◆参考文献
Reinitz, I., & Johnson, M. L. (1997). Gem Trade Lab Notes: Serendibite, a rare gemstone. Gems & Gemology, 33(2), 140–141.
Schmetzer, K., Bosshart, G., Bernhardt, H. J., Gübelin, E. J., & Smith, C. P. (2002). Serendibite from Sri Lanka. Gems & Gemology, 38(1), 73–79.
Chutimun, C. N., Nasdala, L., Wildner, M., Škoda, R., & Zoysa, E. G. (2021). Spectroscopic Study of Serendibite from Sri Lanka. The Journal of Gemmology, 37(5), 451–454.
3. Kanda H., Akaishi M., Setaka N., Yamaoka S. and Fukunaga O. (1980) Surface structures of synthetic diamonds. Journal of materials science 15, 2743‒2748
4. 佐藤周一., 角谷均. (1995) 高純度ダイヤモンド単結晶の合成. 高圧力の科学と技術, vol.4, No.4
5. 北脇裕士. (2016) 無色系メレサイズHPHT法合成ダイヤモンド. CGL通信, No.30, 1‒9 https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/30/46.html
6. Colin D. McGuinness, Amber M. Wassell, Peter M.P. Lanigan, and Stephen A. Lynch. (2020) Separation of natural from laboratory‒grown diamond using time‒gated luminescence imaging. Gems and Gemology, vol.56, No.2, 220‒229
7. 神田久生. (1992) 大型合成ダイヤモンドに含まれる不純物についての最近の研究. 宝石学会誌, vol.17, No.1‒4 8. 角谷均., 戸田直大., 佐藤周一. (2009) 高品質大型ダイヤモンド単結晶の開発. SEIテクニカルレビュー, 166, 7‒12 9. Zhang Siyang. (2002) Analysis on Electrolysis Process of Synthetic Diamond Rod. Metallurgy and Materials, 40(3), 112.
10. Kanda H. and Watanabe K. (1999) Distribution of nickel related luminescence centers in HPHT diamond. Diamond and Related Materials, 8, 1463‒1469
原産地鑑別に強力な指標となるGota de Aceite(スペイン語で「油の滴」を意味する)は、コロンビアのエメラルドのもう一つの特徴であり、これはエメラルド内部の異常な成長構造に起因するものである(図7–8)。類似した成長構造はアフガニスタンやザンビアなど他の鉱床からのエメラルドでも稀に観察されることがあるが、観察頻度は極めて低い(N. Ahline, 2017; R. Zellagui, 2022)。多くの場合、Gota de Aceiteの構造は結晶の基底面と平行に分布しており、光軸方向から観察できる。その他、図9に示した鋸歯状の成長線もコロンビアのエメラルドの特徴である。これは結晶のc軸方向にギザギザと伸長した分域境界で、熱水/変成タイプのエメラルドの特徴と考えられる。
図7 コロンビアのエメラルドの特徴であるGota de Aceite。疑似六角形の形が見える。視野1.3 mm。
図8 コロンビアのエメラルドに見られるGota de Aceite。六角形の形が見えないタイプ。視野4.0 mm。
M. S. Krzemnicki et al. (2021)によると、パンジシール渓谷のエメラルドは2つのタイプに分けることができ、そのうちタイプ2に分類されるものは固体インクルージョンが少ないだけではなく、鉄(Fe)やスカンジウム(Sc)の濃度も低い。そのため屈折率や紫外–可視分光スペクトルは、コロンビア産エメラルドの特徴と重複しており、産地鑑別には注意深く観察する必要がある。
ブラジルには複数のエメラルド鉱床がある。それらの大部分は花崗岩マグマに起因する片岩ホスト/マグマタイプに属し、現在主にミナス・ジェライス州(74%、イタビラやノバエラ鉱床など)とバーイア州(22%、カルナイーバ鉱床など)から産出している(G. Giuliani et al., 2019)。前文で説明したように、このタイプのエメラルド鉱床は花崗岩マグマが苦鉄質–超苦鉄質岩に侵入することによって形成したものである。
ゴイアス州のエメラルドも片岩ホスト/マグマタイプに属するが、ブラジルの他の鉱床と異なり、形成過程中に熱水の変成作用が重要な役割を担っていると考えられている。熱水の浸透は剪断帯などの構造にコントロールされている。ペグマタイト脈はなく、エメラルドは金雲母および金雲母化した炭酸塩–タルク片岩の変成火山堆積層内に散在する。1980年代に発見されたサンタ・テレジーニャは90年代までに大量に採掘されて、日本市場では多く流通していた。この鉱床のエメラルドには高濃度のセシウム(Cs)が含まれるという特徴があり、このことから、サンタ・テレジーニャのエメラルドはマグマ流体と変成流体の混合体に起因するものという仮説が挙げられている(C. Aurisicchio et al., 2018)。
花崗岩マグマに直接起因しないが、ゴイアス州のエメラルドも片岩ホスト/マグマタイプに属し、ブロック状の二相インクルージョンが観察される(図21)。また、ゴイアス州のエメラルドの最大の特徴である大量に散在するヘルシナイトが観察されることがある(図22)。ただし、他のブラジルの鉱床やザンビア・カフブなどの鉱床からのエメラルドに含まれる大量に散在するマグネタイトまたはクロマイトのインクルージョンと区別しにくい。また、同じような形として、ゴイアス州のエメラルドに大量のクロマイトが観察されることがある(T. T. H. Le, 2008)。鑑別する際は注意深く扱う必要がある。
日本鉱物科学会(Japan Association of Mineralogical Science、JAMS)は2007年9月に日本鉱物科学会と日本岩石鉱物鉱床学会の2つの学会が統合・合併され発足し、現在は大学の研究者を中心におよそ800名の会員数を擁しています。日本鉱物科学会の沿革・活動についてはCGL通信54号等に詳しく掲載されていますので、そちらを参照して下さい。 2016年10月に一般社団法人日本鉱物科学会となり、以降の年会・総会は、2017年愛媛大学、2018年山形大学、2019年九州大学で開催されました。しかし、2020年は東北大学、2021年は広島大学で開催が計画されていましたが、Covid–19の影響でオンラインでの開催となりました。そして、2022年ようやくオンサイトでの講演会が可能となりました。
[1] Lafuente B., Downs R. T., Yang H., & Stone N. (2015). The power of databases: the RRUFF project. In: Highlights in Mineralogical Crystallography, T. Armbruster and R. M. Danisi, eds. Berlin, Germany, W. De Gruyter, 1–30
[2] Chen HF., Lin S., Li YH., & Fang JN. (2020). Dyed chalcedony imitation of chrysocolla–in–chalcedony. Gems and Gemology, 56(1), 188–189
[3] Temujin J., Okada K., Jadambaa TS., Mackenzie K. J. D., & Amarsanaa J. (2002), Effect of grinding on the preparation of porous material from talc by selective leaching. Journal of Materials Science Letters, 21, 1607–1609
(2) 各産地における微量元素の差
図3にマンガン(Mn)と鉛(Pb)濃度をプロットしたグラフを示す。三重県志摩産のサンプルは他産地よりマンガン(Mn)の含有量が多いことがわかる。また、長崎県産の対馬・佐世保産については鉛(Pb)の量が多い。愛媛県蒋渕産と熊本県天草産サンプルはマンガン(Mn)、鉛(Pb)の量が分析した他の産地に比べ少ない傾向にあるが、一部の重複はあるものの個別のグループを形成している。しかし、マンガン(Mn) vs. 鉛(Pb)プロットのみだと、長崎県壱岐産と愛媛県蒋渕産のサンプルはオーバーラップする部分が多く、この2者の区別は困難である。
参考文献 (文献1) 正岡哲治(2005) 分子遺伝学的手法によるアコヤガイ属貝類の系統と種判別に関する研究. 北海道大学大学院水産科学位論文 (文献2) Kinoshita S, Wang N, Inoue H, Maeyama K, Okamoto K, et al. (2011) Deep Sequencing of ESTs from Nacreous and Prismatic Layer Producing Tissues and a Screen for Novel Shell Formation–Related Genes in the Pearl Oyster. PLoS ONE 6(6): e21238. doi: 10.1371/journal.pone.0021238 (文献3) 新井崇臣 (2007) 耳石が解き明かす魚類の生活史と回遊. 日本水産学会誌73(4),652-655
2022年2月2日〜 3日の2日間、GIT2021 The 7th International Gem and Jewelry Conference(国際宝石・宝飾品学会)がタイのチャンタブリとオンラインのハイブリッド形式で行われました。本会議にはCGLリサーチ室から3名がオンラインで参加し、うち1名が口頭発表を行いました。以下に概要をご報告致します。
GIT2021とは
International Gem and Jewelry Conference (国際宝石・宝飾品学会))はGIT (The Gem and Jewelry Institute of Thailand) が主催する国際的に有数の宝飾関連学会の一つです。第1回目は2006年で、以降は2〜3年に1回開催されています。今回は第7回目としてGIT2021が開催されました。本来であれば、2021年中に開催される予定でしたが、コロナ禍により延期となり、2022年2月の開催となりました。
GITはLMHC(ラボマニュアル調整委員会) にも属する国際的に著名な宝石検査機関であり、CGLと科学技術に関する基本合意を締結し、密接な技術交流を行っています。本学会はGITが主催していますが、タイの商務省などが後援しており、国を挙げての国際会議といえます。GIT2021の本会議運営のため、17名の諮問委員会が結成されており、CGLの堀川洋一もその一役を担いました。
講演は2/2(水)はタイ時刻午前10時(日本時刻午後0時)、2/3(木)はタイ時刻午前9時(日本時刻午前11時)から行われました。開催は、現地であるチャンタブリのマネーチャンリゾートとオンラインのハイブリッドであり、当研究所からはオンラインで参加しました。基調講演15件と一般口頭発表20件が行われ、基調講演は講演時間一人20分、一般口頭発表は一人15分でした。これらの発表の中で特に興味深かったものをいくつか紹介します。なお、弊社リサーチ室からは、一般講演で「The origin determination of “Paraiba” tourmaline using LA–ICP–MS-the methods of quantitative analysis and its application to samples with low Cu content-(LA–ICP–MSを用いたパライバトルマリンの原産地鑑別-サンプルの定量分析方法と、銅の少ないサンプルについて-)」というタイトルで江森健太郎が発表を行いました(この発表についてはGIT2021ウェブサイトhttps://www.git.or.th/git2021_en.htmlから視聴可能な他、CGL通信で別途掲載される予定です)。
タイ、チャンタブリで行われたGIT2021の会場の様子。
GIT2021にて発表するCGLリサーチ室の江森健太郎 (オンラインによるリモート参加)
Latest Advancements in Corundum Testing コランダム鑑別の最新情報
スイスSSEFのMichael. S. Krzemnick博士はコランダム鑑別の最新の進歩について発表しました。数十年間、コランダム鑑別は宝石ラボの主要な仕事の一つとなっています。近年、FTIRやRamanスペクトルなどを始め、様々な分析技術が用いられています。今回の発表においては天然と合成、加熱処理(特に低温加熱処理)、Be拡散処理、産地鑑別に用いる技術や手法などが紹介されました。最近SSEFではマダガスカル産ルビー中のジルコンクラスターに酷似したインクルージョンを持つフラックス合成ルビーを検査しました。このように拡大検査において識別が困難な場合でもVやMgなどの微量元素を正確に測定することで確実に識別することができます。また、産地鑑別には顕微ラマンスペクトルによるインクルージョンの鑑別と、LA–ICP–TOF–MSによる微量元素分析の他、現在ではジルコンインクルージョンに対する放射線年代測定が用いられています。年代測定により、鉱床の形成など産地鑑別に有用な情報が得られます。このように、顕微鏡観察などの古典的な方法と最新の技術を組み合わせることで、コランダムに対して細かくアプローチすることができます。
A Gemological Review of Blue Sapphires from Mogok, Myanmar ミャンマー、モゴック産ブルーサファイアの宝石学的レビュー