CGL通信 vol56 「パライバ・トルマリン〜LA–ICP–MSを用いた組成分析と原産地鑑別への応用」

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CGL通信 vol56 「パライバ・トルマリン〜LA–ICP–MSを用いた組成分析と原産地鑑別への応用」

PDFファイルはこちらから2020年8月PDFNo.56

リサーチ室 江森 健太郎・北脇 裕士

図1 ブラジル産パライバ・トルマリン
図1 ブラジル産パライバ・トルマリン

 

パライバ・トルマリンをLA–ICP–MSを用いて組成分析を行い、産地鑑別を行う方法について検討を行った。パライバ・トルマリンは組成が複雑なため、LA–ICP–MSを用いて含まれる元素のモル比を計算した後、組成式を求め、重量濃度を逆算するという手法を取った。産地鑑別についてはブラジル産、ナイジェリア産、モザンビーク産のパライバ・トルマリンをブルー系、グリーンブルー~ブルーグリーン系、グリーン系と色を3種類に分けた。結果、2元素毎のプロッティング、線形判別分析、ロジスティック回帰分析を用いて3つの産地を分けることができた。

 

はじめに

 

パライバ・トルマリンは、1980年代後半に宝石市場に登場した彩度が高く鮮やかな青色~緑色の含銅トルマリンである。最初にブラジルのパライバ州で発見されたため、宝飾業界では広くパライバ・トルマリンと呼ばれるようになった。1990年代には隣接するリオグランデ・ド・ノルテ州からも採掘されるようになり、パライバ・トルマリンとして流通した。さらに2000年代に入って、ブラジルから遠く離れたナイジェリアやモザンビークなどのアフリカ諸国からも同様の含銅トルマリンが産出されるようになり、パライバ・トルマリンの名称について国際的な議論を呼んだ。その後、LMHC(ラボ・マニュアル調整委員会)、CIBJO(国際貴金属宝飾品連名)およびICA(国際色石協会)などによるコンセンサスが得られ、現在では原産地に関係なく、青色~緑色の含銅トルマリンはパライバ・トルマリンと呼ばれ、変わらぬ人気を持続している。

宝石市場では一般にブラジル産のパライバ・トルマリンはモザンビークやナイジェリア産のものよりも高く評価されている。そのため、アフリカ産の含銅トルマリンが出現して以降、宝石鑑別機関にはパライバ・トルマリンの原産地鑑別の要求が高まっている。これまでに多くの検査機関や研究者によるパライバ・トルマリンの原産地鑑別の可能性についての報告がなされている(文献1文献2文献3など)。これらによると、標準的な宝石鑑別検査や蛍光X線分析などでもある程度可能であるが、ICP–MS分析による微量元素の分析が有効であるとされている。しかし、それぞれの検査機関は独自の判別基準を用いており、標準化されたものは存在しない。そのため同一の宝石試料に対して異なる意見が提出されることが起こりえる。

一般にブラジル産のパライバ・トルマリンは銅の含有量が高く、濃色のものが多い。そのため銅の含有量が低い(蛍光X線分析の実測値で0.3–0.5 wt%程度)ブラジル産がアフリカ産と判別されたり、銅の含有量の高い(蛍光X線分析の実測値で1.0 wt%以上)ナイジェリア産がブラジル産と誤ってラベリングされたりしていることがある。ブラジル産にはバターリャ、キントス、ムルングなどの市場性のある鉱山が複数あり、それぞれにおいて微量元素の特性値が異なる。また、ブルーあるいはグリーンなどの色調によっても特性値は異なっている。

本研究ではブラジル、ナイジェリアおよびモザンビークのそれぞれの鉱山のオーナーあるいは直接仕入れを行っている輸入業者の方々などから貸与いただいた産地の確かな試料をもちいてLA–ICP–MSの微量元素分析を行い、より現実的で精度の高い原産地鑑別の基準づくりを試みた。

 

LA–ICP–MS分析法を用いたパライバ・トルマリンの分析法

 

LA–ICP–MSを用いてトルマリンの組成分析を行うには2つの大きな問題点が存在する。1つは組成範囲が非常に広く、内標準元素を設定することが非常に難しいということである。内標準元素とは、測定試料中の既知の濃度を有する元素のことである。例えばコランダムは組成式がAl2O3であるためAlを内標準元素として測定を行うことで微量元素の定量分析を行うことが可能であるが、トルマリンにおいては組成範囲が広く既知の濃度を有する元素を有しないため、微量元素の定量分析が難しいということである。もう1つは高濃度のリチウム(Li)とホウ素(B)を含むということである。一般的には定量分析を行う際に、標準ガラス試料(ガラスビードの中にさまざまな微量元素が一定濃度で混入されているもの)を用いて検量線を引き分析を行う。一般的な標準ガラス試料としてはNIST610、NIST612といったものが広く使われており、CGLにおいてもNIST610、NIST612、NIST614といった標準ガラス試料を使用している。測定対象物に含まれる微量元素濃度と、標準ガラス試料に含まれる濃度が近いことが好ましいのであるが、トルマリンとNIST610、NIST612に含まれるリチウム(Li)とホウ素(B)の濃度の差が著しいため、この2元素の定量分析が難しい。

本研究はパライバ・トルマリンの現産地鑑別を目的としている。パライバ・トルマリンはほとんどがelbaite (Na(Al1.5,Li1.5)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3(OH))であり、一部fluor–liddicoatite (Ca(Al,Li2) Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3F)を含む。LA–ICP–MSを用いたトルマリンの分析方法については文献4による先行研究があるが、本研究はelbaiteに特化した分析方法を考案した。

まず、LA–ICP–MSを用いて内標準元素を用いた補正を行わない仮の濃度を測定する。測定された元素のmol比を求め、陽イオン、陰イオンの価数を合わせるようにし、組成式を求め、その組成式から真の元素濃度を逆算するという手法を取った。その際、分析対象物はelbaiteであるため、以下の仮定を導入する。

 

1.B siteはホウ素(B)が占める
2.T siteはケイ素(Si)とアルミニウム(Al)が占める
3.Z siteを占める元素のうち、アルミニウム(Al)以外は極微量であるため、アルミニウム(Al)が占める
4.すべての鉄(Fe)は2価の陽イオンとして扱う(Fe2+)
5.V siteとW siteは水酸基(OH)が占める
6.X siteとY siteに同じ元素は入らない
7.リチウム(Li)の濃度はY siteに入る陽イオンの合計から計算する

 

元素Aの質量数をAaw測定された仮の濃度を[A]、組成式当たりの原子数(atom per formula)をAapfと記載する。ケイ素(Si)のatom per formula、すなわちSiapfを基準に考慮すると

式01–RGB90

の等式が成立する([A]はAの仮の測定濃度、AawはAの質量数)。

ここで 式02–RGB90 は測定可能な値であるので、

この数値を元素Aについて式03–RGB90 と記載し、式04–RGB90となる。……式①

 

ホウ素(B)、リチウム(Li)、酸素(O)、水酸基(OH)は測定が不能ではあるが、仮定より、Bapf =3、Oapf =27、OHapf =4である。Liの濃度はストイキオメトリーから計算する。

Xサイトを占める原子をまとめてX、アルミニウム(Al)とリチウム(Li)を含まないYサイトの原子をYと記載すると、

式05–RGB110

である。

また元素Aの価数をAVと記載する。陽イオンと陰イオンの総価数が等しいことから、

式06–RGB90

が成立する。Bapf ∙BV =9、Oapf ・OV+OHapf ・OHV =–58であるので代入すると

式09–RGB100

である。ここでホウ素(B)とリチウム(Li)を除くすべての陽イオンをEと記載すると、

式10–RGB100

と書くことができ、

式11–RGB90

となる。

ここでYサイトに入るアルミニウム(Al)をAl(Y)、Tサイトに入るアルミニウム(Al)をAl(T)、Zサイトに入るアルミニウム(Al)をAl(Z)と置くと、

式12–RGB90

が成立する。仮定より、

式13–RGB90

が成立しているので、

式14–RGB90

これを3=Liapf+Al(Y)apf+∑Yapf に代入して

式16–RGB90

この式を整理すると、

式17–RGB90

 

式18–RGB90 に代入(LiV =1)すると

式19–RGB90

 

式20–RGB90より上式は、

式21–RGB90

すなわち

式22–RGB90
……式②

 

である。Al*、Y*、E*EVは計測されている量なので、この式を用いることで、ケイ素(Si)の組成式当たりの原子数、atom per formulaが計算されることとなり、全元素のatom per formulaが導かれる。

具体的な計算ルーチンとしては、

 

1.標準ガラス試料を用いて測定された仮の濃度を用いて、全元素についてA*を計算する。
A* = ([測定された元素Aの濃度] / [元素Aの質量数])÷([測定されたSiの濃度]/[Siの質量数])

2.Yサイトに入るリチウム(Li)とアルミニウム(Al)以外のapfの合計を求める⇒ΣY*

3.測定した全元素についてapfにそれぞれの価数を掛けたものを計算し合計する⇒ΣE*EV

4.(ΣE*EV–ΣY*–Al*–1)を計算し、式②を用いてSiapfを計算する。

5.全元素についてA*Siapfを計算し、式①を用いてAapfを計算する。

 

となり、測定物の組成式を求めることができる。求められた測定式から、それぞれの正確な重量濃度(ppmw、wt%)を知ることができる。なお、余談ではあるが、V site、W siteは水酸基(OH)であると仮定しているが、フッ素(F)であってもOHとFの質量数が近いため、それぞれの元素の濃度は誤差範囲に収まると推定される。

 

サンプルと手法

本研究では、ブラジル産116点(うちバターリャ産86点、キントス産16点、ムルング産14点)、モザンビーク産49点、ナイジェリア産80点のパライバ・トルマリンを分析に用いた(図2に測定に用いたサンプルの写真一部を掲載)。各サンプルは、ブルー系、グリーンブルー~ブルーグリーン系、グリーン系と色別に分けた。色の分類はマンセルのカラーチャートを参照し、青~緑の色相のものをパライバ・トルマリンとしている。海外の一部のラボでは黄緑色をパライバ・トルマリンに含めていることもあるが、宝石鑑別団体協議会(AGL)の規定ではこれを除外している。それぞれの産地および色別の個数は  表1の通りである。また、本研究で用いたパライバ・トルマリンはすべてelbaiteであり、fluor–liddicoatiteは含まない。これは、現在パライバ・トルマリンでfluor–liddicoatiteに属するものはモザンビーク産しか知られておらず、組成も異なるため産地毎のデータを比較するには不適と判断した。

 

表1 分析に用いたサンプルの産地、色別個数

表1

 

図2 本研究に用いたサンプル(一部)

ブラジル、バターリャ産(0.04 〜 0.22ct)
ブラジル、バターリャ産( 0.04 〜 0.22ct )

 

ブラジル、バターリャ産(0.09 〜 0.23ct)
ブラジル、バターリャ産( 0.09 〜 0.23ct )

 

ブラジル、キントス産(0.14 〜 0.18ct)
ブラジル、キントス産( 0.14 〜 0.18ct )

 

ブラジル、ムルング産(0.06 〜 0.10ct)
ブラジル、ムルング産( 0.06 〜 0.10ct )

 

モザンビーク産(0.47 〜 3.07ct)
モザンビーク産( 0.47 〜 3.07ct )

 

モザンビーク産(0.31 〜 0.44ct)
モザンビーク産( 0.31 〜 0.44ct )

 

ナイジェリア産(0.37 〜 0.44ct)
ナイジェリア産( 0.37 〜 0.44ct )

 

ナイジェリア産(0.08 ct 〜 0.40ct)
ナイジェリア産( 0.08 ct 〜 0.40ct )

 

分析にはLA–ICP–MSを使用し、Laser Ablation装置としてESI UP–213を、ICP–MS装置としてAgilent 7900rbを用いた。分析に用いた条件は表2の通りである。NIST610を標準試料として用い、それぞれのサンプルにつき2点ずつ分析を行い、元素プロッティング、線形判別分析(LDA, Liner Discriminant Analysis)、ロジスティック回帰分析(LR, Logistic Regression)を行った(線形判別分析(LDA)についてはCGL通信34号判別分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別、ロジスティック回帰分析(LR)についてはCGL通信39号多変量解析の宝石学への応用に詳細が記されている)。

 

表2 使用した分析機器における分析条件

表2

 

結果と考察

(1) 鉛(Pb) vs 錫(Sn)プロッティング

色(ブルー系、グリーンブルー系~ブルーグリーン系、グリーン系)関係なく、全サンプルにおいて、X軸に鉛(Pb)、Y軸に錫(Sn)の濃度をプロットしたグラフを図3に示す。ナイジェリア産のトルマリンは鉛(Pb)濃度が非常に低い値(ppm)から非常に高濃度(ppm)と連続的な分布を示している。従来、ナイジェリア産のパライバ・トルマリンを扱う一部のディーラー間でタイプ1(鉛(Pb)が低濃度でブラジル産との区別が困難なタイプ)、タイプ2(鉛(Pb)が高濃度のもの)が存在すると言われていたが、鉛(Pb)の量は連続的であり、タイプ1とタイプ2の垣根がないことが判明した。また、今回分析したサンプルにおいて、ブラジル産サンプルでは錫(Sn)が検出されなかったが、モザンビーク産では必ず錫(Sn)が検出され、ナイジェリア産は錫(Sn)が検出されるもの、されないものが存在することが判った。なお、錫(Sn)の含有量と鉛(Pb)の含有量には相関性等は認められなかった。

図3 パライバ・トルマリンの鉛(Pb) vs. 錫(Sn)プロット。モザンビーク産パライバ・トルマリンに関してはSn > 25 ppmwのサンプルも存在するが、グラフの見やすさを考慮し、Sn = 25 ppmwの線でグラフを切断した。
図3 パライバ・トルマリンの鉛 (Pb) vs. 錫 (Sn)プロット。モザンビーク産パライバ・トルマリンに関しては Sn > 25 ppmwのサンプルも存在するが、グラフの見やすさを考慮し、Sn = 25 ppmwの線でグラフを切断した。

 

(2) ブルー系パライバ・トルマリン

ブルー系のパライバ・トルマリンの銅(Cu)の濃度をX軸、ガリウム(Ga)の濃度をY軸としてプロットしたグラフを図4(a)に示す。銅(Cu)含有量についてはブラジル産(バターリャ、キントス、ムルング)パライバ・トルマリンが多く(Cu > 4000 ppmw)、ナイジェリア産、モザンビーク産は少ない(Cu < 4000 ppmw)。また、モザンビーク産はガリウム(Ga)が多く(Ga > 250 ppmw)、ナイジェリア産はガリウム(Ga)が少ない(Ga < 200 ppmw)という傾向にある。ブラジル産についてもバターリャとキントス、ムルングについてガリウム(Ga)の含有量に差が見られ、おなじブラジル産であっても鉱山毎の差が明確に見られる。
また、ブルー系のパライバ・トルマリンのガリウム(Ga)の濃度をX軸、鉛(Pb)の濃度をY軸としてプロットしたグラフを図4(b)に示す。図4(a)で示したプロットではブラジル産(ムルング)とブラジル産(キントス)がオーバーラップしているのであるが、ガリウム(Ga) vs. 鉛(Pb)プロットではキントス、ムルングの明瞭な違いを見出すことができた。

 

図4 図 ブルー系パライバ・トルマリンの(a) 銅(Cu) vs. ガリウム(Ga)プロット
図4 図 ブルー系パライバ・トルマリンの(a) 銅 (Cu) vs. ガリウム (Ga)プロット

 

図4 図 ブルー系パライバ・トルマリンの(b) ガリウム(Ga) vs. 鉛(Pb)プロット
図4 図 ブルー系パライバ・トルマリンの(b) ガリウム (Ga) vs. 鉛 (Pb)プロット

 

(3) グリーンブルー系~ブルーグリーン系のパライバ・トルマリン

グリーンブルー系~ブルーグリーン系のブラジル産(バターリャ、キントス)、ナイジェリア産、モザンビーク産パライバ・トルマリンについて銅(Cu)の濃度をX軸、亜鉛(Zn)の濃度をY軸としてプロットしたグラフを図5(a)に、同様にマンガン(Mn)と亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)と鉛(Pb)についてプロットしたグラフをそれぞれ図5(b)図5(c)に示す。この色調のものではナイジェリア産でも銅(Cu)の濃度が15000ppmw以上のものが存在する。このような高濃度の銅(Cu)を含有するものは、市場においてしばしばブラジル産と誤認されている。そのため、他の元素との関連を鑑みて慎重な判断が必要である。例えば、この色調のブラジル産ではたいてい亜鉛(Zn)の濃度が4000 ppmw以上と高い。

 

図5 グリーンブルー~ブルーグリーン系のパライバ・トルマリンの (a) 銅(Cu) vs. 亜鉛(Zn)、(b) マンガン(Mn) vs. 亜鉛(Zn)
図5 グリーンブルー~ブルーグリーン系のパライバ・トルマリンの(a)銅 (Cu) vs. 亜鉛 (Zn)

 

図5 グリーンブルー~ブルーグリーン系のパライバ・トルマリンの (a) 銅(Cu) vs. 亜鉛(Zn)、(b) マンガン(Mn) vs. 亜鉛(Zn)
図5 グリーンブルー~ブルーグリーン系のパライバ・トルマリンの(b) マンガン (Mn) vs. 亜鉛 (Zn)

 

図5 グリーンブルー~ブルーグリーン系のパライバ・トルマリンの (c) ガリウム(Ga) vs 鉛(Pb)のプロット
図5 グリーンブルー~ブルーグリーン系のパライバ・トルマリンの(c) ガリウム (Ga) vs 鉛 (Pb)のプロット

 

さらにグリーンブルー系~ブルーグリーン系のパライバ・トルマリンは2元素毎のプロッティングではオーバーラップする部分が見られたので、多変量解析を用いた産地鑑別を試みた。多変量解析においては、ブラジルのバターリャ、キントスの区別は行わず、一括してブラジル産として解析を行った。測定した全元素(9Be, 23Na, 24Mg, 27Al, 29Si, 39K, 43Ca, 47Ti, 51V, 52Cr, 55Mn, 57Fe, 63Cu, 66Zn, 71Ga, 72Ge, 85Rb, 93Nb, 118Sn, 121Sb, 133Cs, 137Ba, 181Ta, 208Pb, 209Bi)を基に線形判別分析を行った結果を図6に示す。プロットは線形判別分析で得られた判別関数に分析値を代入し得られた値をプロットしたものである。線形判別分析の結果、ブラジル産、ナイジェリア産、モザンビーク産でよい乖離が見られることがわかる。 また、ブラジル産とナイジェリア産パライバ・トルマリンについてロジスティック回帰分析を行った結果を図7に示す。ロジスティック回帰分析は2グループのどちらかに属する確率を与えるものであり、本研究においてはブラジル産である確率を基準に解析を行った。図7は得られた式に元データを代入したものであるが、ブラジル産、ナイジェリア産の両者が非常によい乖離を示すことがわかる。なお、ロジスティック回帰分析を用いたモザンビーク産パライバ・トルマリンの判別については変数の数と測定サンプルのバランスが悪いため、除外した。

図6 グリーンブルー系~ブルーグリーン系パライバ・トルマリンの線形判別分析を用いた産地鑑別
図6 グリーンブルー系~ブルーグリーン系パライバ・トルマリンの線形判別分析を用いた産地鑑別

 

図7 グリーンブルー系~ブルーグリーン系パライバ・トルマリンのロジスティック回帰分析を用いた産地鑑
図7 グリーンブルー系~ブルーグリーン系パライバ・トルマリンのロジスティック回帰分析を用いた産地鑑別

 

(4) グリーン系パライバ・トルマリン

グリーン系のパライバ・トルマリンのガリウム(Ga)の濃度をX軸、鉛(Ga)の濃度をY軸としてプロットしたグラフを図8に示す。ブラジル(バターリャ)産とナイジェリア産パライバ・トルマリンがよく乖離していることが判る。このプロットを基に、ガリウム(Ga)と鉛(Pb)の組成式毎の原子数(apfu, atom per formula unit)の和をX軸、鉄(Fe)の濃度をY軸としてプロットしたグラフを図9に示す。図と比較するとブラジル産とナイジェリア産の乖離が明瞭になる。モザンビーク産についてはサンプル数が少なく、範囲も広いため、今後の課題である。

 

図8 グリーン系パライバ・トルマリンのガリウム(Ga) vs. 鉛(Pb)プロット
図8 グリーン系パライバ・トルマリンのガリウム (Ga) vs. 鉛 (Pb)プロット

 

図9 グリーン系パライバ・トルマリンの鉛+ガリウム(Pb+Ga) vs. 鉄(Fe)のプロットまとめ
図9 グリーン系パライバ・トルマリンの鉛+ガリウム (Pb+Ga) vs. 鉄 (Fe)のプロットまとめ

 

まとめ

ブラジル(バターリャ、キントス、ムルング)、ナイジェリア、モザンビーク産パライバ・トルマリンについてLA–ICP–MSを用いて分析を行い、精度の高い産地鑑別の基準つくりを試みた。錫(Sn)や鉛(Pb)の含有量、3種の色相(ブルー系、グリーンブルー~ブルーグリーン系、グリーン系)毎に違う2変数プロットを用いることでブラジル、ナイジェリア、モザンビークの3つの産地を明瞭に分けることができた。
CGLでは今後もパライバ・トルマリンの産地毎の試料データ収集を継続的に行い、産地鑑別のさらなる精度向上に努めていく予定である。

 

謝辞

グロリアスジェムス有限会社の酒巻英樹氏、株式会社日独宝石研究所の古屋正貴氏、株式会社セレナの田中セレナ氏、有限会社YTストーンの佃裕二氏、株式会社ベーネユナイテッドの宮崎雅人氏、株式会社ミユキの古屋聡氏、株式会社キアイの野本博之氏、株式会社カワサキの川崎雅章氏には本研究の分析に使用した産地が既知の貴重な試料を貸与いただいた。ここに記して謝意を表します。

 

文献:
1.Abduriyim A., Kitawaki H., Furuya M., Schwarz D. (2006) “Paraíba”–type copper–bearing tourmaline from Brazil, Nigeria, and Mozambique:Chemical fingerprinting by LA–ICP–MS. Gems & Gemology, Vol. 42, No. 1, pp. 4–21

2.Milisenda. C. C., Horikawa Y., Emori K. (2006) Neues Vorkommen kupferführender Turmaline in Mosambik. Zeitschrift der deutschen gemmologischen gesellschaft, Vol. 55/1–2, pp. 5–24

3.Yusuke K., Ziyin Sun, Christopher M. B., Barbara L. D. (2019) Geographic Origin Determination of Paraíba Tourmaline. Gems & Gemology, Vol. 55, No. 4, pp. 648–659

4.Sun Z., Palke A. C., Breeding C. M., Dutrow B. L. (2019) A new method for determining gem tourmaline species by LA–ICP–MS. Gems and Gemology, Vol. 55, No. 1, pp. 2–17

 

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