CGL通信 vol74 「エチオピア産を強く示唆するリディコータイトのパライバ・トルマリン」

CGL通信


CGL通信 vol74 「エチオピア産を強く示唆するリディコータイトのパライバ・トルマリン」

2026年10月PDFNo.74

中央宝石研究所リサーチ室 江森健太郎・北脇裕士・趙政皓

日独宝石研究所 古屋正貴


図1. 今回鑑別に持ち込まれたリディコータイトのパライバ・トルマリン

2025年2月に発行された海外の鑑別書を伴うパライバ・トルマリンについて、日独宝石研究所および中央宝石研究所において改めて原産地鑑別を実施した。その結果、近年研究報告が相次いでいるエチオピア産の特徴が確認された。さらに、当該試料は一般的なエルバイト(Elbaite)ではなく、これまでモザンビーク産からのみ報告されていたリディコータイト(liddicoatite)であることが判明した。

パライバ・トルマリンとは

パライバ・トルマリンは、1989年に宝石市場へ登場した、高い彩度と鮮やかな青色から緑色を呈する銅着色のトルマリンである。 当初はブラジルのパライバ州で発見されたことに由来して「パライバ・トルマリン」の名称が定着したが、1990年代には隣接するリオグランデ・ド・ノルテ州からも産出が確認された。さらに2000年代に入ると、ナイジェリアとモザンビークのアフリカ諸国からも同様の含銅トルマリンが産出されるようになった。現在では、原産地を問わず、銅を主たる原因とする青色から緑色のトルマリンはパライバ・トルマリンとして扱われている(文献-1)。

エルバイトとリディコータイト

 トルマリン類はホウケイ酸塩鉱物の超族(supergroup)であり、一般式 XY3 Z6 (T6O18) (BO3)3V3W で示される複雑な化学組成を持つ。各結晶サイトには、以下の元素が占有する可能性があり、鉱物種としては40種以上が知られている(文献-2)。
Xサイト: Na+,Ca2+,□(空孔), K+
Yサイト: Fe2+,Mg2+,Mn2+,Al3+,Li+,Fe3+,Cr3+,Ti4+,Zn2+,Cu2+,V3+
Zサイト: Al3+,Fe3+,Mg2+,Fe2+,Cr3+,V3+
Tサイト: Si4+,Al3+,B3+
Bサイト: B3+
Vサイト: OH–,O2-
Wサイト: F–,(OH)–,O2–

 パライバ・トルマリンは宝石業界で広く知られた宝石名もしくは商業名であるが、鉱物種としてはほとんどがエルバイト(Elbaite)に属しており、XサイトにはNa(ナトリウム)が占めている。しかし、モザンビーク産の一部はリディコータイト(Liddicoatite)でXサイトにはCa(カルシウム)が占めている。そのため化学分析を行って明らかにCa>Naなものはモザンビーク産と考えられてきた(文献-3)。
エルバイト(Elbaite):Na(Al1.5Li1.5)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3(OH)
リディコータイト(Liddicoatite):Ca(Li2Al)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3(OH)
フルオルリディコータイト(Fluor-liddicoatite):Ca(Li2Al)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3F

リディコータイトの名称

 リディコータイト(Liddicoatite)は1977年、マダガスカル産などの標本に基づき、国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物・命名・分類委員会(CNMNC)によって新鉱物として承認された。鉱物名は、GIAの第2代学長であるリチャード・T・リディコート(Richard T. Liddicoat)氏にちなんで名付けられたものである。
2011年には、トルマリン超族(Supergroup)の包括的な命名規約の大幅な改定が行われた(文献-2)。これにより、従来リディコータイトとされていたものは、フッ素(F)が優勢な種であることから「フルオルリディコータイト(Fluor-Liddicoatite)」へ名称が変更された。また、当時の水酸基(OH)が優勢な理想組成を持つ鉱物は発見されていなかったため、リディコータイトの名称は一時的に削除されることとなった。
 しかし、2025年にチェコのペグマタイトから水酸基(OH)が優勢な組成を持つ標本が発見されたことに伴い、リディコータイトが再び承認された。
 なお、宝石市場に「リディコータイト」として流通しているものほとんどは厳密にはフルオルリディコータイトであるが、本稿では総称してリディコータイトと表記する。同様に、エルバイトにおいてもフルオルエルバイトが存在するが、本稿では両者を合わせてエルバイトとして扱う。

エチオピア産パライバ・トルマリン

 2026年6月19日の朝(日本時間)、スイスの宝石鑑別機関であるSSEF(Swiss Gemmological Institute)は、「New source of Paraíba tourmalines reportedly discovered in Ethiopia」と題するプレスリリース(文献-4)を発出し、これによりエチオピア産パライバ・トルマリンの存在が世界的な宝石市場に広く知られることとなった。SSEFによれば、同年4月に非開示で持ち込まれた1石の含銅トルマリンが既存のサンプルデータベースと一致せず、産地決定が保留されていたが、同年6月頃からエチオピア産とされる含銅トルマリンが同国市場に流通し始めたとしている。
 その後、エチオピアのオロミア州アブロー(Abuloo)において、含銅トルマリンの二次鉱床が確認されたことが報告された(文献-5)。世界各国の研究グループによるエチオピア産試料の分析結果から、鉱物種としてはエルバイト(elbaite)に属するものの、化学組成には幅広い変動が認められている。具体的には、銅(Cu)を主たる色因とするパライバ・トルマリンとして定義できるものに加え、鉄(Fe)を主たる色因とするインディコライトやラグーン等のタイプも混在している(文献-6)(文献-7)。なかでもパライバ・トルマリンに該当する試料については、バナジウム(V)、鉛(Pb)、ガリウム(Ga)などの微量元素の含有量がブラジル、ナイジェリア、モザンビーク産の各鉱床と比較して高値を示す傾向があり、これが原産地鑑別において有用な指標となることが明らかになりつつある(文献-8)(文献-9)。

試料と分析方法

 本研究に用いた試料は、2026年9月に日独宝石研究所へ製品の状態でパライバ・トルマリンの原産地鑑別として持ち込まれたものである。依頼主は、近年のエチオピアにおける新たな産地情報を得て、当該試料の産地について懸念を抱いたことが契機となっている。本試料は2.14ctの刻印を有し、サイズは9.51×7.77×4.46 mmで外見的には色むらの無い均質な緑青色であった(図1)。
 日独宝石研究所では、標準的な宝石鑑別検査に加え、UV-Vis-NIR分光分析、ラマン分光分析、および蛍光X線分析を実施し、当該試料がパライバ・トルマリンであることを確認した。さらに、微量元素組成の解析からエチオピア産であると推定された。しかしながら、①これまでのエチオピア産からは報告のないリディコータイトであったこと、および②エチオピア産における最初の産出報告よりも以前である2025年2月に入手されていたこと(2025年2月付の海外鑑別機関によるレポートが付属しており、試料の同一性が確認されたこと)などの点から、より詳細な検証を行うため、中央宝石研究所においてLA-ICP-MS分析を実施した。

結果

UV-Vis-NIRスペクトル: 本サンプルから得られたUV-Vis-NIRスペクトルを図2に示す。700 nm付近の吸収帯より900 nm付近の銅(Cu)に由来する吸収帯が強く認められた。この特徴から、今回のサンプルは銅の含有により着色されたパライバ・トルマリンであることが確認された。

図2. 本試料のUV-Vis-NIRスペクトル。銅の吸収帯が強く、銅の含有により着色されたパライバ・トルマリンであることがわかる。

蛍光X線元素分析: 蛍光X線元素分析の結果を表1に示す。鉄(Fe2O3)やマンガン(MnO)より銅(CuO)が多いことがわかる。また、Na (mol %) : Ca (mol %) = 41.5% : 58.5 %であり、Caのmol数がNaのmol数を上回っている。これは、この石が、エルバイトではなく、リディコータイトであることを示す。また、バナジウム(V2O5)、ガリウム(Ga2O3)、鉛(PbO)がブラジル、ナイジェリア、モザンビーク産のものと比較し、非常に高い数値を示している。

表1. 蛍光X線による分析結果
Na以上の質量数を持つ元素の酸化物の合計を100として計算されている。

LA-ICP-MS分析: LA‑ICP‑MS 分析の結果について、CGL が保有するデータベースに登録されているブラジル(バターリャ、キントス、ムルング)、ナイジェリア、モザンビーク、エチオピア産の試料を用い、エルバイト/リディコータイト比を X 軸、バナジウム(V)濃度を Y 軸にプロットした図を示す(図3)。今回分析した試料は × 印で示してある。蛍光 X 線分析の結果と同様に、今回の試料は LA‑ICP‑MS においてもリディコータイト成分がエルバイト成分より卓越しており、リディコータイトであることが確認できる。また、V 濃度は他産地の試料、特にモザンビーク産パライバ・トルマリン(リディコータイト)と比較して 10 倍以上高い。一方で、この濃度はエチオピア産パライバ・トルマリンと同程度である。


図3. エルバイト/リディコータイト比とV濃度によるプロット図。X軸の左側が純粋なエルバイト、右側が純粋なリディコータイトであることを示す。中央に示した点線はエルバイトとリディコータイトが50%:50%のラインであり、その左側に存在するものがエルバイト、右側がリディコータイトである。

同様に、ガリウム(Ga)–鉛(Pb)のプロットを図に示す(図4)。CGL通信 73 号でも同形式のプロット図が提示されているが、同図にはリディコータイトが含まれていない点に留意する必要がある。本図においても、モザンビーク産(リディコータイト)とエチオピア産は明確に異なるクラスターを形成しており、今回分析した試料もエチオピア産のクラスター内に位置していることが確認できる。これらの結果は、エチオピア産のリディコータイトが存在する可能性を示唆している。


図4: Ga-Pbプロット。今回分析したサンプルは、エチオピア産のクラスターの中に存在し、他の原産地のデータとはオーバーラップしないことがわかる。

 また、CGLの所有するパライバ・トルマリンの原産地毎のデータを元に、線形判別分析を用いたグルーピングを作成した。そのプロット図に今回のサンプルをプロットしたものを図5に示す。本サンプルは線形判別分析を用いた解析においてもエチオピア産にグルーピングされることがわかった。


図5: 線型判別分析を用いたグルーピング

まとめ

2025年2月に発行された海外の鑑別書を伴うパライバ・トルマリンについて原産地鑑別を実施した結果、エチオピア産の可能性が強く示唆された。さらに、鉱物種としてはリディコータイトであることが判明した。
エチオピア産の含銅トルマリンが公式に報告され始めたのは2026年6月以降であるが、市場における実際の流通時期については以前より諸説囁かれていた。例えば、「2018年に最初の産出があった」「2024年よりブラジル産に類似するが、やや印象の異なる産地不明石が産出した」「2026年初頭にはパライバ・トルマリンと認識されないままタイ・バンコクへ持ち込まれていた」といった伝聞情報が存在する。
本試料の鑑別結果は、遅くとも2025年初頭の段階でエチオピア産のパライバ・トルマリンがすでに市場に存在していたことを強く裏付けるものである。加えて、リディコータイトの産出がこれまで確認されていたモザンビーク産に限定されず、エチオピア産にも存在する可能性を強く示す重要な知見であるといえる。

文献

1. LMHC Information Sheet #6 Paraiba Tourmaline, LMHC Website, https://www.lmhc-gemmology.org/wp-content/uploads/2023/06/LMHC-Information-Sheet_6_V8_2023.pdf
2. Henry, D.J.; Novák, M.; Hawthorne, F.C.; Ertl, A.; Dutrow, B.L.; Uher, P.; Pezzotta, F. Nomenclature of the Tourmaline-Supergroup Minerals. Am. Mineral. 2011, 96, 895–913. https://doi.org/10.2138/am.2011.3636.
3. Katsurada, Y., Sun, Z., Breeding, C.M.& Dutrow, B.L. 2019. Geographic Origin Determination of Paraíba Tourmaline. Gems Gemol. 55, 648–659. https://doi.org/10.5741/GEMS.55.4.648.
4.  SSEF Press Release 「New source of Paraíba tourmalines reportedly discovered in Ethiopia」, SSEF website, https://www.ssef.ch/new-source-of-paraiba-tourmalines-reportedly-discovered-in-ethiopia/
5. Sisay, H.(@sisayhaimanot), Field Report to Paraiba Tourmaline Rush Near Abuloo, Ethiopia, Instagram, https://www.instagram.com/p/DaYJ20cCPdL/?igsh=MWZjcnp4MGk3MDl3ZA==
6. Pardieu,V (@vincent_pardieu) 「First examinations on paraiba and other copper-bearing tourmalines from Abuloo, Echiopia」, Instagram, https://www.instagram.com/p/DaElBi6Gvjb/?igsh=MWp0Z2d0bzltdWhnNA==
7. Milisenda, C.C. & Guo, J. 2026. Neues Vorkommen kupferführender Turmaline in Äthiopien [A new find of cuprian tourmalines in Ethiopia]. Gemmologie: Zeitschrift der Deutschen Gemmologischen Gesellschaft, 75(1–2), 5–10.
8. 江森健太郎, 北脇裕士. 2026. エチオピア産“パライバ・トルマリン”の予察的研究, CGL通信, No.73, 12-16
https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/wordpress/wp-content/uploads/2026/07/CGLNo73.pdf
9. Wang, H.A.O., Zhou, W., Sun, Yi., Wälle, M., Krzemnicki, M.S., Lefèvre, P., Sato, A., Cartier, L.&Sintayehu T., 2026. Characterisation of Cu-bearing tourmaline from Ethiopia, and implications for geographic origin determination. Journal of Gemmology, 40(3), 242-261