CGL通信 vol73 「エチオピア産 “パライバ・トルマリン” の予察的研究」
リサーチ室 江森健太郎・北脇裕士
エチオピア産の “パライバ・トルマリン” と称される青色〜緑色の原石26個を検査した。その結果、EDXRF分析ではすべての試料から 銅(CuO)0.336%〜4.025% が検出された。
さらに、UV-Vis-NIRスペクトルにおいて、700 nm付近の吸収(CuまたはFeに因る)よりも、900 nm付近の吸収(Cuに因る)がより強く現れることが確認され、パライバ・トルマリンの定義に合致することが明らかとなった。
さらに、LA-ICP-MS分析で得られた微量元素の組成および量比は、既知の ブラジル産・モザンビーク産・ナイジェリア産 のいずれとも明確に異なっており、今回調査したエチオピア産パライバ・トルマリンについては、原産地鑑別が十分に可能であることが判明した。

パライバ・トルマリンとは
パライバ・トルマリンは、1989年に宝石市場に登場した彩度が高く鮮やかな青色~緑色の銅着色のトルマリンである。
当初ブラジルのパライバ州で発見されたため、パライバ・トルマリンと呼ばれるようになったが、1990年代には隣接するリオグランデ・ド・ノルテ州からも産出されている。さらに2000年代に入って、ナイジェリアやモザンビークなどのアフリカ諸国からも同様の含銅トルマリンが産出されるようになった。現在では、原産地に関係なく、銅が主たる原因の青色~緑色のトルマリンは広義でパライバ・トルマリンと呼ばれている。
経緯
2026年6月19日の朝(日本時間)、スイスの鑑別機関であるSSEFが発信した「New source of Paraíba tourmalines reportedly discovered in Ethiopia」というプレス・リリース(文献-1)を受信した。スイスとはー7時間の時差があるため、現地時間では18日の夕方に配信されたものと思われる。このプレス・リリースによると、エチオピアから新たな銅含有のトルマリン鉱床が発見されたというニュースがあり、ちょうどその頃からSSEFにパライバ・トルマリンの鑑別依頼が増えたという。その中にはエチオピア産の可能性はあるものの、ブラジル産と区別がつかないものがあるという内容であった。
このニュースは、瞬く間に国内外の業界関係者の間を駆け巡り、昨今のインターネットやSNSを通じた情報拡散のスピード感とパライバ・トルマリンへの関心の高さを改めて思い知らされた。
パライバ・トルマリンの原産地鑑別を行っている我々にとっては、プレス・リリースにある「エチオピア産のパライバ・トルマリンはブラジル産との識別が困難かもしれない」という内容に少なからずの衝撃を受け、早急に調査を進める必要性を強く感じた。
6月20日、業界関係者を通じて、海外の研究者が行った3個のエチオピア産パライバ・トルマリンのEDXRFによる分析結果を入手した。3個ともに銅(Cu)を含有していたが、ブラジル産のパライバ・トルマリンには通常含有されていない相当量の鉛(Pb)が検出されていた。
6月23日、さらに10個の分析データを追加入手できた。これらには銅(Cu)が0.5~1.5%含有されており、微量の鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)が検出されていた。これらの微量元素の組み合わせと含有量は、明らかにブラジル産と異なるものであった。
6月25日、国内の業界関係者より、エチオピア産とラベリングされた2個の青色石の分析依頼があった。見た目には深みのある緑味があり、SNSなどに投稿されたエチオピア産の原石写真と似た色調のものであった。LA-ICP-MS分析を行ったところ、ブラジル産との区別ができなかった(後に依頼者よりエチオピア産ではない可能性が示唆された)。
6月27日、フィールド・ジェモロジストとして著名なVincent Pardieuが自身のインスタグラムに「First examinations on paraiba and other copper-bearing tourmalines from Abuloo, Echiopia」という報告文(文献-2)をアップした。これは、Vincent氏の主導のもと、C. Dunaigre Consulting GmbH と Laboratoire Français de Gemmologie(LFG)が共同で実施した、エチオピア産銅含有トルマリン21個の分析結果である。これによると、Abloo(アブロ)産の銅含有トルマリンは、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn) の濃度が大きく変動する極めて多様な化学組成を示す。銅(Cu) が主要発色要因の石はパライバと呼べる一方、鉄(Fe )優勢の石は通常の青色トルマリンもしくはインディコライトとなる。また、全試料でガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)が比較的高濃度で検出され、産地識別の有望な指標となる可能性が示された。
7月1日、DSEFドイツ宝石研究所が自社のウェブサイトに「Cuprian tourmalines from Ethiopia」の報告分(文献-3)を掲載した。エチオピアのアブロ付近で採掘されたトルマリン50個ほどが6月24日にDSEFに到着し、それらを分析した結果、多くはパライバ・トルマリンと呼べるものであったが、一部はそうではなかった。パライバと呼べるものは、ブラジル産と比較してカルシウム(Ca)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)の濃度が高く、一部の標本では、希土類元素によって誘発されたと考えられるフォトルミネッセンスも観察された。
7月4日、Africa Gemological Training Institute(AGTI)のHaimanot Sisay氏による「Field Report to Paraiba Tourmaline Rush Near Abuloo, Ethiopia」(文献-4)が公開された。これによると、Haimanot氏がエチオピアでのパライバ・トルマリンの発見について知ったのは2026年5月25日のことであった。その頃、エチオピア産のパライバ・トルマリンの存在はアジスアベバの宝石業界で広く知られるようになり、6月上旬までにタイ、ドイツ、スイス、ブラジル、スリランカ、インドなどから多くの国際的なバイヤーがアジスアベバやHawassa(アワッサ)を訪れるようになっている。さらにこのレポートでは、実際の採掘現場であるAbloo(アブロ)を訪れ、3000人以上の現地人が熱狂の下、採掘と売買を行っている様子が述べられている。
サンプルおよび分析手法
本誌既報のとおり、パライバ・トルマリンの調査のためエチオピアを訪れた酒巻氏・岡部氏・亀山氏から提供された原石8個(0.06ct〜1.03ct、図1左)に加え、エメラルドやオパールなどエチオピア産宝石の輸入実績をもつディーラーより研究用として提供されたトルマリン原石18個(0.46ct〜8.31ct、図1右)、合計26個を対象として検討を行った。分析をするにあたり、25個は1面鏡面研磨、1個はファセットカットされた。


下: 別のディーラーから研究用として提供された原石18個)
酒巻氏らは現地にて、380〜1000 nmの測定が可能な簡易型分光計を用い、700 nmおよび900 nm付近の吸収の深さを基準に、パライバ・トルマリンと見なせる可能性のある試料(文献-4)を選別している。そのため、既報の文献で示されている鉄タイプのトルマリンは今回の試料群には含まれていないと考えられる。また、別のディーラーから提供された試料についても、事前にパライバ・トルマリンであることが確認されていたようである。
これらの試料について、UV-Vis-NIRスペクトル測定と蛍光X線分析およびLA-ICP-MS分析を行った。UV-Vis-NIRスペクトルの測定には、日本分光製V650 を用いて分析範囲は220 nm‒1100 nm、バンド幅2.0nm、分解能0.5nm、スキャンスピード400nm/min で室温にて測定を行った。蛍光X線分析には日本電子製JSX-1000Sを用いて管電圧30kV、メータ2.000mm、ライブタイム30sで行った。LA-ICP-MS分析には、Laser Ablation装置としてESI NWR-213を、ICP-MS装置としてAgilent 7900rbを用いた。分析に用いた条件は表1の通りである。NIST610を標準試料として用い、それぞれのサンプルにつき4点ずつ分析を行い、元素プロッティング、線形判別分析(LDA, Liner Discriminant Analysis)を用いたグルーピングを行った。

結果
UV-Vis-NIRスペクトル:今回分析したサンプルから得られた典型的なUV-Vis-NIRスペクトルを図2に示す。検査したすべてのサンプルにおいて、700 nm付近の吸収帯よりも900 nm付近の銅(Cu)に由来する吸収帯が強く認められた。この特徴から、今回の試料が銅の含有によって着色されたパライバ・トルマリンであることが再確認された。

蛍光X線元素分析: 蛍光X線元素分析の結果、すべてのサンプルから銅(CuO)が検出され、その濃度は実測値で0.336〜4.025 wt%と非常に広い範囲を示した。一方、鉄(FeO)は0.02〜1.57 wt%、マンガン(MnO)は0.47〜1.75 wt%であり、鉄およびマンガンが銅濃度を上回るサンプルは存在しなかった。特筆すべき点はガリウム(Ga₂O₃)と鉛(PbO)の濃度である。Ga₂O₃は0.085〜0.182 wt%、PbOは0.053〜0.814 wt%と高い値を示し、既知産地のパライバ・トルマリンと比較しても顕著に高濃度であった。これは文献2および文献3の先行研究ともよく一致する。
LA-ICP-MS分析結果: LA-ICP-MSで得られたガリウム(Ga)および鉛(Pb)の濃度を、CGLデータベースに登録されているブラジル(バターリャ、キントス、ムルング)、ナイジェリア、モザンビーク(エルバイトのみ)のデータと比較した結果を図3に示す。各元素の濃度範囲には一部重複が見られるものの、Ga–Pbプロット上ではエチオピア産は他産地とオーバーラップせず、明確に分離した。鉛(Pb)は測定点によるばらつきが大きく、最低91.11 ppmwから最高678.98 ppmwまで幅広い値を示すものが存在したので分析の際には注意が必要である。またバナジウムの量も特徴的であり、他3つの産地と比べて高い濃度(>60 ppmw)が検出されている(図4)。


さらに、CGLデータベースの既存サンプルと今回のエチオピア産サンプルについて、分析した27元素の濃度を用いて線形判別分析を行い、判別関数によるグルーピング結果を図5に示す。このプロットからも、エチオピア産が他産地のパライバ・トルマリンと比較して特異な組成を持つことが確認できる。

まとめ
今回、エチオピア産”パライバ・トルマリン”26点について予察的研究を行った。UV-Vis-NIRスペクトルの結果、本研究で分析したサンプルは、LMHCの定めるパライバ・トルマリンの定義をすべて満たすものであった。また、EDXRFやLA-ICP-MS分析の結果、ブラジル、モザンビーク、ナイジェリアの3つの産地のデータとは含まれる微量元素濃度(GaやPb)が大きく異なり、エチオピア産の原産地鑑別が可能であることがわかった。
新たに発見されたエチオピアのアブロ産の含銅トルマリンは、二次鉱床からの産出であり、化学組成にも多様性があるとの報告もある(文献-5)。今後、今回我々が調査した結果とは異なる微量元素の組み合わせを有するものが見つかる可能性もあり、引き続きエチオピア産の含銅トルマリンに注目していきたい。
文献
1. SSEF Press Release 「New source of Paraíba tourmalines reportedly discovered in Ethiopia」, SSEF website, https://www.ssef.ch/new-source-of-paraiba-tourmalines-reportedly-discovered-in-ethiopia/
2. Pardieu,V (@vincent_pardieu) 「First examinations on paraiba and other copper-bearing tourmalines from Abuloo, Echiopia」, Instagram, https://www.instagram.com/p/DaElBi6Gvjb/?igsh=MWp0Z2d0bzltdWhnNA==
3. Claudio C. Milisenda & Jin Guo 「Cuprian tourmalines from Ethiopia」 DSEF German Gem Lab website, https://blog.dgemg.com/en/research/222-cuprian-tourmalines-from-ethiopia.html
4. LMHC Information Sheet #6 Paraiba Tourmaline, LMHC Website, https://www.lmhc-gemmology.org/wp-content/uploads/2023/06/LMHC-Information-Sheet_6_V8_2023.pdf
5. Sisay, H.(@sisayhaimanot), Field Report to Paraiba Tourmaline Rush Near Abuloo, Ethiopia, Instagram, https://www.instagram.com/p/DaYJ20cCPdL/?igsh=MWZjcnp4MGk3MDl3ZA==







