CGL通信 vol71 「GIT2025 参加報告」
リサーチ室 江森健太郎
2025年9月8日(月)、9日(火)にThe 8th International Gem and Jewelry Conference(第8回国際宝石・宝飾品学会、通称GIT2025)がタイのバンコクで開催されました。CGLからは筆者が参加し、発表を1件行いました。また、9月5日(金)~7日(日)に先立って開催されたPre Conference Excursion(会議前の巡検)にも参加しましたので、あわせて以下に概要を報告します。
International Gem and Jewelry Conferenceとは
International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)はGIT (The Gem and Jewelry Institute of Thailand)が主催する国際的に有数の宝飾関連学会の1つです。2006年に第1回が開催され、第2回2009年、第3回2012年、第4回2014年、第5回2016年、第6回2018年、第7回2022年と開催され、今年2025年は第8回目としてGIT2025がバンコクで開催されました。GITはLMHC(Laboratory Manual Harmonization Committee、ラボマニュアル調整委員会)に属する国際的にも著名な宝石検査機関で、CGLとは科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を諮っています。本学会はGITが主催していますが、TGJTA(タイ宝石・宝飾品協会)、CGA(チャンタブリ宝石・宝飾品協会)、チュラロンコン大学、国家商工省、鉱物資源局などが後援しており、まさに国を挙げての国際会議といえます。また、カンファレンス運営のため、組織委員会として18名、諮問委員会として14名、技術委員会として33名が結成されており、当研究所の堀川も諮問委員としてその一役を担いました。
Pre Conference Excursion
Pre Conference Excursion(会議前の巡検)は、本会議に先立って行われる巡検プログラムで、宝石・宝飾品に因んだ場所を訪れます。GIT2025のPre Conference Excursionの参加者はGITスタッフを含め40名程で、タイ最大の金鉱山であるAkara Gold Mine(アカラ金鉱山)とBaan Thong Somsamai(バーン・トーン・ソムサマイ、タイのスコータイ県における有名な金工芸工房)、Si Satchanalai Silver Jewelry (シーサッチャナーライ・シルバー・ジュエリー、同じくスコータイ県で有名な銀工芸工房)等を訪問しました。

Akara Gold Mine (アカラ金鉱山)
9月5日(金)朝7時バンコク市内集合、昼過ぎまで車で移動、バンコクから約280 km北に位置するオーストラリアの資源会社Kingsgate Consolidated Limitedの子会社であるAkara Resources Public Company Limited(以下Akara社)が運営するChatree Gold Mine(チャトリー金鉱山)へ視察に向かいました。
Chatree Gold Mineはピチット県、ペチャブン件、ピッサヌローク県にまたがる地域にあり、埋蔵量は金35,000 kg、銀280,000kgと推定されています。2016年末、地元住民やNGOが「鉱山周辺で健康被害や環境汚染が起きている」と訴え、2017年に当時の首相プラユット氏が憲法44条*を行使し、環境汚染の懸念から鉱山の操業を停止しました。しかし、科学的根拠の不十分さや透明性の欠如が国際的に問題視され、親会社Kingsgate社がタイ政府を相手に国際仲裁を申し立て、最大1200億円の損害賠償を請求しています。
2023年、政府から10年間の操業許可がおり、操業再開、2024年5月までに約77億円を投じ、機械と製錬施設をアップグレード、現在はフル稼働状態に復帰しています。仲裁問題に関しては2025年9月を目途に解決を目指していましたが、現時点では解決の報告はなされていません。
*タイの憲法44条は国家平和秩序維持評議会(NCPO)の議長(=首相)に、国家安全・秩序・経済・公共利益のために立法・行政・司法を超える権限を与える条項であり、いわゆる「超法規的措置」が可能。
また、Akara社は持続可能性と地域社会への責任を掲げ、鉱山廃棄物の再資源化等にも取り組んでいます。金の精製には水銀アマルガム法と呼ばれる水銀を使用する方法がかつて用いられていましたが、Akara社では金の精製には電気分解を用いており、水銀は使用していないとのことです。






Phra Buddha Chinnarat(プラ・ブッダ・チンナーラート)
金鉱山の視察後は、Phra Buddha chinnarat(プラ・ブッダ・チンナーラート)にお参りにいきました。これはタイ北部ピッサヌローク県、ナーン川沿いの「ワット・プラ・シー・ラッタナー・マハータート」寺院内にある高さ約3.5m、幅約2.9mの青銅製仏像で、スコータイ様式、色に輝く荘厳な姿が特徴です。Chinnarat(チンナーラート)はタイ語で勝利の王を意味し、タイ国内で最も美しい仏像ともいわれています。



Baan Thong Somsamai(バーン・トーン・ソムサマイ)訪問
タイにおいて、ゴールドジュエリーの生産は、スコータイ王朝(1238-1448)からアユタヤ王朝時代(1351-1767)まで続いた伝統的な生産物です。当時は厳格な規制がしかれていたため、ゴールドジュエリーは王族や貴族しか身に着けることができませんでした。ラタナコーシン朝(1782年~現代)の中期より、ヨーロッパや中国から商人が来て、タイで商売を始めると同時に、外国の金細工商人もタイにワークショップを設立し、定住を始めました。その結果、より自由にゴールドジュエリーが広まり、身に着けられるようになりました。スコータイに現在もゴールドジュエリーを加工、生産、販売するショップが数多くあります。9月6日(土)、その最大大手であるスコータイ県シー・サッチャナーライ地区にあるBaan Thong Somsamai(バーン・トーン・ソムサマイ)を訪問しました。こちらはゴールドジュエリーの工房兼ショールームとなっており、シンプルな道具を用い、職人が一つ一つ伝統的な技法を用いて手作業で仕上げているところに特徴があります。





Si Satchanalai Silver Jewelry (シーサッチャナーライ・シルバー・ジュエリー)訪問
スコータイ県シー・サッチャナーライ地区では、銀細工も伝統的な手工業として根付いており、その工房を1つ訪問しました。この工房は上述の金工房と比較すると小規模なものでしたが、地元産の高純度の銀を用いた手工業による彫金が行われています。模様は仏教的モチーフや自然の文様が多く、スコータイ様式の美意識が反映されています。


Si Satchanalai Historical Park (シー・サッチャナーライ歴史公園)
Sukhothai Historical Park (スコータイ歴史公園)
スコータイ県のシー・サッチャナーライ地区にあるシー・サッチャナーライ歴史公園、スコータイ歴史公園を訪問しました。この公園は1991年に「スコータイと関連する歴史都市群」の一部としてユネスコ世界遺産に登録されています。城壁内外に200以上の遺跡が点在しており、タイのスコータイ王朝(13世紀~14世紀)の歴史を感じることができます。タイのスコータイ王朝は、タイ族による初の統一国家であり、タイ文字や仏教文化の発展の中心地でした。また、シー・サッチャナーライとは「City of good people(善良な民の街)」という意味で、1250年代にスコータイ王朝第2の都市として建造され、13世紀と14世紀には皇太子の住居があったそうです。




GIT2025 Conference
本会議はバンコク市内のグランド・ハイアット・エラワンが会場となり9月8日(月)、9日(火)に行われ、世界中から300名を超える参加者が集いました。本会議は5つのセッション、
- Responsible Sourcing Jewelry, ethical, policy and good governance issue(倫理、ポリシー、ガバナンスを考慮した責任あるジュエリー製造)
- Gem and precious metal deposits, exploration, mining and trading(宝石と貴金属の産地、鉱山、トレーディング)
- Innovative Identification and Characterization(革新的な鑑別方法と特性評価)
- Innovative Identification, characterization and treatment(革新的な鑑別方法、特性評価、そして処理)
- Innovative identification, characterization and gem quality standards(革新的な鑑別方法、特性評価、宝石の評価基準)
で構成されており、2つの会場に分かれ同時進行しました。基調講演7件、招待講演15件、一般講演23件のエントリーがありました。今回は「Responsible Gem & Jewelry supply chain (責任ある宝石とジュエリーのサプライチェーン)」がテーマであり、宝石、ジュエリー産業の倫理問題やサステナビリティに関する発表が多く、基調講演はすべてこのテーマに沿ったものでした。
CGLからは筆者が「Innovative identification, characterization and treatment」のセッションで「Color origin determination of blue Akoya cultured pearl using photoluminescence(フォトルミネッセンス分析を用いたブルー系アコヤ養殖真珠の色起源の決定)」の発表を行いました。
GIT(The Gem and Jewelry Institute of Thailand)は2~3年に1度国際宝石・宝飾品学会を開催しており、次回(第9回)は2027年に開催するというアナウンスがありました。CGLとして、次回も参加し、各国の研究者たちと交流、発表を行う予定です。
以下に今回行われた発表の中から興味深かったものを一部紹介します。
(カンファレンスの要旨集はhttps://gitconference.git.or.th/en/homeからダウンロード可能です)






Gemological Characteristics of Jade Deposits in Nabire, Central Papua, Indonesia(インドネシア、中部パプア州ナビレ産ひすいの宝石学的特徴)
GITの研究者Montira Seneewong-Na-Ayutthaya氏がインドネシア中部パプア州ナビレ産ひすいの宝石学的特徴について発表を行いました。インドネシアのパプア州に位置するナビレは、豊富な鉱物資源、特に砂金採掘で知られていますが、最近、ナビレの河川流域にある伝統的な金採掘跡の廃石の中から、ひすいが発見されました。それらはプンチャック・ジャヤ近郊のウェイランド山脈周辺で発見され、約6600万年前(白亜紀)の超塩基性岩石に由来する可能性が高いと考えられています。ナビレのヒスイは、一般的に緑色が最も多く、しばしば緑がかった色調に白と濃い緑の斑点が見られます。その材質は半透明から不透明までで、粒状と繊維状の絡み合った組織を呈し、品質は中程度から低いものまで様々です。インドネシアエネルギー鉱物資源省(ESDM)による真剣な検討次第では、ナビレ産ひすいの世界の宝石市場で認知度が高くなり、地域社会に大きな経済的利益をもたらす可能性があります。本研究では、ナビレ産ひすいの宝石学的特性と化学組成について詳細な分析を行いジェイダイト、ジェイダイト-パンペリー石、オンファス輝石など、多様な鉱物組成を特定しました。
From Trace Elements to Transparent AI: Explainable Machine-Learning for Magmatic Sapphire Origin
Classification Tasnara Sripoonjan(微量元素分析から透明性の高いAIへ:マグマ関連サファイアの産地鑑別における説明可能な機械学習)
バンコクのG-ID Laboratoriesの研究者Tasnara Sripoonjan氏がAIを用いた原産地鑑別についての発表を行いました。この研究はGITとの共同研究です。サファイアの正確な原産地鑑別は、責任ある宝石の調達そして消費者の信頼において非常に重要です。LA-ICP-MS分析はケミカルフィンガープリントとして機能する正確な微量元素プロファイルを提供します。そして機械学習(Machine Learning, ML)はこれらの複雑な元素分析結果を分類するのに効果的ですが、「ブラックボックス」な性質のため、透明性が制限され、宝石学者の間での受け入れが制限され、より広範な科学的検証が妨げられています。Explainable AI(説明可能なAI、XAI)は機械学習による予測をより分かりやすくする手法です。本研究では、オーストラリア(クイーンズランド)、ナイジェリア(マンビラ)、タイ(カンチャナブリ)の3つの原産地のマグマ関連のブルーサファイアついてLA-ICP-MSを用いた元素分析と、その結果についてXAIを用いた原産地鑑別の可能性を調査しました。その結果、機械学習モデルとして堅牢性が高い(既知サンプル/テストサンプルの精度が0.93)を得ることができました。
Comparative Corundum Color Grading under Different Lighting Sources(異なる照明源を用いたコランダムカラーグレーディングの比較)
GITの研究者であるThanapong Lhuaamporn氏が、異なる照明下でコランダムのカラーグレーディングについて比較を行いました。GIT研究プロジェクトでは自然光を忠実に再現するように設計されたLED光源を用いた宝石カラーグレーディングキャビネットの研究開発を開始しました。本研究では、ルビー、ブルーサファイア、パパラチャサファイアの3種類のコランダムをこの新たに設計されたLED光源と色温度5000~5500Kの蛍光灯、自然光(午前10時~午後12時)の3種の光源下で比較、評価を行いました。本研究では15個のサンプルを用いましたが、マンセルカラーフレームワークによる視覚的なグレーディング、定量的なRGB分析を行った結果、LED照明はほとんどの場合、太陽光に近い色を得ることができましたが、ブルーサファイア2点については、蛍光灯下のほうが自然光に近い色値を得ました。LED照明は自然光を近似する上で信頼性の高い人工照明ですが、サンプル固有の偏差が依然として存在することを認識する必要があります。
Uncovering Microscopic Clues in Low-Temperature Treated Magmatic-Related Blue Sapphires(低温加熱処理されたマグマ関連ブルーサファイアの微視的特徴)
タイ、チェンマイ大学のRatthaphon Amphon氏が、低温加熱処理されたマグマ関連ブルーサファイアの微視的特徴についての発表を行いました。本研究では、5つの信頼できる原産地から採取されたマグマ関連のブルーサファイアについて、1000℃での低温熱処理前後の詳細な微視的変化を調査しました。観察された変化には、癒合した亀裂の変化、樹枝状パターンの減少、シート状包有物の変形、流体包有物内の新たな結晶化などがあります。これらの微妙な特徴は、マグマ起源のサファイアにおける低温熱処理を特定するための有望な手がかりとなり、加熱処理を判断する際に役立つ貴重なデータを提供します。しかしながら、石が熱処理を受けたかどうかを判断することは依然として困難です。特にインクルージョンが処理後にのみ記録され、比較のための処理前の基準が存在しない場合はなおさらです。したがって、インクルージョンの変化の解釈は、熱処理識別の信頼性と精度を高めるために、他の分析技術と慎重に検証する必要があります。
Luminescence as an Indicator of Heat Treatment in Geuda Sapphire(ギウダサファイアの加熱の根拠となるルミネッセンス)
タイのチュラロンコン大学のTeerarat Pluthametwisute氏がギウダサファイアの加熱の根拠となるルミネッセンスについての発表を行いました。ギウダサファイアは乳白色または絹のような外観のコランダムの一種で、一般的に加熱処理によって色と透明度が向上します。本研究では、ギウダサファイアの加熱前後でEPMA(電子プローブマイクロアナリシス)と325 nmレーザー励起によるフォトルミネッセンス分析、長波紫外線(LWUV、365 nm)と短波紫外線(SWUV、225 nm)によるルミネッセンスイメージを用い、その違いを追っています。長波紫外線(LWUV)下でのオレンジから赤色のルミネッセンスは欠陥関連のF中心に関係している可能性が高いのに対し、短波紫外線(SWUV)下で観察される青色のルミネッセンスはTi関連の不純物に起因します。長波紫外線下のオレンジ色のルミネッセンスの存在は、加熱処理されていないギウダサファイアの有用な指標となる一方、これらのサンプルに短波紫外線下で青色のルミネッセンスが見られないことは、加熱処理されていないギウダサファイアの識別においても信頼性があることを裏付けています。さらに、加熱処理後の短波紫外線下での青色ルミネッセンスの出現は、加熱処理されたサファイアを検出するための有用な指標となることを示唆しています。
Characteristics of Sapphires from Ethiopia(エチオピア産サファイアの特徴)
カセサート大学のChawanluck Phimphisan氏がエチオピア産サファイアの特徴について発表を行いました。エチオピア、特にティグライ地方の鉱床から2016年後半よりサファイアが発見され、宝石学業界で大きな注目を集めています。これらのサファイアは、沖積鉱床や原地砂礫鉱床で発見されることが多く、玄武岩質の母岩と共存して形成されたことを示します。しかし、エチオピア産サファイアの特徴に関する包括的な研究や詳細な調査は、オーストラリアやタイなどのより確立された玄武岩関連起源の産地と比較して、比較的限られています。本研究では宝石市場から購入したエチオピア産サファイアについてインクルージョン、化学濃度、吸収スペクトルを調べました。特に、Fe、Ti、Gaの量に特徴があり、エチオピア産サファイアをタイのバンカジャやオーストラリアのインベレルといった他の原産地のサファイアと区別することが可能です。
High Temperature Silver Diffusion of Labradorites(ラブラドーライトへの高温での銀拡散)
中国滇西応用科学大学ジュエリー学部のQingchao Zhou氏がラブラドーライトへの高温での銀拡散についての発表を行いました。銅の拡散はラブラドーライトの色を変えるのに効果的であることが証明されていますが、他の貴金属を用いた代替アプローチはほとんど未開拓のままです。そこで本研究では、高温拡散プロセスを用い、ラブラドーライトに銀(Ag)を拡散させ、鉱物中にAgのナノパーティクルが形成されることを実証しました。ラブラドーライト結晶へのAgのナノパーティクルの組み込みは、1200℃でAg+-Na+イオン交換チャネルを確立することで達成され、Ag+イオンの大きなイオン半径と銀化合物の光安定性および熱安定性の低さに関連する課題を克服しました。得られた銀拡散ラブラドーライトは、高い透明性と414~495 nmの範囲で強い吸収を示しました。TEMによる特性評価により、平均粒径8.40±4.32 nmのAgナノパーティクルの形成に成功したことが確認されました。本研究の知見は、鉱物結晶内のナノスケール現象の理解に貢献するものです。
Viitaniemiite: A Rare Gem-quality Phosphate Mineral(ヴィータニエミ石:希少な宝石質のリン酸塩鉱物)
GITの研究者Cheewaporn Suphan氏が希少な宝石質のリン酸塩鉱物、ヴィータニエミ石についての発表を行いました。ヴィータニエミ石(Na(Ca, Mn)Al(PO₄)(F, OH)₃)は、フィンランドのリン酸塩に富むヴィータニエミ・ペグマタイト産のモンテブラサイト試料中の鉱物同定中に初めて発見された希少なリン酸塩鉱物です。この鉱物は、フィンランド、オリヴェシ、エラヤルヴィ、ヴィータニエミの産地にちなんで命名され、1977年に国際鉱物連合(IMA)によって新鉱物種として承認されました。ヴィータニエミ石は単斜晶系で、灰色から白色または無色、透明から半透明で、モース硬度は5、比重(SG)は3.245、屈折率(RI)は1.532~1.571です。宝石品質で無色のヴィータニエミ石は極めて稀少です。本研究で用いたサンプル2石ともに屈折率は登録されたヴィータニエミ石と一致していますが、比重がわずかに低い(双方とも3.07)という特徴を有していました。ラマン分光法では、991、584、483、472、460、245 cm-1にピークが見られ、その石がヴィータニエミ石であることを確認しました。
Study on the Composition and Structural Characteristics of Zachery-Treated Turquoise(ザカリー処理トルコ石の組成と構造特性に関する研究)
韓国の漢陽大学のHyoJin Kim氏がザカリー処理ターコイズの組成と構造特性に関する研究について発表を行いました。本研究では、天然、ポリマー含浸、およびザカリー処理されたトルコ石サンプルの化学組成と分光学的特性を調査しました。ポリマー含浸トルコ石は、1700cm-1の赤外領域と600/800cm-1のラマンスペクトルにポリマーの特徴的なピークが存在することで容易に検出できます。また、ザッカリー処理トルコ石はカリウム含有量が高いことが知られており、それは本研究においても確認されました。さらに、充填部においてケイ素とナトリウムの含有量が著しく高いことが明らかになり、ザッカリー処理されたトルコ石の充填部のFE-SEM/EDSマッピングでは、カリウムとシリコンの化合物が亀裂や空洞を充填していることが示されました。これはザカリー処理が単にカリウムに関連した単純な安定化ではなく、充填部内でK-Si-Na化合物が形成される可能性のあるより複雑なプロセスを伴う可能性があることを示唆しており、これはガラス状相の関与を示唆しています。本研究では、ザッカリー処理されたトルコ石の充填部において板状結晶も特定され、これはカリウムに関連することが判明しました。
Kunzite Color Enhancement by Neutron Irradiation and Heat Treatment(クンツァイトの中性子線照射と加熱によるカラーエンハンスメント)
タイ原子力技術研究所照射センターの研究者K. Pangza氏がクンツァイトの中性子線照射と加熱によるカラー処理について発表を行いました。本研究では、中性子照射と制御された熱処理を組み合わせることで、クンツァイト宝石の色の質を高め、より鮮やかなピンク色と透明性を向上させる効果的な方法であることを実証しました。また、マンガンが色の形成において重要な役割を果たしていること、そして照射後および熱処理後のクンツァイトの化学的変化と構造変化の両方が色の発現に大きく寄与していることを確認しました。具体的には、中性子照射はクンツァイトの結晶格子の構造変化を誘発し、マンガンの酸化状態を変化させ、ピンク色の発現につながります。さらに、照射後の還元雰囲気での熱処理は、誘発された色の強度と安定性を高めるために不可欠です。







