CGL通信 vol72 「IGC参加報告」

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CGL通信 vol72 「IGC参加報告」

2026年3月PDFNo.72

リサーチ室 江森健太郎

去る2025年10月20日~10月24日、ギリシャのアテネにて第38回国際宝石学会(International Gemmological Conference, IGC)が開催されました。弊社リサーチ室から筆者が出席し、本会議において口頭発表を行いました。以下に概要を報告致します。

 

ギリシャのシンボル、アクロポリスのパルテノン神殿(左)、リカヴィトスの丘より見たアテネ市(右)

国際宝石学会(IGC)とは

国際宝石学会(以下IGC)は国際的に著名な地質学者、鉱物学者、先端的なジェモロジストで構成されており、宝石学の発展と研究者の交流を目的に2年に1度本会議が開催されます。この会議は1952年ドイツで第1回会議が開催されてから、今年で38回目の開催となります(Covid19の影響によるオンライン開催を含めると39回)。

IGCはクローズド・メンバー制が守られている点が他の一般的な学会とは異なります。メンバーは、デレゲート(Delegate)とオブザーバー(Observer)で構成されています。オブザーバーとは、宝石学分野で論文等を発表している国際的なジェモロジストにのみ与えられる資格で、デレゲートの推薦もしくはエグゼクティブコミッティ(Executive Committee)の過半数の投票によりIGC会議に招待されます。デレゲートは、オブザーバーとして3回以上IGCで優れた発表をしたとエグゼクティブコミッティ(Executive Committee)に推薦されたものが毎回のIGCビジネスミーティングにて昇格します。こういったクローズド・メンバーのおかげで、IGCは非常にアットホームな雰囲気であり、技術・知識交流が活発であり、また発表のレベルが担保された学会であると言えるでしょう。毎回の本会議においては、時々の先端的なトピックス(ひすいの樹脂含浸、コランダムのBe処理、ハイブリッドダイヤモンドなど)、産地情報、分析技術などが報告されます。

今回の第38回IGCではメンバー(デレゲート)とオブザーバー、そしてゲストを合わせて約80名が会議に出席しました。日本からはデレゲートとして参加した筆者以外に、エグゼクティブコミッティのAhmadjan Abdriyim氏とデレゲートの古屋正貴氏、オブザーバーとして大久保洋子氏が会議に出席しました。

IGCの沿革、ポリシーについてはCGL通信vol.29、vol.42に詳しく記載してありますので参照して下さい(http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/)

開催地、アテネについて

アテネはギリシャ南部アッティカ地方に位置し、約3,000年の歴史を誇る世界最古級の都市です。古代ギリシャ時代には哲学・芸術・民主主義の中心地として栄え、現在もその面影を残すパルテノン神殿やアクロポリス遺跡が街を象徴しています。人口は約300万人で、政治・経済の中枢としても機能しています。石畳の街並みが美しいプラカ地区では、伝統料理を味わいながら歴史の息吹を感じることができます。

2010年にはギリシャ政府が巨額の債務返済に行き詰まり、EUとIMFからの金融支援を受ける事態に陥りました。この一連の流れが「ギリシャ危機」と呼ばれ、ユーロ圏全体に波及する深刻な経済不安を引き起こしました。このことによりギリシャの治安は大幅に低下したと言われていますが、この影響はプラカ地区を含むメジャーな観光地域ではあまり感じることはありません。

交通手段ですが、日本からギリシャ、アテネ国際空港への直行便はありません。筆者は、イスタンブール国際空港を経由してアテネ国際空港まで向かいました。日本からイスタンブールは約12時間、イスタンブールからアテネへ1時間半ほどのフライトです。アテネ国際空港から、中心部へは、地下鉄で40分ほどです。

考古学博物館に展示されているアテナ像

 

パルテノン神殿

 

第1回近代オリンピックの会場

第38回国際会議

今回のIGCは、過去のIGC同様Pre-Conference Tour(会議前の巡検、10/17(金)~10/19(日))、本会議(10/20(月)~10/24(金))、Post-Conference Tour(会議後の巡検、10/24(金)~10/27(月))の3本立てで行われました。本会議前後のPre-またはPost-Conference Tourでは、開催地周辺のジェモロジーや地質・鉱物に因んだ土地・博物館等を訪れます。筆者は、今回は本会議にのみ参加し、1件の口頭発表を行いました。

開会式とオープンセッション

本会議は、アテネ商工会議所(Athens Chamber of Commerce and Industry, ACCI)で10/20(月)開催されました。初日20日(月)、9時半より開会式が行われ、IGC2025のオルガナイザーを務めるギリシャ、テッサロニキ大学のStefanos Karampelas教授が開会宣言を行い、スポンサー紹介を行います。引き続き、エグゼクティブコミッティを代表してDr. Jayshree Panjikar氏がIGCの歴史についてのプレゼンテーションを行いました。その後、20日(月)午前中はオープンセッションと称して「宝石学とギリシャ」というタイトルでギリシャの研究者または学生による5件の発表が行われました。

開会式

 

本会議の様子

本会議

本会議は20日(月)午後より開催され、24日(金)の閉会式まで、一般講演計44件(うちコランダム11件、ダイヤモンド6件、ひすい3件、こはく3件、エメラルド2件、スピネル2件、ジャスパー1件、ガーネット1件、ゾイサイト1件、ユークレース1件、クォーツ1件、蛍石1件、トルマリン1件、真珠1件、ハールバット石1件、ラリマー1件、歴史と博物学4件、着色原因全般1件、変成岩関連宝石全般1件、文献検索1件)が行われました。今回は、本来予定されていた4件の発表者がビザ申請の問題で参加することができませんでした。また、今回の本会議では、例年行われているポスターセッションは行われず、すべて口頭発表で行われました。

弊社リサーチ室からは筆者がダイヤモンドのセッションで「Identification of melee size synthetic coloured diamond for jewellery (宝飾用に用いられるメレサイズ合成カラーダイヤモンドの鑑別)」というタイトルで発表を行いました。本稿の最後に今回のIGCで興味深かった発表を紹介します。

ショートトリップ

22日(水)は、一般講演は行われず、全参加者でショートトリップに向かいました。行先は4つ、(1) ソリコス劇場(Theatre of Thorikos)、(2)ラヴリオン鉱物博物館(Mineralogical Museum of Lavrion)、(3) ラヴレオティキ・ユネスコ世界ジオパーク(Lavreotiki UNESCO Global Geopark)、(4)スニオン岬(Cape Snion)です。

(1) ソリコス劇場

ソリコス劇場は、現存する世界最古の石造劇場で、紀元前6世紀末に建設されたギリシャ・アッティカ地方ヴェラトゥリ丘にある歴史的遺跡で、楕円形の構造、長方形の舞台を有していました。現在は21列の石造ベンチがそのまま残されています。この地域は、鉱業とともに栄え、ラヴリオン鉱山(鉛、銀を産出)の管理拠点だったそうです。

ソリコス劇場のベンチに座って説明を聞く参加者達

(2)ラヴリオン鉱物博物館

ラヴリオン鉱物博物館は、ギリシャ・ラヴリオン地域の鉱業と鉱物の豊かさを伝える博物館で1986年に設立されました。1875年に建造された鉱石洗浄施設の一部を改装しており、19世紀末の産業建築物になります。鉱物標本はこのラヴリオン地域のサンプルを中心に約600点が展示されており、総コレクションは約1400点、代表的な鉱物として、60-70cmもある巨大なアラゴナイトの結晶標本が展示されています。その他、鉱山道具や鉛インゴット、スラグ(鉱滓)といった鉱業の工程を示す資料も豊富です。

ラヴリオン鉱物博物館

 

博物館内部で熱心に標本を観る参加者達

 

博物館で一番有名(だと言われている)アラゴナイト標本

 

1800年代に使用された鉱山道具の数々

(3)ラヴレオティキ・ユネスコ世界ジオパーク

ラヴレオティキ・ユネスコ世界ジオパークは、ギリシャ・アッティカ地方に位置する地質・鉱業・文化の宝庫で、6000年にわたる鉱山史を持つユネスコ認定のジオパークで、厳密には上述したソリコス劇場、最後に紹介するスニオン岬もラヴレオティキ・ユネスコ世界ジオパークに該当します。この一帯は、混合硫化鉱床(銀・鉛・亜鉛など)で世界的に有名で、古代アテネの繁栄を支えた銀鉱山として重要な役割を果たしました。

我々が訪問したのは、鉱山中心部の坑道跡です。19世紀から20世紀にかけての採掘活動中に屋根を支えていた複数の地下採掘施設と柱そして古代の採掘作業の痕跡が今も残っています。背の高い小さな坑道や岩石の独特な形状からもそれが見て取れます。ここでは、アンナバージャイト(ニッケルとヒ素の鉱物でニッケル華とも呼ばれる)をはじめとして、エリスライト(これはコバルトとヒ素の鉱物でコバルト華とも呼ばれる)、スファレライト、ガレナ、セルピエライトが有名で、他にも73種類もの鉱物が採掘されることから世界的によく知られています。この近くにはこの地域で唯一の地下大理石採石場があり、この採石場は20世紀初頭に開設され、1980年代末まで操業していました。

坑道入口で集まる参加者達

 

坑道内部(中には照明等はありませんでした)

(4) スニオン岬

最後に我々が訪れたのは、ギリシャ・アッティカ半島最南端に位置し、エーゲ海を望むスニオン岬です。この岬は、ギリシャ神話において、アテーナイ王アイゲウスが息子テセウスの死を誤解し、身を投げた場所として知られています。エーゲ海の絶景と夕陽、アテネから日帰り可能な観光地として栄えています。そのスニオン岬に建てられているのが、ポセイドン神殿で、紀元前444年頃ペルシャ戦争後に再建されたとされています。元は高さ6 m超えの柱が34本あったそうですが、現在は17本しか残存していません。

スニオン岬

 

ポセイドン神殿

閉会式

最後に、本会議の最終日24日(金)の閉会式にて、次回の第39回IGCの開催地はブラジルであることが正式に発表されました。IGCは世界的に著名なジェモロジストが参加し、交流を深めることができます。この交流によって各国の状況や生の声を聞くことができます。また、今回はPostおよびPre Conference Tourには参加しませんでしたが、カンファレンス前後のツアーは宝石を研究する上で必要な原産地視察を行うことができ、貴重な体験となります。中央宝石研究所はこれからもこのような国際会議に積極的に参加し、情報を仕入れるよう努めていく予定です。◆

エグゼクティブコミッティとIGC Greece実行委員会の皆様

 

IGCフラッグは次回の開催地ブラジルに手渡された

 

IGC2025参加者の皆様

Fe-Ti charge transfers: A comprehensive review and its applications to minerals and gems (Fe-Ti電荷移動:包括的なレビューと鉱物および宝石への応用)

フランス、ナント大学のEmmanuel Fritsh教授がFe-Ti電荷移動(Charge Transfer)についての話をしました。Fe-Ti電荷移動は多くの天然鉱物や人工材料の色起源の説明に用いられてきましたが、包括的なレビューはありません。本発表ではFe2+/Fe3+とTi4+(Ti3+は自然界では稀)間の電荷移動が鉱物の色に与える影響を整理しました。Fe-Ti電荷移動は八面体サイト間(特に辺共有、面共有)で起こることが多く、100 ppm以下の微量な量でも色に影響を与えます。また、電荷移動に伴う吸収帯は広く、そして強く、温度上昇により強度が減少し、非等方性鉱物においては強い多色性を示します。吸収帯の位置(エネルギー)はFe-Ti間の原子間距離と相関しており、これは色の起源を特定する有力な手掛かりであるとしました。この結果、ブルー・サファイアには4種類のFe-Ti電荷移動バンドが存在し色の多様性を説明、デュモルチェライトにおいてはピンク、青の両方の色がFe-Ti電荷移動による可能性であること、ブラウンのベリルはAl-Si距離から推定される電荷移動吸収が可視領域の始まりに位置し、強い多色性を説明可能だとしました。また、ベニトアイトのブルーはFe-Ti電荷移動だとされてきましたが、吸収帯の位置や多色性の方向から電荷移動によるブルーであるかどうかは疑問が残る、としました。

A Convincing glass imitation of larimar (pectolite)(ラリマー(ペクトライト)のガラス模造品)

インド、ジャイプールのIIGJ LaboratoryのGagan Chouldhary氏はラリマー(ペクトライト)のガラス模造品について発表を行いました。ラリマーはドミニカ共和国産のブルーのペクトライトで白い網目状模様と波のような模様が特徴です。最近人気が向上しており、模造品が市場に出回っています。本研究では過去1年半にわたり、Gagan氏のラボに持ち込まれた模造品の特徴を記録・分析したものです。模造品はグリーニッシュブルーからブルーグリーンの色をしており、白い網目状模様をしています。カボションの形状をしたものは中心部が濃く、放射状の繊維状構造とシャトヤンシーを示します。断面は中心から放射状に広がる繊維構造を有し、表面には透明なガラス層と葡萄状の模様が見られます。模造品には繊維状の結晶インクルージョンが放射状に成長しており、ラマン分光の結果、ウォラストナイト(CaSiO3)であることがわかりました。また、ガラス部分はブロードな吸収を示し、典型的な非晶質ガラスのスペクトルを示します。この模造品は部分的に非常にラリマーに類似しており、誤認の可能性が高いと考えられます。高いSiとAl、低いCa含有量、針状結晶が識別の決め手になります。鑑別そのものは難しくありませんが、市場での誤認防止の啓発が重要だと語っていました。

Bertrandite in Emeralds (エメラルド中のベルトランダイト)

アメリカ、GIAの研究者Shane F. McClure氏がエメラルドの亀裂中のベルトランダイトインクルージョンについての発表を行いました。最近、GIAにインクルージョンが非常に多い低品質のエメラルドが多く持ち込まれるようになりました。一部の石に見られる低リリーフの亀裂は、従来の樹脂充填とは異なる特徴を示すため、調査しました。これらの石は、通常の充填された石に見られるようなフラッシュ効果、気泡、紫外線蛍光、FTIRによる樹脂のピークが見らないが、充填されているようにみえる亀裂が存在し、一部の亀裂は褐色がかって見えたり、偏光下で干渉色を示したりします。それらについてラマン分光分析を行った結果、充填物は主にベルトランダイト(bertrandite)、一部フロゴパイト(phlogopite)であると判明しました。FTIRでは6981、6930 cm-1に弱いベルトランダイト由来のピークが確認されることもありますが、非常に微弱です。ベルトランダイトはBe(Si2O4)(OH)2、ベリリウム含有ケイ酸塩鉱物、屈折率1.59-1.61で高Fe含有エメラルド中では低リリーフに見えます。通常はペグマタイト中の後期鉱物として形成され、水蒸気の存在が必須になります。ベルトランダイトで満たされた亀裂は、当然クラリティエンハンスメントには当たりませんが、ベルトランダイトが存在しても、一部の亀裂にはポリマー(オイル、樹脂)も存在することもあるため、注意が必要で、石の外観に影響しているのがどの亀裂になるのか見極める必要があります。これらの石の提出者は、産地不詳と語っていたそうですが、GIAの微量元素プロットではロシアまたはザンビア産エメラルドに類似しているとのことでした。

Automated Data Processing of Raman Spectra for Supporting Spinel Origin Determination (スピネルの原産地鑑別のためのラマン自動データ処理)

タイのG-ID LaboratoriesのTasnara Sripoonjan氏がラマン分光分析を用いたスピネルの原産地鑑別とその自動化支援の研究について発表を行いました。本研究では、レッドスピネル(ミャンマー産、ベトナム産、タンザニア産)、ブルースピネル(ベトナム産、タンザニア産)について、ラマン分光分析を行った上で、そのデータについて自動処理(ピーク抽出処理)を行い、それらのデータを用いた原産地鑑別の可能性について調査を行いました。その結果、レッドスピネルでは、405 cm-1と665 cm-1、ブルースピネルでは415 cm-1、657 cm-1の半値幅のプロットを用いることで各産地のクラスターが形成され、原産地鑑別に利用することができることがわかりました。この手法は、小粒石やジュエリーにセットされた石にも適用可能ですが、スピネルは加熱処理を施すことでラマンピークの半値幅が広がるため、判別制度が低下する可能性があるとのことです。この手法は迅速で有用ですが、微量元素分析との併用が望ましいと考えられます。

HFSE-enriched sapphires of gem quality: A combined FTIR and trace element study and implications for heat treatment detection (HFSEを豊富に含む宝石品質のサファイア:FTIRと微量元素を組み合わせた研究と熱処理検出への影響)

スイス、SSEFの研究者Michael S. Kremnicki博士がHFSEを豊富に含むブルー・サファイアのFTIRスペクトルについて研究し、加熱処理の判別に有効かを検証しました。HFSEはHigh Field Strength Elementsの略でSn、Nb、Zr、Ta、Wといった元素です。HFSEを多く含む非加熱のスリランカ及びマダガスカル産のコランダムについてFTIRとLA-ICP-MSによる微量元素分析を組み合わせ、多くの試料で3300 cm-1付近に広い吸収帯を確認しました。これらはAl欠陥に関連するOH-グループに由来します。本研究では、Ta濃度が高いほど、3300 cm-1の吸収帯が強くなる傾向が見られました。一部試料は3385 cm-1に吸収がシフトしていましたが、この原因は未解明です。これらの非加熱サファイアはOH-に関連する小さなピーク(3182、3232、3308 cm-1)を示すものがあり、短波紫外線下での白濁蛍光も示します。両方の特徴は加熱処理された変成岩起源のサファイアでよく知られており、記載されていますが、これらの特徴は非加熱石にも見られることが明らかになりました。ベルベットのような外観と濁り味を有する変成岩起源サファイアの加熱/非加熱の単純な区別が誤りとなる可能性があるので注意が必要です。

Effects of Gamma Irradiation on Corundum: Towards a Potential Detection Method (コランダムへのガンマ線照射の影響:潜在的な検出方法の確立に向けて)

スイス、SSEFの研究者Hao A. O. Wang博士がコランダム(ルビー、サファイア)に対するガンマ線照射による色変化とその安定性を調査しました。この研究は2023年東京上野で開催された前回のIGC、IGC2023で発表した予備研究を発展させたものです。本研究では天然・合成コランダム29点について、微量元素濃度を測定、その後ガンマ線照射(33 kGy/70時間)、安定性試験(褪色試験(高輝度LEDによる)と再活性試験(長波紫外線下で10分、それでも識別可能な効果が選らなかったものについてはさらなる長波紫外線下(2時間)と短波紫外線下(1時間)、DiamondViewを用いた深紫外線による照射(10分))、最後の工程として350℃で20分の加熱を行いました。各工程の前後には紫外-可視-近赤外(UV-Vis-NIRの領域の分光データを取得しています。鉄・チタンを多く含むブルー・サファイアにおいてはガンマ線照射による不可逆的なブルーの減少が見られました。これは、一部のルビーで青紫色の要素が低下する原因の1つである可能性があります。また、天然のピンク/パープルのコランダムはガンマ線照射による色が不安定で可逆的なオレンジ色への色変化が見られました。また、TiやFeを含むパープルの合成コランダムは、褪色はするものの、なかなか再活性しない半安定的なオレンジ色の変化が見られました。最後に高濃度Crのみを含む合成コランダムはガンマ線照射に不活性でした。最後に、ガンマ線照射で色の変化が認められたサンプルは、穏やかな熱処理を施すことで元の色へ戻すことができました。結論として、コランダムにおけるガンマ線照射の影響は複雑であり、検出に課題があるものの、褪色試験、活性化試験前後でのUV-Vis-NIRの分光法による色変化を追うことは、高い診断可能性が期待できるとしました。

Low Temperature Heat Treatment of Madagascar Sapphire (マダガスカル産サファイアの低温加熱処理)

タイ、Lotus GemologyのE. Billie Hughesがマダガスカル産サファイアの低温加熱処理とその検出可能性について発表を行いました。本研究は1200℃未満の低温加熱処理がマダガスカル産のブルー・サファイアに与える影響を調査し、加熱処理の検出に役立つ特徴を明らかにすることが目的です。12点のマダガスカル産ブルー・サファイアを800℃から1500℃で段階的に加熱しました。色変化に関しては900~1000℃で色は明るくなりましたが1300℃以降で濃色化、1500℃で多くの試料が著しく濃い色に変化しました。インクルージョンに関しては800℃で結晶インクルージョン中に亀裂が出現しはじめ、1100℃でその亀裂の縁が癒合しはじめることを観察しました。蛍光反応は1100℃でチョーキーな青色蛍光が出現しはじめ、1100℃で石全体に広がります。最後に1500℃に加熱後、880 nm付近に新たな吸収ピークが出現しています。低温加熱でも、色・包有物・蛍光・スペクトルに変化が生じ、低温加熱の看破にはインクルージョン、蛍光、分光データの複合的アプローチが有効であることを示しました。

Geographic Origin Determination of Natural Yellow Sapphires: The Preliminary Study (天然イエローサファイアの原産地鑑別:予備調査)

タイ、GITの研究者Montira Seneewong-Na-Ayutthaya氏がイエローサファイアの原産地鑑別についての発表を行いました。イエローサファイアの原産地鑑別は、従来のインクルージョン観察だけでは限界があり、より精度の高い判別方法が望まれています。本研究では151点(スリランカ、マダガスカル、タンザニア、タイ; すべて加熱処理、タイ産はBe拡散加熱処理されている)のイエローサファイアを用い、ラマン分光、紫外可視吸収スペクトル、LA-ICP-MS分析を用いて原産地鑑別の可能性を調査しました。顕微鏡による拡大特徴として、スリランカ産のイエローサファイアは、ジグザグ状のフィンガープリント、CO2を含むネガティブクリスタル、アパタイト、グラファイトといったインクルージョンが確認されました。また、マダガスカル産は丸いジルコン、ルチルの針、マイカが観察され、タンザニアはヘマタイトのシルク、ローズチャンネルが観察されました。タイ産は、高温処理による分離結晶、ブラウンのパーティクル、長石、ブルーのゾーンが確認されました。紫外可視吸収スペクトルにおいては、スリランカ産以外の産地はFe3+の濃度が高く、378、387、450 nmに吸収が確認されます。元素濃度に関しては、Feの濃度が各産地で異なり、Mg、Cr、Feを用いたプロット図で産地毎のクラスター分離が可能です。結論として、イエローサファイアの原産地鑑別は、Mg、Cr、Feの濃度と、インクルージョン観察が信頼の高い判別法として有望だと締めくくりました。

Challenges in the Detection of Ruby and Sapphire Treatment in the Thai Market (タイ市場におけるルビーとサファイアの処理における処理検出への挑戦)

タイ、GITの研究者Supparat Promwongnan氏が、タイ市場に流通するルビー、サファイアに施されている処理とその看破方法について発表を行いました。ルビー、サファイアの処理の検出は、市場価値、倫理的開示、消費者信頼に直結する重要な課題ですが、近年の処理技術の高度化により判別困難なケースが増加しています。現在流通しているルビー、サファイアに程される処理には、加熱処理、フラックス加熱、拡散加熱(Be, Ti, Cr)、ガラス充填、高温高圧処理、オイル・樹脂充填、染色、放射線照射といったものがあり、多岐に渡ります。それらの看破には、顕微鏡観察(インクルージョンの変化、フラックス残留等)、FTIR(加熱由来の吸収帯)、ラマン分光(ゲーサイトからヘマタイトへの変化等)、EDXRFおよびLAICPMS(Be、Pb、Ba、Biといった元素検出)、LIBS(Beの検出)、蛍光(加熱によるシルク変化やUV応答の違い)といった技術が使われています。現状直面している検出仮題としては、(1)低温加熱処理: インクルージョン変化が少なく、スペクトルによる特徴も不明瞭、(2)玄武岩起源のコランダム: 自然の熱によりうけた加熱と人工加熱の区別が困難な場合がある、(3)ガラス充填: 高透明度により亀裂が隠れ、X線や化学分析が必要な場合がある、(4)表面拡散処理: 色が表面に集中しすぎているため、液浸観察と化学分析が不可欠、(5)放射線照射: 色安定試験は可能だが、処理自体の検出は未確立、(6)オイル充填: 低粘度・無色のオイルは検出が難しく、複数技術の併用が必要、といったものがあります。結論として、処理の検出には複数の分析技術の組み合わせが不可欠で、処理技術の進化に対応するため、継続的な研究・手法開発・ラボ間の連携が重要だとしました。

Nitrogen aggregates in yellow HPHT and CVD synthetic diamonds (黄色HPHTおよびCVD合成ダイヤモンドにおける窒素集合体)

ロシア、モスクワ大学のYuri Shelementyev教授がイエローのHPHTおよびCVD合成ダイヤモンドにおける窒素凝集体について発表を行いました。N3センター(415 nm)は従来、天然ダイヤモンドの指標とされていましたが、今では合成石にも出現しています。天然ダイヤモンドにおけるN3センターは地質学的な時間をかけ形成されていますが、合成石においては、照射+アニーリングにより生成することが可能です。本研究では、イエローのHPHT合成ダイヤモンドとCVD合成ダイヤモンドに照射、アニーリングする実験を行いました。電子線照射処理を行った結果、GR1センター(741 nm)の出現を確認しました。また、1800℃によるアニーリングの結果、N3センターの出現をCVD合成、H3センター(503 nm)の出現をHPHT合成ダイヤモンドから確認しました。結論としてN3センターは合成ダイヤモンドでも形成可能であり、鑑別には注意が必要で、フォトルミネッセンス分析とFTIRの組み合わせが有効な鑑別手段となります。