中国海南島産ブルーサファイアの特徴 宝石学会(日本)2025年オンライン講演会より

2025年9月PDFNo.70

リサーチ室 趙政皓 江森健太郎 北脇裕士

ブルーサファイアは良く知られた宝石であり、その美しい青色ゆえに古くから珍重されてきた。その産地は多く、著名なスリランカやタイなどのほか、あまり知られていない産地も多数存在している。その中、中国海南島で産出するブルーサファイアは、まだ学術的な知見が限られているが、埋蔵量が大きいため将来有望な原産地になりうると考えられている。本稿では、海南島産ブルーサファイアの地質的背景と鉱物学的特徴を調査し、他産地との比較を通じてその特性を明らかにする。
ブルーサファイアは、酸化アルミニウム(Al2O3)を主成分とする鉱物コランダムの一種で、鉄(Fe)とチタン(Ti)を含むことで美しい青色を呈する。その原産地は世界各地に分布しており、地質学的な成因により、ブルーサファイアは変成岩起源と火成岩起源の二種類に大別できる(図1)。代表的な産地として、カシミール、スリランカ、ミャンマー、マダガスカルなどは変成岩起源であり、タイ、カンボジア、オーストラリアなどが火成岩起源である。中国の山東省でも火成岩起源のブルーサファイアが産出しており、現地で関連する博物館が建設されるなど、中国の宝石業界ではよく知られている。なお、ブルーサファイアの著名な原産地についての情報はCGL通信58号「ブルー・サファイアの原産地鑑別:産地情報と鑑別に役立つ内部特徴について」に詳しく書かれている
(https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/58/101.html)。

図1. 世界各地のブルーサファイア原産地。1.ナイジェリア、2.エチオピア、3.タンザニア、4.マダガスカル、5.スリランカ、6.カシミール、7.ミャンマー、8.タイ/カンボジア、9.中国・山東省、10.オーストラリア、11.アメリカ・モンタナ州。

本文で紹介する海南島は中国の最南部に位置しており、東西約300 km、面積は四国と九州の中間程度である。交通の便の良い南国の島だけに、欧米からも観光客が多く訪れる有名なリゾート地となっており、「中国のハワイ」と呼ばれることもある。現在ではリゾート地としてだけでなく、東南アジア方面への貿易中枢とするための港湾都市開発が進められており、経済特区として中央政府からも様々な優遇政策の対象となっている。ブルーサファイアが産出する文昌市蓬莱地域は海南島の東北部に位置しており、リゾートの中心となる南部海岸地帯から離れている。当地のサファイアは明確な鉱脈が見つからず、風化した新生代アルカリ玄武岩の堆積物の二次鉱床から発見されており、火成岩起源と考えられる。

図2. 東アジアに位置する中国海南島。つるはしのシンボルでマークする場所が文昌市蓬莱地域。

 

図3. サファイアを採取できた新岭園村の郊外とその土壌。

2024年の夏頃、筆者の1人(趙)は自身の故郷である海南島に帰省した折にサファイアが採取できるという場所を訪れた。知人を通じて、新岭園という村の郊外を現地の方に案内していただいた。図3に示すように、村の周辺には畑があり、その畑や近くの道端の土壌からサファイアを採取することができる。土壌には金属光沢を持つ黒い石が多数見られた。これらについて蛍光X線分析装置で元素分析を行った結果、主成分として鉄(Fe)、チタン(Ti)、酸素(O)が検出され、イルメナイト(FeTiO3)である可能性が高い。イルメナイトは火成岩起源ブルーサファイアの包有物として一般的に見られる鉱物であり、サファイアの成因とも深い関連があると思われる。

先行研究(Wang 1988)および現地の人の話によれば、この地域のサファイアは1960年代に初めて現地の農民によって発見されたとのことだ。その後、1980年代初頭には地方政府によって商業的採掘を目的とした調査が実施され、埋蔵量が豊富で、有望な原産地になる可能性が示された。しかし、農用地の減少や環境への影響を懸念した住民らが反対し、また、上級政府からも開発の許可が下りなかったため、本格的な採掘には至らなかった。それにもかかわらず、農作業の過程などで容易にサファイアを採取できるため、将来の販売を見据えて貯える人が多くいたようである。実際、一時期タイのディーラーが現地に買取に訪れ、サファイアをタイに持ち帰って研磨・加熱などの加工が行われていたとのことである。その加工された石の一部は市場で流通していたようである。

 

図4. 現地の人が所有する石。 (左)カボションカットの石1点(加熱かどうか不明)と大きいサイズ(おそらく10 ct以上)の原石2点。 (右)ファセット加工されたジルコンとサファイア。上の赤褐色と黄緑色の2点はジルコンで、青と黄色の4点はサファイアである。ファセットカットされたサファイアは加熱処理されたもの。この他にBe拡散処理されたものもあるとのこと。

現地の人が収集したという石を図4に示した。左の写真のケースには高品質ではないがおそらく10ct以上の大きいサイズのサファイアが含まれている。右の写真のケースには、サファイアとともに採取されたジルコンも収められている。これらのサファイアはすべて加熱されたものであるが、この他にベリリウム(Be)拡散加熱処理されたものもあるという。これらの石の加工は現地ではなく、知人に頼んで海南島外で加工されたようである。カット・研磨は前述した山東省でも可能であるが、Be拡散処理は中国国内ではなく、タイで行われたとのことである。図5は筆者の1人(趙)が採取したサファイアとジルコンであり、サイズは大きくないが、風化土壌の中から比較的容易に見つけることができた。

図5. 筆者の1人(趙)が現地で採取した石。ブルーサファイア2点と赤褐色のジルコン2点である。丸く見えるのは自然風化の影響であり、加工はされていない。

 

図6. 今回のサンプルとなる現地で入手したサファイア原石4点。重量は①3.11 ct、②1.80 ct、③ 1.95 ct、④ 0.85 ct。

今回、現地で入手したブルーサファイアの原石4点について宝石学的検査を行った。サイズは、0.85~3.11 ctですべて非加熱である(図6)。これらの石は、比較的に明るい青色から黒く見えるほどの濃青色を呈する。サンプル④以外は透明度が非常に低く、特にサンプル①と③は可視光の透過率が著しく低かった。
紫外-可視反射スペクトルの測定結果により、いずれのサンプルにおいても鉄(Fe)関連の吸収が強く、火成岩起源の特徴を示していた(図7)。特に、860 nm中心のFe2+/Fe3+イオン対の強い吸収が火成岩起源を示唆する特徴である。比較のため、CGLが所有するタイ産のブルーサファイア原石のスペクトルも共に示した。両産地のサファイアは同じ火成岩起源のためスペクトルが類似している。

図7. サンプルと参照用のタイ産原石の紫外-可視反射スペクトル。青線はサンプルで、赤線はタイ産原石である。データは見やすくするためにオフセットしている。

 

図8. サンプルフーリエ変換赤外吸収スペクトル。Ti-OHとカオリナイトによる吸収が見られる。データは見やすくするためにオフセットしている。

フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FTIR)では、すべてのサンプルにおいて3309 cm-1付近のTi-OHに起因する吸収が確認された(図8)。さらに、いずれのサンプルにもカオリナイトインクルージョンによる吸収が観察された。カオリナイトの吸収自体は原産地鑑別の指標にはならないが、大抵の場合は非加熱の特徴となることが知られている。
ヨウ化メチレンに浸液し、ファイバー光を用いて拡大観察を行ったところ、クラウドによる乳白色の縞模様が確認された(図9)。この種のインクルージョンは他の火成岩起源ブルーサファイアにも見られるが、海南島産ブルーサファイアの重要な特徴の一つだと考えられる。その他、微細な液体インクルージョンや双晶面なども観察された(図10-11)。残念ながら、今回のサンプルから鉱物種を同定できる結晶インクルージョンは発見されなかった。

図9. サンプル④、③、②に見られる乳白色縞模様。

 

図10.サンプル②に見られる微小液体インクルージョン。

 

図11.サンプル④に見られる双晶面。

LA-ICP-MS·による微量元素分析の結果からも、海南島産ブルーサファイアが火成岩起源であることが裏付けられた。図12に示すGa/Mg-Feプロット図において、海南島産ブルーサファイアのプロットは他の火成岩起源ブルーサファイアと同じ領域に位置している。また、火成岩起源ブルーサファイアの中でも、ガリウム(Ga)の含有量が高いという特徴があり、他の産地からの火成岩起源ブルーサファイアと比較的良く分離できることがわかった(図13)。

図12. LA-ICP-MSによる分析結果を用いたGa/Mg-Feプロット図は変成岩起源と火成岩起源のブルーサファイアの分別によく用いられる。赤い×印が海南島産サファイアを示す。

 

図13. LA-ICP-MS分析結果を用いたFe-Gaプロットは海南島産ブルーサファイアを他の火成岩起源のブルーサファイアから比較的良く分離できる。赤い×印が海南島産サファイアを示す。

微量元素分析について、もう一つ注意すべき点がある。前述したように、海南島産ブルーサファイアは色が非常に濃い傾向があるため、青色を軽減するためにBe拡散加熱処理が施される可能性がある。そのため、加熱の兆候が見られる石についてはBeの有無を調べる必要がある。Emori et al. (2024)によると、天然起源のBeが火成岩起源サファイアのナノインクルージョンに由来すると考えられ、スリランカイトや未知の鉱物中にチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)などの元素と同時に存在すると報告されている。今回分析した海南島産ブルーサファイアは非加熱であり、Be拡散加熱処理は施されていないにもかかわらず、Beが検出され、同時にNb、Taも検出された。これらの元素の濃度が示すは線形的な相関関係は、この石に含まれるBeは天然起源であることを強く示唆する(図14)。

図14. LA-ICP-MSによる海南島産ブルーサファイアが含有するBe、Nb、Ta濃度の関係性。

海南島産ブルーサファイアは現在商業的な開発は行われていないものの、その豊富な埋蔵量によって将来的には有望な産地となる可能性が十分に秘められている。火成岩起源を示す特徴が多く認められる上、高いGa含有量などの微量元素特徴もあり、他の産地のサファイアと分離できる有効な指標は多い。また、Be拡散加熱処理される可能性も高いが、鑑別する際はBeと同時に検出されるNbやTaとの濃度関係に注意し、検出されたBeが天然起源なのか人為的な拡散により導入されたものか慎重に判断する必要がある。今後は現地での採掘状況や市場流通の進展を見据え、引き続き詳細な調査とデータの蓄積が求められる。

参考文献
  • Furui Wang. (1988). The sapphires of Penglai, Hainan Island, China. Gems & Gemology, 24(3), 155-159.
  • Guang-Ya Wang, Xiao-Yan Yu & Fei Liu. (2022). Genesis of Color Zonation and Chemical Composition of Penglai Sapphire in Hainan Province, China. Minerals, 12(7), 832.

日本鉱物科学会2025年年会・総会参加報告

2025年9月PDFNo.70

リサーチ室 北脇裕士

去る2025年9月10日(水)から12日(金)までの3日間、山口大学吉田キャンパスにて日本鉱物科学会2025年年会・総会が開催されました。Covid19の影響で2020年と2021年はオンラインでの開催のみ、2022年~2024年は現地とオンラインのハイブリッドで開催が行われました。2025年は研究交流をより活発にするためと現地LOC(Local Organizing Committee)の負担軽減のため現地開催のみとなりました。CGLリサーチ室からは筆者が参加し、口頭発表を行いました。以下に概要を報告致します。

山口市のシンボル国宝瑠璃光寺五重塔
奈良県の法隆寺と京都府の醍醐寺にある五重塔とともに日本三名塔と言われている。

日本鉱物科学会とは

日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Science、JAMS)は、鉱物や岩石およびそれらをキーワードとした様々な分野の学問の発展と普及を目的とした学術団体です。2007年に「日本岩石鉱物鉱床学会」と「日本鉱物学会」が合併して発足し、2016年に一般社団法人化しました。元々、日本岩石鉱物鉱床学会では、岩石学、鉱物学,鉱床学,およびこれらと密接に関連した諸科学の発展と普及を目的とした研究等が行われておりました。また、日本鉱物学会は、元来、日本地質学会の一部として活動をしておりましたが、鉱物学のさらなる進歩・発展のため、日本地質学会から独立をし、鉱物学の基礎的テーマに加え、鉱産資源やセラミックスに代表される無機材質など応用分野での最先端の課題や社会的テーマにも取り組んできました。日本岩石鉱物鉱床学会と日本鉱物学会の合併により、学術雑誌(和文誌・英文誌)の刊行や研究集会の開催などの学会活動の拡充や、学術領域の拡大が進められてきました。年に1度の年会(成果発表会)では、地球外物質や火山、環境問題など、従来の岩石学・鉱物学の分野を超えた様々な視点からの討論が繰り広げられています。そのほか、講演会や一般普及を目的としたイベントや行事の企画・開催にも力をいれています。2016年10月の一般社団法人化以降の年会・総会は、2017年愛媛大学、2018年山形大学、2019年九州大学で開催されました。2020年は東北大学、2021年は広島大学で開催が計画されていましたが、Covid-19の影響でオンラインのみでの開催となりました。2022年は新潟大学、2023年は大阪公立大学、2024年は名古屋大学でそれぞれ現地とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。そして2025年は山口大学で現地開催のみとなりました。

山口大学山口地区吉田キャンパス正門

 

正門に掲げられた教育理念

山口大学は、長州藩士「上田鳳陽」によって、1815年に創設された私塾「山口講堂」を起源とし、明治・大正期の学制を経て、1949年に地域における高等教育および学問研究の中核たる新制大学として創設されました。2015年には山口講堂の創設から創基200周年を迎えています。山口大学は9学部、8研究科を擁し、学生1万人以上が在籍する基幹総合大学です。「発見し・はぐくみ・かたちにする 知の広場」を理念として、地域の知の拠点として、地方創生に貢献しています。また、明治維新を成し遂げた、新たな世界へのチャレンジ精神を受け継ぎ、12万人以上の卒業生が全国各地、世界各国の幅広い分野で活躍しています。

山口大学は山口地区の吉田キャンパスの他に宇部地区には医学部と工学部が、光地区には教育部の付属小学校と中学校があります。
今回会場となった吉田キャンパスには新幹線の新山口駅から山口線に乗り換え6つ目の湯田温泉駅が最寄り駅となります。駅からは徒歩でも可能ですが、バスで15分ほどの距離感です。
山口市は山口県のほぼ中央に位置し、西の京と呼ばれています。アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が発表した「2024年に行くべき52カ所」で、世界各地の旅行先の中で日本から唯一山口市が選ばれ3位となりました。 記事内では、国宝瑠璃光寺五重塔(香山公園)や陶芸工房、コーヒーショップ、郷土料理をカウンターで提供する店、湯田温泉が挙げられています。湯田温泉はけがをした白狐が傷を癒していたという伝説が伝わることから「白狐の湯」とも呼ばれ、街のあちこちに白狐をモチーフにしたオブジェがあります。幕末には高杉晋作や伊藤博文等の維新志士たちが逗留した地としても知られています。

湯田温泉駅前の巨大な白狐のモニュメント

講演会について

2025年の年会は、吉田キャンパスの共通教育棟において8つのレギュラーセッション(R1-R8)と3つのスペシャルセッション(S1-S3)に分かれて3日間行われました。R1の「鉱物記載・分析評価「のセッションは宝石学会(日本)と、R7の「岩石・鉱物・鉱床」のセッションは資源地質学会と、S1の「火成作用のダイナミクス」のセッションは日本火山学会とそれぞれ共催です。筆者は2010年の島根大学で行われた年会から参加しており、2011年の年会からはR1のセッションでの口頭発表を継続しています。R1の「鉱物記載・分析評価」のセッションは、鉱物の記載・評価およびそれらを可能にする分析手法に関する研究が対象です。鉱物の様々な特徴(産状・形態・内部組織・結晶構造・組成・流体包有物・固相包有物・結晶欠陥など)、新鉱物記載、宝石鑑別、およびそのための鉱物の分析手法・解析手法の開発についての発表が募集されています。2020年以降、宝石学会(日本)と共催セッションとなり、宝石学会(日本)の会員もこのセッションへの参加が可能となりました。筆者も微力ながらコンビーナーとしてこのセッションの運営に協力しています。

講演会の会場となった共通教育棟

 

会場への案内板

今年のR1セッションには14件の口頭発表と19件のポスター発表がありました。これらの内、宝石学会(日本)の会員は3件の口頭発表と1件のポスター発表を行いました。以下に宝石学会(日本)会員の発表内容を紹介します。
神田久生氏は「アポフィライトの条線について」という演題で、アポフィライトの条線が劈開面に直角なのはなぜかという疑問を自身の合成ダイヤモンドの製造経験を踏まえて口頭発表されました
筆者は「IIb型とI型(ホウ素と窒素のカラーセンタ)が混在する特異な天然ダイヤモンド」という演題で口頭発表を行いました。Ⅱb型は本来窒素のないⅡ型の中でもホウ素を含有することで電気伝導を有するものですが、赤外分光においてホウ素と窒素が共存するダイヤモンドを分析した結果を報告しました。
阿依アヒマディ氏は「ジンバブエ産天然ダイヤモンドの特徴及び成長環境についての考察」という演題で口頭発表されました。2000年以降、ジンバブエクラトンからダイヤモンドが発見され、マランゲとムロワ地域から採掘されています。特にマランゲからは六八面体の自然放射線を強く蒙った暗緑色から黒色のものを多く産出しています。
川崎雅之氏が「群馬県南牧村の鉱物」についてポスター発表をされていました。南牧村中西部の砥沢附近にはデイサイト質斑岩(砥沢岩体)が貫入しており、これに伴う熱水活動により生成したと考えられる自然金、輝安鉱、鶏冠石など多くの鉱物が紹介されました。

賑わいを見せたポスターセッションの様子

総会および受賞講演について

総会は2日目の朝9時より大会場にて行われました。総会は定足数 (会員859名の10分の1)以上が必要となりますが、今回の総会は当日参加者98名、オンライン8名(総会はオンライン参加が可能)、委任状26名と定足数を超え、無事成立となりました。総会に先立ち物故会員への黙祷が捧げられ、広島大学の井上徹会長の挨拶の後、2024年度の事業報告、2025年度の事業計画、収支予算が報告され、決議事項を経て無事終了しました。報告事項の和文誌:岩石鉱物科学(GKK)編集報告の中で鉱物名の表記についての説明がありました。宝石学における鉱物名表記の指針となると思われますので紹介します。「現在、鉱物の正式な和名は決定されておらず、決定する機関もないことが問題提起された。もともと理科の教科書で表記が統一されていないという問題があり、GKKとしての方針も決まっていなかったことから、まずはGKKの方針を決定した。近日中に鉱物の和名表記ルールを投稿規定に追記予定である。また鉱物の正式な和名をどのように決定するかについて議論された結果、新鉱物国内委員会のメンバーに、理事会のメンバーを数名加えたWGを立ち上げることが承認され、今後の方針を議論していくこととなった。議論の結果、鉱物名の表記は、以下の方針に従うことを推奨する。本文中では、初出時に和名と英語名を併記する。以降は英語名の使用を避け、和名を用いる。広く使用されている和名が存在する場合は、原則として漢字表記を用いる。漢字が読みづらいと判断される場合は、ひらがなでの表記も可とする。和名が存在していても広く使用されていない場合、または漢字表記がない場合、あるいは和名が存在しない場合は、名前の由来になった原語の発音に近い片仮名表記を用いることを基本とする。なお、通称や別称の使用は避ける。また,本文中では鉱物名の表記を統一し、異なる表記の混在は避ける。」

大会場で行われた総会の様子

総会の後、小休憩を挟んで授賞式および受賞講演が行われました。授賞式では、日本鉱物科学会賞、渡邉萬次郎賞、日本鉱物科学会論文賞、日本鉱物科学会研究奨励賞、日本鉱物科学会応用鉱物科学賞、櫻井賞、JMPS学生論文賞の各賞が授与されました。各受賞者が登壇され、井上会長より授賞理由が述べられ栄誉が称えられました。
各賞は研究内容や提出された論文が審査の対象となりますが、渡邉萬次郎賞は長年の鉱物科学に対する功績が称えらえます。第41回の受賞者は周藤賢治永年会員で、長年にわたる岩石学、特に火成岩岩石学の研究により日本海拡大のテクトニクスの確立に大きく貢献したこと、学生指導など研究教育にも多大な貢献をしたことが授賞理由となっています。筆者は周藤永年会員が新潟大学在職29年間の間にご指導いただいた49名の卒業生の第一期生となります。先生の学問に対する情熱と厳しさは生涯忘れることができません。この度の受賞を心よりうれしく思っております。

渡邉萬次郎賞を受賞された周藤賢治永年会員(右)
と井上徹会長(左)

授賞式に引き続いて各賞受賞者による受賞講演が4件行われました。日本鉱物科学会賞第31回受賞者の富岡尚敬会員(海洋研究開発機構高知コア研究所)による「高温高圧下における惑星物質の相転移と変形の挙動解明」、日本鉱物科学会賞32回受賞者の宇都宮聡会員(九州大学大学院理学研究院化学部門)による「福島第一原発事故で放出された高濃度放射性セシウム含有微粒子に関する先導的研究」、日本鉱物科学会研究奨励賞第37回受賞者の大柳良介会員(国士館大学理工学部理工学科)による「沈み込み帯や海洋底における岩石―水相互作用プロセスの解読」、則竹史哉会員(山梨大学大学院総合研究部)による「原子モデルに基づくけい酸塩溶融体の粘性支配因子の解明」の発表がありました。

毎年開催される日本鉱物科学会年会では、最先端の鉱物科学に関する研究が発表されています。宝石学は鉱物学と密接な関係があり、このような学術会議に参加・聴講することで最先端の知識を得られる他、普段接する機会が少ない研究者の方々と交流を深め、宝石学の研究を進めるため新たな活力を得ることができます。CGLリサーチ室からも毎年日本鉱物科学会年会に参加して研究発表を行っています。
鉱物科学会年会での研究発表は毎年10以上のセッションに分かれて行われますが、R1の「鉱物記載・分析評価」のセッションは宝石学会(日本)と共催となっています。宝石学会(日本)の会員であれば一般会員としてR1セッションに参加(講演を含む)可能です。
次年度の鉱物科学会年会・総会は2026年9月24日(木)~9月26日(土)東京大学で開催される予定です。R1セッションでは宝石学関連の招待講演も検討されています。日本鉱物科学会の年会は鉱物科学と宝石学を繋ぐ貴重な機会となっています。宝石学会(日本)の会員の方々にもぜひ参加をしていただきたいと思います。

CGLにおける色石の原産地鑑別

2025年9月PDFNo.70

CGLでは現在「コランダム」と「パライバ・トルマリン」「エメラルド」の原産地鑑別サービスを行っており、2025年11月より新たに「アレキサンドライト」の産地鑑別の受付も開始予定です。原産地鑑別サービスは、通常の鑑別書に加え、分析結果報告書を付随させるという形で提供させていただいています。
原産地についての結論は、中央宝石研究所が保有する既知の標本およびデータベースとの比較、現時点での継続的研究の成果および文献化された情報に基づいて引き出されたものです。このレポートに記した地理的地域は、検査した宝石の出所を保証するものではなく、最も可能性の高いとされる起源を記述した中央宝石研究所の意見です。いくつかの産地においては極めて類似した特徴を示すことがあり、特定の産地を記述できないケースもあります。また、記述された産地は宝石の品質や価値を示唆するものでもありません。
また、原産地の鑑別にはLA-ICP-MS分析を必要とする場合があり、LA-ICP-MS分析同意書が必要となります。

◆アレキサンドライトの原産地鑑別NEW

アレキサンドライトはクロム(Cr)を含有し、変色効果を有するクリソベリルの変種です。変色効果はアレキサンドライトの一番の特徴であり、太陽光下では寒色(緑色系)、白熱灯下では暖色(赤色系)を呈します。そのため、「昼はエメラルド、夜はルビー」とも言われ、独特な美しさを有する希少な宝石です。アレキサンドライトの原産地鑑別は2025年11月より開始します。通常の宝石鑑別書に加え、原産地を記載した分析報告書が付属します。

(アレキサンドライトの原産地鑑別は、CGL通信69号「アレキサンドライトの原産地鑑別」/https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/69/123.html)に詳しく書かれています)

記載可能な産地(例):
ブラジル、ロシア、インド、スリランカ、タンザニア、マダガスカル

アレキサンドライトの産地鑑別レポート

◆コランダムの原産地鑑別

ルビー、ブルーサファイアの原産地鑑別は、「非加熱コランダムレポート」サービスに追加する形で行っております。「非加熱コランダムレポート」サービスでは通常の宝石鑑別書に加え、そのコランダムが加熱されていない(非加熱)か、加熱されているかを示した分析報告書が付随します。
原産地鑑別の結果は、この分析報告書に記載することが可能となっております。

記載可能な産地(例)
ルビー: ミャンマー、ベトナム、モンザビーク、マダガスカル、スリランカ、タンザニア、タイ、カンボジア、タジキスタン、グリーンランド、等
ブルーサファイア:スリランカ、ミャンマー、マダガスカル、カシミール、タイ、カンボジア、ナイジェリア、タンザニア、オーストラリア、モンタナ、等

原産地の記載は原則国名ですが、伝統的な通称名がある場合はその限りではありません。
例:モンタナ、カシミール、東アフリカなど

非加熱コランダムレポートに原産地を記載した分析報告書

◆エメラルドの原産地鑑別

エメラルドの原産地鑑別につきましては通常の宝石鑑別書に加え、原産地を記載した分析報告書が付属します。エメラルドノンオイルレポートを用いる場合は、ノンオイルレポート(分析報告書)に原産地を記載します。

記載可能な産地(例):
コロンビア、ザンビア、ブラジル、ロシア、エチオピア、ナイジェリア、ジンバブエ、マダガスカル、パキスタン、アフガニスタン等

エメラルドの産地鑑別レポート

 

エメラルドの産地鑑別レポート+ノンオイルレポート

◆パライバ・トルマリンの原産地鑑別

現在、パライバ・トルマリンは、銅が主たる色の原因であるブルー~グリーンの宝石トルマリンのことを言い、ほとんどがエルバイト・トルマリンです(一部リディコータイト)。パライバ・トルマリンの産出当初、原産地はブラジルに限定されていましたが、現在ではナイジェリア、モザンビークにおいても同様のトルマリンが産出されています。
パライバ・トルマリンの名称は、分析報告書に限定されており、原産地鑑別はパライバ・トルマリン分析報告書に追加で記載する形を取っています。

記載可能な産地(例)
ブラジル、モザンビーク、ナイジェリア

パライバ・トルマリンの原産地記載付き分析報告書

◆LA-ICP-MS分析とは

宝石鉱物は母岩や産出環境といった地質学的な環境情報を保持しています。宝石鉱物の構成成分を分析することは、その母結晶の地質環境、産状を特定することに繋がるため、原産地鑑別における重要な情報となります。
LA-ICP-MSはLA(レーザーアブレーション)装置とICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)の2つの装置を組み合わせた分析装置です。LAは宝石にレーザー光を照射し、そのエネルギーで宝石の極微小領域を微粒子化する装置です。ICP-MSはLAで生成された微粒子を、約9,000Kに達するプラズマをイオン化源として測定する
質量分析器です。蛍光X線元素分析装置では測定不可能なLi(リチウム)、Be(ベリリウム)といった軽元素の測定ができる他、非常に高感度(数百ppb~)の分析能力を有します。
CGLではLA-ICP-MSを用いて依頼されたサンプルの微量元素含有量を分析し、原産地毎の微量元素データベースと比較することで原産地鑑別に役立てています。
LA(レーザーアブレーション装置)で分析する際、宝石のガードル部分に55 mmの分析痕が残ります(右写真参照)。これは日本人女性の平均的な髪の毛の細さ80 mmよりも細く、宝石を扱う際によく用いられる10倍のルーペでは発見が困難なサイズとなります。

CGLで使用しているLA-ICP-MS。NWR213 (LA)+Agilent 7900rb (ICP-MS)

 

ブルーサファイアのガードルにおけるLA-ICP-MS分析痕