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[特別寄稿]エチオピア産パライバ・トルマリンを手に入れろ

エチオピア産パライバ・トルマリンが話題になっています。不確かな情報も混在する中、現地を訪れ情報を取得してこられた方からCGL通信に特別寄稿を頂きました。さらに、CGLリサーチ室における原産地鑑別の可能性についての研究結果の記事もありますので、あわせてご覧ください。

2026年7月PDFNo.73

伽羅PLUS株式会社 代表取締役 岡部 裕一

エチオピアのパライバカラーのトルマリン

情報を追い越す行動力を

 2026年6月19日の夜、私(伽羅PLUS株式会社 代表取締役 岡部 裕一)はインスタグラムを通じて「エチオピアでパライバ・トルマリンが発見された」という情報を知った。スイスの鑑定機関(SSEF: Schweizerische Stiftung für Edelstein-Forschung)による正式な発表はその前日の6月18日。時差を考慮すると、発表の当日にはそのニュースが私の元に届いたことになる。
 インターネットの情報伝達の速さには、改めて驚かされる。便利である一方、情報過多でもあり、デマやフェイクが紛れ込む危うさも同時に実感する。それでも、興味のある情報は数日のうちに確実に飛び込んでくる。
翌6月20日には、信頼の置ける情報筋からグロリアス・ジェムス有限会社 代表取締役 酒巻 英樹氏のもとにも同様のニュースが届いた。専門的な領域でさえ、情報の初速はすでにSNSが上回っているのである。
 酒巻 英樹氏はパライバ・トルマリンの歴史を語る上で欠かせない人物だ。ブラジル・パレーリャスでのパライバ・トルマリン発見当時、いち早く現地に入り、日本への輸入を担った存在である。現在もその情熱は衰えることなく、私を含む5名でブラジル・パライバ州にて「GLORIOUS MINE」というパライバ・トルマリン鉱山の開発運営を行っている。現段階ではまだまだ調査段階で、商業的稼働には至っていないが、今後にご期待いただきたい。
すでにこの時点でインターネット上には情報が出回り始めていた。情報伝達のスピードは恐ろしく早く、またその未確定の情報が拡散、増幅していくスピードは加速度的に増しているように感じられた。インド人業者がすでに現地入りしているという話。多数のバイヤーが集結しているという噂。鉱山周辺は紛争地帯で立ち入り困難という情報。さらには「すでに買い占められており、今から行っても遅い」という声まであった。この時点では何が本当で、何がフェイクなのか?パソコンの画面上では判断がつかない状況であった。
 海外有力バイヤーや中央宝石研究所の北脇 裕士氏などからも情報を集めたが、やはりこの時点ではこれ以上の情報を集めることは困難だった。これはいち早く現地に直接出向かなければならない。できれば鉱山まで行ってみようというのが我々の目的となった。
 6月21日、私は本来であれば6月25日から別の海外出張を予定していた。しかし、酒巻氏の「私は全ての予定をキャンセルして、一日でも早くエチオピアに向かいます。」という発言に感化され、本来予定していた海外出張をキャンセルし、エチオピア行きを決断。航空券の手配とVISA申請を即座に行った。酒巻氏の「歴史的発見の土地へ一日でも早く行きたい」という情熱は誰にも止めることはできず、またこの判断に付き合える人物も自分ぐらいしかいないように感じていた。
 我々はまず、鑑別機材の確保と情報収集に集中した。トルマリンであること自体は目視でも判断できる。しかし、それが「パライバ・トルマリン」であるかどうかは別問題だ。銅の含有が確認されなければ、パライバとは呼べない。仮に銅を含んでいても、発色要因が鉄優位であればパライバ・トルマリンとは認められないのである。理想は蛍光X線分析装置やUV-Vis-NIR分光光度計だが、いずれも大型かつ高額で、海外持ち出しには許可も必要になる。現実的ではない。銅の有無を簡易的に判断できる方法はないのか、仲間内で手当たり次第に情報を当たった。
 簡易的に判断できる手段を模索する中で、株式会社ミユキ 代表取締役の亀山卓哉氏が同行を申し出てくれた。亀山氏は多言語を自在に操り、海外経験も豊富、まさに頼れる心強い先輩である。
 亀山氏は以前、中央宝石研究所の北脇 裕士氏が我々の「GLORIOUS MINE」を訪問した際にも同行してくれた人物で、詳しくはCGL通信vol.66「ブラジル/パライバ・トルマリン鉱山を訪ねて」を御覧いただきたいのだが、それ以来親交を深めている間柄である。
 正直、私以外に、本当に4日後の出発にアジャストしてくる人間がいることには少し驚きがあった。聞けば彼もまた25日から中国出張の予定だったのだが、その予定を調整することで中国から香港に渡り、合流が可能だとのこと。これで今回の旅は3人旅となった。3人になった我々パーティーはとにかく何か現地でパライバ・トルマリンの鑑別ができる機材がないか、北脇氏にも助言を求めつつ、ひたすらに鑑別機材の可能性について話し合った。そして簡易的な分光器で赤外領域の吸収を確認できる装置を発見する。
 日本で入手すると数日を要するが、中国なら即日受け取りが可能だという。ちょうど亀山氏が中国経由で合流する予定だったため、現地で機材を調達し、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで落ち合う段取りが決まった。
 6月25日、私と酒巻氏は成田から、亀山氏は香港からエチオピアへ向け移動を開始した。情報を得てから実に6日後、これが最短の日程である。アブダビに到着したのは、日付が変わった深夜0時過ぎ。次のフライトは朝4時発。ここで亀山氏と合流、目的地はエチオピアの首都アジスアベバである。

アラブ首長国連邦のアブダビ国際空港。深夜の時間帯でも空港内部は混雑し、まさに眠らない空港でした。

 アブダビ空港からエチオピアの首都アジスアベバに到着して、ターンテーブルの前、いつまで経っても荷物が出てこない。二人は成田から、もう一人は香港からの乗り継ぎ。どちらもバゲージスルーで預けていることは事前に確認していた。それにもかかわらず、いくら待っても出てこない。いわゆるロストバゲージである。
 カウンターで確認すると、「荷物が積みきれなかったため、次の便で到着する」とのこと。正直「そんなことあるのか?」という気持ちにはなったが、とにかく荷物はまだアブダビにあるらしい。ホテルまで届けてもらう手配を済ませ、ようやく空港の外へ出る。
 アジスアベバは標高が高く、空気はひんやりとしていて非常に過ごしやすい。アフリカといえば灼熱の大地というイメージが強いが、ここはまったく違う。夜は肌寒く、昼間でも半袖の人とダウンジャケットを着ている人が混在している、そんな不思議な気候だった。

エチオピアのアジスアベバ上空。果たしてこの地にパライバ・トルマリンは存在するのでしょうか。


アジスアベバのボレ国際空港でロストバゲージのためカウンターに並ぶ人々。

アフリカ最大のハブ空港である、ボレ国際空港ですが、意外と簡素でシンプルです。

 アジスアベバでは事前に一人の宝石商と会う約束をしていた。この宝石商はブラジルの酒巻氏の友人からの伝手で紹介してもらった人物である。彼はとても紳士的で誠実で、彼のおかげで我々の調査及び仕入れがうまくいったといっても過言ではない。
 また、今回出会ったエチオピア人に限って言えば、丁寧で落ち着いた対応をしてくれる人が多く、非常に居心地が良かった。もちろん、これはたまたま良い人たちに恵まれただけかもしれないし、どの国にも良い人もいればそうでない人もいる。それでも、今回の経験を通じて抱いたエチオピア人への印象は非常に良く、気がつけば「また訪れたい」と思える、好きな国の一つになっていた。

アジスアベバのホテル内にある伝統的なカフェ。笑顔で写真撮影に応じてくれました。エチオピアのコーヒーは本当に美味しいです。

エチオピアの伝統的な料理「インジェラ」です。一枚のプレートを皆でシェアするのが一般的。

エチオピア産パライバ・トルマリンの実在論

 本当にこの国にパライバ・トルマリンは存在するのだろうか?そして、それをすぐに見つけることはできるのだろうか?結論から言えば、この不安は杞憂に終わった。現地の宝石商がすでに有力なブローカーと連絡を取っており、到着からわずか数時間後には「パライバ・トルマリンと思われる原石」を数多く確認することができたのである。
 しかし、ここで大きな問題が立ちはだかる。肝心の機材がない。我々の荷物はロストしているため、亀山氏に中国から運んでもらった分光器も届いていない。つまり、目の前にある石が本当にパライバ・トルマリンかどうかを科学的に判断する手段がないのである。目視ではパライバ・トルマリンに見える原石でもパライバ・トルマリンと認められるためには、単に色が美しいだけでは不十分である。銅(Cu)が含まれていること、そして発色の主因が鉄ではなく銅であること、この条件を満たして初めて「パライバ」として認定される。
これまでの情報でも、「銅は含まれているが鉄分優位のためパライバと認められない」という例がいくつも報告されていた。つまり、色だけでは絶対に判断できない。
 実際に持ち込まれる原石の中には、肉眼でも明らかに「ただのトルマリン」とわかるものも少なくない。正直なところ、この時点では多くのエチオピア人がパライバ・トルマリンというものを正確に理解しているとは言い難い状況だった。中にはパライバ・トルマリンの色が何色かを知らない業者さえ存在した。「これはパライバだ」と言いながら、色とりどりのトルマリンを次々と差し出してくる。

初日にアジスアベバで確認することのできたトルマリンの原石。明らかに通常のトルマリンが混じっていますが、中にはパライバカラーの物もあり、期待が高まります。

 彼らが知っているのは、ただ一つ「この石は高く売れるらしい」ということだけだった。とはいえ、それも無理はない。これまでパライバとは無縁だった土地に、まるで突然降って湧いたような話なのだから。値段に関しては強気も強気、現地に行けば安く買えるなどとは思わないほうがいい。彼らの提示する金額はブラジル産の数倍、場合によっては数十倍から百倍以上の場合もあったのである。研磨にも適さないクオリティの石にまで法外な価格が付けられていては、ビジネスは成立しない。
我々はまず、ブラジルで実際にパライバ鉱山を運営していることを伝え、提示されている価格がいかに市場とかけ離れているか、場合によってはブラジル産の数十倍にもなっていることを丁寧に説明した。焦って買うのではなく、まずは信頼関係を築くこと。だが現実問題として、機材がない以上、大きく動くことはできない。
 この日、原石そのものは数多く確認できたものの、肝心の機材が届いていないため、購入には至らなかった。無理に動くよりも、これまで集めてきた情報を徹底的に精査することにした。

比較的大粒なパライバと思われる原石。ですが、この時点では機材もなく確信は持てませんでした。何より値段が途方もなく高いです。

このようなバイカラーの原石も多数確認できました。これは原石の状態でも素敵です。

まず大きな進展は、産地の特定である。当初あたりをつけていた鉱山の街・シャキソで間違いないことが確認でき、さらに詳しく調べると、シャキソ近郊の「アブロ」という小さな町に絞り込むことができた。本来であれば、すぐにでも現地の鉱山へ向かいたいところだった。しかし、この地域は現在も内戦の影響下にあり、一定エリアより先は外国人の立ち入りが禁止されている。安全面を考慮して、今回は断念せざるを得なかった。

エチオピアのパライバ・トルマリン関連地図

 そして、もう一つ、非常に興味深い、そして予想外の情報があった。それは産出される土壌の違いである。ブラジルのパライバ・トルマリンといえば、白いカオリン質の地層から採掘されるのが一般的だ。しかしエチオピアでは、なんと赤土の土壌から採掘されているという。北脇氏にこの事実を伝えると、これは二次鉱床である可能性が高い、結晶自体は摩耗していない事を考えると一次鉱床からほど近いのかもしれないとの意見をいただいた。

動画でも確認しましたが、鉱床は赤土。その証拠に原石にも赤土が付着しています。

 さらに流通に関する情報も見えてきた。最初の発見はおよそ6ヶ月前。発見者はソマリ人で、当初はこの石の価値を理解しておらず、比較的安価で市場に流していたという。その一部がバンコクへ渡り、結果として一定量がすでに国際市場に流通していることがわかった。公式に「パライバの可能性」が示されたのはごく最近のことだが、実際には2026年の初めにはすでに採掘・流通が始まっていたということになる。 

一方で、日本で事前に仕入れていた情報については、いくつか修正すべき点も見えてきた。特に大きかったのは、「すでに現地には多数の海外バイヤーが入っている」という話である。実際にアジスアベバに来てみると、確かに海外の業者は存在している。しかしその数は、当初想定していたよりも明らかに少ない。
我々自身も、ブラジルを含めパライバ・トルマリンの取引でつながりのある海外業者たちと情報交換を行っているが、少なくとも今日の時点では、それ以外のプレイヤーはほとんど入っていないのではないかという結論に至った。結局のところ、経験に裏打ちされていない情報は、信じるに値しない。そう強く感じた一日だった。
翌日、当初の目標は鉱山へ向かうことだったため、本来であればこの日に移動していてもおかしくはなかった。しかし、現地で改めて情報を集めても、やはり鉱山エリアには立ち入れないという結論は変わらなかった。
 加えて、ロストバゲージの問題もある。荷物が届いていない状態でアジスアベバを離れるわけにもいかない。結果として、この日も引き続き原石の確認に時間を使うことになった。ロストしている荷物は、順調なら昼にはホテルに届く予定。それを受け取ってから、今後の動きを決めようという流れである。

中にはパライバ・トルマリンだと思われる原石も混ざっています。この中から銅が含まれていて、色がキレイでさらにカットに適する石を探します。

この手のひらに乗る量のトルマリンで、相当な高額提示されました。中には当然普通のトルマリンも含まれています。根拠なく買うことはできません。

 マーケットの状況は、前日と大きくは変わらない。相変わらず、提示される原石の価格はクレイジーの一言だった。しかし、変化もあった。我々がブラジルで鉱山を運営しており、パライバ・トルマリンの相場に精通していると伝わると、中には明らかに態度を軟化させる業者も現れ始めたのである。
ある程度、価格の折り合いが見え始めたそのタイミングで、ついにロストしていた荷物がホテルに届いた。中に入っているのは、今回持参した分光器。待ち望んでいたはずの機材。だが同時に、不安もあった。この分光器は本来、鉱物鑑別専用ではない。本当に銅の含有を読み取れるのか、その保証はどこにもない。それでもやるしかない。想像を巡らせ、光の当て方を変え、角度を調整し、試行錯誤を繰り返しながら原石を一つずつ分析していく。導き出された結果は上々だった。完全ではないにせよ、明確な根拠を伴うデータを得ることに成功したのである。我々はすぐに、中央宝石研究所の北脇氏と情報を共有し、返ってきた答えは、「パライバ・トルマリンである可能性は極めて高い」
 このエチオピアの地にパライバ・トルマリンが存在することを確信した瞬間である。

真剣に原石を精査する我々。我々の目に写るものはパライバ・トルマリンだけです。

我々の持ち込んだ機材が期待通りの仕事をしてくれました。この結果を見る限り、鉄よりも銅が優位であると読み取れます。もちろん簡易的な機材ですので油断はできません。

我々が一日がかりで仕分けしたパライバ・トルマリンです。これをカットするのが楽しみでもあり、不安でもあります。

エチオピアの地で我々ができること

 この日の夜は、海外バイヤーたちとの食事が待っていた。最短で判断を下し、現地入りしていたのは、我々だけではなかった。
 世界的に名の知れた業界の先達たちと直接話す機会。それだけでも大きな収穫だが、それ以上にエチオピアを取り巻く最新の状況、そしてパライバ・トルマリンに関する生の情報を得られたことは大きかった。話題の中心となったのは、鉱山周辺の状況について。そこはまさにゴールドラッシュさながらの光景。多くのエチオピア人が押し寄せ、一攫千金を狙っているという。さらに、鉱山周辺はやはり外国人立ち入り禁止区域となっているらしい。
「なんとか入れないか?」
 そう食い下がる我々に対し、現地のエチオピア人たちは一様に首を振った。
「危険すぎる。絶対に行けない。」
 では、どこまで行けるのか。答えは一つだった。アジスアベバから南へ約260kmアワッサ。
アワッサは、美しい湖を持つ観光地であり、皆が口を揃え安全な街だという。
 そして、海外バイヤーの話では、すでに多くのバイヤーがアワッサに集まっているらしい。
アジスアベバでバイヤーの姿をあまり見かけない理由は、そこにあったのかもしれない。だがここでも、情報は一枚岩ではなかった。
 現地の人間は言う。「アワッサにパライバの原石はない」
 一方で海外バイヤーは言う。「バイヤーはみんなアワッサに集まっている。」
 結局のところ、行ってみなければ分からない。アワッサまでは車で約5時間。酒巻氏が言った。「じゃあ、明日行きましょう。」
 歴史は今まさに、生まれている。ならばせめて、その“現場”に一歩でも近づきたい。その思いが、我々を前へと動かしていた。
アジスアベバからアワッサまでは車で約5時間。現地の人間も、海外バイヤーたちも、口を揃えてこう言っていた。「夜の移動は危険だ」
出発は14時頃。決して余裕のある時間ではないが、なんとか明るいうちに街の近くまでは辿り着けそうだ。
進むにつれて景色が変わっていく。標高が徐々に下がり、植生も明らかに違ってくる。サボテンが現れ、遠くの山の稜線には巨大な風力発電の風車が並ぶ。その光景を見た瞬間、ふと思った。 
「ブラジルのパライバ州と、ほとんど同じだ。」
 目指しているのは同じパライバ・トルマリン。そして、目の前に広がる風景まで似ている。道中では、さまざまな動物の姿も見えた。コンドル、ラクダ、牛、馬、ヤギ、そしてハイエナ。
 高速を降りたその瞬間、なぜ夜間走行は危険なのか?という疑問の答えが明らかになった、一般道に入った途端、景色が一変する。道路の至る所に、陥没した穴。それも一つや二つではない。車はそれらを避けながら、右へ、左へと蛇行するように進む。その揺れの中で、はっきりと理解した。「これは、夜は無理だ。」視界が利かない状態でこの道を走るのは、確かに危険すぎる。

アフリカの夕陽は美しい。しかし、日が沈む前にアワッサへと着かなければいけません。

 昨晩、日が落ち始める頃、なんとかアワッサの街に到着した。宿は決して高級ではない。シャワーは水しか出ないし、電気も時折ふっと落ちる。決して快適とは言い切れない。それでも不思議と、不満はなかった。スタッフは親切で、対応も丁寧。どこか穏やかで、安心感がある。街を歩けば、牛や馬、ヤギが普通にいる。だが、あれだけ動物がいるにもかかわらず、動物の糞を、一度も見ていない。エチオピアに関しては衛生観念の高い国という印象を受けた。それは、日本にいるときに抱いていた“アフリカのイメージ”とは大きく異なるものだった。
 昨晩は到着した時点ですでに薄暗く、街の様子をじっくり見ることはできなかった。ただ一つ分かっていたのは、ここが湖のほとりの小さな街だということ。そんな街に、本当にバイヤーが集まっているのか?少なくとも、我々の泊まっているホテルには外国人の気配すらない。

我々がアワッサで滞在したホテル。とても居心地のよい場所でした。
アワッサは静かな湖畔のリゾート地です、この地に宝石商は集結しているのでしょうか?

 エチオピア人のパートナーは、朝からずっと電話をかけ続けている。
 だが、返ってくる情報はどれも同じだった。
・シャキソには業者がいる
・だがアワッサにはいない
・それどころかアワッサの業者もシャキソに行っている
 つまり「ここには、いない。」
 「さて、どうするか。」議論の末、「宝石商はいいホテルに泊まっているはずだ。」ならばこの街で一番いいホテルに行けば、会えるのではないか?自分たちが安宿に泊まっていることは、一旦きれいに棚に上げた。今振り返れば、なかなかに頭の弱い作戦である。我々は街にある高級リゾートホテルを回ることにした。
 やはり、「この街に宝石商が押し寄せている」という話は、デマだったのではないだろうか。
薄々わかってはいた。だが、それを認めるにはまだ早い気もしていた。やはり鉱山まで行かなければ、これ以上のパライバ・トルマリンには出会えないのだろうか。そんな半ば諦めのような気分で、我々は2件目のリゾートホテルのエントランスをくぐる。その瞬間だった。視界に、明らかに異質な存在が居る。外国人男性が二人。どう見ても観光客ではない。その空気感は、これまで見てきたファミリー客とはまるで違っていた。我々は少し距離を取り、様子をうかがう。どうやら誰かを待っているようだ。意を決して、話しかける。

こちらはエチオピアの通貨ブル。我々は滞在中1円=1ブルだったので計算はとても楽でした。

 結果は的中。彼らは宝石商だった。
 「アジスアベバでは値段が高い。でもアワッサなら安く原石が手に入ると聞いたんだ。」
 そして少し肩をすくめて続ける。「でも実際は、そこまで安くもないね。」
 やはり、そうか。考えることは皆同じだった。
 「他のバイヤーは見かけたか?」
 「アジスアベバはどうだった?」
 情報交換が始まる。そして、ひとつの現実がはっきりしていく。やはり、この街に大勢のバイヤーが押し寄せているという事実は、なさそうだ。
 結局、この日、我々が出会えた宝石商は彼ら二人だけだった。それどころか、外国人の姿自体ほとんど見かけなかった。湖畔の静かな街、アワッサ。そこには「噂」だけが先に到着していた。そんな中、ようやく動きがあった。エチオピア人のパートナーが、数人の宝石商とのコンタクトに成功。そしてホテルで現地ブローカーと会う約束を取り付けた。

我々が宝石商を探して巡ったリゾートホテルです。外国の人を見かけても、全てが宝石商というわけではありません。基本的には観光客です。

 アワッサで実際に見た原石はどうだったのか。
・量は少ない
・価格は高い 
 つまりアジスアベバ以下。期待していた“何か”は、そこにはなかった。パライバ・トルマリンを仕入れるのであれば、アジスアベバで十分である。復路に5時間。我々は再び来た道を引き返し、アジスアベバへと戻ることにした。
 エチオピアの地方都市から戻ってきた我々にとって、アジスアベバは巨大な都市に見えた。もちろん、冷静に見れば日本の都市と比べて特別大きいわけではないのかもしれない。それでも街の空気が違う。街は至るところでクレーンが動き、ビルが建ち、道路が広がっていく。それはまさに、成長の真っ只中にある都市の姿だった。どこか、説明のつかない熱量。この街には、“これから何かが起こる”気配があった。 
 そんな中、我々はパライバ・トルマリンをひたすら見続ける。時折、サファイアやエメラルドも持ち込まれる。だが、我々の視線は動かない。興味は、完全に一つに絞られていた。もしかすると、すでにこの石に魅入られていたのかもしれない。石を見て、分析し、そして価格交渉。その繰り返し。中には相変わらず、現実離れした“クレイジーな値段”を提示してくる業者もいる。だが一方で、こちらの予算の範囲で、現実的な価格を提示してくれる業者も現れ始めていた。
 これは我々の交渉の成果でもあるだろう。
 だが、それ以上に大きかったのは、エチオピア人パートナーの存在だった。彼はひたすら連絡を取り続け、ブローカーと繋ぎ、通訳をし、そして時には「その価格は高すぎる。これ以上は出すな」と、はっきりとブレーキをかけてくれる。単なる仲介ではない。同じ側に立ってくれている人間の動きだった。 
異国の地での取引は、情報と信頼がすべてだ。その両方を支えてくれていたのが、彼だった。

夜のアジスアベバの街並み。開発のまさにど真ん中という感じで街の発展を肌で感じられます。

アジスアベバの都会的雰囲気は一部に限られ、まだまだ私達が想像するアフリカがそこにはあります。

途中持ち込まれたエメラルド。一見して高品質な原石は見られませんが、時間があればエメラルドもじっくり見てみたいです。
同様にして持ち込まれたサファイアの原石。今回の目的がパライバ・トルマリンでなければじっくりと見てみたいと感じました。しかし、我々の目にはパライバ・トルマリンしか入ってきません。

エチオピアに広がりだしたパライバカラーの未来

 我々はそれなりの量のパライバ・トルマリン原石の仕入れに成功した。もちろん、この原石が利益を生むかどうかは別の話だ。だが少なくとも、当初の目的は果たした、そう言っていいだろう。まずは、エチオピア産パライバ・トルマリン原石のサンプルを日本に持ち帰る。それが今回のミッションだった。
 
 この青く美しい石はこれからどんな運命を辿るのだろうか。大量に産出し、市場に溢れ、価格が大きく崩れる可能性もある。あるいは、認知が広がり、需要が増え、価値が一段と押し上げられる可能性もある。
 次に動くのは市場だ。おそらく、次のバンコクショーや香港ショー、そして来年のツーソンショーの頃にはカットされたエチオピア産パライバ・トルマリンが並び始めるだろう。その時、何が起きるのか。そして、ブラジル産パライバ・トルマリンの“王座”は揺らぐのか。考えるべきことは、尽きない。だが未来は、まだ誰にもわからない。だからこそ今は、持ち帰る。日本へ。この石の“最初の一歩”を、自分たちの手で確かめるために。
 あの鮮烈な青。まだ誰も知らない価値を秘めた、エチオピア産パライバ・トルマリン。この“青の可能性”たちが、最大限の輝きを放つその日を信じて。我々は日本へと帰る。
 帰国後、私たちは持ち帰ったエチオピア産原石のサンプルを携え、即座に中央宝石研究所の北脇氏のもとを訪れた。情報が溢れる現代だからこそ、画面越しではなく、自らの足で現地に立ち、自らの目で確かめる。より精密な検査を進め、エチオピアのパライバ・トルマリンに関する真実が証明されることを信じて。


(中央)酒巻 英樹(さかまき ひでき)/グロリアス・ジェムス有限会社 代表取締役
1980年代からパライバ・トルマリンの国際取引に携わり、ブラジルでの発見当初より現地買付と日本市場への紹介に尽力。現在はブラジル・パライバ州で「GLORIOUS MINE」の共同開発に参画し、新鉱床の探査を進めている。
2026年にはエチオピアの新産地にもいち早く赴き、調査と仕入れを実施。長年にわたり世界各地の産地を訪れ、希少宝石の調査・普及に取り組んでいる。

(右)岡部 裕一(おかべ ゆういち)/伽羅PLUS株式会社 代表取締役
ダイヤモンド卸業者での勤務からキャリアをスタートし、宝石業界における経験を積む。宝石の輸出入・卸・小売をはじめ、企画デザインや製造まで幅広く手がけるほか、ミャンマーに事務所を構え、酒巻氏とともにブラジル・パライバ州にてパライバ・トルマリン鉱山「GLORIUS MINE」の共同開発に参画。鉱山開発からジュエリー販売に至るまで、一貫した事業展開を行っている。
「ロマンを食べて生きていく」を信条に、世界各地から希少な宝石を収集している。

(左) 亀山 卓哉(かめやま たくや)/株式会社ミユキ 代表取締役
GIAカールスバッド本校でG.G.課程修得後、ニューヨーク47番街でダイヤモンド業者に勤務。その後、国内のダイヤモンド業者を経て、大手テレビ通販向けのメーカーに入社。カラーストーン調達現地責任者としてタイ、中国に駐在。この時期に培ったカラーストーンの厳選技術、ネットワーク、語学力が現在の基盤となる。帰国後、父親の経営する会社に入社し、代表取締役として現在に至る。バンコクに事務所を構え、各種宝石の原産地及び集散地での買付、ルース販売、製品製造企画および研磨業務を行う。

エチオピア産 “パライバ・トルマリン” の予察的研究

2026年7月PDFNo.73

リサーチ室 江森健太郎・北脇裕士

 エチオピア産の “パライバ・トルマリン” と称される青色〜緑色の原石26個を検査した。その結果、EDXRF分析ではすべての試料から 銅(CuO)0.336%〜4.025% が検出された。
 さらに、UV-Vis-NIRスペクトルにおいて、700 nm付近の吸収(CuまたはFeに因る)よりも、900 nm付近の吸収(Cuに因る)がより強く現れることが確認され、パライバ・トルマリンの定義に合致することが明らかとなった。
 さらに、LA-ICP-MS分析で得られた微量元素の組成および量比は、既知の ブラジル産・モザンビーク産・ナイジェリア産 のいずれとも明確に異なっており、今回調査したエチオピア産パライバ・トルマリンについては、原産地鑑別が十分に可能であることが判明した。

ファセットカットされたエチオピア産

パライバ・トルマリンとは

 
 パライバ・トルマリンは、1989年に宝石市場に登場した彩度が高く鮮やかな青色~緑色の銅着色のトルマリンである。
 当初ブラジルのパライバ州で発見されたため、パライバ・トルマリンと呼ばれるようになったが、1990年代には隣接するリオグランデ・ド・ノルテ州からも産出されている。さらに2000年代に入って、ナイジェリアやモザンビークなどのアフリカ諸国からも同様の含銅トルマリンが産出されるようになった。現在では、原産地に関係なく、銅が主たる原因の青色~緑色のトルマリンは広義でパライバ・トルマリンと呼ばれている。

経緯

 2026年6月19日の朝(日本時間)、スイスの鑑別機関であるSSEFが発信した「New source of Paraíba tourmalines reportedly discovered in Ethiopia」というプレス・リリース(文献-1)を受信した。スイスとはー7時間の時差があるため、現地時間では18日の夕方に配信されたものと思われる。このプレス・リリースによると、エチオピアから新たな銅含有のトルマリン鉱床が発見されたというニュースがあり、ちょうどその頃からSSEFにパライバ・トルマリンの鑑別依頼が増えたという。その中にはエチオピア産の可能性はあるものの、ブラジル産と区別がつかないものがあるという内容であった。
このニュースは、瞬く間に国内外の業界関係者の間を駆け巡り、昨今のインターネットやSNSを通じた情報拡散のスピード感とパライバ・トルマリンへの関心の高さを改めて思い知らされた。
 パライバ・トルマリンの原産地鑑別を行っている我々にとっては、プレス・リリースにある「エチオピア産のパライバ・トルマリンはブラジル産との識別が困難かもしれない」という内容に少なからずの衝撃を受け、早急に調査を進める必要性を強く感じた。
 6月20日、業界関係者を通じて、海外の研究者が行った3個のエチオピア産パライバ・トルマリンのEDXRFによる分析結果を入手した。3個ともに銅(Cu)を含有していたが、ブラジル産のパライバ・トルマリンには通常含有されていない相当量の鉛(Pb)が検出されていた。
 6月23日、さらに10個の分析データを追加入手できた。これらには銅(Cu)が0.5~1.5%含有されており、微量の鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)が検出されていた。これらの微量元素の組み合わせと含有量は、明らかにブラジル産と異なるものであった。
 6月25日、国内の業界関係者より、エチオピア産とラベリングされた2個の青色石の分析依頼があった。見た目には深みのある緑味があり、SNSなどに投稿されたエチオピア産の原石写真と似た色調のものであった。LA-ICP-MS分析を行ったところ、ブラジル産との区別ができなかった(後に依頼者よりエチオピア産ではない可能性が示唆された)。
 6月27日、フィールド・ジェモロジストとして著名なVincent Pardieuが自身のインスタグラムに「First examinations on paraiba and other copper-bearing tourmalines from Abuloo, Echiopia」という報告文(文献-2)をアップした。これは、Vincent氏の主導のもと、C. Dunaigre Consulting GmbH と Laboratoire Français de Gemmologie(LFG)が共同で実施した、エチオピア産銅含有トルマリン21個の分析結果である。これによると、Abloo(アブロ)産の銅含有トルマリンは、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn) の濃度が大きく変動する極めて多様な化学組成を示す。銅(Cu) が主要発色要因の石はパライバと呼べる一方、鉄(Fe )優勢の石は通常の青色トルマリンもしくはインディコライトとなる。また、全試料でガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)が比較的高濃度で検出され、産地識別の有望な指標となる可能性が示された。
 7月1日、DSEFドイツ宝石研究所が自社のウェブサイトに「Cuprian tourmalines from Ethiopia」の報告分(文献-3)を掲載した。エチオピアのアブロ付近で採掘されたトルマリン50個ほどが6月24日にDSEFに到着し、それらを分析した結果、多くはパライバ・トルマリンと呼べるものであったが、一部はそうではなかった。パライバと呼べるものは、ブラジル産と比較してカルシウム(Ca)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)の濃度が高く、一部の標本では、希土類元素によって誘発されたと考えられるフォトルミネッセンスも観察された。
 7月4日、Africa Gemological Training Institute(AGTI)のHaimanot Sisay氏による「Field Report to Paraiba Tourmaline Rush Near Abuloo, Ethiopia」(文献-4)が公開された。これによると、Haimanot氏がエチオピアでのパライバ・トルマリンの発見について知ったのは2026年5月25日のことであった。その頃、エチオピア産のパライバ・トルマリンの存在はアジスアベバの宝石業界で広く知られるようになり、6月上旬までにタイ、ドイツ、スイス、ブラジル、スリランカ、インドなどから多くの国際的なバイヤーがアジスアベバやHawassa(アワッサ)を訪れるようになっている。さらにこのレポートでは、実際の採掘現場であるAbloo(アブロ)を訪れ、3000人以上の現地人が熱狂の下、採掘と売買を行っている様子が述べられている。

サンプルおよび分析手法

 本誌既報のとおり、パライバ・トルマリンの調査のためエチオピアを訪れた酒巻氏・岡部氏・亀山氏から提供された原石8個(0.06ct〜1.03ct、図1左)に加え、エメラルドやオパールなどエチオピア産宝石の輸入実績をもつディーラーより研究用として提供されたトルマリン原石18個(0.46ct〜8.31ct、図1右)、合計26個を対象として検討を行った。分析をするにあたり、25個は1面鏡面研磨、1個はファセットカットされた。

図1. 分析に用いたサンプル(上: 酒巻氏、岡部氏、亀山氏から提供された原石とそこからファセットカットした1石、
下: 別のディーラーから研究用として提供された原石18個)

 酒巻氏らは現地にて、380〜1000 nmの測定が可能な簡易型分光計を用い、700 nmおよび900 nm付近の吸収の深さを基準に、パライバ・トルマリンと見なせる可能性のある試料(文献-4)を選別している。そのため、既報の文献で示されている鉄タイプのトルマリンは今回の試料群には含まれていないと考えられる。また、別のディーラーから提供された試料についても、事前にパライバ・トルマリンであることが確認されていたようである。
 これらの試料について、UV-Vis-NIRスペクトル測定と蛍光X線分析およびLA-ICP-MS分析を行った。UV-Vis-NIRスペクトルの測定には、日本分光製V650 を用いて分析範囲は220 nm‒1100 nm、バンド幅2.0nm、分解能0.5nm、スキャンスピード400nm/min で室温にて測定を行った。蛍光X線分析には日本電子製JSX-1000Sを用いて管電圧30kV、メータ2.000mm、ライブタイム30sで行った。LA-ICP-MS分析には、Laser Ablation装置としてESI NWR-213を、ICP-MS装置としてAgilent 7900rbを用いた。分析に用いた条件は表1の通りである。NIST610を標準試料として用い、それぞれのサンプルにつき4点ずつ分析を行い、元素プロッティング、線形判別分析(LDA, Liner Discriminant Analysis)を用いたグルーピングを行った。

表1 LA-ICP-MS分析条件

結果

UV-Vis-NIRスペクトル:今回分析したサンプルから得られた典型的なUV-Vis-NIRスペクトルを図2に示す。検査したすべてのサンプルにおいて、700 nm付近の吸収帯よりも900 nm付近の銅(Cu)に由来する吸収帯が強く認められた。この特徴から、今回の試料が銅の含有によって着色されたパライバ・トルマリンであることが再確認された。

図2: 典型的なUV-Vis-NIRスペクトル

蛍光X線元素分析: 蛍光X線元素分析の結果、すべてのサンプルから銅(CuO)が検出され、その濃度は実測値で0.336〜4.025 wt%と非常に広い範囲を示した。一方、鉄(FeO)は0.02〜1.57 wt%、マンガン(MnO)は0.47〜1.75 wt%であり、鉄およびマンガンが銅濃度を上回るサンプルは存在しなかった。特筆すべき点はガリウム(Ga₂O₃)と鉛(PbO)の濃度である。Ga₂O₃は0.085〜0.182 wt%、PbOは0.053〜0.814 wt%と高い値を示し、既知産地のパライバ・トルマリンと比較しても顕著に高濃度であった。これは文献2および文献3の先行研究ともよく一致する。

LA-ICP-MS分析結果: LA-ICP-MSで得られたガリウム(Ga)および鉛(Pb)の濃度を、CGLデータベースに登録されているブラジル(バターリャ、キントス、ムルング)、ナイジェリア、モザンビーク(エルバイトのみ)のデータと比較した結果を図3に示す。各元素の濃度範囲には一部重複が見られるものの、Ga–Pbプロット上ではエチオピア産は他産地とオーバーラップせず、明確に分離した。鉛(Pb)は測定点によるばらつきが大きく、最低91.11 ppmwから最高678.98 ppmwまで幅広い値を示すものが存在したので分析の際には注意が必要である。またバナジウムの量も特徴的であり、他3つの産地と比べて高い濃度(>60 ppmw)が検出されている(図4)。

図3 Ga(ppmw) vs. Pb(ppmw)による元素濃度プロット

図4 Ga(ppmw)とV(ppmw)による元素濃度プロット

 
さらに、CGLデータベースの既存サンプルと今回のエチオピア産サンプルについて、分析した27元素の濃度を用いて線形判別分析を行い、判別関数によるグルーピング結果を図5に示す。このプロットからも、エチオピア産が他産地のパライバ・トルマリンと比較して特異な組成を持つことが確認できる。

図5 線形判別分析を用いたグルーピング

まとめ

 今回、エチオピア産”パライバ・トルマリン”26点について予察的研究を行った。UV-Vis-NIRスペクトルの結果、本研究で分析したサンプルは、LMHCの定めるパライバ・トルマリンの定義をすべて満たすものであった。また、EDXRFやLA-ICP-MS分析の結果、ブラジル、モザンビーク、ナイジェリアの3つの産地のデータとは含まれる微量元素濃度(GaやPb)が大きく異なり、エチオピア産の原産地鑑別が可能であることがわかった。
新たに発見されたエチオピアのアブロ産の含銅トルマリンは、二次鉱床からの産出であり、化学組成にも多様性があるとの報告もある(文献-5)。今後、今回我々が調査した結果とは異なる微量元素の組み合わせを有するものが見つかる可能性もあり、引き続きエチオピア産の含銅トルマリンに注目していきたい。

文献

1. SSEF Press Release 「New source of Paraíba tourmalines reportedly discovered in Ethiopia」, SSEF website, https://www.ssef.ch/new-source-of-paraiba-tourmalines-reportedly-discovered-in-ethiopia/
2. Pardieu,V (@vincent_pardieu) 「First examinations on paraiba and other copper-bearing tourmalines from Abuloo, Echiopia」, Instagram, https://www.instagram.com/p/DaElBi6Gvjb/?igsh=MWp0Z2d0bzltdWhnNA==
3. Claudio C. Milisenda & Jin Guo 「Cuprian tourmalines from Ethiopia」 DSEF German Gem Lab website, https://blog.dgemg.com/en/research/222-cuprian-tourmalines-from-ethiopia.html
4. LMHC Information Sheet #6 Paraiba Tourmaline, LMHC Website, https://www.lmhc-gemmology.org/wp-content/uploads/2023/06/LMHC-Information-Sheet_6_V8_2023.pdf
5. Sisay, H.(@sisayhaimanot), Field Report to Paraiba Tourmaline Rush Near Abuloo, Ethiopia, Instagram, https://www.instagram.com/p/DaYJ20cCPdL/?igsh=MWZjcnp4MGk3MDl3ZA==

オーストラリアのサファイア

2026年3月PDFNo.72

リサーチ室 北脇裕士

はじめに

オーストラリアでは1850 年頃のゴールドラッシュでサファイアが発見されて以降、主に大陸東部のアルカリ玄武岩の噴出地域に500 箇所以上の産出地が発見されて来ました。これらのうち商業的に重要な産地は3か所で、北から南へクイーンズランド(QLD)州北部のラバープレインズ(Lava plains)、クイーンズランド(QLD)州中部のルビーベイル(Ruby vale)/アナキー(Anakie)地域、そしてニューサウスウェールズ(NSW)州北部のインベレル(Inverell)/グレンイネス(Glen Innes)地域です(図-1)。

図‐1:オーストラリアの代表的なサファイア鉱区と玄武岩の噴出地(褐色部)

オーストラリアは1970 年代~ 1980 代の最盛期には全世界のサファイアの生産量の70%近くを産出していたと言われています。しかし、当時はタイのディーラーによって品質の良いものはスリランカ産やタイ/カンボジア産として販売され、色やクラリティの悪いものがオーストラリア産として供給されていました。そのためオーストラリア産には低品質というイメージが付きまといましたが、近年はオーストラリアのディーラーが自国のサファイアをプロモートし(写真-1)、世界のジュエリー・マーケットに供給しています(写真-2)(写真-3)。

本稿では、2025年7月に筆者が訪れた現在最も採掘が盛んなアナキー地域の情報を含めて、オーストラリアのサファイアの現状について報告します。

写真-1:オーストラリアのサファイア販売に50年以上の経験を持つTerry Coldham氏(左)と妻のSangla Stedman氏(右)

 

写真-2:オーストラリアの国花に因んだワトル・サファイア(イエロー主体のパーティカラー)

 

写真-3:オーストラリア産の典型的な濃色のブルー・サファイア4.22ct(非加熱/アナキー産)

オーストラリアのサファイアの歴史

1.発見と初期の歴史(1850年代〜1900年代初頭)

* 偶然の発見

オーストラリアでサファイアが初めて発見されたのは、1851年のことです。ニューサウスウェールズ州のゴールドラッシュの際、カッジガング(Cudgegong)川やマッコーリー(Macquarie)川で金を探していた坑夫たちが、偶然サファイアを見つけたのが始まりです。
* 主要産地の発見

1854年にニューサウスウェールズ州のインベレル付近で金の採掘者たちによってサファイアが発見されました。しかし、金鉱夫たちにとってサファイアは興味の対象ではなく、商業採掘がはじまったのは半世紀も経った1919年でした。

1875年にはクイーンズランド州のルビーベイル/アナキー周辺で大規模な鉱床が見つかりました。アーチボルド・ジョン・リチャードソン(Archibald John Richardson)は鉄道敷設の測量中に偶然サファイアを発見し、パートナーたちとともに宝石を採掘する会社を設立して1880年に商業採掘を開始しました。1881年~1890年頃は、干ばつなどの悪条件や需要の低迷によりサファイアの採掘は伸び悩んでいましたが、1889年にイギリスのロンドンでオーストラリア産の宝石が展示されたことで認知度が高まりました。

* ロシア貴族との関わり

19世紀末から20世紀初頭にかけて、認知度の上がったオーストラリア産サファイアの多くはドイツの宝石商を通じてヨーロッパへ渡りました。また、当時のロシア貴族やロシア皇室の宝飾品に、オーストラリア産の深い青色のサファイアが多く使われています。これは、クイーンズランド州の宝石鉱山で働く採掘者の多くが元々ロシア出身だったことも影響しているようです。

2.停滞期(1910年代〜1950年代)

* 市場の崩壊

順調だったサファイア産業は、世界情勢の影響で一時衰退します。第一次世界大戦の勃発(1914年)とロシア革命(1917年)により、主要な顧客であったヨーロッパ市場とのつながりが絶たれ、需要が激減しました。
* ドア・ストッパーの伝説

1930年代、当時12歳の少年がクイーンズランド州で巨大な黒い石を見つけましたが、価値がわからず10年以上もの間、このサファイアを家の「ドア・ストッパー」として使われていました。これが後に世界最大級のスター・サファイア(733カラット)である「ブラック・スター・オブ・クイーンズランド」と判明しました。

3.黄金時代と機械化(1960年代〜1980年代)

* 機械化の導入

1960年代に入ると、技術革新によってオーストラリアは世界最大のサファイア生産国へと躍進します。それまでの手掘りから、ブルドーザーや大規模な選別機を使った機械化採掘へと移行し、生産量が劇的に増加しました。この頃、クイーンズランド州北部のラバープレインズも鉱山が開発され、活発に採掘が行われていたようです。
* タイとの関係

タイの業者が加熱処理技術を向上させたことで、それまで「色が濃すぎる」と敬遠されていたオーストラリア産の石が、美しいブルーに改善され、世界市場で広く流通するようになりました。1970年代になるとタイのバイヤーがオーストラリアを訪れ、品質の低いブルー・サファイアを大量に購入し、市場を独占していました。
* 世界シェア70%

1980年代には、世界のブルー・サファイアの約7割がオーストラリア産(主にニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州)であったと言われています。しかし、1980年代以降は、タイのカンチャナブリー(Kanchanaburi)やチャンタブリー(Chanthaburi)のサファイアの産出量が増加したため、オーストラリア産のサファイアの需要は低下していきます。

4. 現代(1990年代〜現在)

* 他産地の台頭

現在は、かつてのような圧倒的なシェアはないものの、オーストラリア産のサファイアは根強い人気を誇っています。しかし、マダガスカルやアフリカ諸国(ナイジェリア、カメルーン、エチオピアなど)での新鉱山の発見、またオーストラリア国内の採掘コストの上昇により、商業的なシェアは低下しました。
* 大規模採掘への期待

後述するFURA Gemsの参入により、アナキー地域でサファイアが大規模に開発されています。鉱山から市場までの責任ある追跡可能なルートを確保することに重点が置かれており、オーストラリア産サファイアが再び脚光を浴びる可能性があります。

* フォシッキング(観光採掘)

現在、多くの古い鉱山地域(ラバープレインズやインベレルなど)は観光地化されており、一般の人が趣味でサファイア掘りを楽しむ「フォシッキング(fossicking)」(写真-4)が人気のアクティビティとなっています。

写真-4:インベレルでのフォシッキング(観光採掘)の様子(インベレル観光案内より)

オーストラリア産サファイアの特徴

1.地質

オーストラリア産サファイアの鉱床は、ほとんどすべてが6500万年前―50万年前の新生代に活動したアルカリ玄武岩の大規模な噴火と密接に関連しています。このタイプの鉱床は世界中の多くの地域で発見されており、タイ/カンボジア、ベトナム、中国、ナイジェリア、カメルーン、エチオピアなどに見られます。

実際、ラバープレインズの鉱床の中で最も新しいものは、わずか2万年から300万年前の玄武岩に関連していますが、アナキー鉱床の玄武岩は1500万年前から8100万年前のものです。最近の研究によると、インベレル/グレンイネス地域のサファイアに包有されているジルコン結晶のU-Pb平均年代が3500-3700万年とされており、サファイアもこの時期に生成したものと考えられています。

これらのサファイアの起源については依然として多くの謎が残されていますが、多くの研究者により、サファイアは玄武岩中の捕獲結晶(ゼノクリスト)であり、玄武岩マグマから直接結晶化したものではないと考えています。サファイア自体は、閃長岩などのアルカリに富むマグマの貫入によって、地殻とマントルの境界付近で形成された火成岩起源であり、玄武岩は、これらを地表まで運搬する役割を果たしたとされています。

2.サファイアの色調

*ブルー・サファイア

オーストラリア産のサファイアは、玄武岩関連起源で鉄分を多く含むため、一般的に「インクのような深い青」が特徴です(写真-5)。オーストラリアで商業的に産出するサファイアの70-90%は濃青色のサファイアです。その他にブルーグリーン、グリーン、イエローなどが見られます(写真-6)。

写真-5:インクのような深い青色のサファイア(非加熱/アナキー産)

 

写真-6:オーストラリア/アナキー産サファイア原石

*パーティカラー・サファイア

近年では、単色のブルー・サファイア(写真-7)だけでなく、グリーンやイエローの色調と複合的に混ざり合ったパーティカラー(写真-8)が見られます。パーティカラーはその唯一無二の美しさから世界中のデザイナーや若者に再評価されています。特にイエローを主体としたパーティカラーはオーストラリアの国花であるゴールデンワトル(Golden Wattle)(写真-9)に因んでワトル・サファイア(Wattle Sapphire)と呼ばれ(写真-2)(写真-10)、オーストラリアの国民的な宝石となっています。

写真-7:ブルー・サファイア原石/アナキー産

 

写真-8:パーティカラー・サファイア原石/アナキー産

 

写真-9:オーストラリアの国花でもあるゴールデンワトル(Wikipediaより)

 

写真-10:現地でワトル・サファイアと呼ばれるイエロー主体のパーティカラー・サファイア

*ティール・サファイア

一般にサファイアと言えば青色が連想されるため、かつて緑味の強いブルー・サファイアは人気がありませんでした。しかし、近年はブルー~グリーンのサファイアはコガモ(Eurasian teal)の頭部の色(写真-11)になぞってティール・サファイア(写真-12)(写真-13)としてプロモートされており、世界的なトレンドとなっています。

写真-11:コガモ(Eurasian teal)(Wikipediaより)

 

写真-12:グリーンブルーのティール・サファイアの原石

 

写真-13:ブルーグリーンのティール・サファイアの原石

3.加熱処理

オーストラリア産サファイアは歴史的にもほとんどのものがタイに送られ、「色調の改善」や「透明度の向上」のために加熱処理が施されています。オーストラリア産のブルー・サファイアは色調が濃いだけでなく、多くは曇った外観の原因となるクラウド状の微小包有物を多数内包しています。サファイアは一軸性の結晶で、結晶に入った光は複屈折を示します。その際、通常光(ω)はブルー、異常光(ε)はグリーンイシュブルーの多色性を示します。そのためブルー・サファイアは、理想的には美しいブルーが得られるように光軸に垂直にテーブル面が取られます。しかし、微小包有物が光を散乱させると、どの方向にオリエンテーションを取っても、ブルーにグリーンが混じった好ましくない色調になってしまいます。そのため、ほとんどのオーストラリア産のブルー・サファイアは透明度を向上させるために還元雰囲気で加熱されます。グリーン、イエロー、パーティカラーなどは非加熱のものもありますが、しばしば色調の改善のために酸化雰囲気で加熱されたり、透明度の改善のために還元雰囲気で加熱されたりしています。また、グリーンやブルーが混じったような不均一なイエローの石は、テリのある均一なイエローにするためにBeを用いた拡散加熱処理が施されることがあります。

ルビーベイル/アナキー地域

1.位置と交通

クイーンズランド州中部のサファイア鉱区であるルビーベイル/アナキー地域はシドニーから北北西に直線距離で1200km、ブリスベンから北西に直線距離で700kmに位置しています。この地域はセントラル・ハイランド地方の農村地域ですが、サファイアが発見されたことに因り、ジェムフィールズと呼ばれるようになりました。ジェムフィールズ地域内にはルビーベイル、アナキー、サファイアの3つの町がありましたが、2020年にクイーンズランド州政府により区画整理が行われ、ルビーベイル、アナキー・サイディング、サファイア・セントラルの3つの地域に置き換えられました。

交通手段として、アナキー・サイディングから東方40kmのエメラルドという町まではブリスベンから国内線による空路が複数便/日あります。エメラルドは人口15000人ほどの町ですが、ホテル、レストラン、スーパーマーケットがあり、ジェムフィールズ滞在の拠点となります。エメラルドからは車で路線番号A4のカプリコン・ハイウェイを利用して(写真-14)、40分ほどでサファイア鉱区のあるアナキーの町に到着します(写真-15)。ハイウェイは舗装されており、快適な道のりですが、鉱山が近くなると未舗装の道が続きます(写真-16)。道中は、オーストラリアだけあってカンガルーや野生動物に注意の標識が出ています(写真-17)。カンガルーは夜行性で、突然ジャンプして道路を横切るため、夜間の走行は危険が伴います。実際、所々に衝突の痕跡(遺骸)が残されています。カンガルーとの衝突は車への被害も大きくなるため、地方を走行する車のほとんどにはカンガルー・バーと呼ばれる車体を保護する装備が付けられています(写真-18)。

写真-14:カプリコーンハイウェイ(A4)の案内標識

 

写真-15:アナキーの町にサファイアの採掘をあしらった看板

(左奥には野生のカンガルーが三匹)

写真-16: アナキー地域の鉱山近くは未舗装道路

 

写真-17: 野生動物に注意の標識

 

写真-18:カンガルー・バーと呼ばれる車体の保護装備が装着された車

* 町の名称

この地域にはサファイア・セントラル、ルビーベイル、エメラルドなど宝石に因んだ町の名称が多く見られます。サファイア・セントラルはその名前の通り、実際にサファイアが採掘される場所に因んでいます。しかし、エメラルドは宝石のエメラルドが産出されたわけではなく、実際はグリーンサファイアを当初はエメラルドと考えて町の名前となったようです。同様にルビーベイルでもルビーが産出されたわけではなく、ガーネットやジルコンなどの赤色石をルビーと誤認して町の名前となったようです。

2.採掘の現状

オーストラリア産サファイアの鉱床は、アルカリ玄武岩の大規模な噴火と密接に関連しています。サファイアは、玄武岩溶岩の中に直接見つかるのではなく、火山砕屑岩中やそれらが風化・浸食され、現在の河川沿いあるいは過去の河川跡に二次的に堆積した沖積砂礫層中に存在しています。サファイアを含む二次鉱床は地元では「Wash: ウォッシュ」と呼ばれ、通常、1~3mの表土の下に存在しています。含サファイア堆積物の厚さは場所によって大きく異なります。現在でも小規模な機械化採掘者と手工具による採掘者が生産を行っていますが、2021年以降、FURA Gemsにより大規模な露天掘りによる採掘が行われています(写真-19)。

写真-19:FURA Gemsの横断幕(事務所前)

* FURA Gems

FURA Gemsは、エメラルド、ルビー、サファイアなどのカラーストーンを生産する世界的な鉱山会社です。2017年に設立され、アラブ首長国連邦のドバイに本社があります。

同社によると、2018年にコロンビアのコスケス・エメラルド鉱山、2019年にモザンビークのモンテプエズのルビー採掘権を取得しており、2021年には約600万カラットのモザンビーク産ルビーと約30万カラットのコロンビア産エメラルドを管理しています。そして、2020年にはオーストラリアのクイーンズランドにあるグレートノーザン鉱山とカプリコーンサファイア鉱山の所有権を得て活発に操業されています(写真-20)。年間600万カラットが生産されており、現在オーストラリアで産出されているサファイアの約80%を占めているとしています。さらに近年は、マダガスカルのイラカカのサファイア鉱山も手掛けているとのことです。

* 探査と採掘

FURA Gemsによるサファイア鉱床の探鉱には最新の技術も使われています。重力異常の観測や航空磁気探査による広域的な地質構造の解明、衛星画像を用いて赤色酸化鉄の痕跡(風化した玄武岩は鉄分が多く赤っぽい土となる)の確認などが行われます。そして現地踏査を行い、地形や堆積環境の調査によりある程度の候補地を選定します(写真-21)。候補地ではグリッドごとに深さ30mほどのボーリング調査が行われ、サファイアを含む層の有無や層厚が調べられます(写真-22)。候補地が絞られると重機を用いた露天掘りによる試掘が行われ(写真-23)、経済的に採掘可能かが見積もられます。この地域は乾燥地帯のため、選鉱に必要な水を確保するために年に2回ほどある大雨の時期に試掘跡に水を貯めています(写真-24)。

写真-20:FURA Gems DirectorのSuminda Galketiya氏(左)と現場責任者のJacques Beytell氏(右)

 

写真-21:鉱山敷地内の草原にエミューの群れ

 

写真-22:ボーリングによる含サファイア層の調査

 

写真-23:露天掘りによる新たな鉱脈の試掘

 

写真-24:選鉱に必要な水の確保は重要

FURA Gemsはこの地域に現在2つの巨大なプラントを稼働させています(写真-25)(写真-26)。採掘された土砂は大型のショベルカーで運ばれ(写真-27)、大型鉱石洗浄機に掛けられます(写真-28)。ここでは水とともに回転ドラムで粘土や不要物が除去され、振動スクリーンを通して重鉱物が分別されていきます(写真-29)。この段階ではサファイアの他にスピネル、ジルコン、イルメナイト、マグネタイト、オリビン、パイロキシン、アンフィボールなどの鉱物も残ります。その後は磁気選別(写真-30)により、イルメナイトやマグネタイトなどの磁力のある鉱物を取り除き、目視選別(写真-31)を経てサファイアが分離されます。分別されたサファイアは二次鉱床のためやや丸みを帯びた形状を示します(写真-32)。鉱山責任者のSuminda Galketiya氏によると、大型トラック一杯あたり10トンの土砂を一日に1200トン処理して最終的に多い日で8-10kgのサファイアが得られるそうです(写真-33)。採取されたサファイアはサイズや色ごとに分別されます(写真-34)。多くのものは濃色で黒っぽく見えますが、透過光では美しいブルーです(写真-35)。グリーンやイエローの他に稀にオレンジ色やピンク色も見つかります(写真-36)。その後、多くのものはタイに送られ加熱処理が施されます。

写真-25:大型重機が並ぶFURA Gemsの巨大なプラントA

 

写真-26:ショベルカーによる掘削中のFURA Gemsの巨大なプラントB

 

写真-27:巨大なショベルカーによる土砂の運搬

 

写真-28:大型鉱石洗浄機による鉱石の洗浄と分別

 

写真-29:振動スクリーンを経て回収された重鉱物

 

写真-30:磁力を用いた選別

 

写真-31:目視によるサファイアの選別

 

写真-32:分別されたやや丸みのあるサファイア原石

 

写真-33:回収されたサファイア原石(右下のオレンジ色の結晶はジルコン)

 

写真-34:色やサイズによる原石の選別

 

写真-35:多くのものは黒っぽく見えるが透過光は美しいブルー

 

写真-36:稀に見つかるピンク色の結晶

インベレル/グレンイネス地域

1.位置と交通

インベレルはニューサウスウェールズ州北部に位置する地方都市で、地域全体でサファイアが発見されたため「サファイア・シティ(The Sapphire City)」として知られています。ブリスベンからは南西に直線距離で320km、シドニーからは北へ直線距離で460kmに位置しています。1848年に牧畜地として開かれ、インベレルの名称はゲール語の「白鳥の集う場所」に由来しています。

ルビーベイル/アナキー地域からは路線番号A7、A55のカーナーヴォン・ハイウェイとB76のグイディル・ハイウェイなどを利用して970kmの道のりです(写真-37)。夜間の走行は野生動物(カンガルー)との接触が危険なので、日が昇ってから出発します。地方の道はほぼ渋滞が無いので1時間あたり100㎞の走行が計算できます。途中休憩を入れても日が沈むまでにインベレルに到着可能です。

写真-37:グイディル・ハイウェイ(B76)の案内標識

2.採掘の現状

インベレル/グレンイネス地域は1970年代には100を超えるサファイアの採掘事業が行われており、オーストラリアのサファイア生産量の大部分を占めていました。その後、需要の弱まりと以前は豊富であった沖積鉱床の枯渇により、1980年代にはその数は大幅に減少し、近年、この地域で商業的に活動している鉱山はごくわずかとなりました。機械採掘を行っている代表的な企業としてWilsons Gems &Investmentsが知られており、2015年のGIA Field reportにおいて試掘の様子が紹介されていますが、残念ながら現在は操業を停止されているようです。1970年代に活躍されていた採掘業者は高齢化や資金不足などにより、今では多くが廃業されています。

現在、インベレル/グレンイネス地域のサファイア産業は、フォシッキングと呼ばれる観光採掘が主流で、地域経済の重要な収入源となっています(写真-4)。フォシッキングのやり方は施設によって異なるようですが、実際に採掘跡で観光客が手作業で砂礫を掘る場合とウォッシュと呼ばれるサファイアを含む砂礫層の砂利を購入してサファイアを探す場合があります。いずれにしても砂利を水洗して比重の大きい鉱物をより分けます。これらにはブルー・サファイアの他にパーティカラー・サファイア、ジルコン、ガーネットなどが含まれています。代表的な近隣のフォシッキング施設にBillabong Blue Sapphire Fossicking Park(写真-38)とInverell Sapphire Fossicking Parkなどがあります。

写真-38:Billabong Blue Sapphire Fossicking Parkの案内

* インベレル観光案内所

インベレルの中心地、キャンベル通り沿いの中央ビジネス地区近くにインベレル観光案内所(visitor information center)があります(写真-39)。ここでは地元や地域の地図やパンフレットに加え、宝石や鉱物のコレクションも展示されています(写真-40)。特に「サファイア・シティ」と呼ばれるだけあって(写真-41)、インベレル/グレンイネス地域のサファイア採掘の歴史に関する資料(写真-42)(写真-43)や標本石(写真-44)(写真-45)が多数展示されており、この地域のサファイアに関する知識を得ることができます。また、この地域で採掘されたサファイアのルース(写真-46)やアクセサリーも販売されています。その他、レストランや無料の給水施設、大型車の駐車施設もあり、インベレル訪問の際に最初に立ち寄りたい場所です。

写真-39:インベレル観光案内所

 

写真-40:観光案内所には地図やパンフレットの他、サファイアに関する展示品も充実

 

写真-41:The Sapphire Cityと呼ばれるインベレルの案内板

 

写真-42:インベレル/グレンイネス地域のサファイア採掘の歴史に関する資料の展示

 

写真-43:1920年当時の鉱山の様子を撮影した展示写真

 

写真-44:展示されているインベレル/グレンイネス地域で採取されたサファイア

 

写真-45:インベレル/グレンイネス地域で採取されたサファイア原石(濃青色のものが多い)

 

写真-46:販売されているサファイアのカット石

まとめ

オーストラリアはアルカリ玄武岩関連の火山砕屑岩およびそれらの二次堆積物中からサファイアが産出されています。19世紀の半ば頃のゴールドラッシュの際に発見され、19世紀後半から採掘が開始されます。20世紀前半の停滞期を経て1970年代に機械化により生産量が急増します。1970年代~1980年代はタイでの加熱処理を経て日本国内にも大量に輸入されています。当時、良質なものはタイ/カンボジア産、スリランカ産として、品質の悪いものはオーストラリア産として販売されたため、オーストラリア産のサファイアは低品質のイメージがありました。

ニューサウスウェールズ州のインベレル/グレンイネス地域は、かつてオーストラリア最大のサファイア産地でしたが、現在は商業的な採掘はほとんど行われておらず、フォシッキングと呼ばれる観光採掘が主流となっています。クイーンズランド州のルビーベイル/アナキー地域は現在、FURA Gemsが大規模な開発を行っており、大量のブルー・サファイアの他、パーティカラー・サファイアやブルー~グリーンのサファイア(ティール・サファイアと呼ばれる)を産出しています。近年は自国のディーラーによってオーストラリア産のサファイアがプロモートされ、個性的な色を求める世界の宝石市場で再評価されています。

主な参考文献

Coldham T. (1985) Sapphires from Australia. G&G, Vol. 21, No.3, pp.130-146

Facer R., and Stewart R. (1995) Sapphires in New south Wales. Department of Mineral Resources, Sydney

Sutherland F. L., and Abduriyim A. (2009) Geographic typing of gem corundum: a test case from Australia. JoG, Vol.31, No.5-8, pp.203-210

阿依アヒマディ., Sutherland F. L., and Coldham T. (2010) オーストラリア産サファイアとルビーの過去、現在および未来①. Gemmology, Vol.41, No.488-489, pp5-10

阿依アヒマディ., Sutherland F. L., and Coldham T. (2011) オーストラリア産サファイアとルビーの過去、現在および未来②. Gemmology, Vol.41, No.490, pp21-25

Hsu T., Lucas A., and Pardieu V. (2015) Seeking the Legacy of Australian Sapphire. GIA Field report

Sudarat S., Wim V., and Arron P. (2021) Sapphires from Anakie, Australia: a closer look at blue, yellow, green and bicolor sapphires. GIA News from research.

北脇裕士., 江森健太郎., 岡野誠. (2021) サファイアの原産地鑑別:産地情報と鑑別に役立つ内部特徴について. CGL通信, No.58, pp1-25

IGC参加報告

2026年3月PDFNo.72

リサーチ室 江森健太郎

去る2025年10月20日~10月24日、ギリシャのアテネにて第38回国際宝石学会(International Gemmological Conference, IGC)が開催されました。弊社リサーチ室から筆者が出席し、本会議において口頭発表を行いました。以下に概要を報告致します。

 

ギリシャのシンボル、アクロポリスのパルテノン神殿(左)、リカヴィトスの丘より見たアテネ市(右)

国際宝石学会(IGC)とは

国際宝石学会(以下IGC)は国際的に著名な地質学者、鉱物学者、先端的なジェモロジストで構成されており、宝石学の発展と研究者の交流を目的に2年に1度本会議が開催されます。この会議は1952年ドイツで第1回会議が開催されてから、今年で38回目の開催となります(Covid19の影響によるオンライン開催を含めると39回)。

IGCはクローズド・メンバー制が守られている点が他の一般的な学会とは異なります。メンバーは、デレゲート(Delegate)とオブザーバー(Observer)で構成されています。オブザーバーとは、宝石学分野で論文等を発表している国際的なジェモロジストにのみ与えられる資格で、デレゲートの推薦もしくはエグゼクティブコミッティ(Executive Committee)の過半数の投票によりIGC会議に招待されます。デレゲートは、オブザーバーとして3回以上IGCで優れた発表をしたとエグゼクティブコミッティ(Executive Committee)に推薦されたものが毎回のIGCビジネスミーティングにて昇格します。こういったクローズド・メンバーのおかげで、IGCは非常にアットホームな雰囲気であり、技術・知識交流が活発であり、また発表のレベルが担保された学会であると言えるでしょう。毎回の本会議においては、時々の先端的なトピックス(ひすいの樹脂含浸、コランダムのBe処理、ハイブリッドダイヤモンドなど)、産地情報、分析技術などが報告されます。

今回の第38回IGCではメンバー(デレゲート)とオブザーバー、そしてゲストを合わせて約80名が会議に出席しました。日本からはデレゲートとして参加した筆者以外に、エグゼクティブコミッティのAhmadjan Abdriyim氏とデレゲートの古屋正貴氏、オブザーバーとして大久保洋子氏が会議に出席しました。

IGCの沿革、ポリシーについてはCGL通信vol.29、vol.42に詳しく記載してありますので参照して下さい(http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/)

開催地、アテネについて

アテネはギリシャ南部アッティカ地方に位置し、約3,000年の歴史を誇る世界最古級の都市です。古代ギリシャ時代には哲学・芸術・民主主義の中心地として栄え、現在もその面影を残すパルテノン神殿やアクロポリス遺跡が街を象徴しています。人口は約300万人で、政治・経済の中枢としても機能しています。石畳の街並みが美しいプラカ地区では、伝統料理を味わいながら歴史の息吹を感じることができます。

2010年にはギリシャ政府が巨額の債務返済に行き詰まり、EUとIMFからの金融支援を受ける事態に陥りました。この一連の流れが「ギリシャ危機」と呼ばれ、ユーロ圏全体に波及する深刻な経済不安を引き起こしました。このことによりギリシャの治安は大幅に低下したと言われていますが、この影響はプラカ地区を含むメジャーな観光地域ではあまり感じることはありません。

交通手段ですが、日本からギリシャ、アテネ国際空港への直行便はありません。筆者は、イスタンブール国際空港を経由してアテネ国際空港まで向かいました。日本からイスタンブールは約12時間、イスタンブールからアテネへ1時間半ほどのフライトです。アテネ国際空港から、中心部へは、地下鉄で40分ほどです。

考古学博物館に展示されているアテナ像

 

パルテノン神殿

 

第1回近代オリンピックの会場

第38回国際会議

今回のIGCは、過去のIGC同様Pre-Conference Tour(会議前の巡検、10/17(金)~10/19(日))、本会議(10/20(月)~10/24(金))、Post-Conference Tour(会議後の巡検、10/24(金)~10/27(月))の3本立てで行われました。本会議前後のPre-またはPost-Conference Tourでは、開催地周辺のジェモロジーや地質・鉱物に因んだ土地・博物館等を訪れます。筆者は、今回は本会議にのみ参加し、1件の口頭発表を行いました。

開会式とオープンセッション

本会議は、アテネ商工会議所(Athens Chamber of Commerce and Industry, ACCI)で10/20(月)開催されました。初日20日(月)、9時半より開会式が行われ、IGC2025のオルガナイザーを務めるギリシャ、テッサロニキ大学のStefanos Karampelas教授が開会宣言を行い、スポンサー紹介を行います。引き続き、エグゼクティブコミッティを代表してDr. Jayshree Panjikar氏がIGCの歴史についてのプレゼンテーションを行いました。その後、20日(月)午前中はオープンセッションと称して「宝石学とギリシャ」というタイトルでギリシャの研究者または学生による5件の発表が行われました。

開会式

 

本会議の様子

本会議

本会議は20日(月)午後より開催され、24日(金)の閉会式まで、一般講演計44件(うちコランダム11件、ダイヤモンド6件、ひすい3件、こはく3件、エメラルド2件、スピネル2件、ジャスパー1件、ガーネット1件、ゾイサイト1件、ユークレース1件、クォーツ1件、蛍石1件、トルマリン1件、真珠1件、ハールバット石1件、ラリマー1件、歴史と博物学4件、着色原因全般1件、変成岩関連宝石全般1件、文献検索1件)が行われました。今回は、本来予定されていた4件の発表者がビザ申請の問題で参加することができませんでした。また、今回の本会議では、例年行われているポスターセッションは行われず、すべて口頭発表で行われました。

弊社リサーチ室からは筆者がダイヤモンドのセッションで「Identification of melee size synthetic coloured diamond for jewellery (宝飾用に用いられるメレサイズ合成カラーダイヤモンドの鑑別)」というタイトルで発表を行いました。本稿の最後に今回のIGCで興味深かった発表を紹介します。

ショートトリップ

22日(水)は、一般講演は行われず、全参加者でショートトリップに向かいました。行先は4つ、(1) ソリコス劇場(Theatre of Thorikos)、(2)ラヴリオン鉱物博物館(Mineralogical Museum of Lavrion)、(3) ラヴレオティキ・ユネスコ世界ジオパーク(Lavreotiki UNESCO Global Geopark)、(4)スニオン岬(Cape Snion)です。

(1) ソリコス劇場

ソリコス劇場は、現存する世界最古の石造劇場で、紀元前6世紀末に建設されたギリシャ・アッティカ地方ヴェラトゥリ丘にある歴史的遺跡で、楕円形の構造、長方形の舞台を有していました。現在は21列の石造ベンチがそのまま残されています。この地域は、鉱業とともに栄え、ラヴリオン鉱山(鉛、銀を産出)の管理拠点だったそうです。

ソリコス劇場のベンチに座って説明を聞く参加者達

(2)ラヴリオン鉱物博物館

ラヴリオン鉱物博物館は、ギリシャ・ラヴリオン地域の鉱業と鉱物の豊かさを伝える博物館で1986年に設立されました。1875年に建造された鉱石洗浄施設の一部を改装しており、19世紀末の産業建築物になります。鉱物標本はこのラヴリオン地域のサンプルを中心に約600点が展示されており、総コレクションは約1400点、代表的な鉱物として、60-70cmもある巨大なアラゴナイトの結晶標本が展示されています。その他、鉱山道具や鉛インゴット、スラグ(鉱滓)といった鉱業の工程を示す資料も豊富です。

ラヴリオン鉱物博物館

 

博物館内部で熱心に標本を観る参加者達

 

博物館で一番有名(だと言われている)アラゴナイト標本

 

1800年代に使用された鉱山道具の数々

(3)ラヴレオティキ・ユネスコ世界ジオパーク

ラヴレオティキ・ユネスコ世界ジオパークは、ギリシャ・アッティカ地方に位置する地質・鉱業・文化の宝庫で、6000年にわたる鉱山史を持つユネスコ認定のジオパークで、厳密には上述したソリコス劇場、最後に紹介するスニオン岬もラヴレオティキ・ユネスコ世界ジオパークに該当します。この一帯は、混合硫化鉱床(銀・鉛・亜鉛など)で世界的に有名で、古代アテネの繁栄を支えた銀鉱山として重要な役割を果たしました。

我々が訪問したのは、鉱山中心部の坑道跡です。19世紀から20世紀にかけての採掘活動中に屋根を支えていた複数の地下採掘施設と柱そして古代の採掘作業の痕跡が今も残っています。背の高い小さな坑道や岩石の独特な形状からもそれが見て取れます。ここでは、アンナバージャイト(ニッケルとヒ素の鉱物でニッケル華とも呼ばれる)をはじめとして、エリスライト(これはコバルトとヒ素の鉱物でコバルト華とも呼ばれる)、スファレライト、ガレナ、セルピエライトが有名で、他にも73種類もの鉱物が採掘されることから世界的によく知られています。この近くにはこの地域で唯一の地下大理石採石場があり、この採石場は20世紀初頭に開設され、1980年代末まで操業していました。

坑道入口で集まる参加者達

 

坑道内部(中には照明等はありませんでした)

(4) スニオン岬

最後に我々が訪れたのは、ギリシャ・アッティカ半島最南端に位置し、エーゲ海を望むスニオン岬です。この岬は、ギリシャ神話において、アテーナイ王アイゲウスが息子テセウスの死を誤解し、身を投げた場所として知られています。エーゲ海の絶景と夕陽、アテネから日帰り可能な観光地として栄えています。そのスニオン岬に建てられているのが、ポセイドン神殿で、紀元前444年頃ペルシャ戦争後に再建されたとされています。元は高さ6 m超えの柱が34本あったそうですが、現在は17本しか残存していません。

スニオン岬

 

ポセイドン神殿

閉会式

最後に、本会議の最終日24日(金)の閉会式にて、次回の第39回IGCの開催地はブラジルであることが正式に発表されました。IGCは世界的に著名なジェモロジストが参加し、交流を深めることができます。この交流によって各国の状況や生の声を聞くことができます。また、今回はPostおよびPre Conference Tourには参加しませんでしたが、カンファレンス前後のツアーは宝石を研究する上で必要な原産地視察を行うことができ、貴重な体験となります。中央宝石研究所はこれからもこのような国際会議に積極的に参加し、情報を仕入れるよう努めていく予定です。◆

エグゼクティブコミッティとIGC Greece実行委員会の皆様

 

IGCフラッグは次回の開催地ブラジルに手渡された

 

IGC2025参加者の皆様

Fe-Ti charge transfers: A comprehensive review and its applications to minerals and gems (Fe-Ti電荷移動:包括的なレビューと鉱物および宝石への応用)

フランス、ナント大学のEmmanuel Fritsh教授がFe-Ti電荷移動(Charge Transfer)についての話をしました。Fe-Ti電荷移動は多くの天然鉱物や人工材料の色起源の説明に用いられてきましたが、包括的なレビューはありません。本発表ではFe2+/Fe3+とTi4+(Ti3+は自然界では稀)間の電荷移動が鉱物の色に与える影響を整理しました。Fe-Ti電荷移動は八面体サイト間(特に辺共有、面共有)で起こることが多く、100 ppm以下の微量な量でも色に影響を与えます。また、電荷移動に伴う吸収帯は広く、そして強く、温度上昇により強度が減少し、非等方性鉱物においては強い多色性を示します。吸収帯の位置(エネルギー)はFe-Ti間の原子間距離と相関しており、これは色の起源を特定する有力な手掛かりであるとしました。この結果、ブルー・サファイアには4種類のFe-Ti電荷移動バンドが存在し色の多様性を説明、デュモルチェライトにおいてはピンク、青の両方の色がFe-Ti電荷移動による可能性であること、ブラウンのベリルはAl-Si距離から推定される電荷移動吸収が可視領域の始まりに位置し、強い多色性を説明可能だとしました。また、ベニトアイトのブルーはFe-Ti電荷移動だとされてきましたが、吸収帯の位置や多色性の方向から電荷移動によるブルーであるかどうかは疑問が残る、としました。

A Convincing glass imitation of larimar (pectolite)(ラリマー(ペクトライト)のガラス模造品)

インド、ジャイプールのIIGJ LaboratoryのGagan Chouldhary氏はラリマー(ペクトライト)のガラス模造品について発表を行いました。ラリマーはドミニカ共和国産のブルーのペクトライトで白い網目状模様と波のような模様が特徴です。最近人気が向上しており、模造品が市場に出回っています。本研究では過去1年半にわたり、Gagan氏のラボに持ち込まれた模造品の特徴を記録・分析したものです。模造品はグリーニッシュブルーからブルーグリーンの色をしており、白い網目状模様をしています。カボションの形状をしたものは中心部が濃く、放射状の繊維状構造とシャトヤンシーを示します。断面は中心から放射状に広がる繊維構造を有し、表面には透明なガラス層と葡萄状の模様が見られます。模造品には繊維状の結晶インクルージョンが放射状に成長しており、ラマン分光の結果、ウォラストナイト(CaSiO3)であることがわかりました。また、ガラス部分はブロードな吸収を示し、典型的な非晶質ガラスのスペクトルを示します。この模造品は部分的に非常にラリマーに類似しており、誤認の可能性が高いと考えられます。高いSiとAl、低いCa含有量、針状結晶が識別の決め手になります。鑑別そのものは難しくありませんが、市場での誤認防止の啓発が重要だと語っていました。

Bertrandite in Emeralds (エメラルド中のベルトランダイト)

アメリカ、GIAの研究者Shane F. McClure氏がエメラルドの亀裂中のベルトランダイトインクルージョンについての発表を行いました。最近、GIAにインクルージョンが非常に多い低品質のエメラルドが多く持ち込まれるようになりました。一部の石に見られる低リリーフの亀裂は、従来の樹脂充填とは異なる特徴を示すため、調査しました。これらの石は、通常の充填された石に見られるようなフラッシュ効果、気泡、紫外線蛍光、FTIRによる樹脂のピークが見らないが、充填されているようにみえる亀裂が存在し、一部の亀裂は褐色がかって見えたり、偏光下で干渉色を示したりします。それらについてラマン分光分析を行った結果、充填物は主にベルトランダイト(bertrandite)、一部フロゴパイト(phlogopite)であると判明しました。FTIRでは6981、6930 cm-1に弱いベルトランダイト由来のピークが確認されることもありますが、非常に微弱です。ベルトランダイトはBe(Si2O4)(OH)2、ベリリウム含有ケイ酸塩鉱物、屈折率1.59-1.61で高Fe含有エメラルド中では低リリーフに見えます。通常はペグマタイト中の後期鉱物として形成され、水蒸気の存在が必須になります。ベルトランダイトで満たされた亀裂は、当然クラリティエンハンスメントには当たりませんが、ベルトランダイトが存在しても、一部の亀裂にはポリマー(オイル、樹脂)も存在することもあるため、注意が必要で、石の外観に影響しているのがどの亀裂になるのか見極める必要があります。これらの石の提出者は、産地不詳と語っていたそうですが、GIAの微量元素プロットではロシアまたはザンビア産エメラルドに類似しているとのことでした。

Automated Data Processing of Raman Spectra for Supporting Spinel Origin Determination (スピネルの原産地鑑別のためのラマン自動データ処理)

タイのG-ID LaboratoriesのTasnara Sripoonjan氏がラマン分光分析を用いたスピネルの原産地鑑別とその自動化支援の研究について発表を行いました。本研究では、レッドスピネル(ミャンマー産、ベトナム産、タンザニア産)、ブルースピネル(ベトナム産、タンザニア産)について、ラマン分光分析を行った上で、そのデータについて自動処理(ピーク抽出処理)を行い、それらのデータを用いた原産地鑑別の可能性について調査を行いました。その結果、レッドスピネルでは、405 cm-1と665 cm-1、ブルースピネルでは415 cm-1、657 cm-1の半値幅のプロットを用いることで各産地のクラスターが形成され、原産地鑑別に利用することができることがわかりました。この手法は、小粒石やジュエリーにセットされた石にも適用可能ですが、スピネルは加熱処理を施すことでラマンピークの半値幅が広がるため、判別制度が低下する可能性があるとのことです。この手法は迅速で有用ですが、微量元素分析との併用が望ましいと考えられます。

HFSE-enriched sapphires of gem quality: A combined FTIR and trace element study and implications for heat treatment detection (HFSEを豊富に含む宝石品質のサファイア:FTIRと微量元素を組み合わせた研究と熱処理検出への影響)

スイス、SSEFの研究者Michael S. Kremnicki博士がHFSEを豊富に含むブルー・サファイアのFTIRスペクトルについて研究し、加熱処理の判別に有効かを検証しました。HFSEはHigh Field Strength Elementsの略でSn、Nb、Zr、Ta、Wといった元素です。HFSEを多く含む非加熱のスリランカ及びマダガスカル産のコランダムについてFTIRとLA-ICP-MSによる微量元素分析を組み合わせ、多くの試料で3300 cm-1付近に広い吸収帯を確認しました。これらはAl欠陥に関連するOH-グループに由来します。本研究では、Ta濃度が高いほど、3300 cm-1の吸収帯が強くなる傾向が見られました。一部試料は3385 cm-1に吸収がシフトしていましたが、この原因は未解明です。これらの非加熱サファイアはOH-に関連する小さなピーク(3182、3232、3308 cm-1)を示すものがあり、短波紫外線下での白濁蛍光も示します。両方の特徴は加熱処理された変成岩起源のサファイアでよく知られており、記載されていますが、これらの特徴は非加熱石にも見られることが明らかになりました。ベルベットのような外観と濁り味を有する変成岩起源サファイアの加熱/非加熱の単純な区別が誤りとなる可能性があるので注意が必要です。

Effects of Gamma Irradiation on Corundum: Towards a Potential Detection Method (コランダムへのガンマ線照射の影響:潜在的な検出方法の確立に向けて)

スイス、SSEFの研究者Hao A. O. Wang博士がコランダム(ルビー、サファイア)に対するガンマ線照射による色変化とその安定性を調査しました。この研究は2023年東京上野で開催された前回のIGC、IGC2023で発表した予備研究を発展させたものです。本研究では天然・合成コランダム29点について、微量元素濃度を測定、その後ガンマ線照射(33 kGy/70時間)、安定性試験(褪色試験(高輝度LEDによる)と再活性試験(長波紫外線下で10分、それでも識別可能な効果が選らなかったものについてはさらなる長波紫外線下(2時間)と短波紫外線下(1時間)、DiamondViewを用いた深紫外線による照射(10分))、最後の工程として350℃で20分の加熱を行いました。各工程の前後には紫外-可視-近赤外(UV-Vis-NIRの領域の分光データを取得しています。鉄・チタンを多く含むブルー・サファイアにおいてはガンマ線照射による不可逆的なブルーの減少が見られました。これは、一部のルビーで青紫色の要素が低下する原因の1つである可能性があります。また、天然のピンク/パープルのコランダムはガンマ線照射による色が不安定で可逆的なオレンジ色への色変化が見られました。また、TiやFeを含むパープルの合成コランダムは、褪色はするものの、なかなか再活性しない半安定的なオレンジ色の変化が見られました。最後に高濃度Crのみを含む合成コランダムはガンマ線照射に不活性でした。最後に、ガンマ線照射で色の変化が認められたサンプルは、穏やかな熱処理を施すことで元の色へ戻すことができました。結論として、コランダムにおけるガンマ線照射の影響は複雑であり、検出に課題があるものの、褪色試験、活性化試験前後でのUV-Vis-NIRの分光法による色変化を追うことは、高い診断可能性が期待できるとしました。

Low Temperature Heat Treatment of Madagascar Sapphire (マダガスカル産サファイアの低温加熱処理)

タイ、Lotus GemologyのE. Billie Hughesがマダガスカル産サファイアの低温加熱処理とその検出可能性について発表を行いました。本研究は1200℃未満の低温加熱処理がマダガスカル産のブルー・サファイアに与える影響を調査し、加熱処理の検出に役立つ特徴を明らかにすることが目的です。12点のマダガスカル産ブルー・サファイアを800℃から1500℃で段階的に加熱しました。色変化に関しては900~1000℃で色は明るくなりましたが1300℃以降で濃色化、1500℃で多くの試料が著しく濃い色に変化しました。インクルージョンに関しては800℃で結晶インクルージョン中に亀裂が出現しはじめ、1100℃でその亀裂の縁が癒合しはじめることを観察しました。蛍光反応は1100℃でチョーキーな青色蛍光が出現しはじめ、1100℃で石全体に広がります。最後に1500℃に加熱後、880 nm付近に新たな吸収ピークが出現しています。低温加熱でも、色・包有物・蛍光・スペクトルに変化が生じ、低温加熱の看破にはインクルージョン、蛍光、分光データの複合的アプローチが有効であることを示しました。

Geographic Origin Determination of Natural Yellow Sapphires: The Preliminary Study (天然イエローサファイアの原産地鑑別:予備調査)

タイ、GITの研究者Montira Seneewong-Na-Ayutthaya氏がイエローサファイアの原産地鑑別についての発表を行いました。イエローサファイアの原産地鑑別は、従来のインクルージョン観察だけでは限界があり、より精度の高い判別方法が望まれています。本研究では151点(スリランカ、マダガスカル、タンザニア、タイ; すべて加熱処理、タイ産はBe拡散加熱処理されている)のイエローサファイアを用い、ラマン分光、紫外可視吸収スペクトル、LA-ICP-MS分析を用いて原産地鑑別の可能性を調査しました。顕微鏡による拡大特徴として、スリランカ産のイエローサファイアは、ジグザグ状のフィンガープリント、CO2を含むネガティブクリスタル、アパタイト、グラファイトといったインクルージョンが確認されました。また、マダガスカル産は丸いジルコン、ルチルの針、マイカが観察され、タンザニアはヘマタイトのシルク、ローズチャンネルが観察されました。タイ産は、高温処理による分離結晶、ブラウンのパーティクル、長石、ブルーのゾーンが確認されました。紫外可視吸収スペクトルにおいては、スリランカ産以外の産地はFe3+の濃度が高く、378、387、450 nmに吸収が確認されます。元素濃度に関しては、Feの濃度が各産地で異なり、Mg、Cr、Feを用いたプロット図で産地毎のクラスター分離が可能です。結論として、イエローサファイアの原産地鑑別は、Mg、Cr、Feの濃度と、インクルージョン観察が信頼の高い判別法として有望だと締めくくりました。

Challenges in the Detection of Ruby and Sapphire Treatment in the Thai Market (タイ市場におけるルビーとサファイアの処理における処理検出への挑戦)

タイ、GITの研究者Supparat Promwongnan氏が、タイ市場に流通するルビー、サファイアに施されている処理とその看破方法について発表を行いました。ルビー、サファイアの処理の検出は、市場価値、倫理的開示、消費者信頼に直結する重要な課題ですが、近年の処理技術の高度化により判別困難なケースが増加しています。現在流通しているルビー、サファイアに程される処理には、加熱処理、フラックス加熱、拡散加熱(Be, Ti, Cr)、ガラス充填、高温高圧処理、オイル・樹脂充填、染色、放射線照射といったものがあり、多岐に渡ります。それらの看破には、顕微鏡観察(インクルージョンの変化、フラックス残留等)、FTIR(加熱由来の吸収帯)、ラマン分光(ゲーサイトからヘマタイトへの変化等)、EDXRFおよびLAICPMS(Be、Pb、Ba、Biといった元素検出)、LIBS(Beの検出)、蛍光(加熱によるシルク変化やUV応答の違い)といった技術が使われています。現状直面している検出仮題としては、(1)低温加熱処理: インクルージョン変化が少なく、スペクトルによる特徴も不明瞭、(2)玄武岩起源のコランダム: 自然の熱によりうけた加熱と人工加熱の区別が困難な場合がある、(3)ガラス充填: 高透明度により亀裂が隠れ、X線や化学分析が必要な場合がある、(4)表面拡散処理: 色が表面に集中しすぎているため、液浸観察と化学分析が不可欠、(5)放射線照射: 色安定試験は可能だが、処理自体の検出は未確立、(6)オイル充填: 低粘度・無色のオイルは検出が難しく、複数技術の併用が必要、といったものがあります。結論として、処理の検出には複数の分析技術の組み合わせが不可欠で、処理技術の進化に対応するため、継続的な研究・手法開発・ラボ間の連携が重要だとしました。

Nitrogen aggregates in yellow HPHT and CVD synthetic diamonds (黄色HPHTおよびCVD合成ダイヤモンドにおける窒素集合体)

ロシア、モスクワ大学のYuri Shelementyev教授がイエローのHPHTおよびCVD合成ダイヤモンドにおける窒素凝集体について発表を行いました。N3センター(415 nm)は従来、天然ダイヤモンドの指標とされていましたが、今では合成石にも出現しています。天然ダイヤモンドにおけるN3センターは地質学的な時間をかけ形成されていますが、合成石においては、照射+アニーリングにより生成することが可能です。本研究では、イエローのHPHT合成ダイヤモンドとCVD合成ダイヤモンドに照射、アニーリングする実験を行いました。電子線照射処理を行った結果、GR1センター(741 nm)の出現を確認しました。また、1800℃によるアニーリングの結果、N3センターの出現をCVD合成、H3センター(503 nm)の出現をHPHT合成ダイヤモンドから確認しました。結論としてN3センターは合成ダイヤモンドでも形成可能であり、鑑別には注意が必要で、フォトルミネッセンス分析とFTIRの組み合わせが有効な鑑別手段となります。

宝石学会(日本)2025年講演会より 真珠鑑別におけるX線蛍光イメージングの定量化

2025年11月PDFNo.71

中央宝石研究所 江森健太郎・北脇裕士

真珠科学研究所  佐藤昌弘・矢﨑純子

東京宝石科学アカデミー   渥美郁男

真珠の母貝鑑別、特に淡水産と海水産の鑑別には、蛍光X線元素分析によるマンガン(Mn)、ストロンチウム(Sr)の分析が広く用いられている。しかし、蛍光X線分析は真珠の個体1点ずつの分析であり、連など複数の真珠が用いられた製品の検査には向かないという問題がある。一方X線蛍光イメージング法もまた淡水産と海水産を分別するのに有効であることが知られている。X線蛍光イメージングは一度に複数の真珠を同時に検査することができる。この検査方法の有効性については筆者らとの共同研究として矢﨑(2025)、矢﨑他(2025)に詳しくまとめられている。しかし、この手法は官能検査であり、巻き厚の薄い真珠への応用が非常に難しいことが問題となっている。そこで、本研究ではX線蛍光イメージングと、そのイメージを定量化することによる真珠の鑑別方法について調査を行った。その結果、X線蛍光イメージングによる定量化は真珠のグループから淡水養殖真珠の可能性があるものを粗選別するには有効な手法であることを確認した。

はじめに

近年、中国における淡水真珠の養殖現場において、養殖技術の改善により、生産量が増加し品質も向上している。また、ベビーパールと呼ばれる小粒のアコヤ真珠の人気が高まるにつれ、直径6 mm以下の淡水有核真珠が大量に養殖されている。それらは中国市場において、淡水真珠であるにもかかわらず、しばしば「チャイニーズアコヤ」「ベビーアコヤ」「フレッシュウォーターアコヤ」などと称して販売されている。また、昨今では真珠も二次流通が多くなり、おそらく海水産であるアコヤ真珠の連の長さ調節の際に意図的にあるいは偶発的に淡水有核養殖真珠が混入した事例が見られるようになった(図1)。これらのことから、必然的にアコヤ養殖真珠と淡水養殖真珠の母貝鑑別の重要性が高まっている。

図1淡水養殖真珠(14個)が混入したのアコヤ養殖真珠連(直径3.5~4mm:見た目には区別がつかない)

アコヤ養殖真珠と淡水養殖真珠の母貝鑑別には、通常、目視検査(顕微鏡による表面観察を含む)、長波紫外線下での蛍光観察、蛍光X線元素分析が用いられている。特に蛍光X線元素分析は有効な手法であり、真珠層に含まれるマンガン(Mn)やストロンチウム(Sr)の濃度を測定することで両者の分別が可能である。淡水養殖真珠はMnを多く含み、海水産真珠であるアコヤ養殖真珠はMnを殆ど含まず、Srを多く含む。しかしながら蛍光X線元素分析は真珠の個体1点ずつの分析となるため、連などの製品で全数検査を行うには時間がかかりすぎるという問題がある。
特定の物質はX線を照射することで可視光の蛍光を呈することが知られており(これをX線蛍光という)、特にMnを含む物質はX線を照射することで緑色に蛍光することが知られている。つまり、Mnを有する淡水養殖真珠の真珠層はX線照射により緑色に蛍光するが、Mnを殆ど有さない海水産のアコヤ養殖真珠の真珠層は緑色の蛍光を呈さないという性質がある(Hänni et al., 2005 、Singbamroong et al., 2013)。しかし、多くの海水産であるアコヤ養殖真珠では淡水産貝の貝殻を成型した核を利用している。淡水産貝の貝殻核は、Mnを含むため、X線照射により緑色に蛍光する(図2)。この蛍光は、真珠層がある程度厚い場合は外部から観察することは殆どできない。しかし、真珠層が薄い場合、つまりサイズの小さなアコヤ養殖真珠の場合は、外部からの観察に影響を与え、その真珠が淡水養殖真珠かアコヤ養殖真珠かの判断を難しくする(矢﨑他、2025)。本研究では、そういった事情を踏まえ、X線蛍光画像をデジタル解析することで淡水養殖真珠かアコヤ養殖真珠か判断することが可能か調査を行った。 

図2. 核に使用される淡水産貝のX線蛍光イメージ画像 (左:ドブガイ、右:ヒレイケチョウガイ) 写真:矢﨑純子

サンプルと手法

本研究ではアコヤ養殖真珠97点と淡水養殖真珠14点が混在した連(図1)(標準的な鑑別検査と個別の蛍光X線分析において確定済)をサンプルとして用い、軟X線透過装置としてSoftex M-100とカメラ撮影にはCanon EOS Kiss X7を用いた。X線は90 kV、3 mAの条件で照射を行い、カメラ撮影はISO6400、f4.0、シャッタースピード30秒で行った。画像の切り出しにはGIMP 2.10.30を用い、得られた画像の解析には独自に開発したソフトウェアを用いた。ソフトウェアによる計算アルゴリズムについてはカコミ「蛍光強度の数値化について」に記載してある。

結果と考察

サンプルのX線蛍光イメージング画像を図3に示す。赤矢印で示したものが淡水養殖真珠である。淡水養殖真珠は強い緑色蛍光を示すが、その他のアコヤ養殖真珠も緑色の蛍光を発するものが多い。これはその真珠が直径3.5~4.0 mmと非常に小さく、巻きがおよそ0.3 mmと薄いため核に使用された貝殻(淡水産)の緑色蛍光が真珠層から透けて見えているものと考えられる。この画像から真珠1粒ずつを100ピクセル四方の画像として切り出しを行ったものを図4に示す。

図3. 真珠のX線蛍光像

 

図4. サンプルのX線蛍光画像より真珠1粒ずつ100ピクセル四方の画像として切り出したもの。
赤枠で示したものは淡水養殖真珠である。

これらの画像1つずつについて囲み「蛍光強度の数値化」に記した手法を用いて蛍光強度(輝度平均)を計算した。計算した結果を連の端から端まで順番にグラフ化したものを図5に示す。

図5. サンプル全てについて計算した蛍光強度(平均輝度)を横並びの棒グラフにしたもの。
ピンク色が淡水養殖真珠、グレーがアコヤ養殖真珠。

アコヤ養殖真珠の蛍光強度(平均輝度)は98から160であったのに対し、淡水養殖真珠は155から197と高い蛍光強度(平均輝度)と高い数値を示した。アコヤ養殖真珠で高い蛍光強度を示すのは、核からの強い蛍光が反映されていると推測される。オーバーラップする蛍光強度(平均輝度)の範囲である155~160の範囲に相当するアコヤ養殖真珠は9点であり、これはアコヤ養殖真珠97個中の9.3%程度である。この数値は、この蛍光強度(平均輝度)を用いる手法は、アコヤ養殖真珠と淡水養殖真珠を分別するための粗選別として有効に使えることを示す。
次に淡水養殖真珠14点について、真珠層に含まれるMn濃度(予備的に蛍光X線元素分析装置JSX1000Sにて測定)と、得られた画像の平均輝度の関係を調査した。Mn濃度と平均輝度にはある程度の相関関係が見いだされた(図6)。淡水養殖真珠にも淡水核が用いられており、核の蛍光も反映されているためだと考えられる。

図6. 混入した淡水養殖真珠のMn濃度と平均輝度の関係

まとめ

海水産真珠(アコヤ養殖真珠)の連に淡水養殖真珠が混入する事例が報告されており、その簡易的な鑑別方法が求められている。X線蛍光イメージング法は、母貝鑑別 (海水 vs. 淡水)に有力な方法と知られている。本研究では、そのX線蛍光イメージング画像による蛍光強度を数値化し、判定を容易にする方法を試み、この手法は両者の分別に有効であることを示した。しかし、巻き厚が0.3mm以下の薄い真珠は、淡水産核の蛍光を受けるため、海水産養殖真珠と淡水養殖真珠の間で蛍光強度がオーバーラップする部分もあるので注意が必要である(矢﨑、2025)。今後は測定方法や解析手法をブラッシュアップし、より精度の高い判別法を目指していく予定である。

参考文献
  • Hänni, H.A., Kiefert, L. and Giese, P., 2005. X-ray luminescence, a valuable test in pearl identification. Journal of Gemmology, 29(5/6), 325-329.
  • Sutas S. and Nazar A., 2013. Digital SLR camera applied to investigation of X-ray luminescence of pearls. IGC2013 Proceedings, 73-74
  • 矢﨑純子, 佐藤昌弘, 渥美郁男, 江森健太郎, 北脇裕士, 2025. X線照射により発する蛍光を用いた淡水産真珠の判別法について. 2025年度宝石学会(日本)講演会・総会プログラム, 20
  • 矢﨑純子, 2025, X線照射により発する蛍光を用いた淡水産真珠の判別法について(2025年宝石学会発表). Margarite, https://margarite-web.com/report/post-3934/

蛍光強度の数値化について

本研究において、次に述べる方法を用いてX線蛍光像でえられた画像の蛍光強度を数値化した。
まず、真珠1粒ずつ、画像から切り出しを行い、100 ピクセル四方の画像データを得た。ここでは本研究で用いたサンプルの中から淡水養殖真珠、アコヤ養殖真珠の1点ずつを例にとって説明を行う(図A)。

図A: 本研究で用いたサンプルより切り出した(左)淡水養殖真珠と(右)アコヤ養殖真珠のX線蛍光画像の例
白い粒々(白飛び)は、カメラ撮影の際に生じたノイズ

蛍光強度は、その真珠画像の輝度平均として定義した。輝度は画像の1ピクセルあたりにつき得られる値であり、そのピクセルのRGB要素(R: 赤、G: 緑、B: ブルー)から計算して得られる。RGBの値[R][G][B]はそれぞれ0から255の値で表され、輝度Yは0.229x[R]+0.587[G]+0.114[B]で定義され、輝度の理論最高値は255、最低値は0となる。
この輝度の計算を用いて、画像ごとの輝度マッピングを生成することができる(図B)

図B. 図Aで示した画像の輝度マッピング。(左)淡水養殖真珠、(右)アコヤ養殖真珠。
赤が輝度0、緑が輝度255のグラデーションで輝度の強弱を表現した。

この画像で得た輝度マッピングから、バックグラウンド(背景)と図Aで見られる白飛び(X線蛍光画像撮影の際得られる白い粒々)を削除して輝度の平均を計算する。なお、図AまたはBで用いた画像の蛍光強度(輝度平均)は、淡水養殖真珠は179、アコヤ養殖真珠は113であった。

GIT2025 参加報告

2025年11月PDFNo.71

リサーチ室 江森健太郎

2025年9月8日(月)、9日(火)にThe 8th International Gem and Jewelry Conference(第8回国際宝石・宝飾品学会、通称GIT2025)がタイのバンコクで開催されました。CGLからは筆者が参加し、発表を1件行いました。また、9月5日(金)~7日(日)に先立って開催されたPre Conference Excursion(会議前の巡検)にも参加しましたので、あわせて以下に概要を報告します。

International Gem and Jewelry Conferenceとは

International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)はGIT (The Gem and Jewelry Institute of Thailand)が主催する国際的に有数の宝飾関連学会の1つです。2006年に第1回が開催され、第2回2009年、第3回2012年、第4回2014年、第5回2016年、第6回2018年、第7回2022年と開催され、今年2025年は第8回目としてGIT2025がバンコクで開催されました。GITはLMHC(Laboratory Manual Harmonization Committee、ラボマニュアル調整委員会)に属する国際的にも著名な宝石検査機関で、CGLとは科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を諮っています。本学会はGITが主催していますが、TGJTA(タイ宝石・宝飾品協会)、CGA(チャンタブリ宝石・宝飾品協会)、チュラロンコン大学、国家商工省、鉱物資源局などが後援しており、まさに国を挙げての国際会議といえます。また、カンファレンス運営のため、組織委員会として18名、諮問委員会として14名、技術委員会として33名が結成されており、当研究所の堀川も諮問委員としてその一役を担いました。

Pre Conference Excursion

Pre Conference Excursion(会議前の巡検)は、本会議に先立って行われる巡検プログラムで、宝石・宝飾品に因んだ場所を訪れます。GIT2025のPre Conference Excursionの参加者はGITスタッフを含め40名程で、タイ最大の金鉱山であるAkara Gold Mine(アカラ金鉱山)とBaan Thong Somsamai(バーン・トーン・ソムサマイ、タイのスコータイ県における有名な金工芸工房)、Si Satchanalai Silver Jewelry (シーサッチャナーライ・シルバー・ジュエリー、同じくスコータイ県で有名な銀工芸工房)等を訪問しました。

Akara Gold Mineの位置(google mapより)

Akara Gold Mine (アカラ金鉱山)

9月5日(金)朝7時バンコク市内集合、昼過ぎまで車で移動、バンコクから約280 km北に位置するオーストラリアの資源会社Kingsgate Consolidated Limitedの子会社であるAkara Resources Public Company Limited(以下Akara社)が運営するChatree Gold Mine(チャトリー金鉱山)へ視察に向かいました。
Chatree Gold Mineはピチット県、ペチャブン県、ピッサヌローク県にまたがる地域にあり、埋蔵量は金35,000 kg、銀280,000kgと推定されています。2016年末、地元住民やNGOが「鉱山周辺で健康被害や環境汚染が起きている」と訴え、2017年に当時の首相プラユット氏が憲法44条*を行使し、環境汚染の懸念から鉱山の操業を停止しました。しかし、科学的根拠の不十分さや透明性の欠如が国際的に問題視され、親会社Kingsgate社がタイ政府を相手に国際仲裁を申し立て、最大1200億円の損害賠償を請求しています。
2023年、政府から10年間の操業許可がおり、操業再開、2024年5月までに約77億円を投じ、機械と製錬施設をアップグレード、現在はフル稼働状態に復帰しています。仲裁問題に関しては2025年9月を目途に解決を目指していましたが、現時点では解決の報告はなされていません。
*タイの憲法44条は国家平和秩序維持評議会(NCPO)の議長(=首相)に、国家安全・秩序・経済・公共利益のために立法・行政・司法を超える権限を与える条項であり、いわゆる「超法規的措置」が可能。
また、Akara社は持続可能性と地域社会への責任を掲げ、鉱山廃棄物の再資源化等にも取り組んでいます。金の精製には水銀アマルガム法と呼ばれる水銀を使用する方法がかつて用いられていましたが、Akara社では金の精製には電気分解を用いており、水銀は使用していないとのことです。

セミナー室でのAkara Resourcesの会社説明

 

鉱山を視察する参加者達

 

金鉱山全景

 

廃液を廃棄するための池

 

化学プラント(岩石を粉砕し金を生成する)

 

電気分解前の鋼材(金1;銀9)、10 kg

Phra Buddha Chinnarat(プラ・ブッダ・チンナーラート)

金鉱山の視察後は、Phra Buddha chinnarat(プラ・ブッダ・チンナーラート)にお参りにいきました。これはタイ北部ピッサヌローク県、ナーン川沿いの「ワット・プラ・シー・ラッタナー・マハータート」寺院内にある高さ約3.5m、幅約2.9mの青銅製仏像で、スコータイ様式、金色に輝く荘厳な姿が特徴です。Chinnarat(チンナーラート)はタイ語で勝利の王を意味し、タイ国内で最も美しい仏像ともいわれています。

最も美しい仏像と言われるChinnarat

 

プラ・ブッダ・チンナーラートの入口

 

金の仏陀像が並ぶ

Baan Thong Somsamai(バーン・トーン・ソムサマイ)訪問

タイにおいて、ゴールドジュエリーの生産は、スコータイ王朝(1238-1448)からアユタヤ王朝時代(1351-1767)まで続いた伝統的な生産物です。当時は厳格な規制がしかれていたため、ゴールドジュエリーは王族や貴族しか身に着けることができませんでした。ラタナコーシン朝(1782年~現代)の中期より、ヨーロッパや中国から商人が来て、タイで商売を始めると同時に、外国の金細工商人もタイにワークショップを設立し、定住を始めました。その結果、より自由にゴールドジュエリーが広まり、身に着けられるようになりました。スコータイに現在もゴールドジュエリーを加工、生産、販売するショップが数多くあります。9月6日(土)、その最大大手であるスコータイ県シー・サッチャナーライ地区にあるBaan Thong Somsamai(バーン・トーン・ソムサマイ)を訪問しました。こちらはゴールドジュエリーの工房兼ショールームとなっており、シンプルな道具を用い、職人が一つ一つ伝統的な技法を用いて手作業で仕上げているところに特徴があります。

工房で制作された様々な金の装飾品が販売されている

 

工房で制作された大きな彫刻品

 

工房の様子

 

手作業で金のチェーンを編み上げている様子

 

工房入口で撮影した集合写真

Si Satchanalai Silver Jewelry (シーサッチャナーライ・シルバー・ジュエリー)訪問

スコータイ県シー・サッチャナーライ地区では、銀細工も伝統的な手工業として根付いており、その工房を1つ訪問しました。この工房は上述の金工房と比較すると小規模なものでしたが、地元産の高純度の銀を用いた手工業による彫金が行われています。模様は仏教的モチーフや自然の文様が多く、スコータイ様式の美意識が反映されています。

工房で作られたものが販売されている様子

 

工房と見学者たち

Si Satchanalai Historical Park (シー・サッチャナーライ歴史公園)

Sukhothai Historical Park (スコータイ歴史公園)
スコータイ県のシー・サッチャナーライ地区にあるシー・サッチャナーライ歴史公園、スコータイ歴史公園を訪問しました。この公園は1991年に「スコータイと関連する歴史都市群」の一部としてユネスコ世界遺産に登録されています。城壁内外に200以上の遺跡が点在しており、タイのスコータイ王朝(13世紀~14世紀)の歴史を感じることができます。タイのスコータイ王朝は、タイ族による初の統一国家であり、タイ文字や仏教文化の発展の中心地でした。また、シー・サッチャナーライとは「City of good people(善良な民の街)」という意味で、1250年代にスコータイ王朝第2の都市として建造され、13世紀と14世紀には皇太子の住居があったそうです。

Si Satchanalai Historical Parkの様子

 

Si Satchanalai Historical Parkの壁画群

 

Sukhothai Historical Parkにて

 

Sukhothai Historical Parkの巨大な仏像と筆者

GIT2025 Conference

本会議はバンコク市内のグランド・ハイアット・エラワンが会場となり9月8日(月)、9日(火)に行われ、世界中から300名を超える参加者が集いました。本会議は5つのセッション、

  • Responsible Sourcing Jewelry, ethical, policy and good governance issue(倫理、ポリシー、ガバナンスを考慮した責任あるジュエリー製造)
  • Gem and precious metal deposits, exploration, mining and trading(宝石と貴金属の産地、鉱山、トレーディング)
  • Innovative Identification and Characterization(革新的な鑑別方法と特性評価)
  • Innovative Identification, characterization and treatment(革新的な鑑別方法、特性評価、そして処理)
  • Innovative identification, characterization and gem quality standards(革新的な鑑別方法、特性評価、宝石の評価基準)

で構成されており、2つの会場に分かれ同時進行しました。基調講演7件、招待講演15件、一般講演23件のエントリーがありました。今回は「Responsible Gem & Jewelry supply chain (責任ある宝石とジュエリーのサプライチェーン)」がテーマであり、宝石、ジュエリー産業の倫理問題やサステナビリティに関する発表が多く、基調講演はすべてこのテーマに沿ったものでした。
CGLからは筆者が「Innovative identification, characterization and treatment」のセッションで「Color origin determination of blue Akoya cultured pearl using photoluminescence(フォトルミネッセンス分析を用いたブルー系アコヤ養殖真珠の色起源の決定)」の発表を行いました。
GIT(The Gem and Jewelry Institute of Thailand)は2~3年に1度国際宝石・宝飾品学会を開催しており、次回(第9回)は2027年に開催するというアナウンスがありました。CGLとして、次回も参加し、各国の研究者たちと交流、発表を行う予定です。
以下に今回行われた発表の中から興味深かったものを一部紹介します。
(カンファレンスの要旨集はhttps://gitconference.git.or.th/en/homeからダウンロード可能です)

ステージで発表を行う筆者

 

開会式

 

メイン会場(ボールルームの様子)

 

第2会場の様子

 

9月8日夜に行われたディナーパーティーの様子

 

GIT2025参加者の皆様で撮影したグループ写真

Gemological Characteristics of Jade Deposits in Nabire, Central Papua, Indonesia(インドネシア、中部パプア州ナビレ産ひすいの宝石学的特徴)

GITの研究者Montira Seneewong-Na-Ayutthaya氏がインドネシア中部パプア州ナビレ産ひすいの宝石学的特徴について発表を行いました。インドネシアのパプア州に位置するナビレは、豊富な鉱物資源、特に砂金採掘で知られていますが、最近、ナビレの河川流域にある伝統的な金採掘跡の廃石の中から、ひすいが発見されました。それらはプンチャック・ジャヤ近郊のウェイランド山脈周辺で発見され、約6600万年前(白亜紀)の超塩基性岩石に由来する可能性が高いと考えられています。ナビレのヒスイは、一般的に緑色が最も多く、しばしば緑がかった色調に白と濃い緑の斑点が見られます。その材質は半透明から不透明までで、粒状と繊維状の絡み合った組織を呈し、品質は中程度から低いものまで様々です。インドネシアエネルギー鉱物資源省(ESDM)による真剣な検討次第では、ナビレ産ひすいの世界の宝石市場で認知度が高くなり、地域社会に大きな経済的利益をもたらす可能性があります。本研究では、ナビレ産ひすいの宝石学的特性と化学組成について詳細な分析を行いジェイダイト、ジェイダイト-パンペリー石、オンファス輝石など、多様な鉱物組成を特定しました。

From Trace Elements to Transparent AI: Explainable Machine-Learning for Magmatic Sapphire Origin
Classification Tasnara Sripoonjan(微量元素分析から透明性の高いAIへ:マグマ関連サファイアの産地鑑別における説明可能な機械学習)

バンコクのG-ID Laboratoriesの研究者Tasnara Sripoonjan氏がAIを用いた原産地鑑別についての発表を行いました。この研究はGITとの共同研究です。サファイアの正確な原産地鑑別は、責任ある宝石の調達そして消費者の信頼において非常に重要です。LA-ICP-MS分析はケミカルフィンガープリントとして機能する正確な微量元素プロファイルを提供します。そして機械学習(Machine Learning, ML)はこれらの複雑な元素分析結果を分類するのに効果的ですが、「ブラックボックス」な性質のため、透明性が制限され、宝石学者の間での受け入れが制限され、より広範な科学的検証が妨げられています。Explainable AI(説明可能なAI、XAI)は機械学習による予測をより分かりやすくする手法です。本研究では、オーストラリア(クイーンズランド)、ナイジェリア(マンビラ)、タイ(カンチャナブリ)の3つの原産地のマグマ関連のブルーサファイアついてLA-ICP-MSを用いた元素分析と、その結果についてXAIを用いた原産地鑑別の可能性を調査しました。その結果、機械学習モデルとして堅牢性が高い(既知サンプル/テストサンプルの精度が0.93)を得ることができました。

Comparative Corundum Color Grading under Different Lighting Sources(異なる照明源を用いたコランダムカラーグレーディングの比較)

GITの研究者であるThanapong Lhuaamporn氏が、異なる照明下でコランダムのカラーグレーディングについて比較を行いました。GIT研究プロジェクトでは自然光を忠実に再現するように設計されたLED光源を用いた宝石カラーグレーディングキャビネットの研究開発を開始しました。本研究では、ルビー、ブルーサファイア、パパラチャサファイアの3種類のコランダムをこの新たに設計されたLED光源と色温度5000~5500Kの蛍光灯、自然光(午前10時~午後12時)の3種の光源下で比較、評価を行いました。本研究では15個のサンプルを用いましたが、マンセルカラーフレームワークによる視覚的なグレーディング、定量的なRGB分析を行った結果、LED照明はほとんどの場合、太陽光に近い色を得ることができましたが、ブルーサファイア2点については、蛍光灯下のほうが自然光に近い色値を得ました。LED照明は自然光を近似する上で信頼性の高い人工照明ですが、サンプル固有の偏差が依然として存在することを認識する必要があります。

Uncovering Microscopic Clues in Low-Temperature Treated Magmatic-Related Blue Sapphires(低温加熱処理されたマグマ関連ブルーサファイアの微視的特徴)

タイ、チェンマイ大学のRatthaphon Amphon氏が、低温加熱処理されたマグマ関連ブルーサファイアの微視的特徴についての発表を行いました。本研究では、5つの信頼できる原産地から採取されたマグマ関連のブルーサファイアについて、1000℃での低温熱処理前後の詳細な微視的変化を調査しました。観察された変化には、癒合した亀裂の変化、樹枝状パターンの減少、シート状包有物の変形、流体包有物内の新たな結晶化などがあります。これらの微妙な特徴は、マグマ起源のサファイアにおける低温熱処理を特定するための有望な手がかりとなり、加熱処理を判断する際に役立つ貴重なデータを提供します。しかしながら、石が熱処理を受けたかどうかを判断することは依然として困難です。特にインクルージョンが処理後にのみ記録され、比較のための処理前の基準が存在しない場合はなおさらです。したがって、インクルージョンの変化の解釈は、熱処理識別の信頼性と精度を高めるために、他の分析技術と慎重に検証する必要があります。

Luminescence as an Indicator of Heat Treatment in Geuda Sapphire(ギウダサファイアの加熱の根拠となるルミネッセンス)

タイのチュラロンコン大学のTeerarat Pluthametwisute氏がギウダサファイアの加熱の根拠となるルミネッセンスについての発表を行いました。ギウダサファイアは乳白色または絹のような外観のコランダムの一種で、一般的に加熱処理によって色と透明度が向上します。本研究では、ギウダサファイアの加熱前後でEPMA(電子プローブマイクロアナリシス)と325 nmレーザー励起によるフォトルミネッセンス分析、長波紫外線(LWUV、365 nm)と短波紫外線(SWUV、225 nm)によるルミネッセンスイメージを用い、その違いを追っています。長波紫外線(LWUV)下でのオレンジから赤色のルミネッセンスは欠陥関連のF中心に関係している可能性が高いのに対し、短波紫外線(SWUV)下で観察される青色のルミネッセンスはTi関連の不純物に起因します。長波紫外線下のオレンジ色のルミネッセンスの存在は、加熱処理されていないギウダサファイアの有用な指標となる一方、これらのサンプルに短波紫外線下で青色のルミネッセンスが見られないことは、加熱処理されていないギウダサファイアの識別においても信頼性があることを裏付けています。さらに、加熱処理後の短波紫外線下での青色ルミネッセンスの出現は、加熱処理されたサファイアを検出するための有用な指標となることを示唆しています。

Characteristics of Sapphires from Ethiopia(エチオピア産サファイアの特徴)

カセサート大学のChawanluck Phimphisan氏がエチオピア産サファイアの特徴について発表を行いました。エチオピア、特にティグライ地方の鉱床から2016年後半よりサファイアが発見され、宝石学業界で大きな注目を集めています。これらのサファイアは、沖積鉱床や原地砂礫鉱床で発見されることが多く、玄武岩質の母岩と共存して形成されたことを示します。しかし、エチオピア産サファイアの特徴に関する包括的な研究や詳細な調査は、オーストラリアやタイなどのより確立された玄武岩関連起源の産地と比較して、比較的限られています。本研究では宝石市場から購入したエチオピア産サファイアについてインクルージョン、化学濃度、吸収スペクトルを調べました。特に、Fe、Ti、Gaの量に特徴があり、エチオピア産サファイアをタイのバンカジャやオーストラリアのインベレルといった他の原産地のサファイアと区別することが可能です。

High Temperature Silver Diffusion of Labradorites(ラブラドーライトへの高温での銀拡散)

中国滇西応用科学大学ジュエリー学部のQingchao Zhou氏がラブラドーライトへの高温での銀拡散についての発表を行いました。銅の拡散はラブラドーライトの色を変えるのに効果的であることが証明されていますが、他の貴金属を用いた代替アプローチはほとんど未開拓のままです。そこで本研究では、高温拡散プロセスを用い、ラブラドーライトに銀(Ag)を拡散させ、鉱物中にAgのナノパーティクルが形成されることを実証しました。ラブラドーライト結晶へのAgのナノパーティクルの組み込みは、1200℃でAg+-Na+イオン交換チャネルを確立することで達成され、Ag+イオンの大きなイオン半径と銀化合物の光安定性および熱安定性の低さに関連する課題を克服しました。得られた銀拡散ラブラドーライトは、高い透明性と414~495 nmの範囲で強い吸収を示しました。TEMによる特性評価により、平均粒径8.40±4.32 nmのAgナノパーティクルの形成に成功したことが確認されました。本研究の知見は、鉱物結晶内のナノスケール現象の理解に貢献するものです。

Viitaniemiite: A Rare Gem-quality Phosphate Mineral(ヴィータニエミ石:希少な宝石質のリン酸塩鉱物)

GITの研究者Cheewaporn Suphan氏が希少な宝石質のリン酸塩鉱物、ヴィータニエミ石についての発表を行いました。ヴィータニエミ石(Na(Ca, Mn)Al(PO₄)(F, OH)₃)は、フィンランドのリン酸塩に富むヴィータニエミ・ペグマタイト産のモンテブラサイト試料中の鉱物同定中に初めて発見された希少なリン酸塩鉱物です。この鉱物は、フィンランド、オリヴェシ、エラヤルヴィ、ヴィータニエミの産地にちなんで命名され、1977年に国際鉱物連合(IMA)によって新鉱物種として承認されました。ヴィータニエミ石は単斜晶系で、灰色から白色または無色、透明から半透明で、モース硬度は5、比重(SG)は3.245、屈折率(RI)は1.532~1.571です。宝石品質で無色のヴィータニエミ石は極めて稀少です。本研究で用いたサンプル2石ともに屈折率は登録されたヴィータニエミ石と一致していますが、比重がわずかに低い(双方とも3.07)という特徴を有していました。ラマン分光法では、991、584、483、472、460、245 cm-1にピークが見られ、その石がヴィータニエミ石であることを確認しました。

Study on the Composition and Structural Characteristics of Zachery-Treated Turquoise(ザッカリー処理トルコ石の組成と構造特性に関する研究)

韓国の漢陽大学のHyoJin Kim氏がザカリー処理ターコイズの組成と構造特性に関する研究について発表を行いました。本研究では、天然、ポリマー含浸、およびザッカリー処理されたトルコ石サンプルの化学組成と分光学的特性を調査しました。ポリマー含浸トルコ石は、1700cm-1の赤外領域と600/800cm-1のラマンスペクトルにポリマーの特徴的なピークが存在することで容易に検出できます。また、ザッカリー処理トルコ石はカリウム含有量が高いことが知られており、それは本研究においても確認されました。さらに、充填部においてケイ素とナトリウムの含有量が著しく高いことが明らかになり、ザッカリー処理されたトルコ石の充填部のFE-SEM/EDSマッピングでは、カリウムとシリコンの化合物が亀裂や空洞を充填していることが示されました。これはザッカリー処理が単にカリウムに関連した単純な安定化ではなく、充填部内でK-Si-Na化合物が形成される可能性のあるより複雑なプロセスを伴う可能性があることを示唆しており、これはガラス状相の関与を示唆しています。本研究では、ザッカリー処理されたトルコ石の充填部において板状結晶も特定され、これはカリウムに関連することが判明しました。

Kunzite Color Enhancement by Neutron Irradiation and Heat Treatment(クンツァイトの中性子線照射と加熱によるカラーエンハンスメント)

タイ原子力技術研究所照射センターの研究者K. Pangza氏がクンツァイトの中性子線照射と加熱によるカラー処理について発表を行いました。本研究では、中性子照射と制御された熱処理を組み合わせることで、クンツァイト宝石の色の質を高め、より鮮やかなピンク色と透明性を向上させる効果的な方法であることを実証しました。また、マンガンが色の形成において重要な役割を果たしていること、そして照射後および熱処理後のクンツァイトの化学的変化と構造変化の両方が色の発現に大きく寄与していることを確認しました。具体的には、中性子照射はクンツァイトの結晶格子の構造変化を誘発し、マンガンの酸化状態を変化させ、ピンク色の発現につながります。さらに、照射後の還元雰囲気での熱処理は、誘発された色の強度と安定性を高めるために不可欠です。

中国海南島産ブルーサファイアの特徴 宝石学会(日本)2025年講演会より

2025年9月PDFNo.70

リサーチ室 趙政皓 江森健太郎 北脇裕士

ブルーサファイアは良く知られた宝石であり、その美しい青色ゆえに古くから珍重されてきた。その産地は多く、著名なスリランカやタイなどのほか、あまり知られていない産地も多数存在している。その中、中国海南島で産出するブルーサファイアは、まだ学術的な知見が限られているが、埋蔵量が大きいため将来有望な原産地になりうると考えられている。本稿では、海南島産ブルーサファイアの地質的背景と鉱物学的特徴を調査し、他産地との比較を通じてその特性を明らかにする。
ブルーサファイアは、酸化アルミニウム(Al2O3)を主成分とする鉱物コランダムの一種で、鉄(Fe)とチタン(Ti)を含むことで美しい青色を呈する。その原産地は世界各地に分布しており、地質学的な成因により、ブルーサファイアは変成岩起源と火成岩起源の二種類に大別できる(図1)。代表的な産地として、カシミール、スリランカ、ミャンマー、マダガスカルなどは変成岩起源であり、タイ、カンボジア、オーストラリアなどが火成岩起源である。中国の山東省でも火成岩起源のブルーサファイアが産出しており、現地で関連する博物館が建設されるなど、中国の宝石業界ではよく知られている。なお、ブルーサファイアの著名な原産地についての情報はCGL通信58号「ブルー・サファイアの原産地鑑別:産地情報と鑑別に役立つ内部特徴について」に詳しく書かれている
(https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/58/101.html)。

図1. 世界各地のブルーサファイア原産地。1.ナイジェリア、2.エチオピア、3.タンザニア、4.マダガスカル、5.スリランカ、6.カシミール、7.ミャンマー、8.タイ/カンボジア、9.中国・山東省、10.オーストラリア、11.アメリカ・モンタナ州。

本文で紹介する海南島は中国の最南部に位置しており、東西約300 km、面積は四国と九州の中間程度である。交通の便の良い南国の島だけに、欧米からも観光客が多く訪れる有名なリゾート地となっており、「中国のハワイ」と呼ばれることもある。現在ではリゾート地としてだけでなく、東南アジア方面への貿易中枢とするための港湾都市開発が進められており、経済特区として中央政府からも様々な優遇政策の対象となっている。ブルーサファイアが産出する文昌市蓬莱地域は海南島の東北部に位置しており、リゾートの中心となる南部海岸地帯から離れている。当地のサファイアは明確な鉱脈が見つからず、風化した新生代アルカリ玄武岩の堆積物の二次鉱床から発見されており、火成岩起源と考えられる。

図2. 東アジアに位置する中国海南島。つるはしのシンボルでマークする場所が文昌市蓬莱地域。

 

図3. サファイアを採取できた新岭園村の郊外とその土壌。

2024年の夏頃、筆者の1人(趙)は自身の故郷である海南島に帰省した折にサファイアが採取できるという場所を訪れた。知人を通じて、新岭園という村の郊外を現地の方に案内していただいた。図3に示すように、村の周辺には畑があり、その畑や近くの道端の土壌からサファイアを採取することができる。土壌には金属光沢を持つ黒い石が多数見られた。これらについて蛍光X線分析装置で元素分析を行った結果、主成分として鉄(Fe)、チタン(Ti)、酸素(O)が検出され、イルメナイト(FeTiO3)である可能性が高い。イルメナイトは火成岩起源ブルーサファイアの包有物として一般的に見られる鉱物であり、サファイアの成因とも深い関連があると思われる。

先行研究(Wang 1988)および現地の人の話によれば、この地域のサファイアは1960年代に初めて現地の農民によって発見されたとのことだ。その後、1980年代初頭には地方政府によって商業的採掘を目的とした調査が実施され、埋蔵量が豊富で、有望な原産地になる可能性が示された。しかし、農用地の減少や環境への影響を懸念した住民らが反対し、また、上級政府からも開発の許可が下りなかったため、本格的な採掘には至らなかった。それにもかかわらず、農作業の過程などで容易にサファイアを採取できるため、将来の販売を見据えて貯える人が多くいたようである。実際、一時期タイのディーラーが現地に買取に訪れ、サファイアをタイに持ち帰って研磨・加熱などの加工が行われていたとのことである。その加工された石の一部は市場で流通していたようである。

 

図4. 現地の人が所有する石。 (左)カボションカットの石1点(加熱かどうか不明)と大きいサイズ(おそらく10 ct以上)の原石2点。 (右)ファセット加工されたジルコンとサファイア。上の赤褐色と黄緑色の2点はジルコンで、青と黄色の4点はサファイアである。ファセットカットされたサファイアは加熱処理されたもの。この他にBe拡散処理されたものもあるとのこと。

現地の人が収集したという石を図4に示した。左の写真のケースには高品質ではないがおそらく10ct以上の大きいサイズのサファイアが含まれている。右の写真のケースには、サファイアとともに採取されたジルコンも収められている。これらのサファイアはすべて加熱されたものであるが、この他にベリリウム(Be)拡散加熱処理されたものもあるという。これらの石の加工は現地ではなく、知人に頼んで海南島外で加工されたようである。カット・研磨は前述した山東省でも可能であるが、Be拡散処理は中国国内ではなく、タイで行われたとのことである。図5は筆者の1人(趙)が採取したサファイアとジルコンであり、サイズは大きくないが、風化土壌の中から比較的容易に見つけることができた。

図5. 筆者の1人(趙)が現地で採取した石。ブルーサファイア2点と赤褐色のジルコン2点である。丸く見えるのは自然風化の影響であり、加工はされていない。

 

図6. 今回のサンプルとなる現地で入手したサファイア原石4点。重量は①3.11 ct、②1.80 ct、③ 1.95 ct、④ 0.85 ct。

今回、現地で入手したブルーサファイアの原石4点について宝石学的検査を行った。サイズは、0.85~3.11 ctですべて非加熱である(図6)。これらの石は、比較的に明るい青色から黒く見えるほどの濃青色を呈する。サンプル④以外は透明度が非常に低く、特にサンプル①と③は可視光の透過率が著しく低かった。
紫外-可視反射スペクトルの測定結果により、いずれのサンプルにおいても鉄(Fe)関連の吸収が強く、火成岩起源の特徴を示していた(図7)。特に、860 nm中心のFe2+/Fe3+イオン対の強い吸収が火成岩起源を示唆する特徴である。比較のため、CGLが所有するタイ産のブルーサファイア原石のスペクトルも共に示した。両産地のサファイアは同じ火成岩起源のためスペクトルが類似している。

図7. サンプルと参照用のタイ産原石の紫外-可視反射スペクトル。青線はサンプルで、赤線はタイ産原石である。データは見やすくするためにオフセットしている。

 

図8. サンプルフーリエ変換赤外吸収スペクトル。Ti-OHとカオリナイトによる吸収が見られる。データは見やすくするためにオフセットしている。

フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FTIR)では、すべてのサンプルにおいて3309 cm-1付近のTi-OHに起因する吸収が確認された(図8)。さらに、いずれのサンプルにもカオリナイトインクルージョンによる吸収が観察された。カオリナイトの吸収自体は原産地鑑別の指標にはならないが、大抵の場合は非加熱の特徴となることが知られている。
ヨウ化メチレンに浸液し、ファイバー光を用いて拡大観察を行ったところ、クラウドによる乳白色の縞模様が確認された(図9)。この種のインクルージョンは他の火成岩起源ブルーサファイアにも見られるが、海南島産ブルーサファイアの重要な特徴の一つだと考えられる。その他、微細な液体インクルージョンや双晶面なども観察された(図10-11)。残念ながら、今回のサンプルから鉱物種を同定できる結晶インクルージョンは発見されなかった。

図9. サンプル④、③、②に見られる乳白色縞模様。

 

図10.サンプル②に見られる微小液体インクルージョン。

 

図11.サンプル④に見られる双晶面。

LA-ICP-MS·による微量元素分析の結果からも、海南島産ブルーサファイアが火成岩起源であることが裏付けられた。図12に示すGa/Mg-Feプロット図において、海南島産ブルーサファイアのプロットは他の火成岩起源ブルーサファイアと同じ領域に位置している。また、火成岩起源ブルーサファイアの中でも、ガリウム(Ga)の含有量が高いという特徴があり、他の産地からの火成岩起源ブルーサファイアと比較的良く分離できることがわかった(図13)。

図12. LA-ICP-MSによる分析結果を用いたGa/Mg-Feプロット図は変成岩起源と火成岩起源のブルーサファイアの分別によく用いられる。赤い×印が海南島産サファイアを示す。

 

図13. LA-ICP-MS分析結果を用いたFe-Gaプロットは海南島産ブルーサファイアを他の火成岩起源のブルーサファイアから比較的良く分離できる。赤い×印が海南島産サファイアを示す。

微量元素分析について、もう一つ注意すべき点がある。前述したように、海南島産ブルーサファイアは色が非常に濃い傾向があるため、青色を軽減するためにBe拡散加熱処理が施される可能性がある。そのため、加熱の兆候が見られる石についてはBeの有無を調べる必要がある。Emori et al. (2024)によると、天然起源のBeが火成岩起源サファイアのナノインクルージョンに由来すると考えられ、スリランカイトや未知の鉱物中にチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)などの元素と同時に存在すると報告されている。今回分析した海南島産ブルーサファイアは非加熱であり、Be拡散加熱処理は施されていないにもかかわらず、Beが検出され、同時にNb、Taも検出された。これらの元素の濃度が示すは線形的な相関関係は、この石に含まれるBeは天然起源であることを強く示唆する(図14)。

図14. LA-ICP-MSによる海南島産ブルーサファイアが含有するBe、Nb、Ta濃度の関係性。

海南島産ブルーサファイアは現在商業的な開発は行われていないものの、その豊富な埋蔵量によって将来的には有望な産地となる可能性が十分に秘められている。火成岩起源を示す特徴が多く認められる上、高いGa含有量などの微量元素特徴もあり、他の産地のサファイアと分離できる有効な指標は多い。また、Be拡散加熱処理される可能性も高いが、鑑別する際はBeと同時に検出されるNbやTaとの濃度関係に注意し、検出されたBeが天然起源なのか人為的な拡散により導入されたものか慎重に判断する必要がある。今後は現地での採掘状況や市場流通の進展を見据え、引き続き詳細な調査とデータの蓄積が求められる。

参考文献
  • Furui Wang. (1988). The sapphires of Penglai, Hainan Island, China. Gems & Gemology, 24(3), 155-159.
  • Guang-Ya Wang, Xiao-Yan Yu & Fei Liu. (2022). Genesis of Color Zonation and Chemical Composition of Penglai Sapphire in Hainan Province, China. Minerals, 12(7), 832.

日本鉱物科学会2025年年会・総会参加報告

2025年9月PDFNo.70

リサーチ室 北脇裕士

去る2025年9月10日(水)から12日(金)までの3日間、山口大学吉田キャンパスにて日本鉱物科学会2025年年会・総会が開催されました。Covid19の影響で2020年と2021年はオンラインでの開催のみ、2022年~2024年は現地とオンラインのハイブリッドで開催が行われました。2025年は研究交流をより活発にするためと現地LOC(Local Organizing Committee)の負担軽減のため現地開催のみとなりました。CGLリサーチ室からは筆者が参加し、口頭発表を行いました。以下に概要を報告致します。

山口市のシンボル国宝瑠璃光寺五重塔
奈良県の法隆寺と京都府の醍醐寺にある五重塔とともに日本三名塔と言われている。

日本鉱物科学会とは

日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Science、JAMS)は、鉱物や岩石およびそれらをキーワードとした様々な分野の学問の発展と普及を目的とした学術団体です。2007年に「日本岩石鉱物鉱床学会」と「日本鉱物学会」が合併して発足し、2016年に一般社団法人化しました。元々、日本岩石鉱物鉱床学会では、岩石学、鉱物学,鉱床学,およびこれらと密接に関連した諸科学の発展と普及を目的とした研究等が行われておりました。また、日本鉱物学会は、元来、日本地質学会の一部として活動をしておりましたが、鉱物学のさらなる進歩・発展のため、日本地質学会から独立をし、鉱物学の基礎的テーマに加え、鉱産資源やセラミックスに代表される無機材質など応用分野での最先端の課題や社会的テーマにも取り組んできました。日本岩石鉱物鉱床学会と日本鉱物学会の合併により、学術雑誌(和文誌・英文誌)の刊行や研究集会の開催などの学会活動の拡充や、学術領域の拡大が進められてきました。年に1度の年会(成果発表会)では、地球外物質や火山、環境問題など、従来の岩石学・鉱物学の分野を超えた様々な視点からの討論が繰り広げられています。そのほか、講演会や一般普及を目的としたイベントや行事の企画・開催にも力をいれています。2016年10月の一般社団法人化以降の年会・総会は、2017年愛媛大学、2018年山形大学、2019年九州大学で開催されました。2020年は東北大学、2021年は広島大学で開催が計画されていましたが、Covid-19の影響でオンラインのみでの開催となりました。2022年は新潟大学、2023年は大阪公立大学、2024年は名古屋大学でそれぞれ現地とオンラインのハイブリッド形式で開催されました。そして2025年は山口大学で現地開催のみとなりました。

山口大学山口地区吉田キャンパス正門

 

正門に掲げられた教育理念

山口大学は、長州藩士「上田鳳陽」によって、1815年に創設された私塾「山口講堂」を起源とし、明治・大正期の学制を経て、1949年に地域における高等教育および学問研究の中核たる新制大学として創設されました。2015年には山口講堂の創設から創基200周年を迎えています。山口大学は9学部、8研究科を擁し、学生1万人以上が在籍する基幹総合大学です。「発見し・はぐくみ・かたちにする 知の広場」を理念として、地域の知の拠点として、地方創生に貢献しています。また、明治維新を成し遂げた、新たな世界へのチャレンジ精神を受け継ぎ、12万人以上の卒業生が全国各地、世界各国の幅広い分野で活躍しています。

山口大学は山口地区の吉田キャンパスの他に宇部地区には医学部と工学部が、光地区には教育部の付属小学校と中学校があります。
今回会場となった吉田キャンパスには新幹線の新山口駅から山口線に乗り換え6つ目の湯田温泉駅が最寄り駅となります。駅からは徒歩でも可能ですが、バスで15分ほどの距離感です。
山口市は山口県のほぼ中央に位置し、西の京と呼ばれています。アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が発表した「2024年に行くべき52カ所」で、世界各地の旅行先の中で日本から唯一山口市が選ばれ3位となりました。 記事内では、国宝瑠璃光寺五重塔(香山公園)や陶芸工房、コーヒーショップ、郷土料理をカウンターで提供する店、湯田温泉が挙げられています。湯田温泉はけがをした白狐が傷を癒していたという伝説が伝わることから「白狐の湯」とも呼ばれ、街のあちこちに白狐をモチーフにしたオブジェがあります。幕末には高杉晋作や伊藤博文等の維新志士たちが逗留した地としても知られています。

湯田温泉駅前の巨大な白狐のモニュメント

講演会について

2025年の年会は、吉田キャンパスの共通教育棟において8つのレギュラーセッション(R1-R8)と3つのスペシャルセッション(S1-S3)に分かれて3日間行われました。R1の「鉱物記載・分析評価「のセッションは宝石学会(日本)と、R7の「岩石・鉱物・鉱床」のセッションは資源地質学会と、S1の「火成作用のダイナミクス」のセッションは日本火山学会とそれぞれ共催です。筆者は2010年の島根大学で行われた年会から参加しており、2011年の年会からはR1のセッションでの口頭発表を継続しています。R1の「鉱物記載・分析評価」のセッションは、鉱物の記載・評価およびそれらを可能にする分析手法に関する研究が対象です。鉱物の様々な特徴(産状・形態・内部組織・結晶構造・組成・流体包有物・固相包有物・結晶欠陥など)、新鉱物記載、宝石鑑別、およびそのための鉱物の分析手法・解析手法の開発についての発表が募集されています。2020年以降、宝石学会(日本)と共催セッションとなり、宝石学会(日本)の会員もこのセッションへの参加が可能となりました。筆者も微力ながらコンビーナーとしてこのセッションの運営に協力しています。

講演会の会場となった共通教育棟

 

会場への案内板

今年のR1セッションには14件の口頭発表と19件のポスター発表がありました。これらの内、宝石学会(日本)の会員は3件の口頭発表と1件のポスター発表を行いました。以下に宝石学会(日本)会員の発表内容を紹介します。
神田久生氏は「アポフィライトの条線について」という演題で、アポフィライトの条線が劈開面に直角なのはなぜかという疑問を自身の合成ダイヤモンドの製造経験を踏まえて口頭発表されました
筆者は「IIb型とI型(ホウ素と窒素のカラーセンタ)が混在する特異な天然ダイヤモンド」という演題で口頭発表を行いました。Ⅱb型は本来窒素のないⅡ型の中でもホウ素を含有することで電気伝導を有するものですが、赤外分光においてホウ素と窒素が共存するダイヤモンドを分析した結果を報告しました。
阿依アヒマディ氏は「ジンバブエ産天然ダイヤモンドの特徴及び成長環境についての考察」という演題で口頭発表されました。2000年以降、ジンバブエクラトンからダイヤモンドが発見され、マランゲとムロワ地域から採掘されています。特にマランゲからは六八面体の自然放射線を強く蒙った暗緑色から黒色のものを多く産出しています。
川崎雅之氏が「群馬県南牧村の鉱物」についてポスター発表をされていました。南牧村中西部の砥沢附近にはデイサイト質斑岩(砥沢岩体)が貫入しており、これに伴う熱水活動により生成したと考えられる自然金、輝安鉱、鶏冠石など多くの鉱物が紹介されました。

賑わいを見せたポスターセッションの様子

総会および受賞講演について

総会は2日目の朝9時より大会場にて行われました。総会は定足数 (会員859名の10分の1)以上が必要となりますが、今回の総会は当日参加者98名、オンライン8名(総会はオンライン参加が可能)、委任状26名と定足数を超え、無事成立となりました。総会に先立ち物故会員への黙祷が捧げられ、広島大学の井上徹会長の挨拶の後、2024年度の事業報告、2025年度の事業計画、収支予算が報告され、決議事項を経て無事終了しました。報告事項の和文誌:岩石鉱物科学(GKK)編集報告の中で鉱物名の表記についての説明がありました。宝石学における鉱物名表記の指針となると思われますので紹介します。「現在、鉱物の正式な和名は決定されておらず、決定する機関もないことが問題提起された。もともと理科の教科書で表記が統一されていないという問題があり、GKKとしての方針も決まっていなかったことから、まずはGKKの方針を決定した。近日中に鉱物の和名表記ルールを投稿規定に追記予定である。また鉱物の正式な和名をどのように決定するかについて議論された結果、新鉱物国内委員会のメンバーに、理事会のメンバーを数名加えたWGを立ち上げることが承認され、今後の方針を議論していくこととなった。議論の結果、鉱物名の表記は、以下の方針に従うことを推奨する。本文中では、初出時に和名と英語名を併記する。以降は英語名の使用を避け、和名を用いる。広く使用されている和名が存在する場合は、原則として漢字表記を用いる。漢字が読みづらいと判断される場合は、ひらがなでの表記も可とする。和名が存在していても広く使用されていない場合、または漢字表記がない場合、あるいは和名が存在しない場合は、名前の由来になった原語の発音に近い片仮名表記を用いることを基本とする。なお、通称や別称の使用は避ける。また,本文中では鉱物名の表記を統一し、異なる表記の混在は避ける。」

大会場で行われた総会の様子

総会の後、小休憩を挟んで授賞式および受賞講演が行われました。授賞式では、日本鉱物科学会賞、渡邉萬次郎賞、日本鉱物科学会論文賞、日本鉱物科学会研究奨励賞、日本鉱物科学会応用鉱物科学賞、櫻井賞、JMPS学生論文賞の各賞が授与されました。各受賞者が登壇され、井上会長より授賞理由が述べられ栄誉が称えられました。
各賞は研究内容や提出された論文が審査の対象となりますが、渡邉萬次郎賞は長年の鉱物科学に対する功績が称えらえます。第41回の受賞者は周藤賢治永年会員で、長年にわたる岩石学、特に火成岩岩石学の研究により日本海拡大のテクトニクスの確立に大きく貢献したこと、学生指導など研究教育にも多大な貢献をしたことが授賞理由となっています。筆者は周藤永年会員が新潟大学在職29年間の間にご指導いただいた49名の卒業生の第一期生となります。先生の学問に対する情熱と厳しさは生涯忘れることができません。この度の受賞を心よりうれしく思っております。

渡邉萬次郎賞を受賞された周藤賢治永年会員(右)
と井上徹会長(左)

授賞式に引き続いて各賞受賞者による受賞講演が4件行われました。日本鉱物科学会賞第31回受賞者の富岡尚敬会員(海洋研究開発機構高知コア研究所)による「高温高圧下における惑星物質の相転移と変形の挙動解明」、日本鉱物科学会賞32回受賞者の宇都宮聡会員(九州大学大学院理学研究院化学部門)による「福島第一原発事故で放出された高濃度放射性セシウム含有微粒子に関する先導的研究」、日本鉱物科学会研究奨励賞第37回受賞者の大柳良介会員(国士館大学理工学部理工学科)による「沈み込み帯や海洋底における岩石―水相互作用プロセスの解読」、則竹史哉会員(山梨大学大学院総合研究部)による「原子モデルに基づくけい酸塩溶融体の粘性支配因子の解明」の発表がありました。

毎年開催される日本鉱物科学会年会では、最先端の鉱物科学に関する研究が発表されています。宝石学は鉱物学と密接な関係があり、このような学術会議に参加・聴講することで最先端の知識を得られる他、普段接する機会が少ない研究者の方々と交流を深め、宝石学の研究を進めるため新たな活力を得ることができます。CGLリサーチ室からも毎年日本鉱物科学会年会に参加して研究発表を行っています。
鉱物科学会年会での研究発表は毎年10以上のセッションに分かれて行われますが、R1の「鉱物記載・分析評価」のセッションは宝石学会(日本)と共催となっています。宝石学会(日本)の会員であれば一般会員としてR1セッションに参加(講演を含む)可能です。
次年度の鉱物科学会年会・総会は2026年9月24日(木)~9月26日(土)東京大学で開催される予定です。R1セッションでは宝石学関連の招待講演も検討されています。日本鉱物科学会の年会は鉱物科学と宝石学を繋ぐ貴重な機会となっています。宝石学会(日本)の会員の方々にもぜひ参加をしていただきたいと思います。

CGLにおける色石の原産地鑑別

2025年9月PDFNo.70

CGLでは現在「コランダム」と「パライバ・トルマリン」「エメラルド」の原産地鑑別サービスを行っており、2025年11月より新たに「アレキサンドライト」の産地鑑別の受付も開始予定です。原産地鑑別サービスは、通常の鑑別書に加え、分析結果報告書を付随させるという形で提供させていただいています。
原産地についての結論は、中央宝石研究所が保有する既知の標本およびデータベースとの比較、現時点での継続的研究の成果および文献化された情報に基づいて引き出されたものです。このレポートに記した地理的地域は、検査した宝石の出所を保証するものではなく、最も可能性の高いとされる起源を記述した中央宝石研究所の意見です。いくつかの産地においては極めて類似した特徴を示すことがあり、特定の産地を記述できないケースもあります。また、記述された産地は宝石の品質や価値を示唆するものでもありません。
また、原産地の鑑別にはLA-ICP-MS分析を必要とする場合があり、LA-ICP-MS分析同意書が必要となります。

◆アレキサンドライトの原産地鑑別NEW

アレキサンドライトはクロム(Cr)を含有し、変色効果を有するクリソベリルの変種です。変色効果はアレキサンドライトの一番の特徴であり、太陽光下では寒色(緑色系)、白熱灯下では暖色(赤色系)を呈します。そのため、「昼はエメラルド、夜はルビー」とも言われ、独特な美しさを有する希少な宝石です。アレキサンドライトの原産地鑑別は2025年11月より開始します。通常の宝石鑑別書に加え、原産地を記載した分析報告書が付属します。

(アレキサンドライトの原産地鑑別は、CGL通信69号「アレキサンドライトの原産地鑑別」/https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/69/123.html)に詳しく書かれています)

記載可能な産地(例):
ブラジル、ロシア、インド、スリランカ、タンザニア、マダガスカル

アレキサンドライトの産地鑑別レポート

◆コランダムの原産地鑑別

ルビー、ブルーサファイアの原産地鑑別は、「非加熱コランダムレポート」サービスに追加する形で行っております。「非加熱コランダムレポート」サービスでは通常の宝石鑑別書に加え、そのコランダムが加熱されていない(非加熱)か、加熱されているかを示した分析報告書が付随します。
原産地鑑別の結果は、この分析報告書に記載することが可能となっております。

記載可能な産地(例)
ルビー: ミャンマー、ベトナム、モンザビーク、マダガスカル、スリランカ、タンザニア、タイ、カンボジア、タジキスタン、グリーンランド、等
ブルーサファイア:スリランカ、ミャンマー、マダガスカル、カシミール、タイ、カンボジア、ナイジェリア、タンザニア、オーストラリア、モンタナ、等

原産地の記載は原則国名ですが、伝統的な通称名がある場合はその限りではありません。
例:モンタナ、カシミール、東アフリカなど

非加熱コランダムレポートに原産地を記載した分析報告書

◆エメラルドの原産地鑑別

エメラルドの原産地鑑別につきましては通常の宝石鑑別書に加え、原産地を記載した分析報告書が付属します。エメラルドノンオイルレポートを用いる場合は、ノンオイルレポート(分析報告書)に原産地を記載します。

記載可能な産地(例):
コロンビア、ザンビア、ブラジル、ロシア、エチオピア、ナイジェリア、ジンバブエ、マダガスカル、パキスタン、アフガニスタン等

エメラルドの産地鑑別レポート

 

エメラルドの産地鑑別レポート+ノンオイルレポート

◆パライバ・トルマリンの原産地鑑別

現在、パライバ・トルマリンは、銅が主たる色の原因であるブルー~グリーンの宝石トルマリンのことを言い、ほとんどがエルバイト・トルマリンです(一部リディコータイト)。パライバ・トルマリンの産出当初、原産地はブラジルに限定されていましたが、現在ではナイジェリア、モザンビークにおいても同様のトルマリンが産出されています。
パライバ・トルマリンの名称は、分析報告書に限定されており、原産地鑑別はパライバ・トルマリン分析報告書に追加で記載する形を取っています。

記載可能な産地(例)
ブラジル、モザンビーク、ナイジェリア

パライバ・トルマリンの原産地記載付き分析報告書

◆LA-ICP-MS分析とは

宝石鉱物は母岩や産出環境といった地質学的な環境情報を保持しています。宝石鉱物の構成成分を分析することは、その母結晶の地質環境、産状を特定することに繋がるため、原産地鑑別における重要な情報となります。
LA-ICP-MSはLA(レーザーアブレーション)装置とICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)の2つの装置を組み合わせた分析装置です。LAは宝石にレーザー光を照射し、そのエネルギーで宝石の極微小領域を微粒子化する装置です。ICP-MSはLAで生成された微粒子を、約9,000Kに達するプラズマをイオン化源として測定する
質量分析器です。蛍光X線元素分析装置では測定不可能なLi(リチウム)、Be(ベリリウム)といった軽元素の測定ができる他、非常に高感度(数百ppb~)の分析能力を有します。
CGLではLA-ICP-MSを用いて依頼されたサンプルの微量元素含有量を分析し、原産地毎の微量元素データベースと比較することで原産地鑑別に役立てています。
LA(レーザーアブレーション装置)で分析する際、宝石のガードル部分に55 mmの分析痕が残ります(右写真参照)。これは日本人女性の平均的な髪の毛の細さ80 mmよりも細く、宝石を扱う際によく用いられる10倍のルーペでは発見が困難なサイズとなります。

CGLで使用しているLA-ICP-MS。NWR213 (LA)+Agilent 7900rb (ICP-MS)

 

ブルーサファイアのガードルにおけるLA-ICP-MS分析痕

アレキサンドライトの原産地鑑別

2025年8月PDFNo.69

リサーチ室 趙政皓 江森健太郎 北脇裕士

ブラジル産アレキサンドライト1.65 ct、左:自然光下、右:白熱灯下*

アレキサンドライトはクロム(Cr)を含有し、変色効果を有するクリソベリルの変種である。19世紀ロシアで発見されて以来、注目の宝石となった。変色効果はアレキサンドライトの一番の特徴であり、太陽光では寒色(緑色系)、白熱光では暖色(赤色系)を呈する。そのため、「昼はエメラルド、夜はルビー」とも言われ、独特な美しさを有する希少な宝石である。19世紀から現在に至るまで、最初の原産地であるロシアの他、ブラジル、スリランカ、インド、タンザニアなどでもアレキサンドライトが発見されている。加えて昨今の流通の透明性などに対する社会的欲求のため、アレキサンドライトの原産地鑑別の重要性が急速に高まっている。宝石の原産地鑑別には原産地毎のサンプル収集し、データベースの構築が不可欠であるが、アレキサンドライトは基本的に他の鉱物を採掘する際の副産物として産出するため、出所が明確なサンプルを収集するのが難しい。
本稿では、原産地情報が既知のサンプルから、アレキサンドライトの原産地と産地別特徴について概要を説明する。

アレキサンドライトの形成

クリソベリルの化学組成はBeAl2O4であり、ベリル(Be3Al2Si6O18)と同じくベリリウム(Be)を含有する鉱物の一種である。そして、アレキサンドライトの色とその変色効果もエメラルドの緑色と同じく微量元素として含まれるクロムイオンCr3+によるものである。Beは大陸地殻、Crは海洋地殻や上部マントルに濃縮しやすいため、両者が共存することができる地質学的条件は限定されている。特にアレキサンドライトとエメラルドは両者ともにBeとCrが共存する地質環境で形成されるため、同じ鉱山で採掘されることがある(図1)。その場合、エメラルドは主成分にケイ素(Si)を含むため、よりケイ素に富むペグマタイトに近い位置に形成し、アレキサンドライトはペグマタイトから遠い位置に形成する。アレキサンドライトの形成にはケイ素に乏しくベリリウムに富むというエメラルドよりも限定された条件が必要なため、アレキサンドライトはエメラルドよりも希産となる。

図1.アレキサンドライトの典型的な形成過程。片岩ホスト型エメラルドの形成過程とほぼ一致する。(片岩ホスト型エメラルドの形成過程についてはCGL通信 vol. 62、67号に詳しく掲載されています)

かなり限定された条件で形成されるため、アレキサンドライトは希産であり、基本的にエメラルドや他の種類のクリソベリルの鉱山で副産物として産出される。図2では、現在世界中の重要なアレキサンドライト原産地を示しており、アレキサンドライトを主として採掘するための鉱山はブラジルの一部にしか存在しない。以下にアレキサンドライトの主要な原産地の特徴について紹介する。

図2. 世界中に存在する商業的な重要なアレキサンドライトの原産地。

ロシア

ロシアのウラル山脈地区に位置する鉱山は1830年代、アレキサンドライトが最初に発見された場所である。現在でも重要な産地であり、ロシア産アレキサンドライトは非常に人気が高い。アレキサンドライトという名前は発見当時の皇太子、後の皇帝アレクサンドル二世に由来するとされている。アレキサンドライトは主にエメラルドを含むベリルを採掘するための鉱山において副産物として雲母片岩脈から産出していた。この地区のアレキサンドライトは品質が良く、ロシアは長らくアレキサンドライトの最も重要な産地になっていた。しかし、20世紀に入ってからは鉱山が衰退しはじめ、やがてソビエト連邦の崩壊と同時期にアレキサンドライトの採掘は停止された。近年では、ロシア国内と海外の企業が協力して再開発を努めているようである。

図3. ロシア産アレキサンドライトに見られる結晶インクルージョンの一種。

ロシアのアレキサンドライトではしばしば結晶インクルージョンや液体インクルージョンなどが観察できるが、これらは他の産地でも観察されており、原産地特徴とはなりにくい(図3-4)。先行研究(Sun et al. 2019)によると、トルマリンの一種であるドラバイトはロシア産アレキサンドライトに特有の結晶インクルージョンであるが、めったに観察されない上、他のトルマリン結晶と混同する恐れもある。我々の観察ではロシアの石にのみ大きな二相インクルージョンが観察されているが、観察できる頻度が低く、原産地鑑別の指標となるかどうかは継続した調査が必要である(図5)。

図4. ロシア産アレキサンドライトに見られる液体インクルージョン。

 
図5. ロシア産アレキサンドライトに見られる大きい二相インクルージョン。

ブラジル

ブラジルには複数のアレキサンドライト鉱山があり、その大多数はミナス・ジェライス州に集中している。その中で最も有名なのはヘマチタである。ヘマチタは世界有数のアレキサンドライト鉱山であり、副産物としてではなく、アレキサンドライトを採掘する目的の鉱山である。国際市場において、ヘマチタが代表するブラジル産アレキサンドライトはロシア産と同程度の評価を得ている。その他、他国の鉱山と同じく、アレキサンドライトを副産物として産出している鉱山が複数ある(例えば、エメラルド鉱山であるバイーア州のカルナイバや、クリソベリル鉱山であるゴイアス州のセラ・ドウラダなど)。

ヘマチタも創業当初はアレキサンドライトではないクリソベリルを採掘するための鉱山であった。1975年から1988年にかけてアレキサンドライトが採掘されており、1980年代初頭にその採掘量はピークに達した。その時期はロシア産などの他の供給源がほぼ衰退または枯渇していたため、ブラジルは世界最大のアレキサンドライトの供給源であり、ヘマチタ産の高品質なアレキサンドライトは日本にも多く輸入されていた。アレキサンドライトを扱うディーラーによると、現在ヘマチタ鉱山は規模が大幅に縮小され、小粒のものが限定的に生産されているらしい。

図6. ブラジル産アレキサンドライトに見られる結晶インクルージョンと微小液体インクルージョン。

 
図7. ブラジル産アレキサンドライトに見られる金属光沢の黒い鉱物インクルージョン。

ブラジル産のアレキサンドライトにはしばしば結晶インクルージョンや微小液体インクルージョンが観察できるが、こちらも他の原産地の石にも見られるため原産地特徴にはならない(図6)。金属光沢を有する硫化物インクルージョンは一定の頻度で観察できる原産地特徴ではあるが(図7)、他の産地においても観察されることがある。観察される頻度は少ないが、八面体のフルオライトの結晶はブラジル産の特徴となる(図8)。その他、平行に並ぶクラウド(図9)や鉄錆びを含むチューブインクルージョン(図10)がよく観察される。

図8. ブラジル産アレキサンドライトに見られる八面体のフルオロライト。

 

図9. ブラジル産アレキサンドライトに見られる平行で並ぶクラウド。

 
図10. ブラジル産アレキサンドライトに見られる鉄さびを含むチューブ。

インド

インドもアレキサンドライトを数多くの鉱山から産出しており、それらはウッタル・プラデーシュ州、チャッティースガル州、オリッサ州、アーンドラ・プラデーシュ州、タミル・ナードゥ州、ケーララ州の複数の州に分布している。これらは主にクリソベリルや、クリソベリル・キャッツアイなどを採掘するための鉱山である。アレキサンドライトは採掘物の中に混入しており、それらはペグマタイトとぺリドタイトの間の黒雲母片岩内から産出する。比較的よく知られているのは2000年から採掘がスタートしたチャッティースガル州の鉱山であるが、2004年12月鉱山が浸水のため閉鎖され、現在は事実上生産が停止している。インド産アレキサンドライトは色変化の弱いものが多いが、稀にロシアやブラジル産に匹敵する高品質な素材も産出している。インド産のアレキサンドライトは産出量が多く世界中に流通していると考えられているが、ブラジルやスリランカなど他の国で研磨されることも多いため、他国産のアレキサンドライトとして流通することがあるので注意が必要である。

インド産アレキサンドライトは他の産地と比べ緑味が強いため、見た目からある程度推測することも可能である。インド産アレキサンドライトはバナジウム(V)の含有量が他の産地よりも多く、また鉄(Fe)の含有量が低いことが緑味の原因であると考えられる。他の原産地でもよく見られるようなインクルージョンの他には、小さな楕円形と針で構成されるインクルージョンが高い頻度で観察できるため、原産地鑑別の有力な指標となりうる(図11)。ただ、針のみのインクルージョンは他の原産地にも見られるため混同しないように注意する必要がある。

図11. インド産アレキサンドライトに見られる小さな楕円と針で構成されるインクルージョン。

スリランカ

スリランカにおいてアレキサンドライトを採掘できる鉱床は遥か昔から存在していたとも考えられているが、1920年代以前の状況について信頼できる情報はない。採掘可能な鉱山は複数存在していたようだが、どの鉱山も漂砂鉱床であり、出所の母岩は不明である。スリランカにおいてもっとも重要なのはラトゥナプラであり、ここではコランダムやクリソベリルなども産出されている。ここでは1980年代終わりまで供給が続いていたが、現在はほぼ枯渇している。
大多数のスリランカ産アレキサンドライトの色変化はロシアやブラジル産よりは弱く、太陽光下でも白熱光下でも黄色味が強く帯びる傾向にあるが、色変化が顕著なものも産出されることがある。スリランカ産アレキサンドライトはクラリティが高く、サイズも大きいものが多く採掘されるため国際市場での注目度は高い。しかし、本稿を纏めるにあたってスリランカ産であると出所が確認できる石は少なく(以下に記すタンザニア産の一部がスリランカ産として流通している可能性が高い)、情報収集は困難であった。スリランカ産のアレキサンドライトには白い繊維や微粒子で構成されるクラウドのようなインクルージョンと折り曲がるようなセクターバウンダリーが観察された (図12-13)。

図12. スリランカ産アレキサンドライトに見られる白い繊維と微粒子で構成されるインクルージョン。

 
図13. ヨウ化メチレンに浸液することで観察できるスリランカ産アレキサンドライトの曲がったセクターバウンダリー。

タンザニア

タンザニアにはアレキサンドライトを産出する地区がタンザニア北部アルーシャ州マニャラと南部ルヴマ州トゥンドゥルの2箇所あり、それぞれから異なった特徴を有するアレキサンドライトが産出している。そのうちの1つアルーシャ州マニャラはエメラルドの原産地の一つであり、アレキサンドライトはエメラルドと共に一次鉱床から採掘される。1980年代初頭に大量に産出され以来、現在も産出が続いているようである。もう1つの南のルヴマ州トゥンドゥルは有名なバナジウムクリソベリルの産地ではあり、色変化が乏しいアレキサンドライトを産出している。この地域の鉱床は二次鉱床であり、採掘が比較的容易だった地域ではすでに枯渇しているようである。また、トゥンドゥルの他の地域はアクセスの困難や環境への懸念などのため2000年後半から採掘が停止しているようである。
マニャラ産のアレキサンドライトにはアクチノライト、雲母、丸みを帯びたメタミクト ジルコンのインクルージョンが報告されているが、特徴あるインクルージョンが存在しないことも多くある。トゥンドゥル産のアレキサンドライトは褐色の色帯が頻度高く観察され、この色帯によって石全体も濃い褐色を帯びた色になっていることが多い(図14)。

図14. タンザニア・トゥンドゥル産アレキサンドライトに見られる褐色色帯。

マダガスカル

マダガスカルはエメラルドも産出する一次鉱床であるマナンジャリと、クリソベリルが主に産出る二次鉱床のイラカカの二つの産地がある。しかし、アレキサンドライトの産出に関する詳細な情報がなく、採掘の経緯と状態は詳しく知られていない。ただ、近年流通量が増えているようである。数多くないが、これまでに検査したマダガスカル産のアレキサンドライトには平行に並ぶ微小インクルージョンが観察された (図15)。

図15. マダガスカル産アレキサンドライトに見られる平行に並ぶ微小インクルージョン。

スペクトル分析

スペクトル分析を用いてアレキサンドライトの原産地を決定することは極めて難しいが、分光特徴を理解することで原産地を絞り込むことが可能である。宝石の鑑別の現場でよく使われているフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルでは、主にロシア産とブラジル産の一部の石を他の産地のものと区別することができる。図16では例としてロシア産とインド産アレキサンドライトのFTIRスペクトルを示しているが、両者共に3225 cm-1前後の位置に吸収がある。この吸収の位置は測定する石の方位によって変化することはなく、原産地によって特徴があり、表1のように2グループに大別できる。吸収位置が低波数側(3225 cm-1以下)にあるのはロシアとブラジル・ヘマチタ産の石であり、吸収位置が高波数側(3225 cm-1以上)にあるのはその他の原産地の石となる。

図16. ロシア産とインド産アレキサンドライトのFTIRスペクトル。3235 cm-1付近の吸収の位置に違いがある。

 

紫外-可視-近赤外(UV-Vis-NIR)スペクトルは主にインド産アレキサンドライトの一部を特定することに有用である。図17に示したようにアレキサンドライトのUV-Vis-NIRスペクトルには主にCr3+とFe3+による吸収バンドが見られる。しかし、インド産アレキサンドライトは鉄含有量少なく、一部の石ではFe3+による吸収観察されない。また、V含有量が高いため、420 nmと580 nm付近のバンドの中心位置が他の産地の石と異なる。

図17. ロシア産とインド産アレキサンドライトのUV-Vis-NIRスペクトル。380 nm付近のFe3+吸収が大きな違いがある。

微量元素分析

先行研究でも報告されている(e.g. Sun et al. 2019)ように、アレキサンドライトの原産地鑑別にはLA-ICP-MSを用いた微量元素分析は極めて有効な手段である。特にガリウム(Ga)とスズ(Sn)の二次元プロットはアレキサンドライトの原産地鑑別に極めて有効であり(図18)、他の元素の組み合わせの二次元プロットと併用することで原産地を決定することができる。

図18. LA-ICP-MSによる微量元素のプロット図の一つであり、5つの産地のデータを示している。横軸がスズ(Sn)、縦軸がガリウム(Ga)である。

まとめ

アレキサンドライトは世界の限られた場所で産出する希少な宝石であり、その原産地によって市場の評価が大きく変わる。アレキサンドライトの原産地鑑別には、顕微鏡を用いた拡大検査、FTIRスペクトルとUV-Vis-NIRスペクトルはある程度の有効性を示しているが、より正確な原産地決定にはLA-ICP-MSによる微量元素分析が必要である。
本稿では、アレキサンドライトの原産地として市場性の高いロシア、ブラジル、インド、スリランカ、タンザニア、マダガスカルを紹介したが、他に知名度の低い産地も存在しており、その原産地鑑別には注意深く行う必要がある。

参考文献

[1] Alexandrite world occurrences & mining localities (n.d.) Alexandrite Tsarstone Collectors Guide, https://www.alexandrite.net/localities/index.html
[2] K. Proctor. (1988) Chrysoberyl and alexandrite from the pegmatite districts of Minas Gerais, Brazil. G&G, Vol. 24, No. 1, pp. 16–32, http://dx.doi.org/10.5741/GEMS.24.1.16
[3] Z. Sun, A. C. Palke, J. Muyal, D. DeGhionno, & S. F. McClure. (2019) Geographic origin determination of alexandrite. G&G, Vol. 55, No. 4, pp. 660–681, http://dx.doi.org/10.5741/GEMS.55.4.660

*…画像提供:(有)ワイティーストーン