六角形を交互ずらすように[111]方向に積層した構造である。

図7.(111)面の一層目の上に二層目が結合した図 と 正常な上下のsp3及びねじれた場合
図7.(111)面の一層目の上に二層目が結合した図 と 正常な上下のsp3及びねじれた場合(左から  a)、b)、c)(cは右の2つで1組))

a)二層目を結合させた図

b)茶色の炭素の位置

c)上下のsp3 左:正常な場合、右:ねじれた場合

 

これに対して、最も発生しやすい60°転位の例を図8に示す。六角形の上に60°ねじれて積層された状態で、下の六角形が透けて見える。このように欠陥は基本的に、結合一本のところがずれる事によって発生し、ずれ方向により欠陥の種類が決まる。すべりやすい面を単位格子で見ると図9に示す4つの(111)面となる。

図8.60°転位(60°回転した例)(所謂hexagonal積層)
図8.60°転位(60°回転した例)(所謂hexagonal積層)( 左・a)、右・b))

a)60°回転して一層目に二層目を結合させた図

b)a)を斜め横から見た図

 

図9. ダイヤモンド単位格子で見たすべりやすい4つの面 ({111}の4面)
図9. ダイヤモンド単位格子で見たすべりやすい4つの面 ({111}の4面)

 

4)転位の種類

転位を含む格子のループからバーガーズベクトル(b)というベクトルを定義し、それと転位ベクトル(tベクトル)の角度を求め、その角度を転位の呼称にしている。その例を表1に示す。

表1.バーガーズベクトルと転位ベクトルによって決まる転位の種類例

1−表1バーガーズベクトルと転位ベクで決まる転位の種類例RGB150-700

 

このように0°(らせん)、30°、45°、60°、54°、73°、90°(刃状)が知られている。欠陥ベクトルは、表にあるように<001>、<110>、<111>に加え、単位格子の半分の成分を持つ<112>が殆どである。まれに<113>, <114>なども存在するようである。実際の結晶で転位を同定するのは、X線トポグラフィを用いる。従来欠陥が多すぎて、写真が真っ黒になり判別不可能なケース、c軸方向に長いものなど、実際の同定はかなり困難である。合成ダイヤモンドの転位は、高温高圧(HPHT)と気相合成(CVD)でかなり異なるが、転位密度は天然より少ないようである。またこの辺に関しては、次回の稿で紹介する(CGL通信No.52へ)。◆

 

1−鹿田先生 RGB72

鹿田真一
1954 生
1978 京都大学工学部卒
1980 京都大学大学院工学研究科修士課程卒

職歴
住友電気工業
光通信用デバイス研究開発と事業
(GaAs IC, ダイヤモンドSAWデバイス)
産業技術総合研究所
ダイヤモンドの基盤技術とパワーデバイス研究
関西学院大学 理工学部
ダイヤモンド中心にワイドギャップ材料とデバイスの研究
現在:関西学院大学 理工学部 教授

 

1−付録図:結晶模型の展開図ヨコRGB150-700

<付録図.結晶模型の展開図>