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平成21年宝石学会(日本)「最近遭遇するいわゆるレアストーンの鑑別について(その2)」

間中裕二・尾方朋子

さて、前号ではターフェアイトとマスグラバイトについて、その鑑別法・特徴を紹介しましたが、今回はポルダーバータイトとオルミアイト、グリーンマイクロライト、チカロバイトについて紹介します。

ポルダーバータイト(Poldervaartite)とオルミアイト(Olmiite)

写真3は、左のラウンドカット石が2003年ツーソンミネラルショーにおいてポルダーバータイトとして入手したもので、右のエメラルドカット石は最近オルミアイトとして鑑別結果を出したものです。色調もよく似ています。写真4は、オルミアイトの写真と鑑別データで、以前であればMn(マンガン)を多く含むために屈折率と比重が高いポルダーバータイトという結果を出していました。なお、それぞれの名称は、アメリカのコロンビア大学岩石学教授Arie Poldervaart(1918~1964)とイタリアの鉱物学者Filippo Olmiに因みます。

写真3:ポルダーバータイトとオルミアイト

写真3:ポルダーバータイトとオルミアイト

写真4:オルミアイト

写真4:オルミアイト

両者の比較

組成式を見ればわかるようにポルダーバータイトのCa(カルシウム)の一つがMnによって置換されたものがオルミアイトで、屈折率は端成分の値が表示されているため一見重なっていないようですが、実際には一つのCaとMnが置き換わるため自由に中間の値をとります(表3)。この両者を区別するにはCaとMnが置換する部分のMnが半分以上あればオルミアイトということになり、全体的なモル比で考えるとCa・Mnの中でMnが25%以上あればよいことになります。前号の冒頭でも記述しましたが、オルミアイトは2006年にIMA(国際鉱物学連合)で新しい鉱物種として登録されています。

表3:特徴比較

表3:特徴比較

EDS

エメラルドカット石を測定してみると、CaとMnのモルでみた比率はMnが40%であり、オルミアイトとなります(表4)。また、2003年にポルダーバータイトとして入手したサンプルも現在ではオルミアイトに分類されます。

表4:オルミアイト組成

表4:オルミアイト組成

グリーン マイクロライト(Microlite)

マイクロライト自体、鑑別に持ち込まれることは稀で、さらに一般的には黄色や褐色の色調を示すのに対し、今回遭遇したマイクロライトはかなり鮮やかで濃い緑色を呈していました(写真5)。マイクロライトの名称は、通常小さな結晶(多くは集合体)として産出されることに由来します。

写真5:グリーン マイクロライト

写真5:グリーン マイクロライト

EDS

マイクロライトは、大分類としてパイロクロール グループに属し、さらにマイクロライト サブグループに属していて、Ta(タンタル)がNb(ニオブ)より多いということが特徴の一つです。表5に示される通り、当該石は元素的なデータからもマイクロライトであることが分かります。また、インターネット上で鉱物のデータを共有・参照を目的としたRRUFFTMで緑色を示すマイクロライトについて調べてみると、写真と共にフルオナトロマイクロライト(Fluornatromicrolite)としての記載があります。

表5:マイクロライト組成

表5:マイクロライト組成

チカロバイト(Chkalovite)

チカロバイトは、透明無色で屈折率が1.54-1.55・比重が2.66とクォーツに近く、さらにインクルージョンも写真に示すようにクォーツにありがちな二相包有物もあり、石自体が小さかったり、マウントされているなど十分な情報が得られない場合、間違える可能性があるため注意が必要な宝石種です。記載では蛍光が強いと記述されていますが、今回鑑別した石は顕著な蛍光を示さなかったことと、二軸性の確認が容易ではなかったことも合わせて報告しておきます(写真6)。名称はロシアのValerii Pavlovich Chkalovに由来します。チカロフは1930年代に、はじめてノンストップでモスクワから北極点経由でアメリカまで飛行し、当時の長距離飛行記録を樹立した人物です。チカロフ自身は1938年、34歳の若さで飛行機事故により亡くなってしまいましたが、翌39年にチカロバイトとして鉱物に名を残したという逸話がある石です。

さて、鑑別に有効なのは、赤外分光です。中赤外のデータにも相違があり、遠赤外側のデータ(図7)が得られれば間違うことはありません。

写真6:チカロバイト

写真6:チカロバイト

図7:FT-IR(遠)赤外

図7:FT-IR(遠)赤外

まとめ

☆ ターフェアイトとマスグラバイトの識別には、ラマン分光だけでなく、
  赤外分光も有効、PLも指針となる
☆ ポルダーバータイトはオルミアイトの可能性大
☆ マイクロライトは黄色、褐色だけでなく濃緑色のものも存在
☆ チカロバイトはクォーツとの特性類似に注意

小売店様向け宝石の知識「光り輝く宝石の島・スリランカ2」

光り輝く宝石の島・スリランカ2

スリランカの宝石産地ラトナプラは古来世界に知れわたっていた。紀元前10世紀、ソロモン王はシバの女王にスリランカ産のルビーを贈って心を射止めたといわれる。「アラビアンナイトの物語」では船乗りシンドバットがラトナプラを訪ねたという話が出てくる。セイロン(マルコポーロ東方見聞録ではセイラン島とある)ラトナプラの宝石はどんなにすばらしく貴重であるか、この旅行記に記されている。ラトナプラの町はスリランカの近代国際都市コロンボから南東約110kmに位置し、バスで所要3時間の所にある。

ラトナプラ付近一帯はカラーストーン産出地として世界的に有名である。ラトナプラは現地の言葉(シンハリ語)で宝石の町を意味する。ラトナは宝石、プラは都の意味。この地区の農耕地は平地で、この地下にイラム層(スリランカで漂砂鉱床の一種である宝石含有の砂利層に対する現地名)があり、多くが立穴掘り方式(漂砂鉱床や鉱脈が地表近くに広がっているとき、その鉱層に垂直な井戸式の立穴を掘り下げて、そこより横に掘進していく採掘法)で採掘される。また、付近の川から川底を直接さらうことにより宝石が採取される(現地ではマニンガという)。

ラトナプラで産出する主な宝石は次の通り
・コランダム(ルビー、サファイア)
・クリソベリル(高品質キャッツアイ、アレキサンドライト)
・ジルコン、スピネル、ムーンストーン、トパーズ、トルマリン、ペリドット
・ガーネット各種、クォーツ各種
そのほか多くの宝石を産出する。

スリランカでは、宝石はさまざまな意味を持っていたようだ。王や王族の権力の象徴として、また宝石の光り輝きは悪をしりぞけると信じられていた。さらに光り輝く宝石を身に着けると不老不死の生命が手に入ると。このようにスリランカの宝石は絶好のお守りとして人々に愛好されてきた。世界遺産シギリヤ・ロックの有名な壁画に描かれた王女シギリヤ・レディたちも大きな美しい宝石を身につけ守護石としている。

ラトナプラは、光り輝く宝石の島スリランカのなかで代表的な宝石産地。この町に入ると、いたる所に簡単な小屋がけした採掘現場が散見できる。そこで採掘している人たちは、貴重な宝石を発見するため一攫千金の夢と欲望をみなぎらせている。実際に宝石によって財をなした人たちが少なからずいる。ラトナプラの表通りを歩いていると、宝石の売人が近づいてきて、おもむろに財布の奥から白い包み紙を取り出す。大事そうに開くその包み紙の中には、ルビーやサファイアなどが数個入っていて「買わないか」とすすめる。ここでは多くの人たちが、大小はあるものの何らかの形で宝石とかかわっている。

宝石の町ラトナプラは、今日になって有名になったのではなく大昔から世界に知れ渡っていた。現代もスリランカの宝石は世界的に有名だ。チャールズ皇太子が故ダイアナ妃に贈った婚約指輪のスリランカ産ブルーサファイアは比類ない美しさと豪華さで有名だ。

スリランカの歴史はそのものが宝石に関連していて、それらをたどっていくと必ず宝石の町ラトナプラにたどり着く。

ラトナプラは雨が多い。北方の聖なる山、スリーバーダを中心とした山々がモンスーンをさえぎるからだ。聖なる山のもたらす雨の中で、今日もラトナプラでは宝石採掘が各所でコツコツと行われている。市街地をちょっとはずれると、いたるところに採掘現場がある。ここでは水田や、空き地、川の底、またはそこに井戸を掘って地底深くもぐって宝石をさがす。宝石がどこに眠っていてどこにあるかわからない。川中で身体を半分いれて、ザルで砂礫をすくっては、ていねいに小石を一つひとつ調べて宝石をさがす(わん掛けという宝石選別法)。多くは徒労に終わるが、一瞬にして一攫千金の夢が実現することもある。

スリランカは光り耀く宝石の島。この宝石産地がラトナプラ。カラーストーンの世界的主要産地。美しく光り耀くルビー、サファイア、クリソベリル・キャッツアイ、アレキサンドライト等など世界に誇る宝石カラーストーンの大供給地である。

昔も今も世界に誇る宝石の産地、そこはスリランカ・ラトナプラ。

「楽しいジュエリーセールス」 著者:早川 武俊
早川宝石研究所ホームページ