CGL通信 vol64 「セレンディバイトの分析」

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CGL通信 vol64 「セレンディバイトの分析」

Adobe_PDF_file_icon_32x32-2023年9月PDFNo.64

リサーチ室 趙政皓

図1.深い緑色を呈する1.03 ctのセレンディバイト
図1.深い緑色を呈する1.03 ctのセレンディバイト

 

セレンディバイトは青色・緑色を呈するホウケイ酸塩鉱物の一種であり、理想的な化学組成はCa4[Mg6Al6]O4[Si6B3Al3O36]である。セレンディバイトは1900年代初頭にスリランカで発見され、その名称はスリランカのアラブ語名称セレンディブ(Serendib)に由来する。宝石品質のものは1997年にReinitz & Johnsonによって初めて報告されたが、報告例が少なく、希少性の高い宝石である。特に今回ご紹介するファセットカットされた透明石は珍しい。

最近、セレンディバイトとされている石を検査する機会を得た。この石は1.03 ctで、エメラルドカットが施されていた。深い緑色を呈しており(図1)、青色・緑色・黄緑色の明瞭な多色性が見られた。また、セレンディバイトは三斜晶系に属するため光学的二軸性であるが、3つの光軸のうち2つの屈折率がかなり近いため、一軸性と誤認しやすい。屈折計でこの石を測定した結果、nx = 1.698、 ny = 1.702、 nz = 1.703、nyとnzがかなり近い値であった。

この石にはインクルージョンが見当たらず、クラリティがかなり高い。そのため、顕微鏡観察において特に特徴は見いだせなかった。

エネルギー分散型蛍光X線分析装置Jeol JSX3210Sを用いて当該石を分析した結果を表1に示した。測定条件は以下の通りである:管電圧30.000 kV、管電流0.220 mA、エネルギー範囲0~41 keV、ライブタイム30.00 s、コリメータ2.000 mm。この分析結果は、セレンディバイトの化学式Ca4[Mg6Al6]O4[Si6B3Al3O36]と矛盾しない(ホウ素Bはエネルギー分散型蛍光X線分析装置では測定できない)。

 

表1 蛍光X線元素分析の結果

WEB-セレンディバイトの分析-表1

 

また、当該石のUV–Vis–NIRスペクトルを図2に示す。測定は、紫外可視分光光度計JASCO V650を用いて行った。810 nm中心の比較的強いバンドと、408、434、464、500 nm付近の弱いバンドが見られる。4つの弱いバンドの位置は、K. Schmetzer et al., (2002) が報告したUV–Vis–NIRスペクトルと一致した。しかし、同文献によると、強いバンドの中心は720 nmであった。810 nmの吸収バンドは鉄と関連することが多く、本研究で測定した石の鉄含有量(1.29 wt.%)は、K. Schmetzer et al., (2002)が測定した石の鉄含有量(0.84 wt.%)よりも明らかに高いため、このバンドの中心の移動は鉄によるものだと推測できる。

 

WEB-セレンディバイトの分析-図2

図2. 当該石のUV–Vis–NIRスペクトル。408、434、464、500 nm付近の弱いバンドと810 nm中心の比較的強いバンドが見られる。

 

 

図3は、フーリエ変換型赤外分光分析装置JASCO FT/IR–4100で測定した当該石の赤外スペクトルを示す。3505、3339、2620、2555 cm–1付近にピークが見られる。全体として、K. Schmetzer et al., (2002) が報告した2つの石のうち、0.55 ctの緑青色サンプルのスペクトルと類似する。ただし、先行研究では3339 cm–1付近のピークがなく、代わりに3358 cm–1付近にピークが出ている。このピークが移動した理由は不明である。

図3.当該石の赤外吸収スペクトル。3505、3339、2620、および2555 cm-1付近にピークが見られる。
図3.当該石の赤外吸収スペクトル。3505、3339、2620、および2555 cm-1付近にピークが見られる。

 

ラマン分光装置Renishaw InVia Raman Systemを用いて、当該石のラマンスペクトル(図4)を514 nmのレーザー励起を用い取得した。200、307、466、525、627、752、890、992 cm–1付近に明らかなピークが見られ、359、403、570、678–1付近に弱いピークがあった。131 cm–1付近の鋭いピークは、装置による何らかの反射と思われる。これらのピークは、200 cm–1付近のもの以外、すべて先行研究と一致した(K. Schmetzer et al., 2002)。

図4.当該石のラマンスペクトル。200、307、359、403、466、525、570、627、678、752、890、992cm–1付近にピークが見られる。
図4.当該石のラマンスペクトル。200、307、359、403、466、525、570、627、678、752、890、992cm-1付近にピークが見られる。

 

 

同装置を使い、当該石のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルも測定した(図5)。692 nm付近にピークが見える。このピークは、C. Chutimun et al. (2021) が報告したPLスペクトルにある690、693 nm付近のツインピークが重なったものだと考えられる。しかし、686 nm付近のショルダーは見えなかった。

図5.当該石のPLスペクトル。692nm付近にピークが見える。
図5.当該石のPLスペクトル。692nm付近にピークが見える。

 

今回は、希少石であるセレンディバイトの分析を行った。先行研究の測定結果とほぼ一致したが、鉄含有量が高いなどの特徴があり、スペクトルなどで些細な差が出た。セレンディバイトに関する宝石学的研究はかなり少ないため、機会があれば今後も引き続き測定する予定である。

 

◆参考文献
Reinitz, I., & Johnson, M. L. (1997). Gem Trade Lab Notes: Serendibite, a rare gemstone. Gems & Gemology, 33(2), 140–141.

Schmetzer, K., Bosshart, G., Bernhardt, H. J., Gübelin, E. J., & Smith, C. P. (2002). Serendibite from Sri Lanka. Gems & Gemology, 38(1), 73–79.

Chutimun, C. N., Nasdala, L., Wildner, M., Škoda, R., & Zoysa, E. G. (2021). Spectroscopic Study of Serendibite from Sri Lanka. The Journal of Gemmology, 37(5), 451–454.