CGL通信 vol45 「平成30年度 宝石学会(日本)総会・講演会・見学会」

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CGL通信 vol45 「平成30年度 宝石学会(日本)総会・講演会・見学会」

PDFファイルはこちらから2018年7月PDFNo.45

平成30年度宝石学会(日本)総会・講演会が6月9日(土)富山大学理学部多目的ホール、懇親会が富山大学カフェアザミにて開催されました。また、6月10日(日)には見学会が実施されました。
富山大学は平成17年に旧富山大学、富山医科薬科大学、高岡短期大学が再編・統合、12年目を迎えた大型総合国立大学です。地域と世界に向かい開かれた大学として、生命科学、自然科学と人文社会科学を総合した特色ある国際水準の教育・研究を行い、人間尊重の精神を基本に高い使命感と創造力のある人材を育成し、地域と国際社会に貢献するとともに科学、芸術文化、人間社会と自然環境の調和的発展に寄与することを理念としています。

 

写真1 総会・講演会を行なった富山大学理学部
写真1 総会・講演会を行なった富山大学理学部

 

<総会・講演会参加報告>

色石鑑別部 藤田 直也

富山大学理学部多目的ホールにて開催された宝石学会(日本)総会・講演会では、2件の特別講演、18件の口頭発表が行われ、聴講者は60名でした。本会で発表された20件のタイトル、発表者(口頭発表者の名前の前に〇がつけてあります)、内容は以下の通りです。

 

○特別講演

特別講演は会場をお借りした富山大学都市デザイン学部地球システム科学科の教授2名に講演をしていただきました。

 

特別講演1:富山県の鉱物
清水 正明(富山大学都市デザイン学部地球システム科学科)
富山県に産出する代表的な鉱物及びその産地について、産状別にまとめての報告であった。富山県には約30の代表的な鉱物産地があり、産状としては(1)スカルン鉱床(Pb–Zn–Cu型、Fe型)、(2)鉱脈鉱床(Au–Ag–Cu型、Mo型等)、(3)その他の3つに分けられる。富山県の鉱物として指定されている十字石は黒部郡宇奈月町明日谷、深谷で採掘され、(3)その他に分類されるとのこと。また、越中は、かつて黄金郷(エルドラード)であり、富山藩分藩の際、加賀藩の飛び地として加賀藩の領地があった(松倉金山)。佐渡金山より金の採掘量が多い時期があり、17世紀後半までは加賀藩財政のドル箱だったそうだ。

 

写真2 特別講演中の清水正明教授
写真2 特別講演中の清水正明教授

 

特別講演2:ジルコンという鉱物から見た日本列島形成の歴史
大藤 茂(富山大学都市デザイン学部地球システム科学科)
日本の中・古生界は、古くから層位、古生物学的に研究されていたにもかかわらず、堆積盆と大陸の位置関係(後背地問題)について諸説ある。近年、後背地問題の解決に有効な手法となっているのが、砕屑性ジルコン年代測定である。ジルコンは晶出時に少量のウラン(U)を含み、鉛(Pb)を含まないため、ウラン(U)の放射改変を利用したU–Pb年代測定が可能である。LA–ICP–MSを使用し、短時間で多くのジルコン年代を求めることが可能である。本講演では砕屑性ジルコン年代分布に基づく、シルル~下部白亜系、西南日本の下部白亜系手取層群(内帯)及び物部川層群(外帯)との後背地解析結果を紹介し、西南日本外帯が内帯とアジア大陸東縁に対し、相対的に北上したことを示した。

 

写真3 特別講演中の大藤茂教授
写真3 特別講演中の大藤茂教授

 

 

写真4 一般講演会の様子
写真4 一般講演会の様子

 

 

○一般講演

1.TYPE Ⅱa天然ピンクダイヤモンドのフォトルミネッセンスピーク H3 535.8 nm
上杉 初、 〇斉藤 宏、小滝 達也(AGTジェムラボラトリー)
ピンクダイヤモンドとブラウンダイヤモンドの半値幅については2017年度宝石学会一般講演にて発表を行っていたが、データにオーバーラップする部分が多かった。本研究は昨年の研究をさらに進めた内容であった。
本研究では535.8 nmピークの強度について検討していた。535.8 nmピークは帰属不明ではあるが、ピンクダイヤモンドとブラウンダイヤモンドで検出されることが多い。高温に加熱すると、このピークは消失するが、比較的低温の加熱であれば残ることが多い。また、このピークは歪みによる影響はなく半値幅はほぼ一定である。また、HPHT処理を施したピンクダイヤモンドにも検出されることがある。
535.8 nmのピーク強度に関し、ダイヤモンドの2次ラマン線596 nmのピークとの強度比I535.8 nm/I596 nmを強度比較の指標として用いていた。また、本研究においてNVセンタの発光が強いサンプルについては除外したとのことである。結果、I535.8 nm/I596 nmが1.5未満のピンクダイヤモンドは30個中20個、1.5未満のブラウンダイヤモンドは30個中8個、その半分以上は2.0以上であったとの報告であった。
また、576 nmピークについても調査を行った。576 nmと535.8 nmのピークが両方存在するブラウンダイヤモンドはピーク強度が高く、I576 nm/I596 nm、I535.8 nm/I596 nm共に1.5以上であった。ピンクダイヤモンドは両方のピークが存在していても、強度が強いものと弱いものがあり、576 nmピークを検出したのはピンクダイヤモンドが30個中13個、ブラウンダイヤモンドが30個中25個であったと発表した。

 

2.LPHT処理がされたピンクCVD合成ダイヤモンド
〇北脇 裕士、江森 健太郎、久永 美生、山本 正博、岡野 誠(中央宝石研究所)
この研究内容についてはCGL通信のNo.43に掲載されている。

 

3.ルビー、スピネル、ガーネット結晶に添加したCr3+イオンからの蛍光の温度変化
○勝亦 徹、相沢 宏明、小室 修二(東洋大学理工学部)
温度計や圧力計等のセンサーとして合成結晶が用いられている。Cr3+を少量添加したルビー、スピネル、イットリウムアルミニウムガーネット、イットリウムオルソアルミネートの結晶は赤色の蛍光材料であり、これらの結晶から発する赤色の蛍光寿命や強度は温度や圧力によって変化するため、温度計のセンサーとして使用することができる。本研究では蛍光温度センサーとして使用する際の特徴について調査を行っていた。励起スペクトルと光源の発光スペクトルの差から、ほとんどの可視光が光源として利用可能であるという発表であった。しかし、光源の波長と蛍光の波長が近い場合、分解能が高い分光器、もしくは時間分解測定が必要となるであろうとのことである。

 

4.紫水晶とシトリンの色の起源について
荻原 成騎(東京大学大学院理学系地球惑星)
紫水晶、シトリンの色について具体的な鉄イオンの濃度と色の関係についてのデータが明らかにされていない。本研究は紫水晶とシトリンについて色の起源と考えられている全鉄、各イオンの種類と濃度の関係を明らかにすることを目的とする。ブラジル産紫水晶を用い、EPMAで微量元素測定をした後、紫外線による照射処理(800時間)、加熱実験(350℃、400℃、450℃)、γ線照射(16kGy)といった処理を施し、分光分析、XAFS(X線吸収微細構造)法を用いた分析を行っている。結果として紫水晶はFe(vi)が着色に関与していることが判明したとの報告であった。今後は単色の紫水晶について色変化前後のイオン状態を分析する予定だそうだ。

 

5.カンボジアで遭遇した合成ブルーサファイア
○林 政彦、安井 万奈、山崎 淳司(早稲田大学)
カンボジアの店で合成ブルーサファイアがブルージルコンとして売られていたとの報告で、その合成ブルーサファイアはベルヌイ法で合成されたものであったとのことである。

 

6.カンボジア・パイリン産のブルーサファイア
小川 日出丸(東京宝石科学アカデミー)
カンボジアのパイリンでコランダム採掘の現地調査を行った報告である。タイの宝石産地であるチャンタブリ~トラートに隣接地域であり、(1)国境地域の産地、(2)火山岩が露出する独立丘陵、(3)平野部の田園地帯、(4)南部の産地より流れ出る大小の河川、といった採掘場がある。(1)ではトラックや動力機器等、重機を用いた大規模採掘を行っていたが、多くの地区ではスコップや棒を使用した人力に頼った小規模なものが多く、手作業採掘は深度5 mまでの採掘のみ許可という規則があるため深い縦穴は見られなかったそうだ。また、(3)ではサファイアよりルビーが多く産出、(4)ではサファイアが多く産出していたとのこと。
元素分析を行った結果、パイリン産のブルーサファイアはFe2O3が0.303~1.099 wt%と、Fe2O3の含有量が非常に多いという特徴があった。また、Fe2O3が多いことと関係して、Fe3+、Fe2+–Fe3+、Fe3+–Fe3+による吸収が大きく、暗色の原因となる。また通常光と異常光方向の色調の差が大きいのが特徴である。インクルージョンは有色結晶のパイロクロアに微小インクルージョンが伴っているもの、クラウド状の色帯、鉄さびがしみ込んだ膜、二相インクルージョン、黄色の結晶等が存在した。1600℃で6時間、還元雰囲気で加熱実験を行った結果、赤外領域のOH吸収が消失した。クラウド状の色帯はクラウドがなくなり、鉄さびも消失した。二相インクルージョンの変化はあまり見られなかったが、黄色の結晶は白濁し、ヘイローを伴っていた。

 

7.Beを含む天然ブルーサファイアのナノインクルージョン
○江森 健太郎、北脇 裕士(中央宝石研究所)、三宅 亮(京大院理)
この研究内容については本号(P1〜P8)に掲載されている。

 

8.ナイジェリア産サファイアの微量元素比較
桂田 祐介(GIA Tokyo)
ナイジェリアでは、今世紀初頭に南東部マンビラ高原から濃色のブルーサファイアが産出、2014年ごろからは淡色で高品質のブルーサファイアが産出され、主にバンコクの宝石市場で注目されてきた。本発表は、ナイジェリア産サファイアは産地によってバナジウムと鉄の含有量が異なる、という内容であった。ジョス高地のカドゥナ州アンタンでは主にブルーサファイアとグリーンサファイアが産出され、バナジウムが多く、鉄が少ない傾向にある。アダマワ高地のゴンベ州フトゥクおよびクラニでは、イエローサファイア、バイカラーサファイアが産出され、ブルーサファイアの産出量は少なく、色が暗い傾向にある。この産地のサファイアはバナジウムが少なく、鉄が多い傾向にある。また、マンビラ高地で産出するサファイアは微量元素の分布が広いが、バナジウムの量は少ない傾向にあるとの報告であった。

 

9.ゴールドシーンサファイアの化学的特徴
○三浦 真、桂田 祐介、猿渡 和子(GIA Tokyo)
ゴールドシーンサファイアは、ケニア北東部が唯一の産地とされており、流通量が少ないと言われている。本研究では研磨石18石、原石5石の計23石について検査を行った結果が報告された。
色については「青色と黄色が混在するもの」「黄色単色のもの」「インクルージョンで色が不明瞭なもの」が存在した。主たるインクルージョンはヘマタイト、イルメナイトの針状結晶があり、これがシーンを形成する原因となっている。他、ヘマタイト、マグネタイト、マスコバイト、パラゴナイトがインクルージョンとして存在し、ゲーサイトとヘマタイトが共生する結晶も存在した。
ケニアのコランダム産地はアルカリ玄武岩起源のLake Turkanaとサイヤナイト起源のGraba Tulaがあり、ゴールドシーンサファイアはGraba Tulaの成分に近い。鉄の量が多く、紫外可視分光スペクトルが非玄武岩型になるものがサイヤナイト起源の特徴であり、産地鑑別の重要な手がかりとなるとの報告であった。

 

10.トラピッチェパターンの形成過程
○川崎 雅之(狭山市)、長瀬 敏郎(東北大・学術博物館)
トラピッチェ構造を持つ宝石にはエメラルド、コランダム、ガーネット、トルマリン、スピネル、水晶、アンダリュサイト(紅柱石)―キャストライト(十字石・空晶石)などがある。トラピッチェ構造は(a)セクター境界に沿って異種鉱物が樹枝状に配列しているものと、(b)柱面から垂線方向に結晶自身が成長、または異種鉱物・欠陥が集中して柱状模様を示すもの、の2つに大別される。(a)は高飽和条件下での樹枝状成長とそれに続く低飽和条件下での多面体成長の二段階を経ていると説明されているが、(b)については十分な検討がされておらず、本発表は(b)の構造を示すトラピッチェ・エメラルドについて形成過程の検討についての発表であった。小枝成長と成長面の方位は垂直であり、同時成長したと考えられ、変成岩中の成長であり、また成長に際して余剰なスペースが存在しない為、樹枝状結晶は形成されない。柱面セクターにはインクルージョンを起源として成長方向に伸びた細かい模様(第二種不純物縞)が存在し、不純物が継続的に取り込まれることでトラピッチェパターンが形成されたと発表者は考察している。なお、インクルージョンはアルバイト、クォーツ、パイライト、炭酸カルシウムだったらしい。

 

11.570 nm付近の吸収によるガーネットの様々な変色性とブルーガーネット
○中嶋 彩乃(株式会社彩)、古屋 正貴(日独宝石研究所)
1998年にマダガスカル南部のBekelyから発見されたパイロープ/スペサルティンガーネット、いわゆる「マラヤガーネット」は帯緑青~青緑色から赤色に変色し、分光はV3+による575 nmの吸収が確認される。スリランカ産のガーネットで紫色から赤色に弱く変色するものは、分光はCrの影響が強く、572 nmに吸収が存在する。南アフリカ、スリランカで産出するガーネットで帯緑褐色から赤色になるものは、570 nmに弱い吸収とMnによる460 nm、483 nmの吸収が存在する。タンザニアやケニアのUmba渓谷等から産出するロードライトガーネットで“ピーチカラー”と呼ばれているものは、褐色からピンクに極めて弱く変色するが、Fe2+による570 nmの吸収をはじめ、506 nm、526 nm、696nmの吸収が存在し、Mn2+による青色域の吸収も弱い。青色域の透過が多いため570–506 nm付近の吸収の谷があり、変色性があるとされている。Bekely産のガーネットはVを多く含むため、紫~青色域のみ透過するスペクトルになるものがあり、青色から赤色に変化するガーネットになるとの報告であった。

 

12.アクワマリンの加熱処理について
○藤原 知子、岩松 利香、難波 里恵(東京宝石科学アカデミー)
アクワマリンの色因は鉄のイオンであり、その大半は加熱処理により緑味や黄色味を取り除いて青色に変化させている。この加熱処理は、コランダムのような高温の加熱処理ではなく、300〜500℃程度の低温で加熱されているとされており、現状では処理の看破は難しいとされている。本研究では、5つの産地(ブラジル、ナイジェリア、ナミビア、パキスタン、マダガスカル)の原石を集め、還元雰囲気で加熱処理前後の分光データを比較していた。
加熱処理前後で色の変化が見られた石について分光分析を行ったところ、427 nm、370 nmの吸収は弱くなり、820 nmの吸収が強くなった。赤外領域では水に関する吸収7306 cm−1、7105 cm−1、5270 cm−1、5441 cm−1が弱くなる傾向にある。また、フォトルミネッセンス分析を行ったところ、加熱後に帰属不明の581 nmのピークが出現するものがあり、560〜650 nmの部分が加熱前に比べ盛り上がることから、フォトルミネッセンス分析は加熱の痕跡を見つける上でひとつの手掛かりになるのではないかという発表であった。

 

13.近代に生産された特殊な外観を呈するガラスについて
福田 千紘(ジェムリサーチジャパン株式会社)
19世紀~20世紀に作られていた特殊な外観を持つガラスがあり、それらについての化学組成と特徴についての報告であった。
サフィレットは19世紀チェコで製造されていたが、いったん途絶え、20世紀に入ってから旧西ドイツで復刻された。復刻されたものはサフィリーンとも呼ばれ区別がされている。色は青色透明、フォイルバックはあるものとないものがある。基本的にカットではなく鋳造されており、強い自然光や人工光で褐色にみえるので一見変色性に見えるという特徴がある。化学組成はSi、K、Pbが多くFe、Cuを含む。B、 Alは少ない。Alは耐食性を付与するために添加するのだが、当時は入れていなかった。褐色の色因は銅のコロイドではないかと推測される。フォイルバックは、表側は銀、裏側は真鍮の粉末と鉛を混ぜたものであった。
アイリスガラスはアイリスクォーツを模して作られた。無色のガラスに赤、青、緑の各色ガラスが混入している。フォイルバックはあるものとないものがあり、鋳造で作られている。化学組成はSi、K、Pbが多くTi、Cu、Asも含む。BとAlは少ない。青、緑の色因はFe、Cuであり、橙色の色因はSeによるものであった。赤色部分の分光結果は金コロイドのプラズモン吸収と一致した。EDSでは検出しなかったが、LIBSで10ppm程度の金を検出し、金のコロイドによる着色ではないかという考察であった。
ドラゴンブレスは赤~オレンジ色を呈するガラス中に不規則な青色の干渉色を呈する。表層と下層でガラスの性質が違い、オレンジのガラスの上に無色のガラスが貼り合わせてあり、間に皮膜がある。この皮膜は火炎によって発生する変質層と思われる。フォイルバックもされている。オレンジの下層はPbが多くSiが少なく、無色の上層はPbが少なくSiが多いという特徴がある。他に含まれている元素はH、B、Ti、Fe、Cu、Zn、As、Seであった。2種類の異なるガラスを用いることで青色の干渉が起こっているのではないかと考察していた。

 

14.教材としての宝石活用の試み 真珠を例として
嶽本 あゆみ、田邊 俊朗(沖縄工業高等専門学校)
沖縄工業高等専門学校生物資源工業科は沖縄の生物資源の産業化を目標の一つにしている。主に食品や有用微生物の探索がおこなわれている。生物スケッチの基礎を学ぶ実験の授業があるが、そこで真珠貝を用いた。本発表は真珠貝を用いた解剖実験の実施報告であり、男子と女子で真珠に対する興味の違いを明らかにした。

 

15.マーケットに流通している有核のアコヤ養殖真珠のサイズについての一考察
渥美 郁男(東京宝石科学アカデミー)
真珠振興会では日本で養殖しているアコヤ真珠は2~11mmと公表している。本発表は有核のアコヤ真珠の最小サイズ、最大サイズ、養殖地についての調査報告であった。なお、ケシ真珠、ジェル核は除外している。三重県の神明と長崎県の五島列島では大粒のアコヤ真珠が養殖されている。アコヤ真珠の有核で最小のものは日本産ではなくベトナム産であり、1.7mmのものが存在した。ベトナムのどこで養殖されているかは不明である。最大のアコヤ真珠は五島列島の奈留島で養殖されている14mmの真珠であり、自生の12cmぐらいあるアコヤ貝を18~24ヶ月かけて養殖しているそうだ。

 

16.例外的にみられた干渉色と輝度の関係性について
○南條 沙也香、鈴木 千代子、小松 博(真珠科学研究所)
テリが良いのに干渉色が弱い真珠についての調査報告であった。そのような真珠の断面を観察したところ、結晶層の乱れは認められなかった。弱い干渉色の原因として考えられるのは(1)結晶層の厚さが均一ではないこと、(2)0.3μm未満の結晶層があること、(3)0.5μm以上の結晶層があること、の3点が挙げられる。(1)に関しては干渉色がお互い打ち消しあってしまうことが干渉色の弱さの原因であり、(2)(3)に関しては2次の干渉色が可視光外になってしまい、干渉の次数が高くなるので干渉色が弱くなることが判明した。

 

17.ゴールド系シロチョウ真珠に及ぼす稜柱層の影響
○大巻 裕一(㈱桑山)、矢崎 純子、小松 宏(真珠科学研究所)
本研究では、ゴールド系シロチョウ真珠の一部が褪色してしまう原因について考察していた。 (1)色素の変化による褪色、(2)亀裂が入ることで見た目の色が変わって見える、の2点が原因として考えられる。日光に40日あてる褪色実験をおこなったが、色素の褪色は認められなかった。また、経験的に褪色が起こりやすいと考えられる緑味が強く、暗い色の珠を切断して観察した。これらの珠のうちのいくつかは稜柱層が大きく、大小さまざまな亀裂が稜柱層に入っており、これが褪色の原因ではないかと推察していた。しかし稜柱層が入っているかどうかは軟X線では判断が難しく、対策としては稜柱層、混在層が含まれないようなピースの取り方を検討する必要があるとのことであった。また、養殖所と協力し、ピース貝とピースを取る箇所、生成真珠の相関など、研究を進める必要があるとのことである。

 

18.サンゴパールとその色の起源
猿渡 和子(GIA Tokyo)
サンゴパールはピンクサンゴを核にして養殖されたアコヤ真珠で、愛媛県宇和島市の松本真珠で養殖されている。核は高知県産のCorallium elatius(モモイロサンゴ)を用いていると推測される。本研究ではサンゴパールのピンク色がサンゴの色を反映したものなのかどうかについて考察していた。穴口に色だまりはなく、真珠層の厚みは0.12–0.40ミリであった。真珠層が厚いと真珠全体のピンク色が淡く、真珠層が薄いとピンク色が濃く観察される。反射型紫外可視分光光度計で反射率を測定したところ、真珠層が薄い試料の反射率はピンクサンゴ核の反射率に近く、低めの反射率を示したのに対し、真珠層が厚い試料の反射率はより高くなる傾向を示した。また、モモイロサンゴの色は、カロテノイド系色素のカンタキサンチンが原因といわれており、ラマン分光分析を行うと1129cm−1、1517cm−1の炭素結合のピークが出てくる。今回の真珠にもそのピークが弱く認められた。以上の結果より、サンゴパールのピンク色はピンクサンゴ核の色を反映している可能性が高いことを示した。

 

○懇親会

6月9日(土)、総会・講演会終了後、富山大学構内カフェアザミにて、懇親会が行われました。47名が参加し、会員同士の交流や、同日行われた一般講演・特別講演の発表内容について質疑応答や討論等が行われ、有意義な時間を過ごしました。

 

写真5 懇親会の様子
写真5 懇親会の様子

 

 

<見学会参加報告>

 

教育部 野田 真帆

6月10日(日)、総会・講演会の翌日に見学会が実施され、 (1)富山県立山カルデラ砂防博物館、(2)魚津埋没林博物館、(3)ルビカ工業株式会社、合計3件の見学を行い、41名が参加しました。

 

(1)富山県立山カルデラ砂防博物館
カルデラとはポルトガル語で「大鍋」を意味する単語で、立山カルデラは火山活動と侵食作用で形成された日本最大規模の崩壊地形として知られています。この土地に住む人々が歩んできた道は「土砂との闘い<砂防>の歴史」そのものであり、当博物館はテーマ展示(大型地形模型、立山砂防のトロッコ列車を実車展示したもの等)を通して地質や、人々の自然との向き合い方について展示しています。
1858(安政5)年、跡津川断層の活動により推定M7.3~7.6の安政飛越地震が発生し、大鳶山と小鳶山が崩れ、数億立方メートルの土砂が立山カルデラとその出口付近に堆積し、天然のダムが形成されました。この天然ダムは2週間後と2か月後の2回決壊しますが、勢いを増した大土石流が下流部に到達し甚大な被害をもたらしました(安政の大災害)。その後も度重なる常願寺川の氾濫に人々は苦しみました。1906(明治39)年、富山県は砂防工事に着手し、1926年(大正15)年より国に引き継がれています。自然との共存が本来いかに困難で、試練の連続であるかを物語る展示は防災教育にも役立つものだと再認識しました。

 

写真6 立山カルデラ砂防博物館
写真6 立山カルデラ砂防博物館

 

 

写真7 同博物館で地形を確認する見学者
写真7 同博物館内で地形を確認する見学者

 

 

(2)魚津埋没林博物館
同博物館には特別天然記念物である埋没林が展示されています。埋没林とは「埋まった林」を意味し、魚津埋没林は約2000年〜1500年前、弥生時代から古墳時代の頃にできたと考えられています。魚津埋没林は、湧水によりスギ林が湿地化し、川の洪水によって埋まってできたと考えられています。埋没林で見られる樹木はほとんどがスギの木で、他にミズキ、トチノキなど50種類以上の植物が発見されています。立木の根元部分は埋まったことで原形を維持していますが、幹は地上に出ていたため腐敗してしまいました。根のまわりが約2000年も経った今も保存されているのは地下水による影響であると考えられているようです。埋没林水中展示は今でも地下120mからポンプアップされた片貝川の伏流水を流し込み、常に水が入れ替わるように整備されています。また、自然の湧水も利用するため、底張りはしていません。
乾燥展示館に展示されている埋没林は1930(昭和5)年の魚津漁港工事の際に発見されたものです。
埋没林展示以外に、同博物館エリアでは蜃気楼(海の上に冷たい空気と暖かい空気の層ができ、その間で光が屈折して遠くのものが伸長したり反転したりする現象)の観測が可能で(気候・気温状況による)、関連する展示がされています。

 

写真8 埋没林水中展示
写真8 埋没林水中展示

 

写真9 埋没林乾燥展示
写真9 埋没林乾燥展示

 

(3)ルビカ工業株式会社 <株式会社 信光社関連企業> 見学
見学会では主にルビカ工業株式会社工場内での合成サファイア結晶の製造を見せていただきました。
ルビカ工業株式会社の名前は「ルビー」と「カーバイド」を合わせたもので、日本カーバイド工業株式会社との合併で同社は1980(昭和55年11月)に設立されました。
参加者一行はまず信光社の沿革、合成コランダムの製造方法、技術革新について説明を受け、後に工場内へ案内していただきました。

写真10 会議室で説明を受ける様子
写真10 会議室で説明を受ける様子

 

 

写真11 工場見学の様子(写真提供:ルビカ工業株式会社)
写真11 工場見学の様子(写真提供:ルビカ工業株式会社)

 

 

工場内は撮影禁止でしたが、多くの合成サファイア製造装置が立ち並び、工場内は合成装置の発する熱で真夏のような暑さでした。夏場の工場内は50度にもなるそうで、高品質サファイア結晶完成品の涼しげなまでの透明度の高さからは想像もつかない大変な仕事を見てとることができました。技術の向上により現在は大型の結晶製造も可能です。

 

写真12–1 ルビカ工業で制作された合成コランダムの結晶 
写真12–1 ルビカ工業で制作された合成コランダムの結晶

 

 

写真12–2 ルビカ工業で制作された合成コランダムの結晶 
写真12–2 ルビカ工業で制作された合成コランダムの結晶

 

同社製造品は工業用品から装飾品、文房具やノベルティーグッズ等と幅広く用いられています。著名な高級ブランド時計の窓材受注も多いとのことで、日本の技術力の高さが評価されていることの好例として印象的でした。同社の製造現場最前線に多くの参加者が感動し興味深く解説を受けていました。
合成コランダムの結晶育成ではベルヌイ法(原料材料がハンマーで砕かれ、その粉末が上部から降下する際に水素ガスや酸素ガスを用いて溶融し、下部に用意される種結晶上に成長される方法)が量産に向いていると広く知られておりますが、上述のように大型結晶で尚且つ高純度の成長となると独自の技術開発が必要になります。
同社で一行は到着時より温かく迎えられ、多くの質問にもお答えいただきました。ここに改めて謝意を表します。◆

 

写真13 ルビカ工業、工場前にて集合写真
写真13 ルビカ工業、工場前にて集合写真