コランダムの高温低圧処理について(HT+P)<日本語版>

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2019年2月26日

コランダムの高温低圧処理について(HT+P)<日本語版>

《こちらはwww.lotusgemology.comのオンライン記事から許可を得て転載しています。オリジナルは2019年2月4日にアメリカのツーソンで開催されたGemstone Industry & Laboratory Conference(GILC)にて公表されました》

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Sapphire Squeeze • Corundums treated with high temperatures and low pressure(HT+P)

Sapphire(サファイアへの圧力)・高温低圧(HT+P)処理コランダム

 

Sri-Lanka-2012-09-rwh-0751

 

2019年2月26日:高温低圧(~1kbar)処理サファイアが最初に市場に現れたのは2009年で、2016年以降頻繁に見られるようになった。今回の記事ではそのプロセスを詳細に検証し、当該処理に個別の情報開示が必要となるか否かについて検討する。

今回の記事の内容について以下の各関係機関にご協力をいただいた:中央宝石研究所(CGL、日本)、CISGEM(イタリア)、German Gem Lab(DSEF、ドイツ)、Dunaigre Consulting(スイス)、Gemological Institute of America(GIA、アメリカ)Gem and Jewelry Institute of Thailand(GIT、タイ)、GJEPC–GTL(インド)、Gübelin Gem Lab(スイス)、Hanmi Lab(韓国)、ICA Lab(タイ)、Lotus Gemology(タイ)、Swiss Gemmological Institute(SSEF、スイス)。

 

考察

 

高温低圧で加熱されたサファイア(~1kbar;以下「HT+Pサファイア」と呼ぶこととする)が最初に市場に登場したのは2009年で、2016年にはより一般的に見られるようになった。2018年後半、Gem Research Swisslab(GRS)が、高温低圧の処理を施された石は耐久性に問題があるという研究を発表した(Peretti et al., 2018, 2019)。その後American Gem Trade Association(AGTA, 2018)もすぐにそれに続いて、熱および圧力を伴う処理を受けたすべてのサファイアに対してHPのカテゴリーにおいて個別の情報開示を必要とするとの見解を発表した。さらにAGTAは、すべての処理同様、消費者の手にわたる書類のいずれも単に記号だけでなく「明確な言語による」情報開示(例えば、熱および圧力を伴う処理をされたサファイア、など)が必要であると述べている。

AGTAが個別の情報開示を要求する理由は、この処理が石の品質を変えるからであるが、一方でこの処理は既に「情報開示」が行われており、個別のカテゴリーになっていないだけという問題の核心をAGTAは回避している。では、HT+P処理により生じる変化が従来の加熱処理の場合よりも程度が大きい場合はどうなのか、という疑問が当然ある。今回の記事では、加熱プロセスに低めの圧力を加えることが、業界関係者および消費者に個別の情報開示をしなければならないほどの結果をもたらすのかどうかという重要な問題に対して取り組んでみる。

 

年表:加熱の歴史

 

処理との関連におけるサファイアの加圧加熱処理の概要が分かるように、コランダムの加熱処理の歴史を振り返ってみよう。

 

およそ紀元1045年:ルビー/ピンク サファイアの青色みを除去するための低温加熱

 

偉大な博学者Beruni(生:紀元973~没:1050)は、50ミスカール(1ミスカールは現代の4.25gに相当、≒212グラム)の金を溶かすために設計された溶融炉でルビーを加熱する工程について記述している。金は1064℃で溶けるため、その溶融炉は空気中で1100℃以上の温度に達する能力があることが分かる。また、これは宝石処理業者がこのタイプのルビーやピンク/パープル サファイアに今日行っているのと基本的に同じプロセスであることから、Beruniの述べた工程が有効であることも分かる。(Beruni, 1989; Hughes et al., 2017)。初期の加熱処理(www.lotusgemology.com/index.php/lab/enhancements#gemtreatments)も参照。

 

スリランカのラトゥナプラでブローパイプにより加熱する古来の技法を行う処理業者。およそ紀元1045年にBeruniが記述したように、この技法で到達する温度は金の融点(1064℃)を超える。Hughes et al., 2014より。写真:Wimon Manorotkul, 2012。Treaters practicing the ancient art of blowpipe heating in Ratnapura, Sri Lanka. As described by al Beruni ca. 1045 AD, the temperatures reached by this technique exceeds that of the melting point of gold (1064°C). From Hughes et al., 2014. Photo: Wimon Manorotkul, 2012.
スリランカのラトゥナプラでブローパイプにより加熱する古来の技法を行う処理業者。およそ紀元1045年にBeruniが記述したように、この技法で到達する温度は金の融点(1064℃)を超える。Hughes et al., 2014より。写真:Wimon Manorotkul, 2012

 

1916年:青色を淡色化させる低温(800–1200℃)加熱

 

クィーンズランド(オーストラリア)産の暗青色(玄武岩起源)サファイアを、色を明るくするために低温で加熱処理。このプロセスは後にすべての暗色ブルー サファイアの加熱に適用され、今日でもそれが継続している。これらの石は生成されてから地表に到達するまでの間に玄武岩質マグマ内ですでに自然界における加熱を経験しているため(著者不明、1916)、この処理を看破することは難しい。

 

 

玄武岩に関連するマダガスカル産サファイアを空気中950℃で10時間加熱する前(左)と後(右)。少なくとも1916年から、このプロセスは現在も暗色のブルー サファイアを明るくするために一般的に用いられている。玄武岩に関連するサファイアは、地表に運ばれる際にマグマによって自然界の加熱を受けるため、看破は難しい。写真、試料および加熱:John Emmett。Hughes et al., 2017よりsapphires are naturally heated by the magma that brings them to the earth's surface. Photos, specimens and heating: John Emmett. From Hughes et al., 2017.
玄武岩に関連するマダガスカル産サファイアを空気中950℃で10時間加熱する前(左)と後(右)。少なくとも1916年から、このプロセスは現在も暗色のブルー サファイアを明るくするために一般的に用いられている。玄武岩に関連するサファイアは、地表に運ばれる際にマグマによって自然界の加熱を受けるため、看破は難しい。写真、試料および加熱:John Emmett。Hughes et al., 2017より

 

1966年:処理の高温化

 

GIAのRobert Crowningshield は、タイ産であるとされるが弱い鉄スペクトルを示し、短波紫外線に対し珍しい白濁蛍光の反応を見せるサファイアについて報告している。今でこそ、この蛍光は一般的にギウダ タイプの変成岩起源サファイアを高温で加熱したものであると分かる(Crowningshield, 1966)。今だから言えることは、これは低鉄含有変成起源サファイアを高温で加熱する初期の試みであったと思われる。

 

およそ1975年:ギウダの時代

 

スリランカ産のギウダ(geuda)サファイアを青色に変えるためにディーゼル炉(1500℃)が用いられる。酸素の添加により、ルチルを溶解させるのに必要となるより高い温度に達することができる。このプロセスではたいてい還元雰囲気において水素拡散を伴う。1970年代後半、こうして処理された石が大量に市場に流入し、バイヤーの多くは買い付けた石が処理石であることを知らなかった。このため、1980年代になると業界はこれを「伝統的な」加熱処理であると称したが、当時その「伝統」は20年も経っておらず、また、それまでに行われていた加熱の結果とはまったく異なるものであった。ニューヨークにあるAmerican Gemological Laboratories (AGL) はこの処理に関する情報開示を始めた最初のラボで、他のラボがそれに倣い始めたのは1980年代の後半になってからであった。

  • これはこれまでのプロセスに改変を加えたものか? はい。
  • この処理では外部から発色因子を添加するか? いいえ。
  • この処理は石のかなり大きなひび割れを再結晶化/修復するか? そういう場合もある。
  • 個別の情報開示(「加熱」だけでは不足)が現在求められているか? いいえ。

 

1980年:チタン格子拡散

 

チタン格子拡散(当時は「表面拡散」と呼ばれた)処理されたサファイアが市場に入ってきた。当初、ユニオン カーバイド社から特許権を買い取った大手スイス企業が適正な情報開示を行わずにこれらのサファイアを販売したが、処理はすぐに看破され市場にはほぼ浸透しなかった(Nassau, 1981)。

  • これは新しい処理法だったのか? はい。
  • この処理では外部から発色因子を導入するのか? はい。
  • 個別の情報開示(「加熱」だけでは不足)が現在求められているか? はい。

 

チタン(Ti)を添加して格子拡散処理をしたニア カラレスのサファイア。Ti発色因子が浸透している深さが分かるように半分に切断した。発色因子は外部から添加されており、再研磨により色が失われるために、この処理については特別な情報開示が必要となる。Hughes et al., 2017より。写真:E. Billie Hughes、試料:AIGS Near colorless sapphire that was lattice-diffused with titanium (Ti). It has been sliced through to show the depth of penetration of the Ti chromophore. Because the chromophore is added from outside the stone and because recutting the stone could produce a loss of color, this treatment requires special disclosure. From Hughes et al., 2017. Photo: E. Billie Hughes; specimen: AIGS.
チタン(Ti)を添加して格子拡散処理をしたニア カラレスのサファイア。Ti発色因子が浸透している深さが分かるように半分に切断した。発色因子は外部から添加されており、再研磨により色が失われるために、この処理については特別な情報開示が必要となる。Hughes et al., 2017より。写真:E. Billie Hughes、試料:AIGS

 

1980年代初期:電気炉

 

電気マッフル炉が導入され、雰囲気と温度制御の精度が高まった。酸化雰囲気での加熱により多くのスリランカ産サファイアが淡青色から鮮やかなイエローやオレンジに変わり、こうした素材が市場にあふれるようになった(Keller, 1982)。

  • この処理はこれまでのプロセスに改変を加えたものか? はい。
  • この処理では外部から発色因子を導入するのか? いいえ。
  • 個別の情報開示(「加熱」だけでは不足)が現在求められているか? いいえ。

 

 

1980年代半ば:フラックス修復

 

加熱プロセスの途中でフラックスを添加することでひび割れが修復し、ひび割れていた石が超極微量の合成コランダムで隙間をふさがれる。1991年にモンスーでルビーが発見されると、この素材が市場に流入した(Hughes et al., 1998; Hughes et al., 2004)。

  • この処理はこれまでのプロセスに改変を加えたものか? はい。
  • この処理では外部から発色因子を導入するのか? いいえ。
  • この処理は石のかなり大きなひび割れを再結晶化/修復するか? はい。
  • 個別の情報開示(「加熱」だけでは不足)が現在求められているか? はい。

 

ミャンマーのモン スー産の修復されたひび割れにみられるフラックス修復によるフィンガープリント。フラックスが溶融剤の役を果たし、ルビーのひび割れ周壁を溶かすことでひび割れ中に新しく合成コランダムを析出させ、ひび割れを塞ぐ。この処理はルビーの再結晶化を伴うため、個別の情報開示が求められる。同様のプロセスはフラックスを添加しない加熱処理コランダムにも生じることがあり、これは情報開示されないことが多いことにも注意すべきである。Hughes et al., 2017より。写真:Wimon Manorotkul。この処理の詳細については “Fluxed up: The fracture healing of ruby” (http://www.lotusgemology.com/index.php/library/articles/152-fluxed-up-the-fracture-healing-of-ruby)を参照 Flux-healed fingerprint in a fissure-healed ruby from Mong Hsu, Myanmar. The flux acts as a solvent, dissolving the fissure walls of the ruby and redepositing the now synthetic corundum in the fissure, healing it closed. Because this treatment involves recrystallization of the ruby, it requires a separate disclosure. Note that the same process can occur in heat treated corundums without the addition of a flux and this is often not disclosed. From Hughes et al., 2017. Photo: Wimon Manorotkul. Click on the photo for a larger image. For more on this treatment see "Fluxed up: The fracture healing of ruby."
ミャンマーのモンスー産の修復されたひび割れにみられるフラックス修復によるフィンガープリント。フラックスが溶融剤の役を果たし、ルビーのひび割れ周壁を溶かすことでひび割れ中に新しく合成コランダムを析出させ、ひび割れを塞ぐ。この処理はルビーの再結晶化を伴うため、個別の情報開示が求められる。同様のプロセスはフラックスを添加しない加熱処理コランダムにも生じることがあり、これは情報開示されないことが多いことにも注意すべきである。Hughes et al., 2017より。写真:Wimon Manorotkul。この処理の詳細については “Fluxed up: The fracture healing of ruby” (http://www.lotusgemology.com/index.php/library/articles/152-fluxed-up-the-fracture-healing-of-ruby)を参照

 

1990年代半ば–2001年:ベリリウム拡散

 

ベリリウム拡散処理コランダムは徐々に市場に浸透していった。このプロセスの権利は後に売却され、2001年までにはこの素材が市場にあふれることとなった。ジェモロジストは2002年初頭には原因を看破した(Emmett et al., 2003)。

  • この処理はこれまでのプロセスに改変を加えたものか? はい。
  • この処理では外部から発色因子を導入するのか? はい。
  • この処理は石のかなり大きなひび割れを再結晶化/修復するか? はい。
  • 個別の情報開示(「加熱」だけでは不足)が現在求められているか? はい。

 

上:スリランカ産ギウダ サファイアの高温(1500℃+)加熱処理の前(左)と後(右)。 下:マダガスカル産サファイアのベリリウムを伴う高温加熱(1700℃+)の前(左)と後(右)。ギウダの加熱処理は加熱(H)に対する情報開示のみが必要であるが、Be拡散処理の場合は発色因子(Be)が外部から石の内部へと導入されていること、また、石を再研磨すると場合によって色が失われる可能性もあることから、個別の情報開示が必要となる。Hughes et al., 2014より。写真:Wimon Manorotkul;試料および加熱:John Emmett。 Top: Sri Lankan geuda sapphire before (left) and after (right) high-temperature (1500°C+) heating. Below: Madagascar sapphire before (left) and after (right) high-temperature (1700°C+) heating with beryllium (Be). Geuda heat treatment requires only that it be disclosed as heat (H), while Be diffusion requires special disclosure because a chromophore (Be) is inserted into the stone from outside and also because the recutting of some stones may result in loss of color. Top: Sri Lankan geuda sapphire before (left) and after (right) high-temperature (1500°C+) heating. Below: Madagascar sapphire before (left) and after (right) high-temperature (1700°C+) heating with beryllium (Be). Geuda heat treatment requires only that it be disclosed as heat (H), while Be diffusion requires special disclosure because a chromophore (Be) is inserted into the stone from outside and also because the recutting of some stones may result in loss of color. From Hughes et al., 2014. Photos: Wimon Manorotkul; specimens and heating: John Emmett.
上:スリランカ産ギウダ サファイアの高温(1500℃+)加熱処理の前(左)と後(右)。
下:マダガスカル産サファイアのベリリウムを伴う高温加熱(1700℃+)の前(左)と後(右)。ギウダの加熱処理は加熱(H)に対する情報開示のみが必要であるが、Be拡散処理の場合は発色因子(Be)が外部から石の内部へと導入されていること、また、石を再研磨すると場合によって色が失われる可能性もあることから、個別の情報開示が必要となる。Hughes et al., 2014より。写真:Wimon Manorotkul;試料および加熱:John Emmett

 

2000年–2003年:長時間の加熱で高度な制御

 

加熱時間を長くすることで処理業者は仕上がりの色をより上手く調節できるようになった。処理業者は大がかりな実験を行い、加熱処理プロセスを改良した結果、いわゆる「Punsiri(プンシリ)」の危機が起こり、当初はスリランカの処理業者による石は問題を生じかねない商品であると疑われたが、これは後になって標準的な加熱処理を高度に変化させたものであることが示された。

  • この処理はこれまでのプロセスに改変を加えたものか? はい。
  • この処理では外部から発色因子を導入するのか? いいえ。
  • この処理は石のかなり大きなひび割れを再結晶化/修復するか? そういう場合もある。
  • 個別の情報開示(「加熱」だけでは不足)が現在求められているか? いいえ。

 

ベリリウム拡散処理の発見から程なく、ジェモロジストは加熱サファイア中に珍しいゾーニング パターンを発見した。それらはスリランカのPunsiri Tennakoon氏の炉に由来するものであった。詳しい検査の後、この特徴は加熱の高度な技術の変化によるものと判定され、個別の(加熱以外の)情報開示を必要としないこととなった。写真:Richard W. Hughes;試料:Pala International Shortly after the discovery of beryllium diffusion, gemologists found unusual zoning patterns in heated sapphire. These were traced back to the oven of Punsiri Tennakoon of Sri Lanka. After much study, it was determined that the features were the result of a sophisticated variation in heating, and no special disclosure (beyond heating) was required. Photo: Richard W. Hughes; specimen: Pala International.
ベリリウム拡散処理の発見から程なく、ジェモロジストは加熱サファイア中に珍しいゾーニング パターンを発見した。それらはスリランカのPunsiri Tennakoon氏の炉に由来するものであった。詳しい検査の後、この特徴は加熱の高度な技術の変化によるものと判定され、個別の(加熱以外の)情報開示を必要としないこととなった。写真:Richard W. Hughes;試料:Pala International

 

2003年:暗青色サファイアを明るくするベリリウム拡散

 

ブルー サファイアにベリリウムを拡散させて色を明るくする。この処理が施された石は鑑別するのに高度な装置が必要であるため、市場にゆっくりと浸透した(Emmett et al., 2003)。

  • この処理はこれまでのプロセスに改変を加えたものか? はい。
  • この処理では外部から発色因子を導入するのか? はい。
  • この処理は石のかなり大きなひび割れを再結晶化/修復するか? そういう場合もある。
  • 個別の情報開示(「加熱」だけでは不足)が現在求められているか? はい。

 

2009年–現在:圧力を伴って加熱されたサファイア(HT+P)

 

圧力+高温により処理されたブルーサファイアが出現(Choi et al., 2014a, b)。これらの石はゆっくりと市場に現れた。現在の状況は以下の通り:

  • この処理はこれまでのプロセスに改変を加えたものか? はい。
  • この処理では外部から発色因子を導入するのか? いいえ。
  • この処理は石のかなり大きなひび割れを再結晶化/修復するか? そういう場合もある。
  • この処理は耐久性に問題があるか? 我々の見る限りでは、問題は無い。
  • 個別の情報開示(「加熱」だけでは不足)が現在求められているか? これは喫緊の課題である。
HT+P処理サファイア。写真:SSEF HT+P treated sapphires. Photo: SSEF.
HT+P処理サファイア。写真:SSEF

 

以上のように、処理の情報開示についての宝石業界における歴史はどう見ても公平とは言えず、ジェモロジストが新しい処理を最初に看破する前にその処理が施された石がどの程度市場に浸透してしまっているかによって状況が変わっている場合が多い。市場にすでにたくさん流入してしまっている場合(ギウダ サファイアの高温加熱処理)は、業界は「伝統的」として見過ごす傾向があり、新しい処理が初期の段階で見つかった場合(ベリリウム拡散)は、業界はより批判的になった。これは意外でも珍しくもないことで、人間はまず自分の利益のことを考えるものなのである。

 

とは言え、米連邦取引委員会(FTC)ガイドラインおよびAGTAの情報開示ポリシーによると、現在の基準は以下のとおりである(AGTA、日付不明):

処理の詳細については以下の場合に情報開示されなければならない。

  • 処理が恒久的ではなく、その効果が時間とともに無くなる;または
  • その処理を施したことによる利点を継続させておくために宝石に特別なケアが必要となるもの;または
  • 処理が宝石の価値に重大な影響を及ぼす。

 

新しい高温+低圧(HT+P)処理に関しては、上記の情報開示条件のいずれかに当てはまるのか?これは重要な疑問であり、今回の記事でその答えを探る。

 

圧力をかける

 

ダイヤモンドの処理業者は、1990年代以降は色を改良するために高温高圧を用いてきた。そのため、コランダムの加熱業者がルビーやサファイアの加熱に圧力を導入するであろうことは時間の問題であった。実際に1997年から、ドイツの加熱炉メーカーLINNがコランダム加熱用の低圧のオートクレーブ(最大25 bar)を販売した。何台かはアジアに販売された。同様に、トルマリンの加熱処理に携わっていた人々はずいぶん前から圧力を伴う加熱を行っており、流体で満たされたネガティブ クリスタルを破裂させることなく色を改変させていた。この処理(温度700℃以下、圧力0.5–1.5 kbar)は今日まで続いており、基本的には看破不可能である。

 

サファイアのHT+P処理では、使われる圧力(~1kbar)はもっと低い。サファイアが地中で成長するときの圧力と比較すると、この処理で使われる圧力は、宝石内部の流体で満たされたネガティブ クリスタルの破裂を防ぐには全く不足である。実際に、この処理が施されるサファイアは既に高温で加熱されているものが多い。そうすると疑問が生じる。なぜHT+P処理が行われるのか?その答えは、処理がはるかに短時間で済み、30分足らずで完了するからである。

 

しかし欠点もある。加熱装置は従来の処理用加熱炉と比較して非常に高額である。また、多くの場合一度に処理できるのは一石だけである。さらに、色の改変を生じる変化が急激に起こるため、制御はその分難しくなる。この処理によって生じる結果が多様であるのはそのためである。

 

サファイアへの圧力:HT+P処理法

 

以下に述べる情報は、主に韓国のHanmi Lab、タイのGIT、GIAによる韓国の加熱処理施設訪問に基づくものである。

 

処理されるサファイアを容器に入れたところ(左)。通常、容器に1石ずつ入れて処理される。容器はグラファイト粉末で満たされ密封される。グラファイトは還元雰囲気を作り出すだけでなく、加熱炉内の温度が均一に分布するのに役立つ。写真:GIT The sapphire to be treated is placed into a crucible (left). Generally only one stone per crucible is treated. The crucible is then packed tightly with graphite powder. The graphite not only produces a reducing atmosphere, but also ensures that the heat of the furnace is equally distributed. Photos: GIT.
処理されるサファイアを容器に入れたところ(左)。通常、容器に1石ずつ入れて処理される。容器はグラファイト粉末で満たされ密封される。グラファイトは還元雰囲気を作り出すだけでなく、加熱炉内の温度が均一に分布するのに役立つ。写真:GIT

 

通常、容器にはグラファイトともに水を数滴入れる(左)。容器を満たしたら(右)、セラミック製のリングとモリブデンのプレート(ここには写っていない)で封をする。写真:GIT Typically, a few drops of water are placed into the crucible with the graphite (left). After the crucible is full (right), it is sealed with a small ceramic ring and a plate of molybdenum (not shown). Photos: GIT.
通常、容器にはグラファイトともに水を数滴入れる(左)。容器を満たしたら(右)、セラミック製のリングとモリブデンのプレート(ここには写っていない)で封をする。写真:GIT

 

密封された容器はその後、加熱/加圧機に入れられる。写真:GIT。 The sealed crucible is then placed into the oven/press. Photo: GIT.
密封された容器はその後、加熱/加圧機に入れられる。写真:GIT

 

HT+P処理の出発原料

 

 

工場で処理されるサファイア。写真:Shane McClure、GIA Parcel of sapphires for treatment at the factory. Photo: Shane McClure, GIA.
工場で処理されるサファイア。写真:Shane McClure、GIA

 

HT+P処理の出発原料。この処理が施される素材のほとんどが既に従来型の加熱処理がなされていることに注意。写真:Lore Kiefert、GGL。
HT+P処理の出発原料。この処理が施される素材のほとんどが既に従来型の加熱処理がなされていることに注意。写真:Lore Kiefert、GGL

 

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HT+P処理の前と後の、3つのサファイア例。写真:GIT Three examples of sapphires before and after HT+P treatment. Photos: GIT.
HT+P処理の前と後の、3つのサファイア例。写真:GIT

 

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上:HT+P処理の前の、すでに従来型の加熱を施されたサファイア。 下:同じ石を、HT+P処理した後。従来型の加熱と同様、出発原料の化学組成の違いによって結果はまちまちである。Choi et al., 2018より。写真:P. Ounorn Top: Conventionally heated sapphires prior to undergoing HT+P treatment. Bottom: The same sapphires after HT+P treatment. As with conventional treatments, results vary according to the chemical makeup of the starting material. From Choi et al., 2018. Photos by P. Ounorn.conventional treatments, results vary according to the chemical makeup of the starting material. From Choi et al., 2018. Photos by P. Ounorn.
上:HT+P処理の前の、すでに従来型の加熱を施されたサファイア。
下:同じ石を、HT+P処理した後。従来型の加熱と同様、出発原料の化学組成の違いによって結果はまちまちである。Choi et al., 2018より。写真:P. Ounorn

 

HP+P処理サファイアの同定インクルージョン

 

HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、処理によって重大な損傷が発生した。写真:GIT Pressure-heated sapphire before (left) and after (right) treatment. In this case, the treatment caused serious damage to the stone.Photos: GIT.
HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、処理によって重大な損傷が発生した。写真:GIT

 

HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、処理によってひび割れが修復されたことによりクラリティに若干の改善が見られた。写真:GIT Pressure-heated sapphire before (left) and after (right) treatment. In this case, the treatment produced a slight improvement in clarity due to the healing of a fissure. Photos: GIT.
HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、処理によってひび割れが修復されたことによりクラリティに若干の改善が見られた。写真:GIT

 

HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、左下のひび割れおよび結晶インクルージョンの周囲のヘイローが処理によって修復されたことによりクラリティの改善が見られた。写真:GIA Pressure-heated sapphire before (left) and after (right) treatment. In this case, there was improvement in clarity due to the healing of the narrow-gap fissure at lower left and the halo around the crystal inclusion. Photos: GIA.
HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、左下のひび割れおよび結晶インクルージョンの周囲のヘイローが処理によって修復されたことによりクラリティの改善が見られた。写真:GIA

 

HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、圧力を伴う加熱の後は鉄によるシミが消失した一方、中央にあるひび割れは一部修復されたもののまだかなり目立つ。写真:GIA Pressure-heated sapphire before (left) and after (right) treatment. In this case, after heating with pressure the iron staining was gone, while the fissure in the middle partially healed, but was still quite visible. Photos: GIA.
HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、圧力を伴う加熱の後は鉄によるシミが消失した一方、中央にあるひび割れは一部修復されたもののまだかなり目立つ。写真:GIA

 

HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、高温加熱による典型的な損傷が見られ、また、宝石の色が劇的に改善している。写真:GIA Pressure-heated sapphire before (left) and after (right) treatment. In this case, there was typical damage from high temperature heat treatment, and also a great improvement of color of the gem. Photos: GIA.
HT+P処理の前(左)と後(右)のサファイア。この石の場合、高温加熱による典型的な損傷が見られ、また、宝石の色が劇的に改善している。写真:GIA

 

HT+Pサファイアの顕微鏡観察のまとめ

 

HT+P処理サファイアに観察される特徴は、「伝統的に」高温加熱されたサファイアにみられるものと類似していた。

 

  • 修復されたひび割れの表面の粒度にわずかな違いが見られた。しかし、似たような特徴は従来の加熱サファイアにも見られている。
  • 時にひび割れやキャビティ中の表面近くにグラファイトの蓄積が見られることがある(グラファイトで充填された容器からの残留物)。

多くの場合、顕微鏡観察は通常の加熱処理からこの処理を識別するのに十分な証拠を呈してはくれなかった。上に挙げた画像から、この処理の結果生じる変化のタイプは、圧力を伴わない高温加熱処理の場合に予想される結果と実質的に同じであったことが分かる。

 

その他の検査

 

HT+P処理サファイアにさまざまな宝石学的検査を行った。以下にその検査の例を挙げる。

 

紫外線(UV)蛍光検査

 

従来型の加熱処理を施されたサファイアの多くは、短波(SW)紫外線下において白濁蛍光を示すことはよく知られている。これは、変成環境下で鉄が比較的低含有量のサファイアに特に当てはまる(スリランカ、ビルマ、マダガスカル、カシミール産)。HT+P処理サファイアはそれと似たような方法で加熱されており、出発原料も鉄が低含有の変成岩素材であることが多いため、我々は同様の蛍光反応を期待していたが、その通りであった。長波紫外線では、天然のあるいは通常の加熱処理サファイアとこれらのHT+P処理サファイアとの間に識別可能となるような違いは生じなかった。短波紫外線、UVでは従来型の加熱処理石と同様の反応が見られた。

 

長波紫外線では、天然のあるいは通常の加熱処理サファイアとこれらのHT+P処理サファイアとの間に識別可能となるような違いは生じなかった。短波紫外線では、従来型の加熱処理石と同様の反応が見られた。上の写真は12個のHT+P処理サファイアの短波紫外線下での蛍光を示す。これは未処理のサファイアとの識別には有効であるが、従来型の加熱処理された石との識別はできない。写真:Klaus Schollenburch, GGL Long wave UV did not produce any diagnostic difference between natural or normally heated sapphires and those treated by the HT+P process. SW UV produced reactions similar to traditionally heated stones. The above photo shows the SW fluorescence of 12 HT+P treated sapphires. This can be useful for separation from untreated sapphire, but does not allow the separation from sapphires treated by traditional heating. Photo: Klaus Schollenbruch, GGL.
長波紫外線では、天然のあるいは通常の加熱処理サファイアとこれらのHT+P処理サファイアとの間に識別可能となるような違いは生じなかった。短波紫外線では、従来型の加熱処理石と同様の反応が見られた。上の写真は12個のHT+P処理サファイアの短波紫外線下での蛍光を示す。これは未処理のサファイアとの識別には有効であるが、従来型の加熱処理された石との識別はできない。写真:Klaus Schollenburch, GGL

 

微量元素分析

 

GGLからの12石の試料をLA–ICP–MSで検査したところ以下の結果が得られた(試料1石あたり3か所のレーザー スポット;単位ppm)。特に、リチウム、ベリリウム、チタンが拡散されている証拠は見られなかった。

TraceEleAnalysis

 

紫外–可視–近赤外(UV–Vis–NIR)スペクトル

 

HT+P処理サファイアの紫外-可視-近赤外スペクトルを比較して、これらの処理石と、従来型の加熱処理サファイアおよび未処理のサファイアとの間には違いが見られないことが分かった。これは、それぞれのカテゴリーで発色因子(Fe2+–Ti4+の原子価間電荷移動)が同じであるため、当然である。

 

赤外(IR)スペクトル

 

HT+P処理サファイアと伝統的な加熱処理サファイアとを識別することが可能なのは、赤外スペクトルである。HT+P処理サファイアの大半が、~3043㎝–1に幅広いピークを示す。

 

~3047㎝-1に幅広いピークをもつ一部のHT+P処理サファイアの明瞭な赤外スペクトル。残念ながら、このピークはHT+P処理サファイアの多くで欠如しているか曖昧であるか、あるいは伝統的な加熱処理サファイアと全く同じスペクトルを示す。スペクトル:Lotus Gemology。 The distinctive IR spectrum of some HT+P treated sapphires, with a broad peak at ~3047 cm–1. Unfortunately, this peak may be missing or obscured in many HT+P treated stones, or they may show spectra that are identical to those of conventionally heated sapphires. Spectrum: Lotus Gemology.
~3047㎝–1に幅広いピークをもつ一部のHT+P処理サファイアの明瞭な赤外スペクトル。残念ながら、このピークはHT+P処理サファイアの多くで欠如しているか曖昧であるか、あるいは伝統的な加熱処理サファイアと全く同じスペクトルを示す。スペクトル:Lotus Gemology。

 

天然非加熱サファイア(およびルビー)は、通常3309㎝–1にピークを示す。その強度はまちまちである。それ以外の赤外スペクトルもみられるが、これが最も一般的にみられるタイプである。

 

 3309㎝-1のシングルのピークは、非加熱ブルー サファイアの特徴である。スペクトル:Lotus Gemology。 A single peak at 3309 cm–1 is characteristic of untreated blue sapphire. Spectrum: Lotus Gemology.
3309㎝–1のシングルのピークは、非加熱ブルー サファイアの特徴である。スペクトル:Lotus Gemology。

 

低鉄含有変成岩起源サファイアを加熱処理すると、3309㎝-1に加えて3232㎝-1にしばしば小さなピークが生じる。追加で現れたこの3232㎝-1ピークはサファイアにおける(そしてルビーでも)加熱の大きな証拠となる。HT+P処理サファイアでも、他のスペクトルとともにこのスペクトルを示すことがある。スペクトル:Lotus Gemology。 When low-Fe metamorphic sapphire is heat treated, it often develops a small peak at 3232 cm–1, in addition to the 3309 cm–1. The presence of this additional 3232 cm–1 peak is strong evidence of heat treatment in sapphire (and even in ruby). HT+P treated sapphires may also display this spectrum, as well as others. Spectrum: Lotus Gemology.
低鉄含有変成岩起源サファイアを加熱処理すると、3309㎝–1に加えて3232㎝–1にしばしば小さなピークが生じる。追加で現れたこの3232㎝–1ピークはサファイアにおける(そしてルビーでも)加熱の大きな証拠となる。HT+P処理サファイアでも、他のスペクトルとともにこのスペクトルを示すことがある。スペクトル:Lotus Gemology。

処理及び天然のコランダムの赤外スペクトルのあらゆる変化について詳しく述べることは、今回の記事の目的の範囲外である。可能性は数十ほどもある。注目すべきなのは、およそ3047㎝–1の幅広いピークがその石にHT+P処理が施されていることを示唆するということである。しかし、このピークが見られなくても石がHT+P処理されている可能性ままだ大きく残されている。

 

鑑別のまとめ

 

HT+P処理サファイアの同定を、従来型の加熱処理サファイアと比較して以下のようにまとめる:

  • 顕微鏡観察では明確な識別手段とはならない。良くてもせいぜい、一部のひび割れにおいて極めてわずかな違いが見られるだけである。
  • 紫外線蛍光、UV–Vis–NIR吸収、そして微量元素組成は、この処理に対しての鑑別手段とはならない。
  • FTIRスペクトルでは鑑別はできるが(一部のHT+P処理サファイアの〜3047㎝–1ピーク)、スペクトルはばらつきが大きく、~3047ピークはさらに加熱をすることで消失する。HT+P処理サファイアの多くは、この処理の看破にはならない赤外スペクトルを示す。

 

 

耐久検性査

 

前述したGRSの研究(Peretti et al., 2018, 2019)は、圧力を伴って高温処理されたサファイアの耐久性に関して起こりうる問題を2点報告している。

GRSの報告:

「HPHT処理サファイアのファセット エッジをペーパー クリップで削ってみたところ、ファセット エッジは細かく砕けた。耐久性の低下の明らかな証拠である。HPHT処理サファイアの表面を再研磨する際、宝石カッターは宝石が異常に熱くなったと報告している。さらに、ウエハーにするためにサファイアをソーイングする際、ある試料はソーイング工程の残り4分の1のところで砕けたことが判明した。
幾つかの工程を経たHPHT処理サファイア(従来型の加熱処理プラス、追加のHPHT処理)だけがこのような低い靭性を示すということは考えられる。しかし、この新しい処理方法が検出されている以上、すべての石にかなりの靭性の低下がみられることを予測しておくのが安全である。」

 

もちろんこれが本当なら、深刻な問題であり、処理石に対する耐久性検査には特別な注意を払う必要がある。今回の研究では、試料は3つのカテゴリーから選出した:

A.  アイ クリーン(目に見えるインクルージョンがない)
B.  インクルーデッド(インクルージョンがある)
C.  ヘビリー インクルーデッド(インクルージョンが顕著に見える)

さらに、1石の試料は処理の後にファセット カットした。

 

超音波クリーニング検査

 

超音波クリーニング容器を低温のぬるま湯で満たした。すべての試料をワイヤー籠に入れ、個々に5,10,30分と漬けた。GITで行ったこの検査からは、石のいずれにも全く損傷を生じないことが分かった。
GGLでも同様の設定を行い、顕微鏡観察では超音波浸漬後に既存の摩耗以外に新しく生まれた損傷は見られなかった。

 

超音波クリーニングの後、高温低圧で処理されたサファイアのいずれも何の損傷も生じなかった。写真:GIT。
超音波クリーニングの後、高温低圧で処理されたサファイアのいずれも何の損傷も生じなかった。写真:GIT。

 

耐酸性検査

 

サファイア 試料を3石(各カテゴリーから1石)選び、以下の検査をした:

A.  強硝酸(HNO3)に6時間漬け…

B.  強フッ化水素酸(70%HF)に2分漬ける。

腐食やその他の損傷は生じなかった。

酸につけた後、高温低圧で処理されたサファイアのいずれも何の損傷も生じなかった。写真:GIT
酸につけた後、高温低圧で処理されたサファイアのいずれも何の損傷も生じなかった。写真:GIT

ペーパー クリップとスチール製の刃による靭性検査

 

試料を3石(各カテゴリーから1石)選び、ペーパー クリップ(A)とスチール製の刃(B)で傷をつける検査をした。石には何の損傷も生じず、ペーパー クリップから剥がれた金属の薄片がいくつも表面に蓄積していた。

 

高温低圧で処理されたサファイアをペーパー クリップ(左上)およびスチール製の刃(右上)で引っ掻いてみたところ、何の損傷も生じず、石の表面に金属の屑が残った(右下)。写真:GIT Attempting to scratch sapphires treated with high temperatures and pressure with a paper clip (top left) and a steel blade (top right) resulted in no damage whatsoever, only leaving debris from the metal on the stone's surface (below right). Photos: GIT.
高温低圧で処理されたサファイアをペーパー クリップ(左上)およびスチール製の刃(右上)で引っ掻いてみたところ、何の損傷も生じず、石の表面に金属の屑が残った(右下)。写真:GIT

 

GRSがペーパー クリップで傷をつけたと報告したサファイアはHT+P処理された石であるが、注意すべきはおそらく処理後に再研磨が施されていなかったということである。したがって、傷をつけたのは単にグラファイトの膜であってサファイア自体ではなかった可能性がある。

 

左:加熱炉から取り出したばかりのHT+P処理サファイア。表面の柔らかいグラファイトの膜に注目。 右:同じサファイアを最終研磨したところ。明らかに、ペーパー クリップではグラファイトの膜を引っ掻いたのだろうが、研磨後のサファイア自体には何の影響もない。写真:Imam Gems Left: HT+P treated sapphire just after removal from the crucible. Note the soft graphite crust on the surface. Right: The same sapphire after final polishing. Obviously, a paper clip could scratch the graphite crust, but it would have no impact on the sapphire after polishing. Photos: Imam Gems.
左:加熱炉から取り出したばかりのHT+P処理サファイア。表面の柔らかいグラファイトの膜に注目。
右:同じサファイアを最終研磨したところ。明らかに、ペーパー クリップではグラファイトの膜を引っ掻いたのだろうが、研磨後のサファイア自体には何の影響もない。写真:Imam Gems

落下試験

 

試料を3石(各カテゴリーから1石)選び、およそ1メートルの高さから硬いコンクリートの床に落とした。各石にこれを3回繰り返した。どの石にも何の損傷(ひび割れ)も見られなかった。

 

熱衝撃試験

 

試料を3石(各カテゴリーから1石)選び、ジュエラー用のトーチで石が赤色に発光するまで5秒間加熱した。この検査によって色の変化は生じなかった。カテゴリーCの1石(すでに顕著なインクルージョンが見られたもの)は、内部インクルージョンから伸展した新しい応力クラックを複数生じた。これは、処理の有無を問わず顕著にインクルージョンを含むサファイアでは、どの石にも予測されることである。

 

image44

ジュエラー用トーチで加熱した後、カテゴリーC(顕著なインクルージョンがある)の1石のみが損傷を示した。これは、処理の有無を問わず顕著にインクルージョンを含むサファイアでは、どの石にも予測されることである。写真:GIT Following heating with a jeweler's torch, only one stone in Category C (highly included) showed damage. This is to be expected from any highly inluded sapphire, treated or not. Photos: GIT.
ジュエラー用トーチで加熱した後、カテゴリーC(顕著なインクルージョンがある)の1石のみが損傷を示した。これは、処理の有無を問わず顕著にインクルージョンを含むサファイアでは、どの石にも予測されることである。写真:GIT

再研磨

GIA参照試料コレクションからのモンタナ産サファイアを韓国で圧力をかけて加熱し、その後ファセット カットした。研磨・カット工程では何の損傷も生じなかった。

処理前:4.68ct Before treatment: 4.68 ct
処理前:4.68ct

 

 処理後:4.68ct。 After treatment: 4.68 ct
処理後:4.68ct

 

処理・カット後:1.86ct After treatment and cutting: 1.86 ct
処理・カット後:1.86ct

 

ハンマー試験

 

GRSの報告では、「ハンマー試験」を行って3つに砕けた石の写真を載せていた。その報告にはこうあった:

〔この写真からは〕ハンマーの衝撃によるストレス試験を受けたカボション石が3つの小片に砕け、石の中央に向かって放射状に広がる新しいひび割れを伴った三角形の破片。

 

このことを確かめるため、SSEFは従来型の加熱処理を施した玄武岩起源のサファイアを用いた。結果は下の写真の通り:

 

 

従来型の加熱処理を施した玄武岩起源サファイア(左)にハンマー試験を行い、多数の小片に砕けた(右)。写真:SSEF A basalt-related sapphire (left) that was heat treated by traditional methods was subjected to a hammer test, which caused it to break into many fragments (right). Photo: SSEF
従来型の加熱処理を施した玄武岩起源サファイア(左)にハンマー試験を行い、多数の小片に砕けた(右)。写真:SSEF

 

耐久性問題のまとめ

 

HT+P処理サファイアの脆弱性/耐久性問題に関する主張は、数か所のラボで同時に行った我々の検査では立証することができなかった。しかしそれらの検査からは、顕著にインクルージョンを含む(低品質の)出発原料に応力を与えると、加熱処理された方法(従来型か新しい方法か)にかかわらずひびや割れを生じることがある(耐久性問題)ことが分かった。

 

加熱処理されたものに限らず、すべてのサファイアがある程度の脆さを持っていることを覚えておく必要がある。著名なイギリスのジェモロジストであるロバート ウェブスターが1962年にその代表作Gemsに次のように記している:

「その硬度にもかかわらず、ルビーとサファイアはある程度の注意を以って扱うべきである。これらの石は僅かに脆さを孕んでいて、硬い表面に落としてしまったり強い衝撃を与えてしまうと、内部のひびや割れを引き起こす傾向があるからだ。」

Robert Webster, Gems 1962

 

重度のファセットの摩耗やかけが見られる非加熱セイロン産サファイア。ここから、サファイアは処理の有無にかかわらず本来ある程度は脆い石であることが良くわかる。写真:Richard Hughes/Lotus Gemology Untreated Ceylon sapphire showing wear marks with extensive facet abrasions and chips. This amply demonstrates that sapphire is somewhat brittle by nature, whether treated or not. Photo: Richard Hughes/Lotus Gemology.
重度のファセットの摩耗やかけが見られる非加熱セイロン産サファイア。ここから、サファイアは処理の有無にかかわらず本来ある程度は脆い石であることが良くわかる。写真:Richard Hughes/Lotus Gemology

 

HT+P処理サファイアに関する質問

 

Q.  この処理が原因となる耐久性の問題はあるか?

A.  我々の研究からは、皆無であった。

 

Q.  処理により、クラリティの改良(ひび割れ修復、など)の点において大きな利点が生じるのか?

A.  我々が観察した違いは概してわずかであり、この点は伝統的に高温で加熱されるサファイアとは違っている。

 

Q.  この処理により、市場に流通するサファイアの量が大きく増えるか?

A.  今のところ、それはない。

 

Q.  現在、この処理が施された石の何%がラボで看破できるか?

A.  HT+P処理サファイアの多くは従来型の加熱処理された石と識別することができないため、それは不明である。

 

Q.  この処理は単に加熱のみでなく個別の情報開示を当然必要とするのか?

A.  現在得られる情報に基づいて、必要ないと我々は考える。しかし、今後さらなる情報が明らかになった場合には状況が変わる可能性はある。

 

 

まとめ

 

AGTAはAGTAニュースの“Industry Gemstone Advisory”(AGTA , 2018)の中で以下のように述べている:

この新しい処理はサファイアの見かけの品質を改良するものであり、よってジュエリー業界に向けた連邦取引委員会(FTC)ガイドラインと、AGTAの処理情報開示に関する倫理要綱の両方の対象となっている。そのため、この新しい処理は、書面により、売り手から買い手に対して、圧力および加熱の処理として次のAGTA情報開示コード: 「HP」を付けて情報開示がなされなければならない。

 

我々は、業界は新しい処理が出現した際にそれが重要な違いを持っている場合にのみ新しい処理のカテゴリーを作るという事実を文書化してきた。これは以下の場合に当てはまる:

 

  • 外部から内部に向かっての発色因子の拡散(Be、Cr、Ti拡散)
  • 顕著にひび割れが修復した場合(モン スー ルビーのフラックスによる修復、など)。

 

HT+P処理サファイアでは、このどちらも見られなかった。さらに、GRSが指摘した耐久性の問題は我々の検査では再現することができなかった。我々は、この処理が加熱だけでは達成しえない何らかの結果を生じるという証拠を発見することはできなかった。その結果、この処理は石が加熱されていると宣言すること以上に特別の情報開示は必要ないと考える。

 

参考文献
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  • Peretti, A., Musa, M., Bieri, W., Cleveland, E., Ahamed, I., Mattias, A., & Hahn, L. (2018, 2019) Identification and characteristics of PHT (‘HPHT’)–treated sapphires: An update of the GRS research progress. GemResearch SwissLab, online report, first posted 12 November 2018; updated 15 January 2019; first accessed 12 November 2018.
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注:文献をさらに詳しく読みたい方は、Lotus Gemologyの参照データベース:Four Treasure(http://www.lotusgemology.com/index.php/library/reference-database)をご覧ください。