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平成21年宝石学会(日本)「ダイヤモンドの分別に有用な機材の開発について」

技術管理部 江森 健太郎

中央宝石研究所では、無色のダイヤモンドの中からHPHT処理が行われた可能性のあるダイヤモンド、合成ダイヤモンドを粗選別する新しい機材「Diamond-Kensa」(写真1)を開発しました。

写真1:Diamond-Kensa

写真1:Diamond-Kensa

この機材「Diamond-Kensa」はHPHT処理※の対象となるII型、準II型、IaB型の無色ダイヤモンドと無色合成ダイヤモンドの可能性のあるII型の石を選び出すことが可能です。

※HPHT処理については中央宝石研究所ホームページにあるCGL通信のバックナンバー(Vol.02)に詳しい記載がありますので参考にしてください。

1. Diamondの粗選別とその重要性

無色のダイヤモンドをグレーディングする前に、そのダイヤモンドが「天然」であることを確認し、「処理」、「合成」、「類似石」を分けることが重要です。 類似石であればダイヤモンドとの重さの違いなどで、また含浸処理やレーザードリル処理は拡大検査などで疑いを掛けることが可能ですが、「HPHT処理」と「合成」の鑑別に関してはダイヤモンドのタイプによる分類が有効で、どのタイプに入るかによってHPHT処理や無色の合成ダイヤモンドの疑いを掛けることが出来ます。

このタイプ判別を正確に行う一番の方法は、フーリエ変換型赤外分光装置(FT-IR)を用いることです。 FT-IRを用いると、タイプ判別、窒素濃度の見積もりを比較的簡単に行うことができます。 しかし、FT-IRという機材は非常に高額なため、この機材で一石一石分析していると故障した際にグレーディングのルーチンに大きな支障をきたしてしまいます。ここで、FT-IRの測定の前に、簡単な機材で処理の可能性がある石、合成の可能性がある石を選別し、そこで選別された石を改めてFT-IRで分析する方法が有効かつ便利です。

冒頭でご紹介したDiamond-Kensaは、FT-IRでタイプ判別をする前段階の簡易的な選別に利用する機材として開発したものです。

2. Diamond-Kensaの原理

図1:各タイプのダイヤモンドの分光パターン

図1:各タイプのダイヤモンドの分光パターン

HPHT処理の対象となるII型、準II型、IaB型、そして無色合成ダイヤモンドのII型といったタイプのダイヤモンドは、250nm付近の紫外線を通す性質を持っています。一方、無色でHPHT処理も合成も疑わしくないI型のダイヤモンドは250nmの付近の紫外線を通しません(図1参照)。


図2:Diamond-Kensaの基本原理

図2:Diamond-Kensaの基本原理

この原理を利用して、254nmの波長の紫外線をダイヤモンドに照射し、その紫外線がダイヤモンドを抜けることが出来たかをチェックすることで、Diamond-KensaはHPHT処理が疑わしい、ないしは、合成の可能性のある無色のダイヤモンドを分別します(図2)。254nmの波長を用いる理由は、波長254nmの紫外線ランプが殺菌灯として幅広く出回っており、比較的安価に入手できるからです。

3. Diamond-Kensaの製作

図3:Diamond-Kensa試料セッティング部のブロック図

図3:Diamond-Kensa試料セッティング部の
ブロック図

Diamond-Kensaは、試料セッティング部と演算部の2つのパーツにわかれています。試料セッティング部のブロック図を図3に示します。

試料セッティング部は、紫外線ランプとインバーター、そして紫外線センサーより成ります。紫外線センサーは、試料を透過する紫外線を調べるセンサーと、ランプの明るさを常時チェックするセンサーの2つが取り付けてあります。II型等の紫外線を透過するタイプのダイヤモンドは、紫外線を透過する性質があると書きましたが、透過するといっても、ほんのわずかな透過です。つまり、この装置は紫外線ランプが一定以上の輝度を保っているかどうかが、重要なポイントになります。ランプの輝度を測定するセンサーを取りつけることで、ランプの状態を常時チェックしていることになります。

写真2は試料セッティング部の内部写真です。 試料セッティング部の下に紫外線センサーが2個、そして紫外線強度を高めるためにランプが2本取り付けてあります。

写真2:試料セッティング部の写真(左:サンプルを乗せる部分、中央:紫外線センサー、右:紫外線ランプ)

写真2:試料セッティング部の写真
(左 : サンプルを乗せる部分、中央 : 紫外線センサー、右 : 紫外線ランプ)

図4:演算部のブロック図

図4:演算部のブロック図

演算部のブロック図を図4に示します。センサーから送られてきた信号をアンプで増幅した後、そのデータをA-Dコンバーターで10ビットのデジタル信号に変換し、マイコンで演算します。演算した結果は3色のLEDでOK(HPHT処理、合成の可能性はない)、NG(HPHT処理、合成の可能性がある)、ERROR(ランプの調子が悪い)の3つの結果を表示し、結果に応じて音をならします。 測定された結果はRS232Cを用いてパソコンに転送します。


写真3:演算部の回路写真

写真3:演算部の回路写真

写真3は演算部の回路写真です。音を鳴らしたりパソコンと通信する都合上、少々煩雑になっていますが、実際はアンプとマイコンの2つがあればある程度のものは作ることが出来ます。 測定結果を電圧計で判断したい場合は、センサーからの信号をアンプで増幅し、電圧計で測定することでそれが可能になります。

4. Diamond-Kensaの実用性の検証

[1]HRD D-Screenとの比較

HRDのD-Screenとの比較をしました。HRDのD-ScreenはDiamond-Kensaと同じく無色のダイヤモンドでII型のものを選別するための機材です。
石目範囲0.161~5.018ct、色範囲 DからLカラーまでの2510個のダイヤモンドをD-ScreenとDiamond-Kensaの両方でデータを取り比較しました。D-Screenで2496個OK判定、14個NG判定と出たものが、Diamond-Kensaでは2495個OK判定、15個NG判定が出ました。
D-ScreenでNG、すなわち処理や合成の可能性があるという結果が出たものは、すべてこの機材でもNG判定が出ましたが、1個だけD-ScreenでOKのものがDiamond-KensaではNGになっています。FT-IRおよびフォトルミネッセンス検査の結果、この石はIaA型の窒素が少ないタイプのもので、天然と判断しました。
この機材はFT-IRで精密に判断する手間を少なくするためのものですので、ここでNG判定の石が1つ多く出ましたが実際の効率化には影響がないと言えるでしょう。

[2]電圧値の評価

表1:石の諸条件と信号強度

表1:石の諸条件と信号強度

紫外線センサーは、ダイヤモンドを透過した紫外線の量に応じた電圧値を発生させます。アンプで増幅した電圧値の信号強度と『石目』および『カラーグレード』の関係について調べました。
A-Dコンバーターで変換される前の信号強度は、表1で示したとおり、石目に関しては重量が軽いほど信号は強く返ってきます。またカラーグレードに関しては、グレードの高いもの、すなわちDカラーの信号が一番強い傾向にあり、Mカラーだと信号は少し落ちて返ってきます。実際に10ctの石までテストをしていますが、Dカラーのものが十分な信号を返すことを確認しています。

[3]導入による作業効率

中央宝石研究所にソーティングで入った26425個のラウンドブリリアントカット・D~Mカラーのダイヤモンドをこの機材で測定したところ、98.7%の26071個にOK判定、1.3%の354個にNG判定が出ました。354個のNG判定のダイヤモンドについてFT-IRを用いて精密にタイプ判別をしたところ、このうちHPHT処理で色改善を行えるタイプであり、より高度な検査を要するダイヤモンドは0.2%の60個でした。この機械を導入せず、26425個全てをFT-IRにより検査しチェックすると相当な手間がかかりますし、人間の目だけで判定した場合、ミスの出る可能性がないとはいえません。この機材を用いてNG判定の出た354個の石をFT-IRでタイプ判別したほうが速度的にも早く、効率化が望めます。

5. Diamond-Kensaの適用範囲

今回開発した機材は、試料のセッティング部の形状や、その他信号強度の問題から、
・ 重量範囲 0.100ct ~ 3.000 ct
・ 色範囲 D ~ Mカラー
・ 石条件 ダイヤモンド (類似石には対応していません)
が、測定安全保障圏内です。

まとめ

今回行ったDiamond-Kensaの性能検査の結果から、FT-IRでタイプ判別を行う前段階の簡易的な選別に効果があり、日常のグレーディングのルーチンにこの機材を組み込むことによって大幅な効率化を得ることが可能であると証明されました。

小売店様向け宝石の知識「宝石大国・インド5」

宝石大国・インド5

インドは何世紀もの間、世界唯一のダイヤモンド主要産地であった。ダイヤモンドは、インドで遅くとも3000年前には発見されていた。しかし詳細な記録は長い間存在しなかった。

17世紀に入り、フランスの宝石家であり旅行家タベルニエ・Tabernir,Jean Baptiste(1606-89)は前後6回にわたりインドに旅行し、インドのダイヤモンド産地ゴルコンダを訪れ、ダイヤモンドについて記録を残した。ゴルコンダの町は、古代ダイヤモンドの中心地で、インドが統一される前の独立国家の核でもあった。現代の都市ハイデラバードの西にゴルコンダの要塞が今も残っている。インドの独立国家ハイデラバードは第二次大戦後インドに併合されたが、その前任者ニザムは世界でもっとも裕福なマハラジャであり大富豪として有名だ。その宝物のなかにはゴルコンダのダイヤモンドが大量に含まれていて、ニザム・オブ・ハイデラバードもここにあるといわれる。

現存する世界の有名な大ダイヤモンド(インド産、南ア産)の多くは英国、仏国、米国、露国の博物館や美術館に所有保管されている。

インド産有名ダイヤモンドとして代表的なものは次ぎの通り。

☆ コイヌール(Koh-i-noor)
108.93ct(現在は105.60ct)。別名「光りの山」。
現在、英国ロンドン塔に英国王室の宝石として保管され主要財宝の一つとなっている。

☆ オルロフ(Orlov)
189.60ct。皇帝の王笏(王が最高権力の象徴として戴冠式などで使う。セプター・Scepterとも言う)の頭部にセットされている。モスクワのクレムリン宮殿に展示されている。

☆ リージェント(Reagent)
原石410ct、研磨後140.5ct。ルイ15世の王冠にセットされ、マリーアントアネットが黒色ベルベット帽に着用したともいわれる。ルーブル博物館のアポロンの間に展示されている。

☆ ホープ(Hope)
45.50ct。濃いブルーの美しい色合いのカラー・ダイヤモンド。数奇な運命を経て、現在はワシントン、スミソニアン自然史博物館のジェム・ホールの中央に展示されている。

☆その他のインド産有名な大ダイヤモンド
 グレート ムガール  280.00ct
 ゴルコンダ ドール   95.4ct
 ニザム        277.00ct
 シャー        88.7ct
 グレート テーブル  250.00ct
 ジャハンギル     83.0ct
 ダリャイ ヌール   186.00ct
 アクバル シャー    71.7ct
 フロレンティン     137.27ct
 アイドルズ アイ    70.0ct
 タージ マハル    115.00ct
 サンシー       53.5ct
 ヘイスティングス    101.00ct
 インドール ペア     44.62ct と 44.18ct

閑話休題;昨今の宝飾業界ニュースで元気のある話題。
【1】無料ダイヤ! 銀座に列。佛の老舗5000人に配布。加工費はいただきます……東京・銀座に、ある朝長蛇の列が出現した。銀座5丁目に宝飾店をかまえるフランスの老舗ジュエリーブランドが、この日先着5000人限定で0.1カラットのダイヤモンドの無料配布をはじめたのだ。不況のあおりで低迷が続くジュエリー業界。大胆な企画に同業者の間から驚きや歓迎の声が出た。午前9時の無料配布開始直前には、老若男女約1500人が並び、その後も人が増えつづけ、列はどんどん延びて、警官が出るほどの盛況ぶり。配布したダイヤモンドは、1個5000円相当といい、総額2500万円分。ただし、加工するにはリングで5万円、ペンダントで7万円など、それぞれ料金が必要だ。
【2】銀座のデパートが本真珠の無料つかみ取りセ-ルで集客アップ。
【3】中国からのニュースで高級宝飾品の売上げが好調保つ、明るい話題だ。中国国家統計局は、消費小売売上高の伸びは今年に入って全体で前年比15%アップ。品目別に伸び率をみると、宝飾類(28.7%)自動車類(23.8%)など高額商品が全般に好調と報じている。暗い話題の多いジュエリーの世界を明るくするニュース。ダイヤモンドは現代の人々に、依然として人気があり根強い潜在需要が存在している。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊

ワールドニュース(2009.09)

日ごとに秋の気配が濃くなってまいりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
今回は、イスラエルのダイヤモンドマーケットの現状を掲載させていただきます。

イスラエル テルアビブ編

●総面積: 20,770 km2
●人口: 7,170,000人
●人口密度: 1km2当たり388人
●首都: テルアビブ
●政治形態: イスラエルは議会制民主主義を採用している。
行政府(政府)は、立法府(クネセト)の信任を受け、司法府(裁判所)は法により完全なる独立を保証されている。
●行政区分: 北部地区、ハイファ地区、中央地区、テルアビブ地区、エルサレム地区、南部地区、ヨルダン川西岸地区(軍事管理地域)
●言語: 現代イスラエルの公用語のひとつであるヘブライ語は、古代ヘブライ語を元に20世紀になって復元されたものである。一度滅んだ言語が復元されて公用語にまでなったのは、これが唯一のケースである。
都市ではほとんど英語が通じる。
●宗教: ユダヤ人が約80%(半数以上がイスラエル生まれ、他は70余ヶ国からの移住者)、アラブ人が約18%(キリスト教徒・イスラム教徒、前者には正教・マロン派・東方諸教会、後者にはベドウィンなどが含まれる)、残りの約2%がドルーズ族、チェルケス人、サマリア人、バハーイー教徒、アラウィー派、その他の少数派である。
●建国記念日: 西暦では5月14日
(イスラエル国として独立宣言。ベングリオンが初代首相となる)
●国歌: ハティクヴァ(希望)
●国旗: 白地の真ん中にブルーのダビデスターその上下に二本のブルーライン
●イスラエルの国家紋章:
  メノラーと呼ばれる古代から使われてきた七枝の燭台を中心に置き、まわりにオリーブの枝を配した形になっている。メノラーの様式はモリアという名で知られる野の草に由来するといわれ、オリーブの枝はユダヤ民族の平和への願いを象徴している

私が初めてイスラエルに訪れたのは今から20年ほど前になりますが、当時日本ではバブル経済が崩壊し、ダイヤモンド価格が乱高下していたと記憶しています。その頃イスラエルの大手サイトホルダーに勤務していた私は、イスラエル人と共に日本支店を立ち上げました。イスラエル訪問時にイスラエル本社の社長に、なぜイスラエルがダイヤモンド市場を台頭してきたのかと聞いたことがあります。

ラマットガンにあるダイヤモンドビル(シムションビル)

ラマットガンにあるダイヤモンドビル
(シムションビル)

新しくなったイスラエルの玄関、ベン・グリオン国際空港

新しくなったイスラエルの玄関、
ベン・グリオン国際空港

第二次世界大戦中ナチスの占領下を逃れ、イスラエルへ移住してきたベルギー(アントワープ)やオランダのユダヤ人達が、イスラエルにてはじめたダイヤモンドビジネスの振興のために、政府が積極的に支援策を用意したことが大きい理由なのだと聞きました。具体的には、政府がダイヤモンド買付けのために対ドルの特別な為替レートを設定して、市中銀行に膨大な資金を超低金利で貸し付け、ダイヤモンド業者の原石の買付けを容易にして供給量を増やしました。またダイヤモンド産業振興のため、企業には政府が特別優遇税制を打ち出しました。それくらいイスラエル政府にとっては、国を挙げての育成産業だったのです。しかし近年では、コンピューター産業や繊維産業がダイヤモンド産業に取って代わりつつあります。当時の研磨済み対日輸出額は、全体輸出額の20%近くの割合を占めていましたが、現在では研磨済み対日輸出額はたった2%弱に過ぎません。ですがこのままでは終わらないのがイスラエル人で、イスラエル経済の柱であるイスラエル・ダイヤモンド産業は世界的な経済崩壊に対処する独自の方法を始めました。普通であればマーケティング活動を凍結し広告費を引きあげるところですが、イスラエル・ダイヤモンド産業界は大きな費用をかけて顧客向けの活動を開始し、従来のものに加え新たな販促ツールも試みています。イスラエル・ダイヤモンド協会(IDI)のエリ・アヴィダール代表取締役は「我々は経済危機を問題とは見なさず、チャンスであると見ている」と述べています。「このような経済情勢下で成功するための鍵はマーケティング、経営、そして開発の面で、前向きでしかも時によっては型破りな戦略をとることだ」と同氏は述べ、それは「誰も考えなかったことをすることだ」と言っています。アヴィダール代表取締役は彼のチームを率いて“トゥギャザー・ワークス(共同作業)”と銘打った10ステージからなるB2B(企業向け)の戦略マーケティング計画を創立し、これを2009年一杯実行する予定だそうです。



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