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ラボトピックス「ウサンバラ効果 [THE USAMBARA EFFECT]」

ウサンバラ効果 [THE USAMBARA EFFECT]

前号の記事“USA会議レポート”の中で紹介したウサンバラ効果トルマリンについてこれらの石を扱っているフランスのDenis GRAVIER氏から簡単なこの効果に関する説明文が送られてきましたので筆者の説明も少し加えてご紹介します。

タンザニアのウサンバラ山地(Usambara Mountains)で採掘されるトルマリンには非常に興味深い光学効果を示すものがあることが、HalvorsenとJensen(1997年)によって紹介され、ウサンバラ効果と命名されました。

ウサンバラ効果は光の透過経路長の違いによる色の変化です。緑色のウサンバラ効果トルマリンの上に同種の石が置かれると、緑色のウサンバラ効果トルマリンは透過した光が赤色に変ります。これは光線が石を通過する際にある波長を吸収し、残りの波長が石に色を与えた結果です。

透過する光線の経路長の変化はスペクトルの強度分布に影響を与えます。経路長が伸びると一般的には吸収が増しますが、ウサンバラ効果は吸収の増加が高波長側より低波長側でより大きくなる石等に現われます。経路長が増加すると、赤色の透過強度は緑色の透過強度と比較して大きくなるため、緑色と赤色の透過率間のバランスは赤色側に向かって増加し、その結果、色の変化として感じられます(グラフ1)。人間の目の感度は緑色部で最も高く(500から510nm;グラフ2)、石を通過した光が緑色と赤色でほぼ同じ透過率を持っているなら、その石は緑色に見えます。二枚のウサンバラ効果の石を重ね合わせて、赤色の透過率が僅かにしか変化しないものは緑色のままに見えるでしょう。しかし、赤色の透過率が明らかに緑色の透過率より高くなったものは突然赤色に変ったように見えます(写真1・2)。

グラフ1

グラフ1

グラフ2

グラフ2 Sketches Kurt Nassau

写真1-2


 

写真3

写真3

これは複屈折性の石(大抵の宝石がこれにあたる)に光が入射した際、光は石の中で二つに分かれ別々の経路で光が通過するために二つの異なった色を示す二色性による色の見え方の違いではありません。その証拠に次の写真4・5のとおり左の薄片に見られる二色性は黄色と緑色ですが、この薄片をより厚くした時にウサンバラ効果によって二色性の色の違いは隠され、どちらも帯橙赤色に見えます。
原石の薄片に光を通した時に横方向に見られる赤色もウサンバラ効果です。

 

写真4

写真4

写真5

写真5


 

ウサンバラ効果は最低三つの要因の組合せで生まれています。

(1)吸収スペクトルの分布状態
このトルマリンの薄片が薄ければスペクトルの橙色から黄色と青色から緑色にかけて吸収があり、赤色と緑色の光が透過する。
(2)人間の眼の視感度が赤色よりも緑色で高い
赤色・緑色・青色の中で人間の眼は緑色の感度が最も高く、赤色と緑色の透過率に差がない場合には緑色に見える。
(3)より厚い薄片では赤色の吸収よりも緑色の吸収が大きい
薄片が薄い時のスペクトルのバランスと比べ、薄片がより厚くなると緑色の吸収が赤色よりも大きくなる。

小売店様向け宝石の知識「アンティークジュエリー10」

アンティークジュエリー・Antique Jewellery 10

いつの時代にも人々を魅了してやまない宝石。その宝石が時代とともに語られるとき、それはただ単にモノとしてだけでなく、一つのストーリーを秘めて一段と光り輝きを見せます。人を魅了してきた宝石にまつわるストーリーはたくさんあります。とくに宝石が愛情の表現として使われた例は枚挙にいとまがないくらいです。婚約指輪・結婚指輪がそうであるように、宝石を贈るのがひとつの愛情表現であることは云うまでもないだろう。高価な宝石をプレゼントされると嬉しいものだが、だからといって石の大きさで愛の深さを計れるかは別問題かも知れない。

アンティークジュエリーの世界では、宝石と愛についてのすばらしい逸話がたくさんあります。そのなかでも“王冠を捨てた愛”として知られたイギリス王エドワード8世とシンプソン夫人のロマンスは、「歴史上最高に美しいラブストーリー」として世界の人々を感動させました。幾多の障害を乗り越えて結ばれた二人は、愛の証として、ひとつひとつの宝石に愛のメッセージを彫り込んで、それは素晴らしい宝石をお互いに贈り続けたエピソードは「宝石と愛情物語」として有名だ。英国国王ジョージ5世は、臨終の際、「息子は自分の死後、一年以内に破滅するだろう」という言葉を残したといわれます。彼の死後、王位を継いだ息子エドワード8世は、当時人妻であったアメリカ人女性シンプソン夫人との結婚のために、戴冠式を待たずして、僅か一年足らずで王位を退きました。

王位を捨て、夫を捨て、愛を貫いた二人は、その後、お互いの想いを確認するかのように、生涯を通じて、数々の宝石ジュエリーを贈りあったといいます。歴史に残るジュエリーコレクションのなかには、相手に向けた愛のメッセージが刻まれたものが少なくありません。この時代を背景に、“カルティエ”の「パンテール」が社交界に衝撃的なデビューしたのが1948年のことでした。ウインザー公爵(元エドワード8世)が、シンプソン夫人のために、「パンテール・ブローチ」をオーダーしたのです。114カラットのカボション・カットのエメラルドに、斑点をほどこしたゴールドの豹(パンテール=動物のヒョウ)が横たわっているという、とりわけゴージャスなものでした。その素晴らしい美しさのジュエリーに魅了された夫妻は、さらに翌年、152カラットのカボション・サファイアに座した「パンテール」を注文。当時もっともファッションの先端にいたシンプソン夫人を飾ったこの宝石ジュエリーは、瞬く間に世間の話題となり、その人気は一気に広まっていったのです。野生動物の力強い、しなやかな姿態の豹を宝石と貴金属の材料を使い美しく抽象化したジュエリーコレクション。さらに腕時計などのアイテムも加わり、現在も“カルティエ”を象徴するモチーフとして数々の名品を生み出しています。

はたしてウインザー公爵(元エドワード8世)の父、ジョージ5世が残した予言は、正しかったのか。王位を失うのが“破滅”だとしたら、予言は当たったと言えるかもしれません。でも「王冠を賭けた恋」として世界中の人々から騒がれながらも、深い愛情で結ばれ、ともに幸せな生涯を過ごした二人。その証が時代を超えて、今も「パンテール」の宝石ジュエリーとして、輝きつづけているのです。名品・宝石ジュエリー「パンテール」誕生の陰には、エドワード8世とシンプソン夫人の世界一の恋と愛情があるのです。

1972年にウインザー公爵が亡くなり、1986年にシンプソン夫人の死をもって、二人の世紀の純愛物語は幕を閉じましたが、愛の証は消え失せることなく、シンプソン夫人の遺言により、二人の遺品である宝石ジュエリーは社会貢献のためにオークションに出されることになりました。1987年4月2日20世紀最大といわれるオークションが行われ、二人の300点にのぼる宝石ジュエリーを含む遺品の売上げの90%がエイズの研究で有名なパリのパスツール研究所に寄付されました。

英国王位を捨て王冠をかぶらなかったエドワード8世。そして愛情を一身に受け止めたシンプソン夫人。二人のロマンスは人間の生きる姿の最高に美しい形であり,イギリス国民はもちろん世界の人々を感動させました。

この二人のアンティークジュエリーオークションは、表示価格の百倍〈通常は数倍〉で落札され、20世紀最大のジュエリーオークションと世界に報道され話題となりました。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊