CGL通信 vol03 「チャザム合成ダイヤモンド」

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CGL通信 vol03 「チャザム合成ダイヤモンド」

写真1

CVDダイヤモンドについては、CGL通信No.1でその特徴と鑑別法を既にお伝えしておりますが、宝飾市場で稀に遭遇する合成ダイヤモンドは全て高温高圧法によって合成されたものと考えて良いでしょう。
ダイヤモンドの合成は、1954年アメリカのGE社の高温高圧法による成功が最初です。これ以降、合成ダイヤモンドは主に研磨材として砥粒などの工業用目的で生産されるようになり、また情報通信機器用のヒートシンク材料などの先端産業分野での合成ダイヤモンドの研究も進むにつれ飛躍的な合成技術の進歩を遂げました。
宝石品質のものはというと、これまで実験的にデビアスやGE社が作っており、商業的にはチャザム社がロシア産合成ダイヤモンドの販売を1990年代初めに行っています。新たに昨年より “Chatham Created Diamond” と称して販売を開始した合成ダイヤモンドはチャザム社が以前販売していたものとは異なり、ロシア以外の国で製造したものです。今回はこの合成ダイヤモンド “Chatham Created Diamond” について報告します。

Chatham Created Diamond の特徴

チャザム社が販売している合成ダイヤモンドは、ピンク、ブルー、イエロー系でその色調の違いによってイエロー系ならカナリー/マリーゴールド/アンバー、ピンク系ならピンク/ラズベリー/ピーチーピンク、ブルー系ならブルー/スカイブルー/アクアとそれぞれ呼んでいます(グリーン系もあるようですが現在はまだ販売されていません)。これらは合成技術の発達によって、ボロンや窒素濃度のコントロールが可能になり、ブルーやイエローなどの色合いも以前にはなかった明るくより天然に近い色のものが作れるようになったわけです。
本来合成ダイヤモンドにはグレーディングは行わないのですが、今回弊社が検査する機会に恵まれたブルー、ピーチーピンク、ラズベリーの石(合計11ピース)を敢えてカラーグレードをすると下記の表の通りになります。

重量(ct) カラーグレード クラリティグレード
0.317 Fancy Deep Blue I-1
0.162 Fancy Deep Blue SI-2
0.165 Fancy Deep Blue SI-2
0.198 Fancy Deep Blue SI-2
0.311 Fancy Light Brownish Pink VVS-2
0.386 Fancy Deep Orangy Pink SI-1
0.377 Fancy Deep Orangy Pink VS-1
0.389 Fancy Deep Orangy Pink VS-1
0.360 Fancy Deep Orangy Pink VS-1
0.324 Fancy Deep Orangy Pink VVS-2
0.264 Fancy Intense Pink VVS-1

今回のサンプル石の形状は全てラウンドブリリアントでしたが、その他カットコーナーリクタンギュラー、オクタゴンシェープもあるそうで、重量については0.1ct台から0.5ctまでのものが殆どのようです。

ブルー系ダイヤモンドの特徴

ブルーの合成ダイヤモンドは、全てタイプIIbで天然ブルーダイヤモンドと同じタイプに属します。タイプIIbとは、窒素は殆んど含みませんが不純物としてボロンを含有するタイプで、色がブルーであることと導電性をもつことが特徴です。今回検査した4ピース全てにも導電性が認められました。

拡大検査
◆明瞭なブルーと無色のカラーゾーニング(写真1
◆金属光沢を有する不透明な包有物(写真2)が有り、これは石に緑味を与えるニッケル除去を目的で用いられた鉄-コバルト系溶媒から晶出した包有物だと考えられます。

偏光検査
◆偏光レンズを用いたクロスニコル下での検査で、天然II型のダイヤモンドに特有のタタミマット(写真3)と呼ばれる干渉模様は全く見られません。タタミマットが見えない場合は合成ダイヤモンドの疑いがありますので注意すべきです。

蛍光検査
◆長波紫外線に対しては不活性でしたが、短波紫外線ではグリニッシュイエローを示し、燐光も約50~60秒ほど続きました。短波での燐光は天然のタイプIIbに一般的なものでありますが、非常に長い燐光はやはり合成ダイヤモンドの疑いがあるため注意が必要です。

ダイヤモンドビュー
◆DTC社が合成ダイヤモンドの鑑別のために開発した DiamondView(CGL通信No.1 参照)によって検査したところ、高温高圧合成ダイヤモンドに特有の成長模様がみられました(写真4)。

写真1

写真1

写真2

写真2


写真3

写真3

写真4

写真4



ピンク系ダイヤモンドの特徴

写真5

写真5

今回のピンクの合成ダイヤモンドは、ブルーのものに比べて0.3ct台と大きく包有物も殆んどない高品質なものが揃っていました。クラリティーグレードに影響を与えるインパーフェクションは、通常の拡大検査では微小な金属インクルージョンが入ったものが1ピースあったのみで他に包有物はなく、その他のものは全て外部からの特徴によるものでした。更に液浸して内部を観察するとピンクと無色のカラーゾーニングが見えました(写真5)。
蛍光性は皆強いオレンジ色で、概ね短波よりも長波紫外線の方が強い蛍光を示しました。燐光に関しては1ピースも観察できませんでした。
FT-IRのの検査によってこれらは全てIbタイプのダイヤモンドに分類されました。本来黄色であるはずのIbタイプのダイヤモンドは、照射とその後の加熱(アニーリング)でイエローからピンクへと色を変える事が可能です。今回のサンプルはその良い例と言えるでしょう。

今回検査した “Chatham Created Diamond” はブルー系とピンク系の2種類でしたが、同じ高温高圧法で合成されたものであっても、添加される不純物や溶媒の違いで出来るダイヤモンドのタイプは異なります。鑑別する際には、それぞれの色やタイプを十分考慮した上で、それに対応した検査を重ねて行く必要があります。当社ではグレーディング依頼のあったダイヤモンドは、ケープディテクターおよび簡易FT-IRでの全量検査から始まり、通常の拡大、偏光、蛍光、燐光検査などを行い、更に必要に応じてより高倍率での拡大検査、各種の分光検査、EDXRFによる元素分析、Diamond Viewによる成長模様の観察などを行った上で、確実に天然と判断をした上でグレーディングを行っております。

以上