ラボQ&A

過去にお客様からよくいただいた質問や、恐らく疑問に感じられるであろうことについて、担当スタッフが簡単に分かり易くまとめました。このような質問・疑問をこれから不定期に紹介して行く予定です。

グレーディング・レポート(鑑定書)と鑑別書の違いについて

ユーザーの方から『鑑定書と鑑別書は何が違うのですか?』という質問をよく頂きます。
宝飾品販売店やネットで目にするものとしては大きく分けて下記の3種類が挙げられます。
(1)グレーディング・レポート(鑑定書)
(2)鑑別書
(3)ソーティングメモ

グレーディング・レポート(鑑定書)

『鑑定』という言葉からは、一般的に訴訟法上の鑑定、美術品の鑑定、そして不動産等の評価を行う経済取引上の鑑定が思い浮かべられます。このような一般的な意味合いで捉えて考えた場合に、どうしても金額を査定するイメージになってしまう事から、日本の宝石検査機関では出来るだけ『鑑定』と呼ぶのを避け、英語のまま『グレーディング』(等級付け)と呼ぶようにしています。
グレーディング・レポートはダイヤモンドのみに用いられるレポートで、正しくは『ダイヤモンド・グレーディング・レポート』と呼ばれ、天然ダイヤモンドを対象に4C(カラー、クラリティ、カット、カラット)をグレーディングした結果を記載しています。
ダイヤモンドのグレーディングは、ダイヤ全体の観察や詳細なプロポーション測定が必要ですので、必ず枠に留まっていないルース(裸石)の状態で検査を行う必要があります。グレーディング・レポートに貼付されるダイヤモンドの写真は、ルースの状態だけでなく、宝飾品に加工された状態での写真が貼付されることもありますが、両者ともルースの状態でグレーディングされています。

鑑別書

鑑別書は全ての宝石に対して発行されるレポートです。簡単に言ってしまえば『その物が何なのか?』の検査を行いその結果を記載したレポートになります。
例えば、赤色の石の検査を依頼された場合、その赤色石が『ルビー』なのか『ガーネット』か『ガラス』なのか等を科学的に分析します。仮に『ルビー』だった場合、その『ルビー』が自然界で形成された『天然ルビー』なのか、それとも人間が造った『合成ルビー』なのかを調べます。
もし、『天然ルビー』という結果を得られたとしたら、次は何らかの人為的な処理が施されているか否かまで調べ、その結果を鑑別書に記載します。

鑑別書に記載される結果は、以下の3項目で表わされます。
(1)鉱物名 または生物学上の呼称およびその起源 (2)宝石名 または変種名 (3)開示コメント 人為的に処理が加えられている場合にその内容を明記

『ルビー』を例にとると
(1)鉱物名   :天然コランダム
(2)宝石名   :ルビー
(3)開示コメント:色の改善を目的とした加熱が行われています。

また、模造石の場合、ガラス、プラスチック等である旨を鑑別結果として記載するケースもあります。
鑑別書ではグレーディング結果を記載することはありません。従いまして、ダイヤモンドを鑑別でお預かりした場合にはグレーディングは行いません。その石がダイヤモンドであるか否か、ダイヤモンドなら天然か合成か、そして何らかの処理が施されていないかを調べます。

ソーティング・メモ

中央宝石研究所で発行しているソーティング・メモは2種類存在します。
1つはダイヤモンドのグレーディングを行い、その4C結果のみを記したダイヤモンド・ソーティング・メモ。もう1つは宝石ソーティング・メモと呼ばれる鑑別のソーティング・メモになります。
双方ともにそれぞれの検査の内容はグレーディング・レポートや鑑別書と変わりありませんが、異なるのはどちらも結果のみを記載したメモでグレーディング・レポートや鑑別書を発行する前の段階であるという点です。

ダイヤモンドの発色要因について

ダイヤモンドというと一般的に無色透明な石を想像すると思いますが、実際はイエロー、グリーン、ブルー、ピンク等色々な色調のダイヤモンドが存在します。以前、お客様よりダイヤモンドの色の原因について質問を受けましたので、説明をしたいと思います。

図1
図1

図2
図2

 
 
 
 
 
 
 
 
 

ダイヤモンドの結晶構造は、1個の炭素原子を中心に4個の炭素原子がちょうど正四面体の頂点にくるような配置をした単位の繰り返しによって結晶が形成されています(図1) 。 隣接する炭素原子同士は、結びつくために必要な電子を双方の原子が共有することで結合しています(共有結合)。それは模式的に二次元的に表すと図2(結晶格子)で示すようになり、各炭素原子がそれぞれ4本の結合の「手」を使って隣の炭素原子と結合しているように表わされます。このように炭素原子が正確に配列した結晶では、白色光線を構成する一部の波長(色)だけが吸収されることはないため、ダイヤモンドは無色です。
ダイヤモンドはほぼ純粋な炭素の結晶ですが、実際には不純物として窒素、水素、ホウ素等の元素が結晶格子に入り込んだり、結晶格子中に炭素原子の抜けた孔(空孔)を残していたり、結晶格子が外的圧力で歪んでいることもあります。ダイヤモンドに色がついて見えるのは、これらの欠陥が結晶格子中に存在すると、白色光のうち特定の波長をもった光だけが結晶を通過して私たちの目に届き、その結果、色が付いて見えます。例えば、ある欠陥によって赤色部と緑色部の光が吸収されると、青色の光だけが結晶を通過するため、その結晶は青く見えます。

各色の色原因

●イエロー
ダイヤモンドには大きく分けて2つのタイプがありI型とII型で分類されています。天然で産するダイヤモンドの97%はI型と呼ばれ、無色に近いものから濃いイエローまで存在します。イエローカラーに代表されるI型ダイヤモンドは結晶を構成する炭素以外の不純物である窒素が色の原因となっています。
窒素原子はダイヤモンドの結晶格子の中で一部の炭素原子と置換しています。窒素原子は結合の「手」が5本ありますので、炭素原子と置き換えると1本余ってしまう事になります。この欠陥は青から紫外部の光のエネルギーを吸収し、その結果、私たちにはダイヤモンドがイエローに見えるわけです。

●グリーン
自然界で周りの放射性鉱物などからの照射を受け、その照射エネルギーによって電子やイオンが結晶格子の本来の場所から飛ばされて生まれた欠陥が色の原因となります。色は淡いブルー味掛かったグリーンやイエローグリーンがより一般的です。

●ブラウン
多くのものはイエローと同じく窒素原子が関与していますが、ブラウンは結晶格子の歪みによっても生み出されます。

●グレー
一般的に水素が関与しています。しかし、実際には水素原子がどのように結晶格子中で働き、色に影響を与えているかは余り解明されていません。

●ピンク
ピンクは、結晶格子の歪みによるものと孤立した状態の窒素と空孔が結合した欠陥が働いてピンクになるものがあります。
オーストラリアのアーガイル産のピンクダイヤモンドの色の原因は『窒素』に起因するものではなく、一般的には、地中で熱や外的圧力によりダイヤモンドの結晶構造に歪み(滑り)が生じたものと考えられています。

●ブルー
天然のブルーダイヤモンドにはI型とII型が存在します。I型のブルーダイヤモンドで多く見受けられる主にグレーブルーからバイオレット掛かった色合いをしたもの、これらは水素が多く含まれる特徴があります。もう1つのI型ブルーダイヤモンドは自然界で照射を受けたことにより、その色調を示すもので淡いアイスブルータイプ(ブルーからグリーンブルー)のものです。
一方、II型のブルーダイヤモンドの場合は、極微量のホウ素を含有しており、その存在が結晶に電導性も与えており、IIb型と呼ばれます。それらに属するダイヤモンドは天然ダイヤモンド全体の約0.01%程度しか存在しません。色調は淡いブルーが一般的ですが、濃いものではホープダイヤのようなブルーサファイアのような色も存在しており、すべてのII型のブルーダイヤモンドには電導性が認められるのが特徴です。

●カメレオンダイヤモンド
カメレオンダイヤモンドとはトレードネームでありその名前からも分るとおり変色性を示すダイヤモンドに対しての呼称です。最初の発見は1940年代でアメリカのC.Aカイガーによりカメレオンダイヤモンドと命名されました。2.24ctの大粒ダイヤに光を当てたとき青銅色から緑色に変化したことから、こう呼ばれ出しました。
このような変色性を示す宝石は数多く知られていますが、最も知名度が高いものはアレキサンドライト(クリソベリルの変種)でしょう。アレキサンドライトは自然光(太陽光)に当てると青味を帯びた緑色を示すのに対し、人工光(白熱光)に当てると赤色へと変化を見せます。アレキサンドライトの変色性は光のスペクトルに深く関連した光学現象で、遷移金属元素であるクロムの含有に起因します。しかしカメレオンダイヤモンドの変色性は、アレキサンドライトのような異なる光源下で色の変化が観られるものとは異なります。多くは『加熱』または『光に当てたとき』に『その色が変化する』ダイヤモンドに対して用いられます。
『加熱』は、緩やかに温度変化させ、大体200℃~300℃程度で変色が観察されます。しかしこれは一時的なものです。『光に当てたとき』は、ある時間(例えば一晩)金庫などの暗所に保管しておき、明るい部屋で取り出した場合に変色が観察されるといった具合です。
カメレオンダイヤモンドの変色の科学的なメカニズムは未解明である部分が多いのですが、このタイプのダイヤモンドは水素を多く含んでいるという大きな特徴を持っています。
流通しているカメレンダイヤモンドの多くは通常時に灰緑黄色を示しており、加熱等により黄色に変化が認められるものが一般的ですが、この他に少数ですが黄色から灰緑色に変化するものや黄色からオレンジ褐色に変化するものも報告されています。

各色ダイヤモンドについて簡単に説明してきましたが、色の付いたダイヤモンドを見る機会に参考にしていただければと思います。

加熱前
加熱前

加熱後
加熱後

 
 
 
 
 
 
 
 
 

ダイヤモンドの蛍光について

ダイヤモンドは、ほぼ純粋な炭素の結晶体ですが、ごく僅かな不純物として窒素が含まれます。
不純物の窒素を含むダイヤモンドにX線や紫外線があたると、X線や紫外線は目に見える光に変換されて放出されます。
この現象を蛍光現象と呼び、光を蛍光と呼びます。それぞれのダイヤモンドには構造的に違いがある事から、それぞれ異なる蛍光性を持っています。即ち、人間の性格と同じように固有の特徴(人間に置き換えれば個性)になります。
ダイヤモンドの蛍光は、発光色の強弱により、None(無)、Faint(弱)、Medium(中)、Strong(強)、Very Strong(極強)の5段階に分類し表示されます。一般的にブルーの蛍光が多くを占めていますが、その他の色調では、イエロー、イエローイッシュグリーン、レッド、オレンジ、ピンクと様々です。蛍光の発色性の違いは不純物の種類や、欠陥の形成状態により変化するものだと考えられています。
蛍光の発色が強いダイヤモンドはカラーグレーディングを行う際に注意しなければなりません。一般的なダイヤモンドの持つイエロー味は補色であるブルーの強い蛍光色により相殺されダイヤモンド自体の色を良く見せてしまうからです。確かに強い蛍光色を持ったダイヤモンドは本来持っている地色を隠してしまうものもあります。これは全てに対して言えることでは無く、ごく一部のものに対してです。しかし、逆の考え方をすればユーザーが身につけて行く場所によっては蛍光色の強いダイヤモンドは注目を浴びる可能性もあります。 例えば、ブラックライト等が設置されているパーティー会場やバー等では怪しく神秘的なブルーの発色が浮かび上がり、貴女をより一層引き立ててくれるでしょう。

ダイヤモンド鑑別の現状について

ダイヤモンド処理技術の進歩、合成ダイヤモンドの品質向上などにより、ここ数年ダイヤモンドの鑑別が困難になって来ています。中央宝石研究所ではダイヤモンドの等級を表わすグレーディング及び鑑別書作成等の依頼を受けた全てのダイヤモンドに対して必要な検査を行っていますが、従来の鑑別機器だけでは看破が非常に困難なダイヤモンドも存在することから、我々のような検査機関にとって、より一層鑑別技術がシビアに問われる状況になって来ています。

無色系ダイヤモンドの科学的特徴を利用して粗選別

まず、グレーディング依頼を受けた無色系ダイヤモンドは、全てグレードを行う前に天然ダイヤモンドか否か、天然ならHPHT(高温高圧)処理の可能性があるものではないかという視点で粗選別装置を用いてチェックを行います。
ダイヤモンドは大きく分類してIa型・Ib型・IIa型・IIb型の4タイプに分けられますが、無色系天然ダイヤモンドの大部分がIa型である事から、この粗選別装置はI型ダイヤモンドの分光特性を利用して、非常に短い波長の紫外線(220ナノメーター)の吸収性をチェックし、粗選別をします。

短い波長の紫外線(220ナノメーター)の吸収性をチェックする装置
短い波長の紫外線(220ナノメーター)の吸収性をチェックする装置

ダイヤモンドのタイプ分類に有効な赤外分光光度計(FT-IR)
ダイヤモンドのタイプ分類に有効な赤外分光光度計(FT-IR)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

この検査にパスした無色系ダイヤモンドは現行では合成ダイヤモンド及びHPHT処理の可能性は消えますが、天然ダイヤモンドと判定されてもこの時点ではまだ油断出来ません。
あくまでも粗選別装置はダイヤモンドのI型とその他のタイプに分類しているに過ぎないからです。含浸処理ダイヤモンド、ペインティング及びコーティング処理ダイヤモンド、レーザードリル処理ダイヤモンドはこの粗選別装置では選別を行えないことからグレーダーがカラー、クラリティのチェックの際に検査を行います。

ダイヤモンドのタイプIa型:不純元素として窒素が入り、2個以上の窒素原子が集合体を作っているもの。無色から黄色系(ケープ系)の大抵の天然ダイヤモンドがこのタイプに属します。合成ダイヤモンドのない唯一のタイプです。
Ib型:不純元素として窒素が入り、単原子の状態で窒素原子が存在しているもの。ファンシーインテンス・イエローなどの濃い黄色系のダイヤモンドを生み出します。合成イエローダイヤモンドの大部分はこのタイプで、放射線処理でピンクからレッドの合成ダイヤモンドも作られています。
IIa型:窒素やホウ素などの不純元素を含まないため、カラレスのダイヤモンドです。カラレスの合成ダイヤモンドはこのタイプに属し、天然ダイヤモンドなら希少性が高いタイプです。
IIb型:不純元素としてホウ素を含むため、ファンシーブルーを生むタイプです。ブルーの合成ダイヤモンドもこのタイプに属し、天然なら希少性が非常に高いタイプです。

粗選別でNGに分類されるもの

さて、NGと判定されたものについての検査フローですが、この時点ではダイヤモンド以外のものが含まれている可能性が有ることから専任の検査スタッフが類似石とダイヤモンドを選別します。ダイヤモンド以外のものであれば更に別の検査を行ない、結果を出す事になります。
肝心のダイヤモンドの選別ですが、この時点で残る可能性はI型以外の天然ダイヤモンド、合成ダイヤモンド、HPHT処理したダイヤモンド等が可能性として残りますが、高度な知識と判断力が必要になって来ることから、ここからは鑑別のスペシャリストが特殊な検査を進めます。

高温高圧(HPHT)処理ダイヤモンドの検査

FT-IR検査等でダイヤモンドのタイプを選別し、II型のダイヤモンドであれば高温高圧(HPHT)処理ダイヤモンドの検査が必要になります。このHPHT処理ダイヤモンドは従来の鑑別機器での看破は不可能であり、顕微ラマン分光光度計という特殊な分析装置が必要になります。液体窒素を用いダイヤモンドの冷却を行い、そのダイヤモンドのフォトルミネッセンスを測定します。非常に高度なオペレーションと解析能力が必要で専門のスタッフが結果を出します。

合成ダイヤモンドの検査

合成ダイヤモンドの疑いのあるものはカソードルミネッセンス、ダイヤモンドビューTMなどの特殊な検査機器を用いて検査を行ないます。この特殊な検査機器で合成ダイヤモンドの観察を行うと合成ダイヤモンド特有の成長構造が確認されます。勿論、蛍光器等を利用した燐光検査及びセンタークロス(十字状模様)の観察も有効ですが、近年の合成ダイヤモンドの品質向上は凄まじいものがあり、簡単な看破法では不十分になってきています。

ダイヤモンドビューTMを用いて天然・合成ダイヤの検査をしている様子
ダイヤモンドビューTMを用いて天然・合成ダイヤ
の検査をしている様子

ダイヤモンドビューTMで観察される合成ダイヤモンドの蛍光像
ダイヤモンドビューTMで観察される
合成ダイヤモンドの蛍光像

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

カラーダイヤモンドの検査

全てのカラーダイヤモンドには必ずカラーオリジン【(色起源)天然起源及び人為的着色かの表示】の検査を行います。赤外分光光度計(FT-IR)、可視分光光度計 (UV-Vis/NIR)を用い検査石のデータ集積をおこない、各色の天然パターンに該当しない石、又は更に検査の必要があると思われる石には、より入念な検査を重ねます。天然カラーダイヤモンド、放射線処理ダイヤモンドはこの時点で結果が出ることになりますが、Ia型のカラーダイヤモンドで天然パターンに該当しない場合は高温高圧(HPHT)処理ダイヤモンドの検査が必要になってきます。

放射処理

放射線処理はダイヤモンドに電子線(エレクトロン)照射をして濃いグリーンにしたものと、更に照射後に熱処理を行い、より好ましいカラーに改変させたものがあります。放射線処理のなかにはガンマー線や中性子線を照射し                                                                          カラーの改変を行ったものもあります。

 

以上のようにダイヤモンドの鑑別を行うにあたり心がけたいのは『1つの検査のみで結果を出そうとせず複数の検査を行った上で総合的な判断を行う』事が必要となって来ているという事でしょう。

高温高圧プロセスとは・・・
高温高圧合成法でダイヤモンドを合成する条件に近い温度と圧力をブラウンカラー・ダイヤモンドにあたえ無色またはその他の色にダイヤモンドを変色させる処理。ベラテア(Bellataire)
アメリカのゼネラルエレクトリック社(GE社)がブラウンカラーのIIaタイプの天然ダイヤモンドに高温高圧処理を用い色調をカラレス化する方法を開発。1999年4月よりPegasus Overseas Limited(アントワープ; LKIの子会社)がGE社で高温高圧処理したダイヤモンドを販売開始。
当初、GE社はこの処理技術についての具体的方法は一切公表せず、「従来の放射線処理、表面コーティング処理等の改変処理とは全く異なる技術であり、この処理技術を施されたダイヤモンドの色調は永久的に変わらず、この処理技術が施されたどうかの鑑別は出来ないであろう。」と発表。 その後、各国の鑑別機関、団体が研究を開始し、この処理の解明に努めた結果、顕微ラマン分光装置による分析法にて鑑別が可能であることが判明しました。
ノバダイヤモンド(NovaDiamond)
2000年2月 より親会社のNovatechで高温高圧処理したダイヤモンドを販売。この処理プロセスは上記のGE社とほぼ同じですが、処理する対象のダイヤモンドはIaタイプのブラウンカラーで、処理後のカラーは黄色、濃黄色、黄緑色などがあります。
ノーブ(Nouv)
2003年3月からイルジンダイヤモンド社(韓国)が自社でHPHTプロセスを施したダイヤモンドを“ Nouv ”というブランド名で販売。処理されたダイヤモンドのカラーは黄色、濃黄色、黄緑色。

 

小売店様向け宝石の知識「金価格・Gold Price2」

金価格・Gold Price2

宝飾品の特長は、数十年前の中古品でも、価値を持ち続けることだ。代表的な宝飾品の素材である金は、資産価値は将来も持ち続ける。欧米では、「宝飾品は楽しみ半分、資産半分」といわれる。宝飾品は身を飾りオシャレする楽しみがあり、将来は値上がる可能性のある資産としての楽しみもある。どんな時代が来ても、金は無価値にはならない。

「金・宝飾品はSafe Heaven」と呼ばれ、安全資産の避難所。戦乱を繰り返した過去の時代はもちろん、現代でも政情不安の国々の人々や、通貨の信用不安のところでは、金持ちが金や宝飾品を買い込むようだ。

インドや中国では、金志向が強い。とくに金持ちはその傾向が強い。

インドでは、結婚式には宝飾品をたくさん着用して参加する風習があり、娘には嫁入りのために金や宝飾品をたくさん持参させる。これは、将来に備えて、なにか困ったときのためだ。インドのブライダル需要は、金の世界相場に影響を及ぼすほどだ。

中国人もここにきて金買いに一部の金持ち層の人たちが走り出したようだ。古来、中国人は金志向、ヒスイを中心に宝飾品志向が強い。先の革命混乱期は別として、宝飾品文化は昔から栄えた歴史がある。

上海の有名観光スポット豫園という盛り場がある。東京の浅草のような名所だ。ここ豫円商場には数多くの商店が集積していて、買い物客や観光客がゴッタがえし、すごくにぎわっている。ここには金の装飾品やヒスイ宝飾珠玉店が軒を連ねる一角がある。

ここのある珠宝店の主人は中国も一部の人々は金持ちになり、いまや宝飾品の売れ行きもうなぎ昇りの景気だという。「金は見た目も良くて、美しい」「金を素材にした宝飾品の売れ行きは上々で、前年比1~2割アップで売上げが伸びている」という。

中国ではゴールドジュエリー、宝飾品の売買は自由で、金持ちはオシャレでゴールドジュエリーを購入している。ただし金地金の購入、金投資は現在はできない。

中国の海外貿易は活発であり、GDPも日本を抜いて世界第二位になりつつある。中国の外貨準備高とくにドル保有高は急増している。米国債保有高も増加の一途だ。

世界的なドル不安を背景に、中国政府はドルを金に交換して、いつ金の保有比率を引き上げるか市場関係者はピリピリしている。とくに世界の金市場価格を決めるニューヨーク市場は、中国の金融政策動向に目を光らせている。

華僑が多い東南アジアの大都市の中心地には必ず金商行の集積した盛り場がある。中国内陸の大都市はもちろん。香港、マカオ、バンコクの中心街には金ゴールド専門店が集積している。華僑は資産保全のために金蓄財が旺盛である。

さてわが国の現状はどうか。国内は、このところの不景気で宝飾品需要が落ち込んでいる。不景気で収入が減っていることもあり、宝飾品の換金を考える人が増えている。

そしていま貴金属価格の上昇で宝飾品を買い取る業者が増えている。手持ちの宝飾品を売却する人が増え、宝飾品再流通の波が起きている。宝飾品再流通市場拡大という新現象だ。

家庭に多くの宝飾品が眠っている。ある調査機関によると、宝飾品の国内市場規模は年商で約1兆円弱(2008年推計)。タンス在庫は原価ベースで20兆円にのぼると推定される。

近ごろ街角に貴金属買取りショップを多く見かける。貴金属買取り新聞折込みチラシも増えている。

貴金属買取り専門店の広告には、次のような内容が掲載されている。
◎ご不要なジュエリー・金・プラチナ・ダイヤモンドお気軽査定お時間はかかりません。お気軽にお越しください。
◎金相場・・・高騰中。換金今がチャンス。キャンペーン実施中。
◎新宝飾品に買い換えの場合は、割引チケット贈呈。

貴金属再流通ビジネスの背景には、金価格が歴史的高値にあること。最近の金価格は1999年の約4倍と歴史的高値だ。ここで宝飾品買取り価格査定、素材の金・プラチナの分析査定の問題がある。宝飾品に使用されているダイヤモンド・色石の再流通には本格鑑定の必要性の問題がある。宝飾品再流通市場・新興市場の拡大には健全発展が望まれる。

「楽しいジュエリーセールス」 著者:早川 武俊
早川宝石研究所ホームページ

USAレポート

GILC会議

Gemstone Industry and Laboratory Conference(宝飾産業と鑑別機関の会議)が2010年2月1日にアリゾナ州ツーソンで2年ぶりに開催されました。
宝飾業界が国際的に統一した考えを持ち、消費者に対して同じ答えを与えられることを目的にGILCは1992年からこの目的達成のために開かれて来ましたが、近年は活発な議論も少なく、スポンサーも離れたことから、とうとう昨年は開催されずに終わりました。
本年は再びICAが中心となり、これまでの排他的な雰囲気を無くし、誰でも参加できる開かれた会議として、場所もジュエリーショーの出展者が気軽に参加出来るようにAGTAショーが開かれるツーソン・コンベンション・センターに移したため、参加者は100名近くまでに膨れ上がり、大会議室がほぼ満員の状態で会議は朝8時半からスタートしました。
以下は会議の議題です。


議題1:鉛ガラス充填ルビー:呼称についてのディスカッション

ニューヨークの鑑別機関AGLのスミス氏から鉛ガラス含浸ルビーの処理による外観の改変が非常に大きく、ルビーなのか模造石なのかといった呼称の問題および耐久性にも非常に問題があることが提起されました。

議題2:エメラルドの処理の看破と鑑別書についてのアップデート

グベリンラボのキファート女史からエメラルドの含浸に関する処理法及び特徴が説明されました。

議題3:アンデシン:起源、処理、開示に関する論争

全宝協の阿依氏より昨年の宝石学会(日本)で発表した内容に加えてその後の研究により、熱ルミネッセンス分析やICP- MS分析でチベット産天然レッドとモンゴル産の銅拡散処理レッドに違いが発見されたとの発表が行われました。

議題4:トルコ石中のウラニウム鉱物:トルコ石中の異常な黄色斑

GIAのマクルーア氏から中国湖北省(Hubei province)のトルコ石から放射性鉱物が内包物として発見されたとの発表が行われました。

議題5:鉱山から市場に至る色石。倫理的な取引と採掘への取り組

ICA副会長のミシェロブ氏からは、色石の公正取引と倫理的な採掘のための国際的承認システムの概念が提案されました。

議題6:色石の品質基準:宝石取引の機会

タイの鑑別機関GITのワサナクル女史からは、GITで行われているルビー・サファイアの品質分類方法が紹介されました。

以上の議題について個々に討議した結果、GILCのワーキンググループを立ち上げ、そこで対応策をまとめ、来年のGILC会議で発表するということで今回の会議は閉幕しました。


ラボトピックス「シャコ核を使用した有核淡水養殖真珠」

シャコ核を使用した有核淡水養殖真珠

東京支店 横山 照之  

はじめに

先日、東京支店にバロック系の真珠(短径が約9.0~11.0mm)が鑑別のために持ち込まれました(写真1、2)。通常の鑑別手順で淡水産の真珠であることはわかりましたが、珠の形状から核の存在が予想されたため、予備的に軟X線透過検査を行ったところ、全ての真珠に核の存在が確認され、またそれらにはヒビや割れがみられました。通常、淡水真珠の養殖には核を使用せず、ピース(外套幕切片)のみを使い真珠が養殖されるため、珍しいケースと言えます。また養殖核は一般的に淡水産二枚貝を球形に加工したものを使用しますが核にヒビや割れが生じることはほとんど無く、今回のように全ての真珠の核で問題が見受けられるケースは知られていませんでした。そこで「核」に何らかの原因があるのではないかと推測し、破壊検査を含めたさらに踏み込んだ検査を行うため、先述のネックレスに使用されている珠と同等の「両穴の淡水養殖真珠」15個を別途借り受け、調査を行いました。

外観・特徴

形状はタドポールからヘビーバロックの大珠養殖真珠で、淡水養殖真珠を示唆する光沢をもち、オレンジやパープル、白色から薄黄色と多彩な範囲のボディーカラーをもっています。(淡水真珠で大珠を養殖する方法は、生殖巣で有核養殖を行う方法と外套膜で多数個の真珠養殖を行った後、母貝を生かしたまま養殖真珠を抜き取りパールサックに新しく核のみを挿入し養殖をする方法があります。)

写真1 有核淡水連

写真1 有核淡水連

写真2 有核淡水一連(拡大)

写真2 有核淡水一連(拡大)


 

予備検査

軟X線透過検査によると、15個のうち2個は無核でした。残りの有核の珠13個のうち何の問題も見受けられない珠は1個(サンプル (1))のみで、12個(サンプル (2))に「核にヒビや割れ」が認められました。

写真3-1 サンプル(1)

写真3-1 サンプル(1)

写真3-2 サンプル(1)X-Ray

写真3-2 サンプル(1)X-Ray


 

写真4-1 サンプル(2)

写真4-1 サンプル(2)

写真4-2 サンプル(2)X-Ray

写真4-2 サンプル(2)X-Ray


 

検査方法

核を露出させて拡大検査や蛍光X線元素分析を行なうため、表面の真珠層と核を切り離しました。サンプル (1)は核と真珠層をスムースに切り離し出来ましたが、サンプル (2)では核が複数個に割れてしまいました。

拡大検査

サンプル (1)の核は平行な層状構造からなり、真珠層構造を持つ貝殻に見られる”ギラ”と呼ばれる特徴が見られました。
サンプル (2)の核では平行な層状構造と、その構造に対してほぼ垂直方向に細かく成長構造が見られましたが、“ギラ”と呼ばれる特徴は見られず、一部に交差板構造の特徴といわれる” “フレーム(火炎模様)”が見られました。

蛍光X線元素分析

海水産貝殻・真珠と淡水産貝殻・真珠を区別する方法としてカルシウム(Ca)に対してマンガン(Mn)やストロンチウム(Sr)の量比に着目する方法が知られています。淡水産貝殻・真珠には特徴的にMnが存在し、微量のSrを含有しますが、海水産貝殻・真珠ではMnは検出限界以下となり、ある程度のSrを含有します。当該サンプルを分析した結果、サンプル (1)は「淡水産貝」を加工した核が使用されている事が確認できました。また、サンプル (2)では「海水産貝」を加工した核が使用されており、さらに外観的特長からシャコ貝と考えられます。

最後に

今回の検査の結果、軟X線透過検査において「核にヒビや割れ」が起きているこれら類似性のある真珠の核にはシャコ貝が使用されていると考えられます。
これまでは核の素材について問われることはありませんでしたが、シャコ貝核にはじまり鉱物のドロマイトやパラフィンなど、多種多様の物質が養殖真珠の核として使用されている事に対して、(社)日本真珠振興会は2009年度版 真珠スタンダード I-2-1-1有核養殖真珠の項目で「ピグトウ、ウオッシュボード、メープルリーフ、スリーリッジ、エボニーシェル等米国産の淡水産二枚貝の貝殻真珠層を切断、研磨等の物理的加工により球形に成型した真珠核及び外套膜小片(ピース)を人為的に生きた真珠貝の体内に挿入することにより、核の周囲に真珠袋(パールサック)が形成され、その袋内で核表面に真珠層が形成されたもので、外観し得るその表面全体が真珠層で覆われているもの。」と養殖真珠の核の素材について言及し、定めました。今後私たち鑑別機関は表面から見る事が出来ない核についても検査および何らかのコメントを求められる時期が来るかもしれません。私たちはその時期に備えなければならないと考えます。

第10回日本琥珀研究会報告

東京支店 藤田 直也  

今回で10回目を迎えた日本琥珀研究会が、2009年の11月28日、29日に開催されました。日本琥珀研究会は日本中の琥珀研究家、琥珀愛好家が一同に集まる研究会です。会員数は75名を数え、一年に一度研究会を開催しており、昨年度は20人の会員と2人の非会員が集まりました。

北九州市立自然史・歴史博物館

北九州市立自然史・歴史博物館

研究会会場 壇上は寺村会長

研究会会場 壇上は寺村会長

11月28日に開かれた総会では、寺村光晴会長の挨拶の後、各役員から決算、事業計画などが報告されました。今回は第10回ということもあり、琥珀研究会にとって重要な節目です。琥珀研究会という名称についての意見や、会誌のあり方、その記事の内容についても討論されました。会誌の記事の内容については、日本各地の琥珀や歴史的に意義のある琥珀を分析し、会誌に載せてみてはどうかという提案や、その試料の選定には特別に委員会を設けてはどうかという提案が上げられました。また、この大会にあわせて10周年記念会誌「こはく」が発行されましたが、この会誌には歴代会長の記事や、中條利一郎氏(帝京科学大学 理工学部 教授)、植田直見氏(財団法人元興寺文化財研究所)による化学分析などが掲載されており、非常に興味深い内容になっています。
同日に開催された研究発表会では4件の発表が行われましたので、以下に報告します。



熱分解-ガスクロマト/質量分析による琥珀の分析

発表者:(財)元興寺文化財研究所  植田 直見
住友金属テクノロジー(株) 渡邊 緩子

Py-GC/MS装置

Py-GC/MS装置

非常に困難である琥珀の産地同定を熱分解-ガスクロマト/質量分析(Py-GC/MS)を用いて分析する方法が紹介されました。この方法では試料を低分子、次に高分子の化合物へと二段階に分けて揮発させ分析を行うため、劣化した琥珀の分析への活用が期待でき、実際に分析した例でも産地による差異を示していました。今後産地のサンプルデータを増やしていくことで、劣化した琥珀の産地の同定もますます可能になるのではないかと思われます。


久慈琥珀の虫入り再発見の経過

発表者:川上 雄司

文献では19世紀初頭にアブの入った琥珀が久慈から見つかったという報告がありましたが実物は現存しておらず、久慈で実際に虫入り琥珀が見つかったのは1984年でした。この琥珀は中生代白亜紀後期のもので、この時代の虫入り琥珀の発見はわが国ではこれが初めてであり、世界的に見ても珍しいもので、この発見に至るまでの経緯が写真、地質図などを用いて説明されました。

古墳時代後期の琥珀製棗玉について

発表者:明治大学校地内遺跡調査団 斉藤 あや

琥珀製棗玉

琥珀製棗玉

古墳から出土する琥珀のうち、特に棗玉について年代、サイズ、地域分布などについて調査した詳細な結果が発表されました。年代別の出土数は古墳時代前期と中期前半では少なく、中期後半から後II期にかけて増加し、後IV期に最盛期を迎え、そこから再び減少する傾向があり、サイズに関しては前期には小さいものが多く、後IV期に最も大きくなる傾向があるようです。また地域に関しては、はじめは西日本のほうが多かったものが、後IV期になると千葉での出土数が非常に増えており、これは千葉で多く琥珀が採れるようになったことと関係があるようです。


新発見の久慈産虫入り琥珀

発表者:久慈琥珀博物館館長 佐々木 和久

クジアケボノアリ

クジアケボノアリ

クンノコアリ

クンノコアリ


久慈で最近新しく発見された新種のアリ2種類と、恐竜の化石、ワニの化石についての発表がありました。
今回発見されたひとつ目のアリは「クジアケボノアリ」と名づけられ久慈産の琥珀から見つかったもので、いわき市などで発見されたアケボノアリの新種であることが判ったそうです。二つ目のアリは「クンノコアリ」と名づけられたブルブラアリの仲間の新種で、国内でアリの化石が発見されたのは福島県のいわき市についで2箇所目です。ちなみにクンノコというのは久慈地方の方言で、琥珀のことを意味するそうです。

ワニの歯の化石

ワニの歯の化石

恐竜の化石は、久慈琥珀博物館の琥珀採掘体験場の地層から2008年にみつかりました。白亜紀後期の恐竜の化石は珍しく、骨の太さから体長は2メートル程度ではないかと推定しています。周飾頭類の化石の可能性があり確認されれば国内で初の発見になりますが、標本が足りないため断定するにはいたっていません。

今回発見されたワニの歯の化石は球状の奥歯で、恐竜の化石同様、琥珀採掘体験場の地層から発見されました。恐竜の化石やワニの化石が見つかったことで、今後その他の化石が発見される期待が高まっているようです。


ラボトピックス2「茶褐色のバーンマークを持ったダイヤモンド」「茶褐色の珍しい内包物を持ったダイヤモンド」

東京支店 戸田 長利  

茶褐色のバーンマークを持ったダイヤモンド

昨年の暮れにブラウン味を帯びたラウンドブリリアントカットのダイヤモンド(1.03カラット)が弊社東京支店にグレーディング(ソーティング)のため持ち込まれました。お預かりしたダイヤモンドは全て正確なグレーディングを実施するため、検査に入る前には念入りに洗浄が行われますが、洗浄後このダイヤモンドからブラウン味は除去されませんでした。

顕微鏡による拡大検査をしたところ、ブラウン味はダイヤモンドそのものの色ではなく、茶褐色斑がガードル近くのクラウン部表面に広く分布しているが原因であり、またスリガラス状のガードル表面に地金の跡があったことから、指輪などの宝飾品から外した石であることも判明しました。また、このダイヤモンドのテーブルにはSPマーク* が入れられており、それによるとHカラーの表示がありました。
このような事実から、われわれは茶褐色斑で汚される前のダイヤモンドはHカラー相当だったものが、加工の際のバーナーの高熱によって表面が焼かれてバーンマーク(火傷状態)を生み、しかも何らかの汚染物質も焼き付けたために褐色斑状模様を生んだのではないかと判断しました。

通常の白く濁ったようなバーンマークであれば、カラーにはほとんど影響を与えず、バーンマークの存在はフィニッシュ項目の研磨状態で評価が行われます。しかし、今回のようにバーンマークが茶褐色に染められている場合はカラーの評価を不可能にするため、グレーディングの依頼をキャンセルさせていただくことになります。バーンマークはダイヤモンドクロスや超音波洗浄器では取ることが出来ませんが、再研磨で表面を磨き直し、本来の石の地色が検査できる状態にして再度お持ち込みいただければグレーディングは可能になります。

※ SPマークとは・・・真空蒸着(スパッタリング法)によりダイヤモンドのテーブル面上に肉眼で認識できない程度に極微小の蒸着金属層(モリブデン層)を成形させ、偽造防止、品質証明のためダイヤモンドのグレード結果を表示させたもの。

茶褐色の珍しい内包物を持ったダイヤモンド

このダイヤモンドも東京支店にグレーディング(ソーティング)のために預けられた1.19カラットのラウンドブリリアントカットのダイヤモンドで、肉眼でも茶褐色の内包物が見えるような石でした。顕微鏡による拡大検査では、ダイヤモンド表面から内部にかけて箒状に広がる茶褐色の内包物の集合が数箇所に偏在していました。

この箒状の内包物の集合を顕微鏡で拡大して観察すると、一本一本は中空の角張った柱状の孔が密集しているもので、表面に近いほど褐色味が濃いことが判りました。これらは、ダイヤモンドの結晶が成長する過程で発生した転位* がマグマの融食作用によって束状のエッチピット(融食孔)を生み、また周囲に存在した放射性鉱物や液体の影響で結晶面だけでなく孔の内側までも着色され、研磨されない孔の内側だけに茶褐色味が残ったものと考えられます。

このようなダイヤモンドには自然界の神秘を深く感じさせられ、グレーディングの現場に携わる我々にとって感動の瞬間でもあります。しかし、多数の茶褐色の内包物はダイヤモンドのカラーの評価に大きく影響を与え、正確なグレーディングを困難にするため、残念ながらグレーディング依頼をキャンセルさせて頂きました。但し、石の色が天然の色か処理によるものかを判断することは可能なため鑑別書の依頼は受けられます。また、グレードの善し悪しではなくダイヤモンドの内包物の魅力をエンドユーザーに伝えるため、数十倍から数百倍に拡大した包有物の写真を添付した報告書『宝石の内部世界』もこのようなダイヤモンドを販売する際に利用して頂けたらと考えております。

※ 転位とは・・・結晶中の原子は規則的な配列構造(結晶格子)を取っていますが、実際の結晶では原子の並び方に多数の“乱れ”が存在しています(格子欠陥)。その“乱れ”には幾つかの種類が存在しますが、転位とは格子配列中に形成された線状の“乱れ”を指します。
箒状に広がる茶褐色の内包物を有したダイヤモンド

箒状に広がる茶褐色の内包物を有したダイヤモンド

拡大写真(30倍)

拡大写真(30倍)


 

小売店様向け宝石の知識「金価格・Gold Price1」

金価格・Gold Price1

金の用途は宝飾品51%、工業用12%、投資用17%、公的投資18%〈2008年推計〉。宝飾品の材料としての金の市場価格が乱高下すると、宝飾業者のリスクは大きい。昨年秋いらい金価格は乱高下しながら上昇している。金高騰は経済不安を映すバロメーターといわれる。

☆金価格が上昇する要因は、
[1]ドル安と米国の財政不安
[2]投資需要の増加
[3]中国など新興国中央銀行の買い
[4]金融不安
[5]軍事的緊張やテロなどのリスク
などがある。

金やプラチナの市場価格は、30年前まではロンドン現物価格で世界市場価格が決っていた。その後は米国NY市場が世界の指標価格となっている。

1980年初頭にNY金価格はドル/トロイオンスが600ドルになり、日本国内では円/グラムが6700円に高騰したことがある。この時はソ連がアフガンに侵攻し世界情勢の不安が増したときである。その後金価格は暴落しNY金価格は300ドル/トロイオンスまで下落した。世界景気がもちなおしたためだ。日本国内の景気も盛り返し、国内金価格は、00年11月には979円/グラムまで下落した。

★金価格が下落する要因は、
[1]世界景気回復と中央銀行の利上げ
[2]とくに米国景気の好転
[3]ドル高
[4]金を購入するより株やそのほか有利な投資
[5]ヘッジファンドなどの大量売却
などがある。

金地金の国内価格は、ひところの1000円/グラムから今や3倍の3000円/グラムを超えている。ドルベースでは300ドル/トロイオンスが4倍の1200ドル/トロイオンスに高騰している。ドル安の中で金に投資する傾向が強まり、さらに株安で株と連動の薄い金に注目され、世界的に金・ゴールド買いに向かっている。

しかし近年、金・ゴールド及びプラチナを含めて商品相場は乱高下しており注意が必要だ。

株価が低迷している今、株式市場と連動性が薄い金投資に注目する人が多い。

われわれ宝飾業界は、原材料の金の価格が上昇すると宝飾品価格が連動して値上がりし、宝飾品需要の減少をまねく。

いま市場では金を宝飾品から回収するリサイクル・ビジネスが増加し、過去にない現象が起こっている。宝飾品メーカーにとって、ゴールドジュエリーは材料としての金価格が大きく変動するのは大きな経営課題だ。金価格が値上がりしているときは値上がり差益が得られるが、値下がりすると在庫評価損が発生し、経営に大きな影響を及ぼす。プラチナもつい最近まで高騰したが、その後急落した。そのため国内の宝飾業者は大きな痛手を蒙った。金もいまは高騰しているが将来何時に急落するか知れない。

宝飾品ゴールドジュエリーは、元来あくまで製品の細工、出来栄え、デザイン、感性、流行などが重要で、材料としての金価格に主体するものではない。

宝飾業者はゴールドジュエリーの過剰在庫を避け、常時、適正在庫の維持に心掛けるべきである。金やプラチナの投機的購入は厳に慎むべきだろう。

NYの金価格は、ドル/トロイオンス価格で決まる。したがって、日本国内価格は、円/グラムに換算される。為替相場が影響する。なお、トロイオンスは31.103g。国際地金取引単位。中世に繁栄した都市トロイに由来する。金は実物で無価値にならない利点があり、一方で金利・配当がつかない。したがって通貨が金利を上げると金のメリットは低下する。1グラムでも1トンでも単価は同じなので宝飾品大量生産のメリットは大きくない。

「楽しいジュエリーセールス」 著者:早川 武俊
早川宝石研究所ホームページ

平成21年宝石学会(日本)「最近遭遇するいわゆるレアストーンの鑑別について(その2)」

間中裕二・尾方朋子

さて、前号ではターフェアイトとマスグラバイトについて、その鑑別法・特徴を紹介しましたが、今回はポルダーバータイトとオルミアイト、グリーンマイクロライト、チカロバイトについて紹介します。

ポルダーバータイト(Poldervaartite)とオルミアイト(Olmiite)

写真3は、左のラウンドカット石が2003年ツーソンミネラルショーにおいてポルダーバータイトとして入手したもので、右のエメラルドカット石は最近オルミアイトとして鑑別結果を出したものです。色調もよく似ています。写真4は、オルミアイトの写真と鑑別データで、以前であればMn(マンガン)を多く含むために屈折率と比重が高いポルダーバータイトという結果を出していました。なお、それぞれの名称は、アメリカのコロンビア大学岩石学教授Arie Poldervaart(1918~1964)とイタリアの鉱物学者Filippo Olmiに因みます。

写真3:ポルダーバータイトとオルミアイト

写真3:ポルダーバータイトとオルミアイト

写真4:オルミアイト

写真4:オルミアイト

両者の比較

組成式を見ればわかるようにポルダーバータイトのCa(カルシウム)の一つがMnによって置換されたものがオルミアイトで、屈折率は端成分の値が表示されているため一見重なっていないようですが、実際には一つのCaとMnが置き換わるため自由に中間の値をとります(表3)。この両者を区別するにはCaとMnが置換する部分のMnが半分以上あればオルミアイトということになり、全体的なモル比で考えるとCa・Mnの中でMnが25%以上あればよいことになります。前号の冒頭でも記述しましたが、オルミアイトは2006年にIMA(国際鉱物学連合)で新しい鉱物種として登録されています。

表3:特徴比較

表3:特徴比較

EDS

エメラルドカット石を測定してみると、CaとMnのモルでみた比率はMnが40%であり、オルミアイトとなります(表4)。また、2003年にポルダーバータイトとして入手したサンプルも現在ではオルミアイトに分類されます。

表4:オルミアイト組成

表4:オルミアイト組成

グリーン マイクロライト(Microlite)

マイクロライト自体、鑑別に持ち込まれることは稀で、さらに一般的には黄色や褐色の色調を示すのに対し、今回遭遇したマイクロライトはかなり鮮やかで濃い緑色を呈していました(写真5)。マイクロライトの名称は、通常小さな結晶(多くは集合体)として産出されることに由来します。

写真5:グリーン マイクロライト

写真5:グリーン マイクロライト

EDS

マイクロライトは、大分類としてパイロクロール グループに属し、さらにマイクロライト サブグループに属していて、Ta(タンタル)がNb(ニオブ)より多いということが特徴の一つです。表5に示される通り、当該石は元素的なデータからもマイクロライトであることが分かります。また、インターネット上で鉱物のデータを共有・参照を目的としたRRUFFTMで緑色を示すマイクロライトについて調べてみると、写真と共にフルオナトロマイクロライト(Fluornatromicrolite)としての記載があります。

表5:マイクロライト組成

表5:マイクロライト組成

チカロバイト(Chkalovite)

チカロバイトは、透明無色で屈折率が1.54-1.55・比重が2.66とクォーツに近く、さらにインクルージョンも写真に示すようにクォーツにありがちな二相包有物もあり、石自体が小さかったり、マウントされているなど十分な情報が得られない場合、間違える可能性があるため注意が必要な宝石種です。記載では蛍光が強いと記述されていますが、今回鑑別した石は顕著な蛍光を示さなかったことと、二軸性の確認が容易ではなかったことも合わせて報告しておきます(写真6)。名称はロシアのValerii Pavlovich Chkalovに由来します。チカロフは1930年代に、はじめてノンストップでモスクワから北極点経由でアメリカまで飛行し、当時の長距離飛行記録を樹立した人物です。チカロフ自身は1938年、34歳の若さで飛行機事故により亡くなってしまいましたが、翌39年にチカロバイトとして鉱物に名を残したという逸話がある石です。

さて、鑑別に有効なのは、赤外分光です。中赤外のデータにも相違があり、遠赤外側のデータ(図7)が得られれば間違うことはありません。

写真6:チカロバイト

写真6:チカロバイト

図7:FT-IR(遠)赤外

図7:FT-IR(遠)赤外

まとめ

☆ ターフェアイトとマスグラバイトの識別には、ラマン分光だけでなく、
  赤外分光も有効、PLも指針となる
☆ ポルダーバータイトはオルミアイトの可能性大
☆ マイクロライトは黄色、褐色だけでなく濃緑色のものも存在
☆ チカロバイトはクォーツとの特性類似に注意

小売店様向け宝石の知識「光り輝く宝石の島・スリランカ2」

光り輝く宝石の島・スリランカ2

スリランカの宝石産地ラトナプラは古来世界に知れわたっていた。紀元前10世紀、ソロモン王はシバの女王にスリランカ産のルビーを贈って心を射止めたといわれる。「アラビアンナイトの物語」では船乗りシンドバットがラトナプラを訪ねたという話が出てくる。セイロン(マルコポーロ東方見聞録ではセイラン島とある)ラトナプラの宝石はどんなにすばらしく貴重であるか、この旅行記に記されている。ラトナプラの町はスリランカの近代国際都市コロンボから南東約110kmに位置し、バスで所要3時間の所にある。

ラトナプラ付近一帯はカラーストーン産出地として世界的に有名である。ラトナプラは現地の言葉(シンハリ語)で宝石の町を意味する。ラトナは宝石、プラは都の意味。この地区の農耕地は平地で、この地下にイラム層(スリランカで漂砂鉱床の一種である宝石含有の砂利層に対する現地名)があり、多くが立穴掘り方式(漂砂鉱床や鉱脈が地表近くに広がっているとき、その鉱層に垂直な井戸式の立穴を掘り下げて、そこより横に掘進していく採掘法)で採掘される。また、付近の川から川底を直接さらうことにより宝石が採取される(現地ではマニンガという)。

ラトナプラで産出する主な宝石は次の通り
・コランダム(ルビー、サファイア)
・クリソベリル(高品質キャッツアイ、アレキサンドライト)
・ジルコン、スピネル、ムーンストーン、トパーズ、トルマリン、ペリドット
・ガーネット各種、クォーツ各種
そのほか多くの宝石を産出する。

スリランカでは、宝石はさまざまな意味を持っていたようだ。王や王族の権力の象徴として、また宝石の光り輝きは悪をしりぞけると信じられていた。さらに光り輝く宝石を身に着けると不老不死の生命が手に入ると。このようにスリランカの宝石は絶好のお守りとして人々に愛好されてきた。世界遺産シギリヤ・ロックの有名な壁画に描かれた王女シギリヤ・レディたちも大きな美しい宝石を身につけ守護石としている。

ラトナプラは、光り輝く宝石の島スリランカのなかで代表的な宝石産地。この町に入ると、いたる所に簡単な小屋がけした採掘現場が散見できる。そこで採掘している人たちは、貴重な宝石を発見するため一攫千金の夢と欲望をみなぎらせている。実際に宝石によって財をなした人たちが少なからずいる。ラトナプラの表通りを歩いていると、宝石の売人が近づいてきて、おもむろに財布の奥から白い包み紙を取り出す。大事そうに開くその包み紙の中には、ルビーやサファイアなどが数個入っていて「買わないか」とすすめる。ここでは多くの人たちが、大小はあるものの何らかの形で宝石とかかわっている。

宝石の町ラトナプラは、今日になって有名になったのではなく大昔から世界に知れ渡っていた。現代もスリランカの宝石は世界的に有名だ。チャールズ皇太子が故ダイアナ妃に贈った婚約指輪のスリランカ産ブルーサファイアは比類ない美しさと豪華さで有名だ。

スリランカの歴史はそのものが宝石に関連していて、それらをたどっていくと必ず宝石の町ラトナプラにたどり着く。

ラトナプラは雨が多い。北方の聖なる山、スリーバーダを中心とした山々がモンスーンをさえぎるからだ。聖なる山のもたらす雨の中で、今日もラトナプラでは宝石採掘が各所でコツコツと行われている。市街地をちょっとはずれると、いたるところに採掘現場がある。ここでは水田や、空き地、川の底、またはそこに井戸を掘って地底深くもぐって宝石をさがす。宝石がどこに眠っていてどこにあるかわからない。川中で身体を半分いれて、ザルで砂礫をすくっては、ていねいに小石を一つひとつ調べて宝石をさがす(わん掛けという宝石選別法)。多くは徒労に終わるが、一瞬にして一攫千金の夢が実現することもある。

スリランカは光り耀く宝石の島。この宝石産地がラトナプラ。カラーストーンの世界的主要産地。美しく光り耀くルビー、サファイア、クリソベリル・キャッツアイ、アレキサンドライト等など世界に誇る宝石カラーストーンの大供給地である。

昔も今も世界に誇る宝石の産地、そこはスリランカ・ラトナプラ。

「楽しいジュエリーセールス」 著者:早川 武俊
早川宝石研究所ホームページ

平成21年宝石学会(日本)「最近遭遇するいわゆるレアストーンの鑑別について(その1)」

間中裕二・尾方朋子

はじめに

コレクターズストーンとして人気のあるターフェアイトとさらに希少で近縁のマスグラバイトは10年以上前までは破壊検査であるX線粉末回折による手法以外区別できないとされていました。近年になってラマン分光法を用いることにより、非破壊で区別が可能であることが示されました(Kiefert and Schmetzer, 1998)。また、宝石学会(日本)においても平成18年度の神田氏らの発表、平成19年度の阿依アヒマディ氏らの発表等によりラマン分光や蛍光X線による両者の識別が報告されました。今回は現在鑑別に使用される機器として認識されている赤外分光光度計(FT-IR)やフォトルミネッセンス(PL)において両者の違いが見い出されたため、その差異を紹介します。

この他に、かつてポルダーバータイトとして認識されていたそのマンガン置換体であるオルミアイトが、2006年にIMA(国際鉱物学連合)で独立種として認証されたため鑑別結果も区別されることになったこと、さらにめったに遭遇することのない緑色を呈するマイクロライトおよびチカロバイトといった宝石種も採り上げましたので、これらは次号で報告致します。

ターフェアイト(Taaffeite)とマスグラバイト(Musgravite)

写真1:カット石と原石

写真1:カット石と原石

両者は、ラマン分光や正確な元素分析(EDS)および回折線により区別されることが発表されていますが、今回はこれに加え、赤外分光光度計(FT-IR)による差異が鑑別に有効であることが分かりました。その他にPLの違いも紹介します。写真1は当研究所に持ち込まれた石で、左がターフェアイトのカット石と原石で、右はマスグラバイトのカット石と原石です。なお、原石は両者とも一面が研磨され、屈折率も測定が可能な状態で、重量はターフェアイトが114.784ct(最大径 約30mm)と巨大で、マスグラバイトは4.819ct(最大径 約14mm)とマスグラバイトにしては、かなりの大きさです。

両者は現在鉱物名も改められ、ターフェアイトはマグネシオターフェアイト2N’ 2S (Magnesiotaaffeite-2N’ 2S / 理想化学式Mg3Al8BeO16)、マスグラバイトはマグネシオターフェアイト6N’ 3S(Magnesiotaaffeite-6N’ 3S / 理想化学式Mg2Al6BeO12)となっています。鉱物名に付随するNやSはそれぞれノーラナイト(Nolanite)とスピネル(Spinel)に由来するもので結晶構造の層の重なり方の違いを表していて、別種であることを示しています。また、近縁のペールマナイトも現在の鉱物名は鉄が主たる元素の一つであることを示すフェロターフェアイト6N’ 3S(Ferrotaaffeite-6N’ 3S)となっています。こちらは鑑別に来ることはまずありませんが、実際に遭遇しても屈折率が1.79付近まで上がるため、ターフェアイト・マスグラバイトと誤認することはありません(表1)。

表1:各宝石名・鉱物名・組成

表1:各宝石名・鉱物名・組成

EDSによる測定

よく知られているようにターフェアイトとマスグラバイトは屈折率・比重が重複し、同じ一軸性結晶のため、通常鑑別に限界があります。当然次に期待されるのは元素の情報で、その違いが安定的に測定できれば区別が可能です。もちろんEDSではBe(ベリリウム)の検出は不可能ですが組成比に差があれば識別できるはずです。ここでターフェアイトとマスグラバイトのモル比を考えると、ターフェアイトのMg(マグネシウム)とAl(アルミニウム)の比は3対8であり、マスグラバイトは2対6となり、比較しやすいようにAlの最小公倍数で同じにするとMgのモル比は9対8でターフェアイトの方が多いことが分かります。また、Mgを置換するFe(鉄)・Zn(亜鉛)を加え、Alを置換するV(バナジウム)・Cr(クロム)などを加えて計算すれば分けられることになります(表2)。

表2:モル比

表2:モル比

ところが理論的には上記の通りですが実際にはうまく合致せず、測定を繰り返すと数値的には似かよった値を示すことがあります。EDSはもちろん優れた機器で、質量比もしくはモル比で、ほぼ1対2や1対3であるといった大きな差がある場合、非常に良い情報として捕らえられますが細かい数値には限界があり、さらに、機械の状態や正確さ、回折線との重なりなどの様々な要因があるため、このことを十分に考慮しなければなりません。つまり、EDSで得られる値は常に同じとは限らないのです。そこで他に区別できる方法がないか考えてみました。

結晶モデル

図1はミネラルデータおよびアメリカンミネラロジストクリスタルストラクチャーから取ったものですが、左がターフェアイト、右がマスグラバイトで、上段はC軸に直交方向から、下段はC軸方向からの結晶図です。両者は近縁であっても全く別物であることが分かります。ですから、この違いを反映するデータが得られれば区別できるはずです。

図1:結晶モデル

図1:結晶モデル

ラマン分光

その方法の一つにラマン分光があります。これはすでに発表されていますが、現在信頼できるであろうデータとして認識されています。特にターフェアイトとマスグラバイトが示すそれぞれ415と412nmのピークの相違は日常の鑑別業務においても非常に有効であることが確認できています。ただ、ターフェアイト・マスグラバイトは共にラマンの発光ピークが他の鉱物種と比較してかなり弱く鋭いピークが立ちづらいという難点があり、測定にはそれなりの注意が必要です(図2)。

図2:ラマン分光

図2:ラマン分光

フォトルミネッセンス(PL)

今回、PLの測定を試みようと思ったのは、一つに前項の結晶構造の違いが反映されるであろうと考えたこと、二つ目はターフェアイト・マスグラバイトには副成分としてCrが含有されること、三つ目にはフォトルミネッセンスでのCr発光は非常に敏感でEDSで検出される程度の量があれば振り切れてしまう程のピークが立つこと、また、EDSでCrの存在を確定できない程度の量であってもフォトルミネッセンスならCrの発光を確実に検出できるためです。

実際に測定を行ってみると、2本のCr発光のピークは、図3のように0.3nmと0.2nmシフトすることが確認できました。これは一見わずかな差のように思えますが、機械を正確に調整し、鋭いピークであれば、514nmのレーザーで励起した時の700nm付近の分解能は0.1nmまであります(分解能についてはレニショー製ラマン分光器の納入元にも確認を取りました)。このように分解能以上の差異が確認されるため、有力な識別法の一つであることが分かりました。

図3:PL  Cr発光

図3:PL Cr発光

赤外分光(FT-IR)

図4は、ターフェアイトとマスグラバイトの赤外分光の違いを示したものです。両者は全く違うスペクトルが得られる事が分かります。ピークの重ならない所の数値を幾つか示しますが、マスグラバイトに注目してみると、ターフェアイトには現れない756cm-1の吸収、530cm-1付近にはターフェアイトとは全く逆転したピークが存在することが分かります。

実は、ターフェアイトもしくはマスグラバイトのいずれかであると決定されたものは、図のような2パターンしか存在しません。これらは全てラマン分光でクロスチェックを行い相違がことを確認しました。したがって、両者は赤外分光による確実なデータを得られれば識別が可能であると考えられます。

図4:FT-IR

図4:FT-IR

ピンク マスグラバイト

タイのGITでマスグラバイトと鑑別されている石が当研究所に確認のため持ち込まれました。

はっきりとピンク色を呈するマスグラバイトは今まで遭遇したことがなく、この手の色調であれば、まずターフェアイトであろうと思ってしまう程です(写真2)。屈折率において小数点以下第3位に不確実さがあるとしてもかなり低い値であり、比重において下二桁目に不確実性があるとしても、ここまで低いものに出会ったことはありません。ラマン分光では412および714nmの発光ピークが確認され、先に証明したマスグラバイトのデータと一致しました。続いてフォトルミネッセンスの測定でも先に見せた図に重ね描きしても相違がありません(図5)。そして赤外分光の測定においてもマスグラバイトのパターンとよく一致します(図6)。したがって当該ピンク色石はマスグラバイトであるという結論に達しました。(続く)

写真2:ピンクマスグラバイト

写真2:ピンクマスグラバイト

図5:PL比較

図5:PL比較

図6:FT-IR比較

図6:FT-IR比較

*鑑別結果については、それぞれ下記のように表記されます。
 鉱物名(Group / species);天然ターフェアイト / 宝石名(Variety);ターフェアイト
 鉱物名(Group / species);天然マスグラバイト / 宝石名(Variety);マスグラバイト