CGL通信 vol49 「合成ダイヤモンド:知っておきたい基礎知識から最新情報まで」

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CGL通信 vol49 「合成ダイヤモンド:知っておきたい基礎知識から最新情報まで」

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リサーチ室 北脇 裕士

合成ダイヤモンドとは・・・

天然ダイヤモンドは、地球の深部において何億年という歳月にわたる地質学的プロセスを経て生まれた結晶です。その美しさと希少性から宝石として長く人々に愛されてきました。
いっぽう、合成ダイヤモンドは天然ではなく、人の手によって研究室や製造所で作られた結晶です(図1)。

図1:CVD合成ダイヤモンド(5.02 ct, F, VS1相当)
図1:CVD合成ダイヤモンド(5.02 ct, F, VS1相当)

 

合成ダイヤモンドは、化学成分や結晶構造は天然ダイヤモンドと基本的に同じで、光学的・物理的特性も同一です。
天然ダイヤモンドも合成ダイヤモンドも炭素だけでできており、熱伝導性はきわめて高く、屈折率は2.417、ファイアの源となる分散度は0.044でこれらの特性値すべてが同じです。
類似石の代表であるキュービックジルコニアは、化学組成がZrO2です。熱伝導性は低く、屈折率は2.16、分散度は0.060でダイヤモンドとは異なります。また、モアッサナイトは、化学組成がSiCで、熱伝導性は高いけれどもその他の諸特性はダイヤモンドと完全に異なります(図2)。

図2:ダイヤモンドと類似石の比較
図2:ダイヤモンドと類似石の比較

 

しかし、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドには違いもあります。天然ダイヤモンドは地下の高温高圧下で何億年という長い年月をかけて成長し、地表に到達するまでに複雑な環境の変化をこうむります。いっぽう、合成ダイヤモンドは人工的な閉鎖された一様な環境下で、通常数日から数週間という短い時間で育成されます。その生い立ちの違いが結晶の中にさまざまな不均一性として刻み込まれ、それを手がかりに両者の識別が可能となります。

 ■ ポイント:合成ダイヤモンドは、化学成分や結晶構造は天然ダイヤモンドと同じですが、生い立ちが違うため鑑別は可能です。

 

合成ダイヤモンドの用語および表記

国際的には

合成ダイヤモンドの用語使用について、2018年1月22日付で国際的なガイドラインが示されています。
‘Diamond Terminology Guideline,’
世界の主要なダイヤモンド産業の9組織(AWDC,CIBJO,DPA,GJPC,IDI,IDMA,USJC,WDC,WFDB)は、合成ダイヤモンドの接頭語については、“synthetic”, “laboratory–grown”, “laboratory–created” のみを使用するものとし、“lab–grown” や “lab–created” などの略語を用いてはならないとしています。何も接頭語がなく単に “diamond” と表記されている場合は、天然ダイヤモンドを意味すると言及しています。

 

日本では

日本国内では、一般社団法人日本ジュエリー協会(JJA)と一般社団法人宝石鑑別団体協議会(AGL)の両団体が1994年に制定した「宝石もしくは装飾用に供される物質の定義および命名法」において、人工生産物の呼称を、「合成石」、「人造石」、「模造石」に分類しています。
http://www.agl.jp/publics/index/10/
これによると、同種の天然石が存在する人工生産物は「合成石」であり、人工的に製造されたダイヤモンドは合成ダイヤモンドと呼称します。また、天然に対応物が存在しない人工結晶は「人造石」であり、キュービックジルコニアは人造キュービックジルコニアと呼ばれます。

 ■ ポイント:人工的に製造されたダイヤモンドは、合成ダイヤモンドと呼びます。英語ではSynthetic diamondと表記します。

 

合成ダイヤモンドの用途

ダイヤモンドは炭素原子が強固に結びついた典型的な共有結合物質であり、物質中最高の硬さと熱伝導性を有します。また、化学的安定性、透光性などの特性にも優れています。この卓越した特性から、ダイヤモンドはさまざまな工業用途に用いられています。超精密加工用バイト、線引きダイス、ドレッサー、医療用ナイフなどの加工工具や耐摩工具のほか、ヒートシンク、ボンディングツール、各種窓材や超高圧アンビルなど、工業や科学の広範な分野で利用されています(図3)。高品質なダイヤモンドは、工業や科学技術の発展に寄与する重要な素材であり、技術の多様化、高度化に伴い、その重要性は今後もさらに増すものと考えられています。
しかし、天然ダイヤモンドは、大型で良質の結晶は極めて稀産であり、品質における個体差が大きいため、これらの工業用途には不向きな側面があります。これ対し、合成ダイヤモンドは、合成される環境、成長条件を制御できるため、安定的に必要とされる結晶を量産することが可能です。このため、産業用には合成ダイヤモンドが広く利用されています。

図3:ダイヤモンド工具:ボンディングツール(左)とアンビル用(右)(住友電工総合カタログより)
図3:ダイヤモンド工具:ボンディングツール(左)とアンビル用(右)(住友電工総合カタログより)

 

合成方法

現在、商業的にダイヤモンドを合成する方法は、HPHT法(自発核発生法並びに温度差法)、CVD法、衝撃圧縮法および直接転換法があります。これらの方法の中で、宝石品質の単結品が合成できる方法は、HPHT法(温度差法)とCVD法の2種類です。

HPHT合成

HPHT法は、High Pressure High Temperatureの略で、地球深部で天然ダイヤモンドができる高温高圧の環境を人工的に再現したものです。非常に高い温度(1500℃程度)と高い圧力(5–6GPa)を与えて、原料となる炭素物質(グラファイトやダイヤモンド微粒)をダイヤモンドの結晶へと成長させます。炭素物質は水には溶けないため、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の金属溶媒を用いて溶解し、ダイヤモンドを結晶化させます(図4)。種結晶を用いずに合成すると、自発核発生した小粒の単結晶が短時間で成長します。最大のサイズでも1 mm以下であり、結晶内部に多くの不純物(溶媒金属等)を含み、宝飾用には適しません。これらの微小単結晶は、ダイヤモンド砥粒と呼ばれ、研削砥石の素材として工業用に多量に製造されています。

図4:HPHT法の概略図
図4:HPHT法の概略図

 

宝石品質のダイヤモンドを合成するためには温度差法を用います。この方法は、合成セル(容器)全体をダイヤモンドが安定な超高圧まで加圧し、次に温度を上げて溶媒金属を融解させ、高い温度に保持した炭素源から溶媒金属中に炭素を溶解させ、温度の低い種結晶上にダイヤモンドを成長させるというものです(再び図4)。無色透明の単結晶を合成するには、黄色の着色原因となる窒素を除去する必要があり、溶媒中で窒素との化合物を作るチタン(Ti) あるいはアルミニウム(Al)などを添加する方法が一般的に用いられています(CGL通信18, 19, 20参照)。

注)HPHT処理は、おもに天然のダイヤモンドの色を改善するために高圧下で行う高温の熱処理のことです。HPHT合成とHPHT処理を混同しないよう注意してください。

CVD合成

CVD法は、Chemical Vapor Depositionの略です。化学気相成長法または化学蒸着法と呼ばれるものです。高温低圧下でメタンガスなどの炭素を主成分とするガスからダイヤモンドを作ります。種結晶となるスライスしたダイヤモンドの結晶の上に炭素原子を降らせて沈積させていきます(図5)。CVD法には、熱フィラメント法、マイクロ波プラズマ法、燃焼法などがありますが、宝飾用単結晶の育成にはマイクロ波プラズマ法が一般的です。
原料ガスを大量の水素(メタンのおよそ100倍)と混合して用います。この混合ガスを大気圧以下の圧力(0.1~1気圧程度)で反応容器に満たし、プラズマで分解して活性化させます。基板上の温度は800~1200℃程度に保ち、基板表面に炭素原子を結晶化させていきます。プラズマによって反応性が高まった水素(原子状水素)が、結晶化したダイヤモンド表面の炭素原子と化学結合し、ダイヤモンド表面のグラファイト化を防ぎます。さらに原子状水素には析出したグラファイトを選択的にエッチングする作用があり、これにより準安定な低圧下(ダイヤモンドではなく、グラファイトが安定な環境)で継続的にダイヤモンドが形成されます(再び図5)。

図5:CVD法の概略図
図5:CVD法の概略図

 

合成ダイヤモンドの歴史

ダイヤモンド合成の歴史は科学技術の進歩と密接な関連をもっています。合成への第一歩は、18世紀末にダイヤモンドが炭素原子でできていることが証明された時点に遡ります。この発見は、著名な科学者から町の発明家に至るまで多くの人々をダイヤモンド合成の道に駆り立てました。これは挑戦の時代といえます。大きな飛躍は1950年代で、ダイヤモンドの性質に関しての系統的な研究が開始され、同時に高圧を発生させる装置が開発され、人類初めてのダイヤモンド合成に成功しました。HPHT法は実用的な合成法として発展し、現在では高純度の大型単結晶が得られるまでになっています。1980年代になって1気圧あるいはそれ以下の圧力下でCVD法による実用的な合成法が確立し、様々な分野で利用され始めています。

挑戦の時代

1880年頃、英国のハネーの実験。キンバーライト中にダイヤモンドが発見されたことをヒントにダイヤモンドの合成には高温高圧が必要と考えた。パラフィン類、骨油、リチウムの混合物を鉄管に封じ込め、赤熱するという方法。
1890年頃、フランスのモアッサンの実験。隕石中にダイヤモンドが発見されたことをヒントに高温の鉄に炭素を溶解させ、これを急冷して高圧を発生させる方法を考案。
ハネーとモアッサンの実験はともに当時は成功が信じられたが、その後の追認実験での成功例はない。

HPHT法の発展

1955年頃、米国のジェネラル・エレクトリック社がプレスを使ったHPHT法を発明。初めて人工合成に成功した例とされる。ほぼ同時期にスウェーデンのASEA社でも成功。
1962年頃、東芝の中央研究所で国内初のダイヤモンド合成に成功する。
1985年頃、住友電工により、工業用に単結晶ダイヤモンドが商品化される。
1994年頃、 Ⅱ型の高品質合成ダイヤモンドの商品化に成功。
2004年頃、超電導ダイヤモンドの高圧合成に成功。

CVD法の発展

1952年、米国に本拠を置くユニオン・カーバイド社の研究者が、炭素を含む気体から低圧でダイヤモンドが形成することを実証。
1978年頃、旧ソ連において水素原子によるグラファイトの選択的除去がダイヤモンドの成長に有効であることが示された。
1981–83年、日本の無機材質研究所で熱フィラメン卜法やマイクロ波を利用したプラズマCVD法が開発された。その後、さらにプラズマジェット法などが開発された。これらの一連の研究がその後のCVD合成のブレイクスルーとなった。
1993年頃、電子デバイス用CVD合成ダイヤモンドの製品化。
1997年頃、CVD合成ダイヤモンド光学部品の発売。
2004年頃、CVD法による超伝導体の合成。
2008年頃、CVD法を用いた2000℃ でのアニーリングプロセスの開発。これにより、高速度成長させた単結晶の色が改良できることになる。

宝飾用合成ダイヤモンド

1970年頃、カラット・サイズの宝石品質のHPHT法による合成ダイヤモンドが製造される。しかし、コスト面では天然とは競合できない水準であった。
1993年、米国のCHATHAM社が宝飾用合成ダイヤモンドを販売する旨の声明を発表する。
1995年、国内の鑑別機関に初めて HPHT 法による合成ダイヤモンドがグレーディング依頼で持ち込まれる。
2003年、米国のApollo Diamond社が宝飾用として初めてCVD合成ダイヤモンドの販売を表明。
2005年、Newsweek誌に宝飾用CVD合成ダイヤモンドが紹介され話題となる。
2006年、米国のApollo Diamond社が宝飾用として初めてCVD合成ダイヤモンドの販売を開始する。
2008年、国内の鑑別機関にCVD法による合成ダイヤモンドが持ち込まれ始める。
2010年、米国のGEMESIS社が宝飾用にCVD合成ダイヤモンドの販売を開始する。
2015年、無色のメレサイズ合成ダイヤモンドがジュエリーに混入。
2018年、デ・ビアスが宝飾用合成ダイヤモンドの販売を開始する。

 

なぜ、今宝飾用合成ダイヤモンドなのか

宝飾用合成ダイヤモンドは、1990年代半ば頃からHPHT法、2000年代半ば頃からCVD法によるものが流通を始めています。しかし、これらは微々たる量で、国内の宝石店で販売されることはありませんでした。
近年では工業利用されてきた合成ダイヤモンドの需給バランスの変動や単結晶育成技術の革新的進歩により、宝飾用合成ダイヤモンドが量産されるようになりました。
中国では、2000年以降、HPHT法による工業用合成ダイヤモンドの製造が飛躍的な躍進を遂げ、世界における合成ダイヤモンドのシェアの大半を占めるようになりました。2015年には生産量が150億ct(3000t)に達しています。2014–5年くらいから、中国では景気後退の影響を受け、工業用のダイヤモンドの需要が減退したことから、一部を宝飾用にシフトする動きが生じ、特に小粒のメレダイヤモンド用の原石が大量に生産されました(図6)。その後、次第にサイズが大型化し、現在では0.2–0.5ctのカット石が生産の主流となり、1ct以上のものも製造可能となっています(CGL通信No.35参照)。

図6:中国大手製造会社の宝飾用合成ダイヤモンド原石 (総計:41,643ct)
図6:中国大手製造会社の宝飾用合成ダイヤモンド原石(総計:41,643ct)

いっぽうでCVD合成ダイヤモンドは、ここ数年で半導体デバイス、量子コンピュータなどへの応用研究が各国で盛んに行われ、単結晶の育成技術が飛躍的に進展しました。一部の企業では設備投資の回収のため、宝飾用合成ダイヤモンドの販売が始められたようです。その後、複数の企業が宝飾用CVD合成ダイヤモンドを生産するようになり、「環境に優しい、紛争がない」をキーワードにプロモートするところが現れました。

 

宝飾用合成ダイヤモンドの生産量

宝飾用合成ダイヤモンドの生産量についての公式な発表はありません。しかし、2017年の1年間でHPHT合成ダイヤモンドは130–300万ct、CVD法合成ダイヤモンドは100–120万ct生産されていると推定されており、天然ダイヤモンドの生産量の2–3%程度と見積もられています。2018年はHPHT合成とCVD合成をあわせると、おそらく500–700万ct は生産されており、天然の3–5% になると見積もられています(図7)。今後の予想についてはさまざまな見方がありますが、City Bankによる予測では2030年には天然の生産量のおよそ10%になるとされています。The Global Diamond Report 2018によると、消費者が合成ダイヤモンドを天然ダイヤモンドと交換可能なものと認識すると、2030年には天然ダイヤモンドの売り上げに25–30%減の影響を与えると予測しています。しかし、天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドがまったく別物と理解すると、天然ダイヤモンドの売り上げには0–5%減程度の影響しかないと予測しています。

図7:宝飾用合成ダイヤモンドの生産国と生産量(推定)
図7:宝飾用合成ダイヤモンドの生産国と生産量(推定)

 

宝飾用合成ダイヤモンドの生産者

宝飾用のHPHT合成ダイヤモンドは、1990年代からロシアで生産され、その技術が米国やインドにも広がっていきました。現在はロシアのサンクトペテルブルグにあるNew Diamond Technology社が無色では最大15ct、ブルーでも10ctまでの高品質のダイヤモンドを製造しています(図8)。

図8:ロシアNDT製HPHT合成ダイヤモンド(中央2.06 ct)
図8:ロシアNDT製HPHT合成ダイヤモンド(中央2.06 ct)

 

中国河南省の鄭州は、HPHT合成の世界の中心地です。中南鉆石股份有限公司、河南黄河旋風股份有限公司、鄭州華晶金剛石股份有限公司は、中国における合成ダイヤモンド業界の「3大巨頭」と称されています。これら3社を合わせると高圧合成装置(キュービック型マルチ・アンビル装置)は8,000台以上あるといわれ、世界の工業用合成ダイヤモンドの需要をまかなっています(図9)。これらの装置を使って、需要に応じて大量の宝飾用合成ダイヤモンドを生産しています。

図9:中国大手製造会社の高圧合成装置
図9:中国大手製造会社の高圧合成装置

 

宝飾用のCVD合成ダイヤモンドは、2003年にApollo Diamond社がはじめて販売を公表しましたが、量産されるようになったのは2008年以降です。2011年に同社はSCIO Diamond Technology社に買収されています。2005年にはシンガポールにⅡa Technologies社が設立され、インドの資本と技術で200台以上の装置が設置されています。米国のWD Lab Grown Diamonds社は2008年に設立されており、ワシントンのカーネギー研究所の技術を踏襲しています。同社は2018年5月に9.04ctのカット石を製造したと発表しています。Diamond Foundry社は2012年にサンフランシスコに設立されました。IT関連の企業を中心に基金をあつめ、ハリウッドスターを広告塔としてメディアに露出しています。
2011–12年頃からインドのスーラットで宝飾用CVD合成ダイヤモンドの製造が始まりました。New Diamond Era社、Diamond Nation社などの大手の他、Diamond Elements社、Unique Lab Grown Diamond社など中小が10社以上あり、装置は総計で少なくとも400台以上あるようです。無色の他、ピンク、ブルーなどが生産されており、中には5ctを超える高品質のものもあります(図10)。

図10:インド製CVD合成ダイヤモンド(2–4 ct)
図10:インド製CVD合成ダイヤモンド(2–4 ct)

 

中国でも宝飾用CVD合成ダイヤモンドが製造されています。寧波のNingbo Crysdiam Industrial Technology 社と上海のZS Technology社はそれぞれ数十台規模の設備を擁し、1ct以上の高品質のダイヤモンドを生産しています。2018年9月以降、デ・ビアスグループのElement Six社が製造したCVD合成ダイヤモンドがLightboxのブランド名で販売が開始され、大きな話題を呼んでいます。

 

デ・ビアスの宝飾用合成ダイヤモンド

2018年5月29日、世界の宝飾業界に激震が走りました。これまで天然ダイヤモンドの盟主として認められてきたデ・ビアスが、宝飾用の合成ダイヤモンドを発売するとプレスリリースしました。新会社Lightbox Jewelryを立ち上げ、無色、ピンクおよびブルーのCVD合成ダイヤモンドを同年9月より米国本土で電子決済のネット販売を開始するというものでした(図11)。

図11:CGLで研究用に入手したLightbox製品
図11:CGLで研究用に入手したLightbox製品

 

コンセプトはForeverでなくても手ごろなファッションジュエリーとして、天然ダイヤモンドと競合しない新たな商材とすることです。価格設定も非常に低価格でシンプルなものとし、先行している宝飾用合成ダイヤモンドの販売戦略に一定の歯止めをかけるためともいわれています。Lightboxは、ルース販売はされず、すべてシルバーやK10でペンダントやイヤリングにセットされています。テーブル面直下(表面ではなく、わずかに内部)には特殊なレーザー技術によるロゴマークが刻印されています(図12)。Lightboxの製品には4Cのグレーディングはなされません。

図12:Lightboxのロゴ(テーブル面直下)
図12:Lightboxのロゴ(テーブル面直下)

 

CGLに持ち込まれた合成ダイヤモンド

CGLに合成ダイヤモンドがグレーディング依頼で持ち込まれたのは1990年代半ばに遡ります。初めて非開示で持ち込まれたものはHPHT法による0.159ctの淡黄色でした。それ以降、しばしばHPHT合成ダイヤモンドを検査しましたが、数量としては限定的でした。
無色のCVD合成ダイヤモンドが非開示で検査に持ち込まれたのは2008年が最初で、0.2ct–0.4ct のG–Hカラー相当でした。2010年にはピンク色のCVD合成が検査に持ち込まれています(CGL通信No.10参照)。2012年の12月に初めて1ct upのCVD合成ダイヤモンドが持ち込まれました(CGL通信No.12参照)。それ以降サイズの大きなCVD合成ダイヤモンドが継続して持ち込まれるようになり、2018年の半ばくらいから買い取り業者と思われる依頼者が急増しています。
中国製と思われるメレサイズのHPHT合成ダイヤモンドがジュエリーに混入し始めたのは2015年の9月半ばからです(CGL通信No.30参照)。それ以降増加し続け、2017年の5–6月をピークに減少しています。中国製のHPHT合成もサイズアップしてきており、2018年の春頃には0.5ct 程度であったものが、同年秋頃には1ct upのものが持ち込まれています(CGL通信No44参照)。

 

合成ダイヤモンドの鑑別

HPHT合成ダイヤモンドもCVD合成ダイヤモンドも原石の状態であればすぐに識別することができます。それは結晶原石の形態が天然とは異なるからです。
天然ダイヤモンドの結晶は八面体(上下にピラミッドがくっついた形)が基本形です。実際にはやや丸みがあったり、表面が溶解していたりします。HPHT合成法では種結晶を用いて金属溶媒中で成長させるため、六–八面体を主体とした集形となります(図13)。この形状は天然では極めて稀となります。

図13:HPHT合成原石(5.62 ct)
図13:HPHT合成原石(5.62 ct)

 

また、CVD合成法では種結晶の上に炭素原子を沈積させて一方向に層成長させるため、特徴的な板状の形態となります(図14)。
しかし、これらが宝飾用にカット・研磨された後では結晶の形態からは天然と識別ができなくなってしまいます。見た目では判らないため、鑑別の技術が重要となります。

図14:CVD合成原石(7.32 ct)
図14:CVD合成原石(7.32 ct)

 

スクリーニング(粗選別)

ダイヤモンドの鑑別にはスクリーニング(粗選別)が重要となります。粗選別とは100%天然といえるダイヤモンドと更なる詳細検査が必要なものとを分別することです。そのためにある際立った特性に着目した限られた技術を用いています。そのため粗選別=鑑別ではありません。厳密には粗選別≠鑑別です。

 

ダイヤモンドのタイプ

合成ダイヤモンドを選別するため多くの機器が開発されています。これらはダイヤモンドのタイプ分類を基本原理とした粗選別装置です。良く知られているように、ダイヤモンドは窒素(N)を不純物として含有するⅠ型と含まないⅡ型に分類されます。そして、天然のダイヤモンドのほとんど(98%以上)はⅠ型に分類され、無色の合成ダイヤモンドはすべてⅡ型に分類されます(図15)。そのためダイヤモンドのタイプ分類がダイヤモンドの鑑別の重要な第一ステップとなります。

図15:無色ダイヤモンドのタイプ別比率
図15:無色ダイヤモンドのタイプ別比率

 

窒素を含有するⅠ型は窒素の存在の仕方によって、Ⅰa型とⅠb型に細分されます。前者は窒素が凝集した形態で、後者は孤立した単原子の状態です。さらにⅠa型は窒素の凝集の程度によりⅠaA型と ⅠaB型に細分されます。ダイヤモンド中の窒素が凝集していくためには適度な高温と地質学的な時間が必要です(図16)。人為的に窒素を凝集させるためには超高圧と高温が必要で、高圧装置への負荷が大きいため商業的には行われていません。そのため、高度に窒素が凝集したⅠ型のダイヤモンドは天然と考えることができます。

 ■ ポイント:無色の天然ダイヤモンドはほとんどがⅠ型で、無色の合成ダイヤモンドはすべてⅡ型です。天然・合成の粗選別にはタイプ分類が重要です。

図16:ダイヤモンド中の窒素の凝集過程
図16:ダイヤモンド中の窒素の凝集過程

 

CGL Diamond Kensa

CGL Diamond Kensaは、CGL(中央宝石研究所)が開発したコンパクトなダイヤモンドの粗選別装置です(図17)。

図17:CGL Diamond Kensa
図17:CGL Diamond Kensa

 

ラウンドブリリアントカットされた無色系ダイヤモンドを対象としており、合成ダイヤモンドやHPHT処理の詳細検査が必要なⅡ型を簡単に短時間で粗選別することができます。
CGL Diamond Kensaは、紫外線の透過性を検知してダイヤモンドを粗選別します。ほとんどの天然ダイヤモンドはⅠ型に属し、300 nm以下の紫外線を透過しません。いっぽう、Ⅱ型ダイヤモンドは220 nmまでの紫外線を透過します。この性質を利用して、CGL Diamond Kensaは波長254 nmの紫外線をダイヤモンドに照射し、その紫外線がダイヤモンドを透過したかどうかをセンサーで検知します。センサーが検知すればⅡ型、検知しなければⅠ型となります。CGLではグレーディングの日常業務でのタイプ分別を1998年より継続して行っています。

 

×10レンズによる検査

ダイヤモンドの検査に×10レンズによる観察が重要なのはいうまでもありません。ダイヤモンドの色を評価する時はフェイスダウンが一般的です。成長させたままのCVD合成ダイヤモンドは、やや褐色味を帯びていることが多く、色の改善のためにHPHT処理が施されたものは、黄色味もしくは灰色味を感じることがあります。
ガードルに刻印の確認も重要です。製造者によってはロゴマークやLab Grownなどの刻印を入れていることがあります。また、グレーディングされているものは、鑑別機関のシリアルNo.やLaboratory Grownなどの刻印が入れられています(図18)。

図18:合成ダイヤモンドのガードル刻印の一例
図18:合成ダイヤモンドのガードル刻印の一例

 

内包物の観察で、天然・合成の起源を判定するのは通常困難です。一般的にCVD合成にはほとんどインクルージョンが見られません。HPHT合成では金属インクルージョンが見られることがあり(図19)、このような場合、磁石を用いて磁性があれば合成と判断できます(図20)。

図19:HPHT合成ダイヤモンド中の金属inc.
図19:HPHT合成ダイヤモンド中の金属inc.

 

図20:磁性のあるHPHT合成ダイヤモンド
図20:磁性のあるHPHT合成ダイヤモンド

 

燐光による判別器機

合成ダイヤモンドの簡易判別(粗選別)装置にはいろいろなタイプのものがあります。その中でも燐光を検査する装置は、ルース(裸石)・枠つきに関わらず手軽に多数個のダイヤモンドを同時に検査できるので広く利用されています。中国のNGTCが開発したGV–5000や広州標旗電子科学有限公司製のGLIS–3000などが良く知られています。
ダイヤモンドに紫外線を照射した際に多くのものが光を発します。これが蛍光です。蛍光は紫外線の照射を止めると消えますが、中には発光が持続することがあり、燐光と呼ばれます。天然ダイヤモンドのほとんどのものに燐光は認められませんが、無色のHPHT合成ダイヤモンドには明瞭な燐光が認められます。これはわずかに含まれるホウ素に起因します。
この性質を利用して、ダイヤモンドジュエリーに強力な紫外線を照射し、燐光の有るものを合成の疑いありとして選別しています。
しかし、最近の研究でHPHT合成ダイヤモンドに電子線の照射処理を施すと、燐光が減衰あるいは消滅することがわかっています(CGL通信No.46参照)。このような処理が商業的に施されているという情報はありませんが、今後、この装置での判断には注意が必要と思われます。

 ■ ポイント:燐光による判別器機は利便性が高いが、結果の解釈には注意が必要です。

 

ラボラトリーの技術

紫外–可視領域の分光分析において、N3センタ(415.2nm)は天然ダイヤモンドのほとんどすべてに見られますが、通常、量産を目的とした合成法では生成しません。一部のHPHT合成ダイヤモンドにはニッケル(Ni)に関連した欠陥が検出されることがあります。

 

赤外分光分析では、ダイヤモンド中の窒素不純物やC–Hの存在を検出することができます。天然ダイヤモンド中の窒素不純物は、地質学的な時間の経過で凝集体を形成します。合成ダイヤモンドでは製法に関わらず、含有する窒素濃度は相対的に低く、窒素も凝集体を形成しません。従って、BセンタやB2センタなどの凝集窒素の存在は天然起源を示唆します。

 

蛍光X線分析では、ダイヤモンド中の包有物の組成分析が天然及び合成起源の有効な手がかりとなります。HPHT合成ダイヤモンドは、しばしば金属溶媒に用いられた金属内包物が研磨面に達しています。このようなケースではFe、Ni、Co などが検出され、合成起源であることが明らかとなります。

DiamondViewTMによる紫外線ルミネッセンス像の観察は、ダイヤモンドの生成起源を知る上で最も重要です。天然ダイヤモンドのルミネッセンス像は千差万別であり、個体識別にさえ応用できるほどです。天然ダイヤモンドは、そのほとんどが{111}面のみの成長で形成されており(図21–1)、

図21:DiamondViewTM像の一例/ 図21–1 天然
図21–1:天然ダイヤモンド/DiamondViewTM像の一例

まれに{100}面を伴うMixed–habit Growthが見られます。{111}成長分域内は、直線的な累帯構造を示すのに対し、{100}成長分域内では曲線状の累帯構造を示します。HPHT合成ダイヤモンドは、{111}、{100}やその他の成長面による成長分域が明瞭で(図21–2)、成長温度によって晶相が異なります。

図21–2HPHT合成ダイヤモンド/DiamondViewTM像の一例
図21–2:HPHT合成ダイヤモンド/DiamondViewTM像の一例

すなわち、合成温度が高いほど六面体から八面体に変化していきます。CVD合成ダイヤモンドは、特有の積層成長に由来する湾曲した線状模様が特徴的です(図21–3)。

図21–3:CVD合成ダイヤモンド/DiamondViewTM像の一例
図21–3:CVD合成ダイヤモンド/DiamondViewTM像の一例

 

フォトルミネッセンス分析は、ダイヤモンドの点欠陥や塑性変形に由来すると考えられるピークを高感度で検出します(図22)。

図22:顕微ラマン分光装置を用いたフォトルミネッセンス分析
図22:顕微ラマン分光装置を用いたフォトルミネッセンス分析

これらには合成には見られない天然起源の指標となるものが多く見られます。HPHT合成ダイヤモンドにはNi、Coなどの金属溶媒に関連するピークが検出されることがあります。884.8nmおよび883.2nmの対のピークはNiに因るものと考えられます。CVD法合成ダイヤモンドには、NVセンタ(637nm、575nm)、H3センタ(503nm)が普遍的に検出されます。さらに、ほとんどのものに737nmにSi–Vのピーク(反応容器の石英窓のエッチングに由来すると思われる)が検出され、CVD法合成ダイヤモンドの指標となります。

 

合成ダイヤモンドのグレーディング

一般社団法人宝石鑑別団体協議会(AGL)では、数年前より合成ダイヤモンドのいわゆる4C(カラット、カラー、クラリティ、カット)のグレーディングについて慎重に議論が重ねられてきました。当初は天然と同じ様式でグレーディングを行うことも検討されましたが、国内外の情勢を鑑み、2018年末に合成ダイヤモンドに対するグレーディング・レポートの発行は行わないことが決定されています。
AGLでは、ダイヤモンドの天然・合成の生成起源を明らかにし、合成ダイヤモンドには鑑別書で対応致します。その際、合成ダイヤモンドの鑑別書には希望によりグレード表記(天然とは異なる簡易的な用語を使用)を行うことを可としています。
海外では、合成ダイヤモンドにもグレーディング・レポートを発行している機関があります。この場合、たいていは天然とは異なるデザインの用紙を用いて、評価に用いられる用語も天然より簡略化されています(例えばGIA)。しかし、一部に天然と同じ用語が用いられている機関もあります(例えばIGI、HRD)。◆

 ■ ポイント:AGLでは合成ダイヤモンドにグレーディング・レポートの発行を行いません。鑑別書で対応し、簡易的な天然とは異なるグレード表記を行うことを認めています。