CGL通信 vol70 「CGLにおける色石の原産地鑑別」

CGL通信


CGL通信 vol70 「CGLにおける色石の原産地鑑別」

2025年9月PDFNo.70

CGLでは現在「コランダム」と「パライバ・トルマリン」「エメラルド」の原産地鑑別サービスを行っており、2025年11月より新たに「アレキサンドライト」の産地鑑別の受付も開始予定です。原産地鑑別サービスは、通常の鑑別書に加え、分析結果報告書を付随させるという形で提供させていただいています。
原産地についての結論は、中央宝石研究所が保有する既知の標本およびデータベースとの比較、現時点での継続的研究の成果および文献化された情報に基づいて引き出されたものです。このレポートに記した地理的地域は、検査した宝石の出所を保証するものではなく、最も可能性の高いとされる起源を記述した中央宝石研究所の意見です。いくつかの産地においては極めて類似した特徴を示すことがあり、特定の産地を記述できないケースもあります。また、記述された産地は宝石の品質や価値を示唆するものでもありません。
また、原産地の鑑別にはLA-ICP-MS分析を必要とする場合があり、LA-ICP-MS分析同意書が必要となります。

◆アレキサンドライトの原産地鑑別NEW

アレキサンドライトはクロム(Cr)を含有し、変色効果を有するクリソベリルの変種です。変色効果はアレキサンドライトの一番の特徴であり、太陽光下では寒色(緑色系)、白熱灯下では暖色(赤色系)を呈します。そのため、「昼はエメラルド、夜はルビー」とも言われ、独特な美しさを有する希少な宝石です。アレキサンドライトの原産地鑑別は2025年11月より開始します。通常の宝石鑑別書に加え、原産地を記載した分析報告書が付属します。

(アレキサンドライトの原産地鑑別は、CGL通信69号「アレキサンドライトの原産地鑑別」/https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/69/123.html)に詳しく書かれています)

記載可能な産地(例):
ブラジル、ロシア、インド、スリランカ、タンザニア、マダガスカル

アレキサンドライトの産地鑑別レポート

◆コランダムの原産地鑑別

ルビー、ブルーサファイアの原産地鑑別は、「非加熱コランダムレポート」サービスに追加する形で行っております。「非加熱コランダムレポート」サービスでは通常の宝石鑑別書に加え、そのコランダムが加熱されていない(非加熱)か、加熱されているかを示した分析報告書が付随します。
原産地鑑別の結果は、この分析報告書に記載することが可能となっております。

記載可能な産地(例)
ルビー: ミャンマー、ベトナム、モンザビーク、マダガスカル、スリランカ、タンザニア、タイ、カンボジア、タジキスタン、グリーンランド、等
ブルーサファイア:スリランカ、ミャンマー、マダガスカル、カシミール、タイ、カンボジア、ナイジェリア、タンザニア、オーストラリア、モンタナ、等

原産地の記載は原則国名ですが、伝統的な通称名がある場合はその限りではありません。
例:モンタナ、カシミール、東アフリカなど

非加熱コランダムレポートに原産地を記載した分析報告書

◆エメラルドの原産地鑑別

エメラルドの原産地鑑別につきましては通常の宝石鑑別書に加え、原産地を記載した分析報告書が付属します。エメラルドノンオイルレポートを用いる場合は、ノンオイルレポート(分析報告書)に原産地を記載します。

記載可能な産地(例):
コロンビア、ザンビア、ブラジル、ロシア、エチオピア、ナイジェリア、ジンバブエ、マダガスカル、パキスタン、アフガニスタン等

エメラルドの産地鑑別レポート

 

エメラルドの産地鑑別レポート+ノンオイルレポート

◆パライバ・トルマリンの原産地鑑別

現在、パライバ・トルマリンは、銅が主たる色の原因であるブルー~グリーンの宝石トルマリンのことを言い、ほとんどがエルバイト・トルマリンです(一部リディコータイト)。パライバ・トルマリンの産出当初、原産地はブラジルに限定されていましたが、現在ではナイジェリア、モザンビークにおいても同様のトルマリンが産出されています。
パライバ・トルマリンの名称は、分析報告書に限定されており、原産地鑑別はパライバ・トルマリン分析報告書に追加で記載する形を取っています。

記載可能な産地(例)
ブラジル、モザンビーク、ナイジェリア

パライバ・トルマリンの原産地記載付き分析報告書

◆LA-ICP-MS分析とは

宝石鉱物は母岩や産出環境といった地質学的な環境情報を保持しています。宝石鉱物の構成成分を分析することは、その母結晶の地質環境、産状を特定することに繋がるため、原産地鑑別における重要な情報となります。
LA-ICP-MSはLA(レーザーアブレーション)装置とICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)の2つの装置を組み合わせた分析装置です。LAは宝石にレーザー光を照射し、そのエネルギーで宝石の極微小領域を微粒子化する装置です。ICP-MSはLAで生成された微粒子を、約9,000Kに達するプラズマをイオン化源として測定する
質量分析器です。蛍光X線元素分析装置では測定不可能なLi(リチウム)、Be(ベリリウム)といった軽元素の測定ができる他、非常に高感度(数百ppb~)の分析能力を有します。
CGLではLA-ICP-MSを用いて依頼されたサンプルの微量元素含有量を分析し、原産地毎の微量元素データベースと比較することで原産地鑑別に役立てています。
LA(レーザーアブレーション装置)で分析する際、宝石のガードル部分に55 mmの分析痕が残ります(右写真参照)。これは日本人女性の平均的な髪の毛の細さ80 mmよりも細く、宝石を扱う際によく用いられる10倍のルーペでは発見が困難なサイズとなります。

CGLで使用しているLA-ICP-MS。NWR213 (LA)+Agilent 7900rb (ICP-MS)

 

ブルーサファイアのガードルにおけるLA-ICP-MS分析痕