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国際会議報告

ベリリウム拡散加熱処理サファイアに関する日本とタイの合意

日本とタイの会議

日本とタイの会議

ベリリウム拡散加熱処理ブルーサファイアの存在は、昨年春にツーソンで開催されたGILC(宝飾産業と鑑別機関の国際会議)でバンコックの鑑別機関によりその存在が明らかにされました。その処理の看破には非常に高度な検査が必要であることのみならず、その処理石が3大宝石の一つに数え上げられるブルーサファイアであったため、その発表以降この処理ブルーサファイアは色石市場で最大の懸念材料となっています。

日本ジュエリー協会(JJA)では、昨年タイの業界団体に対して書簡を送り、ベリリウム処理のものを厳格に情報開示することを要求し、その後一旦は日本の市場から激減したように見られましたが、再び昨年秋ごろから開示のないままこれらの処理石が増加し始めたため、今回JJAは再び書簡を送り、尚且つタイへ代表団を送り、タイの業界団体と直接的な話し合いを行いました。

この代表団には宝石鑑別団体協議会(AGL)からもテクニカルアドバイザーとして筆者を含め2名同行致しました。以下にタイの業界団体の話し合いの結果とベリリウム処理ブルーサファイアの現状について報告させていただきます。

会議は2月21日午後からタイ宝石宝飾品協会(TGJTA)会議室で行い、JJA、TGJTA、GIT(タイ国立宝石研究所)、CGA(チャンタブリ宝石宝飾品協会)、DEP (タイ国商務省貿易発展局)、そしてCIBJOからそれぞれの代表が集められ、延べ7時間に亘る話し合いの末、9項目の合意(次ページ参照)が交わされました。
その結果コランダム裸石を輸出する際、インボイスに以下の三つの文言にて処理の内容を開示することが約束されました。

 a. “Non Be Treated”  
 b. “Be Treated”  
 c. “Unconfirmed Be Treatment”  
“非ベリリウム処理(加熱)”
“ベリリウム加熱処理”
“ベリリウム処理が定かではないもの”

製品については、TGJTA内部での話し合いが済んでいなかったため、合意文では裸石と記載されていますが、JJAはコランダムが使用された製品に対しても同様の開示ルールの適用を要求し、TGJTA 側は要求を考慮することを約束しています。
このような適切な開示がなされずに日本に輸出され、後日ベリリウムが検出されたコランダムについては、輸出者は返品を受け入れ全額の返金に応じることも明記されました。
また、両国でベリリウム処理石とする基準の違いなどが発生しないように、基準確立のため両国の宝石鑑別機関を支援することも約束されています。

鑑別における現状
鑑別においては、ベリリウム処理の疑いのあるブルーサファイアにはLA-ICP-MSでの分析を必要としますが、初期の段階では高熱に長時間晒されたのが原因と思われる特徴的な内包物がそれらの処理ブルーサファイアの殆どのものに確認されていたため、そのような特徴をもとに高度なテストが必要なものと不必要なものを選別していました。しかし、最近のものに関してはそのような特徴が見受けられなくなり、多くのブルーサファイアがLA-ICP-MS分析の対象となっています。

GIAでは最近ベリリウム処理ブルーサファイアの研究のために数多くの天然ブルーサファイアをLA-ICP-MSを用いて分析し、マダガスカルのイラカカ産ブルーサファイアには天然起源のべリリウムを含有するものがあることを発見しています。それらはサファイア中の微小内包物と密接に関係しており、内包物の箇所からのみベリリウムだけでなくタンタルやニオブという元素も検出されています。LA-ICP-MSによる詳細な分析でベリリウムが人為的に外部から拡散されたものか自然界で取り込まれた内包物に関連したものかを98%区別出来る、と代表団がGIAリサーチラボを訪問した際にケン・スキャラット所長が述べていました。
弊社で行ったLA-ICP-MSによる分析では、イラカカ産だけでなくタイのカンチャナブリ産ブルーサファイアにも内包物に起因したベリリウムがあることが発見されています。これについての報告は後日させて頂きます。

LA-ICP-MS(レーザー・アブレーション誘導結合プラズマ質量分析)
波長の短い高エネルギーのレーザーを固体サンプル表面に照射するレーザー・アブレーション装置と、蒸発・飛散した粒子を高周波プラズマでイオン化し、その質量を分析するICP-MS装置の2種の装置から構成されています。これらの装置によって軽元素のヘリウムから重元素のウランまでの元素の種類や量をppb~ppm(10億~100万個中の1個)レベルで求めることが出来ます。

チャンタブリでの現状
代表団一行でベリリウム処理ブルーサファイアの生まれたチャンタブリに向かい、チャンタブリ宝石宝飾品協会(CGA)を訪問しました。我々の目的はベリリウム処理ブルーサファイアの処理現場を見ることであったのですが、CGA会長からは町の宝石市場にはベリリウム処理ブルーサファイアが確かに出回っているようだが、誰がその処理石を持っているのか、誰がベリリウムでブルーサファイアを処理しているのか掴めない、と全くベリリウム処理ブルーサファイアに関する情報は全く得られませんでした。
その後、ベリリウム処理オレンジサファイアの工場とマンスールビーの加熱が行われている工場を見学しましたが、チャンタブリでは1000度1時間の焼きをウォーミング、1800度で数日間掛けるような焼きをヒートと呼んでおり、ヒートされた石はヒーテッドサファイア、ウォーミングされた石は単にナチュラルサファイアと呼んでいます。多くの内包物にも変化生む1000度もの温度で加熱した石をナチュラルと呼ぶことに我々は疑問を感じて帰ってきました。

Memorandum of Understanding

This Memorandum of Understanding is made by and between Japan Jewllery Association (hereinafter shall be called “JJA”) and Thai Gem and Jewelry Traders Association (hereinafter shall be called “TGJTA”) at the meeting held at the office of TGJTA to discuss the disclosure of Beryllium treatment in corundum. The meeting was also attended by representatives from the Department of Export Promotion (DEP), Ministry of Commerce, the Gem and Jewelry Institute of Thailand Public Organization (GIT) and Chantaburi Gem and Jewelry Traders Association (CGA). The list of the attendees appears in the annex.
The meeting has agreed as follows:

1. The exporter of loose corundum must disclose the treatment on the invoice for the export item with the following terms:
a. Non Be Treated
b. Be Treated
c. Unconfirmed Be Treatment
Non compliance will be dealt with under the rule of the Thai Associations.
The JJA requested the same disclosure rules also to be applied to jewelry set with corundum.
The TGJTA will consider this request and will inform the JJA the result as soon as possible.
2. TGJTA proposes to create a Cluster Blue Sapphire Group for exporting only non Be treated corundum. The list of this group will be at the disposal of the Japanese side. JJA will distribute this information among its members.
3. Both sides agree to establish a set of standards for Be identification with support from gem laboratories in both countries.
4. TGJTA requests similar disclosure standard from the Japanese side.
The JJA confirmed that the JJA members must follows the same disclosure standard in their domestic transactions. Non-compliance will be dealt with under the rule of the Japanese association.
5. For corundum exported to Japan without proper disclosure and subsequently tested to contain Be, the exporter shall accept the return of the stone, and make full refund to the buyer.
6. TGJTA requests that the disclosure procedure should be applied to all corundum exporting countries to Japan. The JJA confirms to find the means to comply with this request.
7. Both sides will request their gem laboratories to do joint research in order to strengthen the disclosure procedure.
8. The content of this agreement shall be announced to members of the respective associations as soon as possible.
9. TGJTA proposes to JJA to give information about Be treatment to the consumers and retail level. JJA accepts this proposal.

CIBJOケープタウン総会

会場建物入口

会場建物入口

CIBJO(World Jewellery Confederation)は、2007年3月12日から15日までケープタウン(南アフリカ)で総会を開催しました。
初日の開会セレモニーでは、キンバリープロセスの扇動者であった南ア副大統領からCIBJO総会がケープタウンで開催される喜びと資源豊富なアフリカの将来への指針が発表され、その他南ア政府高官、国連代表、WDC会長、WFDB会長、IDMA会長、デビアスグループ会長等からのゲストスピーチが行われ、4日間の幕が開かれました。
以下に主な委員会での決定について報告します。

貴金属委員会
貴金属委員会では、ダイヤモンド・色石・真珠と同様に宝飾品、時計、および銀製品と関連した貴金属を金、銀、プラチナ、およびパラジウムに限定してブルーブック(規則・定義集)を作ることが決定しました。
また、貴金属の純度に対する許容値については、米国が現在3ポイント下まで許容されている(例えば747/1000までk18の表示が出来る)が、日本を含めその他殆どの国は許容値ゼロで、CIBJOとしては下への許容値をゼロとすることが提案されました。

CIBJOダイヤモンド委員会

CIBJOダイヤモンド委員会

ダイヤモンド委員会
昨年のバンクーバー総会では合成ダイヤモンドのグレーディングが容認されましたが、今年GIAが発表した合成ダイヤモンドグレーディングレポートに関して言えば、タイトルは“Synthetic”、鑑別記載には”Laboratory Grown”、そしてその詳細コメントに”Man-made”という3つの用語が使用されており、その他米国の2鑑定機関(IGIとEGL)では”Synthetic”用語が全く使用されていないことが報告されました。
CIBJOでは現在 合成を意味する唯一の用語として”Synthetic”を定めていますが、英語圏の国からは”Synthetic”以外に”Laboratory Grown”や”Man-made”用語の使用が求められています。この件については数年前から議論を重ねておりますが未だにコンセンサスは見出せておりません。米国の3機関が合成ダイヤモンドのグレーディングレポートに対し“Synthetic”以外の用語を使用していることを含めてダイヤモンド運営委員会で引き続き検討することになりました。
また、ダイヤモンドブックのISO書式化に関しても承認され、期限を切って次のステップに入ることが確認されました。

パール委員会
パールブックのISO書式化は承認されましたが、一部の内容について議論が交わされました。
真珠の漂白加工の情報開示は昨年のバンクーバー総会で開示の必要なしと一応決定されていますが、今総会で再度検討され、開示必要な加工に書き換えられました。その開示法については、他の開示が必要な加工よりもソフトな記載法が提案されていますが、記載法の決定は来年の総会でもう一度討議されるもようです。
養殖真珠に使用される核の素材については、以前に天然物質であることが定義付けられています。近年天然素材のドロマイトを処理したバイロナイトと呼ばれる核がオーストラリアなどで使用されている事実や従来からの問題であるワシントン条約で規制されている天然素材の使用、またプラスチックや張り合わせ核などを使用することへの議論が行われました。結局核の問題に関する統一した意見は見出せなないまま終わったため、来年の総会で引き続き検討されるでしょう。

色石委員会
昨年承認された色石ブックの内容はISO書式化され、今総会で承認されました。
CIBJOブルーブックは業界人であっても専門用語を知らない限り読みづらいものであるため、消費者や業界人にとって判りやすい小冊子やダイヤモンドの4Cを紹介したカウンター用パネル形式の色石版の作成が提案され、グレーディングを連想させる懸念が指摘されましたが、コンセプトとしては承認されて作業の継続が決定しました。
また、日本とタイのジュエリー協会がベリリウム処理コランダムに関する覚書が交わされたことが発表され、出席者からは高い評価を得ていました。

ラボトピックス「ガーネット」

ガーネット

1月の誕生石として知られるガーネットは、赤色の宝石と思われがちですが、実は、オレンジ、緑といった、色彩豊かな変種が存在します。今回のラボ・トピックスでは、店頭で目にすることが多い「赤色系」と「緑色系」のガーネットについて2回にわたってご紹介します。

ガーネットにさまざまな色合いが存在する理由は、ガーネットが類質同像(同形)をとる宝石だからです。「類質同像」――聞きなれない難しそうな専門用語ですが、つまりガーネットは、共通の結晶構造を持ちつつも、その構造に取り込まれる成分が少しずつ異なる鉱物なのです。そのため、それぞれの色・屈折率・比重・分光性が異なり多種多様なガーネットが生まれます。

ガーネット族(ガーネット化学式)

化学的に説明しますと、ガーネットの化学組成を表す一般式は、X3 Y2(SiO43です。
X3には、カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)・鉄(Fe・二価)、マンガン(Mn)が入ります。Y2には、アルミニウム(Al)・鉄(Fe・三価)・クロム(Cr)が入ります。このX3とY2の組み合わせによってガーネットは多数の変種ができるのです。このようにしてできる一連の鉱物グループを、「ガーネット族」と呼んでいます。ガーネット族の変種は鉱物学的には16種類あり、そのうち宝石としてとり挙げられているのは6種類です。この6種類は成分の構成上から、赤色系のガーネットである『パイラルスパイト系列』と緑色系ガーネットの『ウグランダイト系列』とに分かれます。

赤色系ガーネット『パイラルスパイト系列』の分類

パイロープ、アルマンディン、スペサルティンガーネットは、パイラルスパイト系列とよばれ、主に赤色系のガーネットが多く存在します。図1の三角の角にあるパイロープ、アルマンディン、スペサルティンは、端成分といいます。端成分とは、一切混じりけの無い状態です。しかし、それぞれの端成分ガーネットの化学組成を構成する元素、マグネシウム(Mg)・鉄(Fe)・マンガン(Mn)は性質が似ているため、適度な温度と圧力下で相互の成分が混ざり合い、ひとつの結晶体になることがあります。
このことを固溶体といいます。また、端成分同士が任意の割合で混ざり合うことが可能ですので、中間タイプを生みます。
中間タイプの代表例として、紫赤色で人気のあるロードライトガーネットが挙げられます。これは、パイロープ/アルマンディンの中間タイプです。その他、コマーシャルネームで知られるマラヤガーネット(別名ウンバライト)やカラーチェンジタイプガーネットは、パイロープ/スペサルティンの中間タイプになります。アルマンディン/スペサルティンの中間タイプも存在します。

図1 パイラルスパイト系列の分類と特性

赤色系ガーネットの特性

次に、パイラルスパイト系列ガーネットの色相、屈折率、比重、分光性についてお話をしていきます。

写真1

<色 相>
写真1は左側から、A.パイロープ、B.ロードライト、C.アルマンディン、D.スペサルティンです。それぞれ同じ赤色系ですが、ピンク色・赤紫色・暗赤色と色相の違いが分かると思います。色相に違いがでてくるのは、鉄(Fe)が原因なのです。
パイロープは、アルマンディンやスペサルティンと違い化学組成の中に色となる元素を持っていないため、純粋な成分のものは無色透明です。しかし、一般的なパイロープは、クロム(Cr)と鉄(Fe)が不純物として混ざっているので色相は「炎のような」真紅色です。ですが、クロム(Cr)と鉄(Fe)が不純物として混ざる分量によっては色相が真紅色ではなく、ピンク色や無色(かなり希少)になることもあります。今回のAのパイロープは、クロム(Cr)と鉄(Fe)の量がかなり少ないためピンク色です。一方、Cのアルマンディンは、暗い赤色に見えます。鉄(Fe)は、色相を赤くしますが、多く入ると黒っぽくなる性質があります。パイロープに含まれるマグネシウムに置き換わって鉄の成分が多くなっていくと赤色になりますが、さらに鉄の含有率が高くなるアルマンディン寄りになると色相が赤黒くなります。
Cのアルマンディンも、当研究所の蛍光X線元素分析するとかなりの分量の鉄(Fe)が検出されました。
Dのスペサルティンの橙色は、マンガン(Mn)によるものです。

<屈折率・比重>
パイラルスパイト系列の中で、屈折率と比重が一番低いのはパイロープです。パイロープにアルマンディン成分の鉄(Fe)が増えると屈折率、比重の数値が高くなります。鉄(Fe)の量と屈折率、比重は比例関係にあります。サンプルAのパイロープとCのアルマンディン表1とでは、屈折率、比重にかなりの差が生じているのが分かると思います。そして、Bのロードライトは、両者の中間あたりの数値です。またスペサルティンのマンガン(Mn)も多くなるにしたがい、屈折率・比重が高くなります。

<分光性>
 ハンドタイプの分光器では、色因となる元素の吸収がみられます。表1に示したとおり、パイロープではクロム(Cr)の吸収がみられます。ロードライトやアルマンデインでは、鉄(Fe)バンドと呼ばれる吸収帯がみられます。スペサルティンはマンガン(Mn)バンドがみられます。中間タイプのガーネットでは、鉄(Fe)バンドとマンガン(Mn)バンドの両方がみえることもあります。

表1

  色相 屈折率 比重 分光性 インクルージョン
A パイロープ ピンク色 1.734 3.63 クロム(Cr) 針状、結晶
B ロードライト 赤紫色 1.767 3.91 鉄(Fe) 針状、結晶
C アルマンディン 暗赤色 1.81以上 4.19 鉄(Fe)強 針状
D スペサルティン 橙色 1.81以上 4.15 マンガン(Mn) 液膜、結晶

パイラルスパイト系列の赤色系ガーネット、パイロープ、アルマンディン、スペサルティンは中間タイプが存在するということが特徴です。したがって、ガーネットの種類を識別するには屈折率・比重・分光性の検査が大切です。
当研究所では、AGLで定められている屈折率、比重、分光性の基準に基づいて識別をしています。(屈折率・比重・分光性のAGLの基準数値は図1参照。 )
緑色系の『ウグランダイト系列』のガーネットについては、次号ご紹介致します。(つづく)

当研究所の分析報告書のご紹介

ラマン分光器によるダイヤモンド中パイロープガーネットの分析

図3 ラマン分光分析

図4 フォトルミネッセンス分析

今回ご紹介した赤色系のガーネットのひとつであるパイロープは、他のガーネットと異なり、かんらん岩やキンバリー岩などの高い圧力をうけてできた岩石中に存在し、ダイヤモンドと共に発見されます。南アフリカ、ロシア、カナダのダイヤモンド鉱床からも見つかっています。また、ダイヤモンドの中にパイロープの結晶がとりこまれていることもあります。このようなダイヤモンド中のガーネットをラマン分光分析すると、ガーネットと特定することができます(図3)。表面に結晶が達している場合は、蛍光X線による元素分析を行うとクロム(Cr)が検出されることもあります。また、フォトルミネッセンス分析では、700nm付近に発光スペクトル(683・686・689・693nm)が観察されます(図4)。これは、パイロープの不純物として含まれる、クロム(Cr)による発光で、この結晶が明らかにパイロープガーネットであることを意味しています。
ダイヤモンド中にガーネットが入っている場合、ご希望によりそのガーネットの拡大写真付きの分析報告書を発行致します。(※通常の鑑別書+内部世界分析報告書という形での発行となります)

小売店様向け宝石の知識「アンティークジュエリー4」

アンティークジュエリー・Antique Jewellery 4

アンティークジュエリー。それは古美術的骨董装身具。

百年以上を経っても、なお輝きを失わず、寧ろますます価値が上がり輝きを増す宝石・貴金属の古美術的装身具や古美術的工芸品をさす。

アンティーク業界には、お値打ち品、掘り出し物、出世物、家宝、心の勲章という仲間用語があるようだ。骨董品には想像以上の価値あるものに出会い、思わず感動して手にしたりすることがある。しかもその品物が出世することである。所有する骨董品が時代を経るにつれて一層輝きを増し、価値が上昇していく出世する骨董品である。いわゆる、ほんとうのお値打ち骨董品である。

また骨董品は心の勲章ともいわれる。先祖から受け継がれてきた骨董品、家の先祖代々が愛用してきた骨董品は、それは金額が高い安いに関係なく、自分にはかけがえのない骨董品・家宝である。それを大事に所有愛用することは、その人にとって誇りであり、先祖に感謝し、心の癒しとなり、心の勲章になる。骨董美術品を所有することは歴史を感じ、生活に豊かさを与え、心の癒しとなり、目には見えない心の誇りとゆとりになるというわけだ。

さて歴史を振り返れば、どの民族も古くから装身具を身に付けている。特にヨーロッパではジュエリーの歴史は古い。一点一点、職人たちが精魂を込めて製作した細工の素晴らしさ、今となっては再現不可能な精緻な技法もそのジュエリーにはある。時代の息吹を伝えるデザインが今の人にも十分な魅力が横溢している。しかし日本人にとって宝石・貴金属ジュエリーは、不思議なことに無縁の時代が長かった。気軽につき合えるようになったのは、実はごく最近のことだ。アンティークジュエリーは、われわれ日本人にとって時間とお金をかけて探求に価する、美しく、価値ある、いまだ謎に満ちた、やや遠い存在といえるだろう。

われわれが宝石・貴金属ジュエリーを、なにかの記念に、自分なりに感動をともなって、あつらえ取り揃え、一生涯愛用し、その後は子供に孫にと次世代に伝えられようであれば、これにすぐる物はない。これこそ将来にわたって、その家族子孫にとって、本当の意味でのアンティークジュエリーに出世していくだろう。これは金額の高低に関係なく、その家の超お宝ジュエリーとなるだろう。

ここで提言したいのは、アンティークジュエリーは何も高いお金を出して、欧米で探すだけが唯一の考え方ではない。わが家の将来のアンティークジュエリーを自分なりに創造、創作、蒐集したら如何かと思う。遠い将来にわたって、わが家の子孫が、百年以上前のジュエリーを所有愛用してもらえる喜びを想像してみたい。今年のアカデミー賞授与式のインタビューで、受賞の有名女優が司会者に「貴女は素晴らしい宝石を身に着けている」と問われて、彼女は「これはわが家に伝わるファミリージュエル(家宝)」と正に心の勲章とばかりに応答していた。自分なりに一生に一つでもエステートジュエリーを今から用意すること、これも一つの骨董に対する見方・考え方といえる。心に残る感動のジュエリーを創作する、または蒐集して残すことは将来子孫に受け渡し、受け継いでいく家宝(Family Jewellery)となりうる。今はたまたま自分が持っているだけという気持ち。そして将来子孫の心の財産となり、心の勲章にもなるファミリージュエリー。ヨーロッパのアンティークジュエリーの中には、故人の遺髪を用いて作られたものや、銘を彫ったものなどモーニングジュエリーが存在するほどである。日本でも宝石・貴金属ジュエリーを次世代に受け渡していく大切な遺産(エステート)として、ジュエリーに対する考え方をそろそろ持つ時代になってきたようだ。

アンティークジュエリーは、その所有する人にとって何か由緒があれば、その人の追憶や誇りとなり、心の癒しとなり、心の勲章となる。その人に歴史を感じさせることになる。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊

ワールドニュース

GWも過ぎ、いかがお過ごしでしょうか。
今号は、新春号から特集してまいりました話題の映画「ブラッド・ダイヤモンド」(原題「Blood Diamond」(c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.)の完結号といたします。
公開がGWから4月初旬に早まり、ストーリーが明らかになりましたので報告します。
また、業界の方々から映画の感想を戴きましたので、一部をご紹介させて戴きます。

背景

舞台は1990年代後半のアフリカ「シェラレオネ」というダイヤモンド産出国。この国で産出された大部分のダイヤモンドは、非合法に輸出され反政府組織やテロ組織の資金源になっていると言われており、それが背景となっています。不正なルートで紛争地域から市場に出るダイヤモンドが「ブラッド・ダイヤモンド」(血で汚れたダイヤ)と呼ばれています。この映画はダイヤモンドの不正な取引をめぐって起きる不毛な争いの現実問題が描かれています。

ストーリー

のどかな村が反政府軍に襲撃される。村人たちは無差別に虐殺され、子供は少年兵に仕立て上げるため、また労働力として連れ去られた。
その時、反政府組織のダイヤモンド採掘場の労働力として連れ去られた漁師は、とてつもない価値を持つ大粒のピンクのダイヤモンドを見つけ、それを土の中に隠す。
偶然にそのことを知ったダイヤモンド密輸業者役のレオナルド・ディカプリオはそれを手に入れようと漁師に近づく。
一方、アメリカ人ジャーナリストは「ブラッド・ダイヤモンド」の密輸ルート解明のため、ダイヤモンド密輸業者であるディカプリオに近づく。
ひとつの大粒のピンクダイヤモンドを巡り、それぞれの思惑が交錯していくという物語です。

大手宝飾チェーン店本部生産資材課の方の感想

『この映画を知るきっかけとなったのは、DTCが開始した「フォーエバーマーク」の資料からでした。
その時は大した興味も持ちませんでしたが、百貨店サイドから映画公開を前に御社のダイヤは紛争ダイヤではありませんか? また、それを証明できますかという内容のFAXが届き、会社として動かざるを得ない状況となりました。
その後、取引のあるダイヤモンド業者に色々と教えて頂き、わかりませんとしか答えられないような状況を防ぐ為、仕入れ伝票にキンバリー・プロセスの文言を入れて頂くよう徹底しました。
そしてついに米国公開から大幅に遅れて、日本での劇場公開が始まったのです。
映画の感想としましては、やはり全体的にはジュエリー業界にとってマイナスとなり得る内容だったと思います。
基本的にはアクション寄りの感動系ですが、映画の節々にダイヤを買う消費者が紛争を長引かせている原因だということが表現されていました。
また、こういった事実を知ればダイヤモンドをだれも買わなくなるだろうというようなセリフもありました。また、1社が単独でダイヤモンドの価格調整を行い、コントロールしているという場面もありました。
必ずしも映画の全てが事実ではないと思いますが、捉え方次第ではジュエリー業界自体のイメージが悪くなってしまうとも考えられます。最近、テレビ番組等でこの映画について特集されていますが、基本的にはジュエリー業界に対し逆風となる捉え方が多いようです。
そのような風潮もあるというのに、宝飾業界に身を置きながら、ほとんど危機感を持っておらず内容すら知らない者が大多数で、さらにSHOPレベルとなれば全く何も知らないというのが現状です。過剰に反応するのもどうかとは思いますが、お客様から「このダイヤは紛争ダイヤですか?」などと聞かれるようなケースも想定し、きちんと対応できるように準備はしておくべきだと思います。近いうちにSHOPでこの質問をしてみようかなどと考えています。
ただ、映画を見た人の評価などをWebで調べてみましたが、「ディカプリオがかっこいい」といった感想が多く、消費者はそこまで気にしていないのかもしれません。』

宝飾チェーン店販売員の方の感想

『この映画で一番印象に残っているのは、反政府軍の侵略や反政府軍と政府軍の戦闘のシーンで、それは非常に凄まじいものでした。
反政府軍による、紛争とは無関係な人々の虐殺や手足の切断は、敵(政府)の戦力低下を目的とし、増大した障害者の保護により政府に財政的な負担を増加させ、またそれは選挙で投票できないようにするためともいわれているそうです。
また、さらった子供達を洗脳して少年兵に仕立て上げていく様子にも大変ショックを受けました。
「ダイヤモンドを欲しがる者がいる限り紛争は無くならない」と受け取れるような表現も各所にありましたが、全体的には激しい内戦の現実をリアルに描いたアクション映画だったように思いました。
宝飾業界とは全く無縁の友人たちに、この映画を見た感想を聞いてみたのですが、「すごくいい映画だった」というのが主な感想で、紛争ダイヤモンドについての質問はされたものの、ダイヤモンドを買う気が失せたという人はいませんでした。
恐らくダイヤモンド需要に影響が出るような事態にはならないでしょう。
ただ、この映画が公開されたことにより、アフリカの紛争や貧困の問題に対し、人々の関心が高まっていくことがあるのなら、とてもすばらしい映画であると思いました。』

最後に

私が実際シェラレオネという国を知ったのは、ユニセフ親善大使をされていた黒柳徹子さんが内戦終結直後(2002年にカバ大統領が国家非常事態の終了宣言)、2003年にシェラレオネに入られ、子供たちと語り合うというテレビ番組からでした。
紛争による死者が多数に上ったため国民の平均寿命が35歳であることや、手足を奪われた子供たちの光景、それはこの映画そのものでした。
天然鉱物資源がある国にもかかわらず、なぜ石油産出国のように豊かではないのかとショックを受けたのを覚えています。
以前は、アフリカ諸国をはじめとする世界のダイヤモンド産出国で、この大切な天然資源の一部が紛争の資金源として利用されることがありました。
しかし、2000年に各国政府、非政府組織、ダイヤモンド業界が一丸となってこの問題の解決のために立ち上がり、その後「キンバリー・プロセス証明制度」が確立されました。
キンバリー・プロセスは紛争地ダイヤモンド取引の撲滅に大きく貢献することとなりました。昨今、世界中で取引されるダイヤモンドの99%以上が紛争と関係のない地域から採掘されたものとなっています。
当然のことながら当社すべての取扱商品やその他日本に輸入される商品も、キンバリー・プロセス、そして、システム・オブ・ワランティを遵守した、お客様に自信を持ってお勧めできるすばらしいダイヤモンドです。
現在、ダイヤモンドとその収益が、アフリカの発展促進に大きく貢献しているということがあまり知られていないのは残念なことです。
この映画が公開されたことにより宝飾業界に多少の影響があったとしても、ダイヤモンド業界が注目された今こそがビジネスチャンスと考え、がんばっていこうではありませんか!
また、アフリカ諸国やその他の国々に、個人或いは企業体でなにか貢献できるのではという考えをお持ちの方などいらっしゃいましたら、弊社までメール(sales@ibctokyo.com)にてご連絡ください。ぜひ一緒に考えていきたいと思っております。


アイスブルーダイヤモンド企画・開発プロデューサーが、お客様に本当にあった商品企画をご提案するために設立したダイヤモンド専門会社
株式会社IBCTOKYO 担当:木村 e-mail: sales@ibctokyo.com
東京都千代田区麹町 TEL : 03-3556-1481 FAX : 03-3556-1482 
www.ibctokyo.com