CGL通信 vol70 「日本鉱物科学会2025年年会・総会参加報告」

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CGL通信 vol70 「日本鉱物科学会2025年年会・総会参加報告」

2025年9月PDFNo.70

リサーチ室 北脇裕士

去る2025年9月10日(水)から12日(金)までの3日間、山口大学吉田キャンパスにて日本鉱物科学会2025年年会・総会が開催されました。Covid19の影響で2020年と2021年はオンラインでの開催のみ、2022年~2024年は現地とオンラインのハイブリッドで開催が行われました。2025年は研究交流をより活発にするためと現地LOC(Local Organizing Committee)の負担軽減のため現地開催のみとなりました。CGLリサーチ室からは筆者が参加し、口頭発表を行いました。以下に概要を報告致します。

山口市のシンボル国宝瑠璃光寺五重塔
奈良県の法隆寺と京都府の醍醐寺にある五重塔とともに日本三名塔と言われている。

日本鉱物科学会とは

日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Science、JAMS)は、鉱物や岩石およびそれらをキーワードとした様々な分野の学問の発展と普及を目的とした学術団体です。2007年に「日本岩石鉱物鉱床学会」と「日本鉱物学会」が合併して発足し、2016年に一般社団法人化しました。元々、日本岩石鉱物鉱床学会では、岩石学、鉱物学,鉱床学,およびこれらと密接に関連した諸科学の発展と普及を目的とした研究等が行われておりました。また、日本鉱物学会は、元来、日本地質学会の一部として活動をしておりましたが、鉱物学のさらなる進歩・発展のため、日本地質学会から独立をし、鉱物学の基礎的テーマに加え、鉱産資源やセラミックスに代表される無機材質など応用分野での最先端の課題や社会的テーマにも取り組んできました。日本岩石鉱物鉱床学会と日本鉱物学会の合併により、学術雑誌(和文誌・英文誌)の刊行や研究集会の開催などの学会活動の拡充や、学術領域の拡大が進められてきました。年に1度の年会(成果発表会)では、地球外物質や火山、環境問題など、従来の岩石学・鉱物学の分野を超えた様々な視点からの討論が繰り広げられています。そのほか、講演会や一般普及を目的としたイベントや行事の企画・開催にも力をいれています。2016年10月の一般社団法人化以降の年会・総会は、2017年愛媛大学、2018年山形大学、2019年九州大学で開催されました。2020年は東北大学、2021年は広島大学で開催が計画されていましたが、Covid-19の影響でオンラインのみでの開催となりました。2022年は新潟大学、2023年は大阪公立大学、2024年は名古屋大学でそれぞれ現地とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。そして2025年は山口大学で現地開催のみとなりました。

山口大学山口地区吉田キャンパス正門

 

正門に掲げられた教育理念

山口大学は、長州藩士「上田鳳陽」によって、1815年に創設された私塾「山口講堂」を起源とし、明治・大正期の学制を経て、1949年に地域における高等教育および学問研究の中核たる新制大学として創設されました。2015年には山口講堂の創設から創基200周年を迎えています。山口大学は9学部、8研究科を擁し、学生1万人以上が在籍する基幹総合大学です。「発見し・はぐくみ・かたちにする 知の広場」を理念として、地域の知の拠点として、地方創生に貢献しています。また、明治維新を成し遂げた、新たな世界へのチャレンジ精神を受け継ぎ、12万人以上の卒業生が全国各地、世界各国の幅広い分野で活躍しています。

山口大学は山口地区の吉田キャンパスの他に宇部地区には医学部と工学部が、光地区には教育部の付属小学校と中学校があります。
今回会場となった吉田キャンパスには新幹線の新山口駅から山口線に乗り換え6つ目の湯田温泉駅が最寄り駅となります。駅からは徒歩でも可能ですが、バスで15分ほどの距離感です。
山口市は山口県のほぼ中央に位置し、西の京と呼ばれています。アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が発表した「2024年に行くべき52カ所」で、世界各地の旅行先の中で日本から唯一山口市が選ばれ3位となりました。 記事内では、国宝瑠璃光寺五重塔(香山公園)や陶芸工房、コーヒーショップ、郷土料理をカウンターで提供する店、湯田温泉が挙げられています。湯田温泉はけがをした白狐が傷を癒していたという伝説が伝わることから「白狐の湯」とも呼ばれ、街のあちこちに白狐をモチーフにしたオブジェがあります。幕末には高杉晋作や伊藤博文等の維新志士たちが逗留した地としても知られています。

湯田温泉駅前の巨大な白狐のモニュメント

講演会について

2025年の年会は、吉田キャンパスの共通教育棟において8つのレギュラーセッション(R1-R8)と3つのスペシャルセッション(S1-S3)に分かれて3日間行われました。R1の「鉱物記載・分析評価「のセッションは宝石学会(日本)と、R7の「岩石・鉱物・鉱床」のセッションは資源地質学会と、S1の「火成作用のダイナミクス」のセッションは日本火山学会とそれぞれ共催です。筆者は2010年の島根大学で行われた年会から参加しており、2011年の年会からはR1のセッションでの口頭発表を継続しています。R1の「鉱物記載・分析評価」のセッションは、鉱物の記載・評価およびそれらを可能にする分析手法に関する研究が対象です。鉱物の様々な特徴(産状・形態・内部組織・結晶構造・組成・流体包有物・固相包有物・結晶欠陥など)、新鉱物記載、宝石鑑別、およびそのための鉱物の分析手法・解析手法の開発についての発表が募集されています。2020年以降、宝石学会(日本)と共催セッションとなり、宝石学会(日本)の会員もこのセッションへの参加が可能となりました。筆者も微力ながらコンビーナーとしてこのセッションの運営に協力しています。

講演会の会場となった共通教育棟

 

会場への案内板

今年のR1セッションには14件の口頭発表と19件のポスター発表がありました。これらの内、宝石学会(日本)の会員は3件の口頭発表と1件のポスター発表を行いました。以下に宝石学会(日本)会員の発表内容を紹介します。
神田久生氏は「アポフィライトの条線について」という演題で、アポフィライトの条線が劈開面に直角なのはなぜかという疑問を自身の合成ダイヤモンドの製造経験を踏まえて口頭発表されました
筆者は「IIb型とI型(ホウ素と窒素のカラーセンタ)が混在する特異な天然ダイヤモンド」という演題で口頭発表を行いました。Ⅱb型は本来窒素のないⅡ型の中でもホウ素を含有することで電気伝導を有するものですが、赤外分光においてホウ素と窒素が共存するダイヤモンドを分析した結果を報告しました。
阿依アヒマディ氏は「ジンバブエ産天然ダイヤモンドの特徴及び成長環境についての考察」という演題で口頭発表されました。2000年以降、ジンバブエクラトンからダイヤモンドが発見され、マランゲとムロワ地域から採掘されています。特にマランゲからは六八面体の自然放射線を強く蒙った暗緑色から黒色のものを多く産出しています。
川崎雅之氏が「群馬県南牧村の鉱物」についてポスター発表をされていました。南牧村中西部の砥沢附近にはデイサイト質斑岩(砥沢岩体)が貫入しており、これに伴う熱水活動により生成したと考えられる自然金、輝安鉱、鶏冠石など多くの鉱物が紹介されました。

賑わいを見せたポスターセッションの様子

総会および受賞講演について

総会は2日目の朝9時より大会場にて行われました。総会は定足数 (会員859名の10分の1)以上が必要となりますが、今回の総会は当日参加者98名、オンライン8名(総会はオンライン参加が可能)、委任状26名と定足数を超え、無事成立となりました。総会に先立ち物故会員への黙祷が捧げられ、広島大学の井上徹会長の挨拶の後、2024年度の事業報告、2025年度の事業計画、収支予算が報告され、決議事項を経て無事終了しました。報告事項の和文誌:岩石鉱物科学(GKK)編集報告の中で鉱物名の表記についての説明がありました。宝石学における鉱物名表記の指針となると思われますので紹介します。「現在、鉱物の正式な和名は決定されておらず、決定する機関もないことが問題提起された。もともと理科の教科書で表記が統一されていないという問題があり、GKKとしての方針も決まっていなかったことから、まずはGKKの方針を決定した。近日中に鉱物の和名表記ルールを投稿規定に追記予定である。また鉱物の正式な和名をどのように決定するかについて議論された結果、新鉱物国内委員会のメンバーに、理事会のメンバーを数名加えたWGを立ち上げることが承認され、今後の方針を議論していくこととなった。議論の結果、鉱物名の表記は、以下の方針に従うことを推奨する。本文中では、初出時に和名と英語名を併記する。以降は英語名の使用を避け、和名を用いる。広く使用されている和名が存在する場合は、原則として漢字表記を用いる。漢字が読みづらいと判断される場合は、ひらがなでの表記も可とする。和名が存在していても広く使用されていない場合、または漢字表記がない場合、あるいは和名が存在しない場合は、名前の由来になった原語の発音に近い片仮名表記を用いることを基本とする。なお、通称や別称の使用は避ける。また,本文中では鉱物名の表記を統一し、異なる表記の混在は避ける。」

大会場で行われた総会の様子

総会の後、小休憩を挟んで授賞式および受賞講演が行われました。授賞式では、日本鉱物科学会賞、渡邉萬次郎賞、日本鉱物科学会論文賞、日本鉱物科学会研究奨励賞、日本鉱物科学会応用鉱物科学賞、櫻井賞、JMPS学生論文賞の各賞が授与されました。各受賞者が登壇され、井上会長より授賞理由が述べられ栄誉が称えられました。
各賞は研究内容や提出された論文が審査の対象となりますが、渡邉萬次郎賞は長年の鉱物科学に対する功績が称えらえます。第41回の受賞者は周藤賢治永年会員で、長年にわたる岩石学、特に火成岩岩石学の研究により日本海拡大のテクトニクスの確立に大きく貢献したこと、学生指導など研究教育にも多大な貢献をしたことが授賞理由となっています。筆者は周藤永年会員が新潟大学在職29年間の間にご指導いただいた49名の卒業生の第一期生となります。先生の学問に対する情熱と厳しさは生涯忘れることができません。この度の受賞を心よりうれしく思っております。

渡邉萬次郎賞を受賞された周藤賢治永年会員(右)
と井上徹会長(左)

授賞式に引き続いて各賞受賞者による受賞講演が4件行われました。日本鉱物科学会賞第31回受賞者の富岡尚敬会員(海洋研究開発機構高知コア研究所)による「高温高圧下における惑星物質の相転移と変形の挙動解明」、日本鉱物科学会賞32回受賞者の宇都宮聡会員(九州大学大学院理学研究院化学部門)による「福島第一原発事故で放出された高濃度放射性セシウム含有微粒子に関する先導的研究」、日本鉱物科学会研究奨励賞第37回受賞者の大柳良介会員(国士館大学理工学部理工学科)による「沈み込み帯や海洋底における岩石―水相互作用プロセスの解読」、則竹史哉会員(山梨大学大学院総合研究部)による「原子モデルに基づくけい酸塩溶融体の粘性支配因子の解明」の発表がありました。

毎年開催される日本鉱物科学会年会では、最先端の鉱物科学に関する研究が発表されています。宝石学は鉱物学と密接な関係があり、このような学術会議に参加・聴講することで最先端の知識を得られる他、普段接する機会が少ない研究者の方々と交流を深め、宝石学の研究を進めるため新たな活力を得ることができます。CGLリサーチ室からも毎年日本鉱物科学会年会に参加して研究発表を行っています。
鉱物科学会年会での研究発表は毎年10以上のセッションに分かれて行われますが、R1の「鉱物記載・分析評価」のセッションは宝石学会(日本)と共催となっています。宝石学会(日本)の会員であれば一般会員としてR1セッションに参加(講演を含む)可能です。
次年度の鉱物科学会年会・総会は2026年9月24日(木)~9月26日(土)東京大学で開催される予定です。R1セッションでは宝石学関連の招待講演も検討されています。日本鉱物科学会の年会は鉱物科学と宝石学を繋ぐ貴重な機会となっています。宝石学会(日本)の会員の方々にもぜひ参加をしていただきたいと思います。