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国際会議報告・第2回国際宝石宝飾コンフェレンス(GIT2008)

Gemmy148号からのつづき)

先進的な宝石鑑別:将来への展望
Advanced gemstone testing: an outlook into the future
発表者:Michael Krzemnicki 氏

近年の宝石鑑別は、より地球科学や生物学に関連した分野に入って来ており、物理的性質・化学組成だけでなく、分子構造・表面(トポグラフ、形態学)・同位元素・遺伝情報などについてのより高度な分析を必要とすることもある。このような高度な分析法が広まれば、次に迅速な宝石鑑別のためにより小さくて使い易い装置に多くの努力をそそがれるようになる。
本講演では現在使用中の、あるいは将来的に革新的な手段になる技術と小型化した高度な分析機器が紹介された。たとえばCCD分光器とLED光源を用いた靴箱より小さいサイズの携帯用紫外-可視分光光度計。LIBSはベリリウムなどの軽元素を測定する装置であるが、LAMPS(laser assisted microwave plasma spectroscopy)あるいはLIAF(laser induced atomic fluorescence)と併せることによりサブppbまでの検出を可能にすること。大型のLA-ICP-MSに代わる小さな質量分析装置として火星探査ロボットにも使用されているLA-TOF-MS(laser ablation time-of-flight mass spectrometry)。そのTOF-MSは既にタバコ箱のサイズまでに小型化されており、宝石の分析のための携帯用質量分析計としての可能性があることが発表された。

種類の異なる養殖真珠
The different kinds of cultured pearls
発表者:Henry H穫ni 氏

海水産および淡水産二枚貝の様々な真珠の生成について紹介された。
養殖真珠には、有核と無核のものがあり、外套膜組織で成長したものと生殖巣内で成長したものがある。更に真珠を生成する貝が淡水か海水産かという違いが存在する。淡水では、Cristaria plicataかHyriopsis cumingiiなどの二枚貝が主に使用され、海水ではPinctada martensii、Pinctada maximaとPinctada margaritiferaが主に使用される。一般に、海水産養殖真珠は生殖腺内で成長させられるが、淡水では外套膜成長の養殖真珠を生産する。
一般的に生殖腺内で成長させる真珠は有核で、外套膜で成長させる真珠が無核である。真珠核が生殖腺で拒絶される可能性もあるので、この一般ルールが壊れることもある。その結果、しばしば「ケシ真珠」という海水産養殖無核真珠が生まれる。また、あらかじめ外套膜にパールサックを形成させ、その後に真珠核を入れて真珠を育てることも可能。海水産貝にパールサックを形成させるために真珠核と移植組織片を共に入れ、短期間で最初の真珠を取り出す。そして、同じパールサックに再び真珠核が入れられる。この方法で、より大きい養殖真珠がセカンドオペレーションされる。
淡水養殖真珠は殆んどが無核であるが、上記と同じような方法が外套膜を用いて行われることもある。コイン型の養殖真珠を採取した後は貝殻もパールサックも球体の真珠核を収容出来る位十分に成長しているため、外套膜養殖真珠を真珠核を用いて作ることが出来る。

伝説のオウムガイ真珠
The legendary nautilus pearls
発表者:Kenneth Scarratt 氏

およそ1世紀もの間、噂はあるが実質的な情報は殆んど無いオウムガイ産真珠についての発表で、2006年9月に、フィリピン水域で漁師によって捕らえられたArgonauta hians(しばしばPaper Nautilusと呼ばれる)から発見された「オウムガイ真珠」のマイクロX線写真、紫外-可視-近赤外分光、表層構造、およびラマン分光を含めて宝石学的特性の詳細の報告であった。

ジェット、未だ流行の黒い宝石素材、CISGEM研究所からのデータ
Jet, a black gem material still in fashion, some data from CISGEM laboratory
発表者:Pornsawat Wathanakul 氏がMargherita Superchi 氏の代弁

装飾目的に使用される黒色の有機宝石であるジェットは光沢などの良い特性のため人気があるが、特性は異なるが似たような外観を持つ他の有機材料がある: 天然(亜炭、瀝青炭、無煙炭)と人工(例、エボナイトおよびベークライト)。これらの材料の違いを、CISGEM研究所がFT-IRやEDXを用いて測定した結果から発表された。
FT-IRとEDXRFを組み合わせた方法で、亜炭、瀝青炭、そして無煙炭のような「石炭」からジェット(亜炭の変種)を区別するのは可能であった。ポーランドとポルトガル産のジェットは化学的に変則的なため当てはまらないが、それ以外の産地のジェットには、通常低レベルのFe、VとZrが存在し、Alに関してはほとんど非検出である。また、ジェットからのエボナイトやベークライトのような人工の有機黒色材料を区別するにもこれらの方法は有効であった。

宝石鑑別機材としてのリアルタイムX線検査装置
Real time microradiography as a gemological tool
発表者:Nick Sturman 氏

エックス線撮影は、近年真珠の鑑別では主となる手段となり、それは鉱物学でX線回折を目的に使用をして以来、宝石学でもエックス線が導入されている。伝統的なフィルムを用いたエックス線検査装置が世界の多くの宝石ラボではこれまで標準であったが、真珠鑑別の手段として同時エックス線検査装置(RTX)への移行が必要になって来ている。
RTXは伝統的なエックス線検査装置と異なり、エックス線で検査している間もオペレーターが操作しサンプルを動かすことができ、ライブ画像で必要なレントゲン写真を探して取ることが出来るため柔軟性と迅速性を提供する。このプレゼンテーションはGIAがタイ、ニューヨークとカールズバッドに最近導入したRTXシステムについての内容であった。因みに中央宝石研究所は15年前よりRTXシステムを導入している。

ボー・プロイ(Bo Phloi)宝石フィールドの探索

ボー・プロイ(Bo Phloi)宝石フィールドの探索

ボー・プロイ(Bo Phloi)
宝石フィールドの探索

ボー・プロイ宝石フィールドはボー・プロイ町の近郊にあり、カンチャナブリから北約30 km、バンコックから170Kmに位置します。タイのコランダム鉱床は国の上側半分に広く分布した後期新生代に噴火した玄武岩と関連しています。ボー・プロイ宝石フィールドはタイ西部で最も大きいサファイア鉱床です。この辺りで宝石品質コランダムの源であると信じられている新生代の玄武岩は、ボー・プロイ町とボー・プロイ町の北6kmのバン・チョン・ダンにおいてだけ露出しています。
カンチャナブリ産サファイアは、強い色帯を伴いニアカラーレスから濃い青色と様々な色合いで、熱処理されたスリランカのブルーサファイアに匹敵するような青色を呈しているものも稀にあります。イエローサファイアも産出しますが量は少なく、コランダム全産出量の2%を超えていません。それらは無色に近い薄い黄色から中程度の黄色を呈しています。サファイア原石の平均したサイズはおよそ1cm。石の結晶形は卓状の六角柱で、石の多くには針状ルチルとフィンガープリントやフェザー状の第二次液体内包物を含んでいます。

SAP Mining Co., Ltd.のサファイア原石回収プラント

SAP Mining Co., Ltd.の
サファイア原石回収プラント

SAP Mining Co., Ltd.のサファイア鉱山

SAP Mining Co., Ltd.の
サファイア鉱山


平成21年宝石学会(日本)のご報告

平成21年度の宝石学会(日本)講演会・総会が6月6・7の両日に、東京大学キャンパス内で開催されました。
発表のありました特別講演ならびに一般講演の内容について、講演要旨プログラムより誌面の関係から抜粋して以下にご紹介致します(○:発表者)。
なお、当中央宝石研究所からは、間中所員・江森所員によりそれぞれ研究成果の発表がありました。発表内容については本誌上で順次掲載の予定です。

一般講演 1
真珠のテリと結晶層との相関に関する研究

真珠科学研究所

  ○

田中 宏樹

 

 

矢崎 純子

 

 

小松  博

一般講演 2
前処理工程で発生した“加工キズ”の研究

真珠科学研究所

  ○

山本  亮

 

 

矢崎 純子

 

 

小松  博


一般講演 3
放射線処理ブルー系真珠への「蛍光法」による鑑別の試み

真珠科学研究所

  ○

佐藤 友恵

 

 

矢崎 純子

 

 

小松  博

一般講演 4
真珠と貝殻を加熱することによる色調の変化についての考察

東京宝石科学アカデミー

  ○

渥美 郁男

真珠科学研究所

 

矢崎 純子

一般講演 5
黒色オパールマトリックスについての考察

東京宝石科学アカデミー

  ○

岩松 利香

 

 

大池  茜

 

 

ウィジェセカラ チャンダナ

一般講演 6
ミャンマー Nam-Ya地方のルビー産出の現状およびその他の産出宝石

(株)モリス

  ○

森 孝仁

ジャパンジュエリービジネススクール

 

奥田 薫

特別講演
シーボルトが持ち帰った日本産鉱物コレクション

講演中の田賀井氏

講演中の田賀井氏

東大総合研究博物館  ○田賀井 篤平

日本への近代的自然科学の導入で活躍したシーボルトの鉱物の採集活動には彼の助手や日本人の弟子が貢献したこと、標本からうかがえる彼の鉱物観についてお話し下さいました。


一般講演 7
スピネルの加熱処理について

(株)彩

  ○

中島 彩乃

日独宝石研究所

 

古屋 正貴

一般講演 8
最近遭遇した合成石の群晶について

聖徳大学 川並記念図書館

  ○

林  政彦

早稲田大学 創造理工学部

 

山崎 淳司

一般講演 9
最近遭遇するいわゆるレアストーンの鑑別について

発表中の間中所員

発表中の間中所員

中央宝石研究所

  ○

間中 裕二

 

 

尾方 朋子


一般講演 10
最近のラボ・トピックス

全国宝石学協会

  ○

小林 泰介

 

 

阿依 アヒマディ

一般講演 11
チベットおよび内モンゴル産アンデシンの研究

全国宝石学協会  ○阿依 アヒマディ

一般講演 12
多面体間の晶相変化:理論的研究

京都大学大学院 理学研究科   ○北村 雅夫

一般講演 13
宝石リビアンガラスの組成、組織とその形成

山口大学 理工学研究科  ○三浦 保範

一般講演 14
ダイヤモンドの分別に有用な機材の開発について

発表中の江森所員

発表中の江森所員

中央宝石研究所  ○江森 健太郎


一般講演 15
Sarin社製ダイヤモンド・カラーグレーディング装置「ColibriTM」の実用性

全国宝石学協会

  ○

川野  潤

 

 

西京 邦浩

一般講演 16
黒色不透明石の鑑別

全国宝石学協会

  ○

岡野  誠

 

 

北脇 裕士

特別講演
分光学的な手法からみた天然ダイヤモンドの性質

講演中の鍵氏

講演中の鍵氏

東大大学院 理学系研究科附属 地殻化学実験施設
  ○鍵  裕之

2007年に日本でダイヤモンドが発見された時のエピソード、ならびに天然ダイヤモンドが生成する深さの起源の研究についてお話しして下さいました。



東大赤門

東大赤門

東大安田講堂

東大安田講堂

一日目の講演終了後、東京大学生協第2食堂にて懇親会が開催されました。講演会において色石鑑別上注目されるべきレアストーン宝石の紹介や、昨今宝飾品市場でしばしば話題にあがる宝石の実体、まだまだ解明すべき余地のある宝石に施される処理の再考など話題が多岐にわたったため、懇親会でも引き続きそれらの話題について話をしたり、久しぶりに顔を合わせた方々が各々の近況を報告し合うなど、思い思いの時間を過ごされていました。

二日目の講演会終了後には、特別講演をされました東大大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設の鍵先生の研究室を見せていただきました。また、東大生ガイドによる東京大学キャンパスツアーも開催され、ツアー参加者は2時間ほどにわたって歴史的重要文化財である赤門(正式名称:旧加賀屋敷御守殿門)をはじめ、夏目漱石の小説によって多くの人に親しまれている三四郎池や、1960年代後半に激化する学園紛争の中、機動隊まで出動したことで知られる安田講堂などを見学しました。歴史的背景だけでなく、東大生ガイドの方々による現東大生の学生生活の様子も聞きながらキャンパスツアーを楽しみました。


小売店様向け宝石の知識「宝石大国・インド4」

宝石大国・インド4

御徒町・神戸・甲府では多くのインド人宝石商が活躍している。インド宝石商にはジェイン、メタ、カラ、ラジグル、ベイド、パドニィさんという名前の人が多い。彼等の多くはジャイナ教という宗教信仰者たちである。神戸には立派なジャイナ教寺院がある。
JR御徒町近くのビルの一室にはジャイナ教の小寺院もあって朝夕に信者が訪れる。

筆者は今から丁度50年前、1958年に初めてインドに長期出張滞在し全インド各地を訪れた。当時インドは英国から独立して間もなかった。インド政府は殖産興業を目指し、国民に就業機会を与えるための手段としてウォッチ生産工場の設立を計画した。
ここに日本の優秀高度な時計生産技術の援助を求めてきたのだ。

当時スイスは時計生産技術の国外移転を禁止していた事情があった。現在インドには国産時計「HMT」ブランドが製造販売され人気を博している(HMT工場所在地:バンガロール=ITセンターで世界的に有名)。これは日本の技術援助でできたウォッチである。
当時、筆者は長期にわたり全インド各地を訪れ時計市場調査を行った。そこで気づいたのは時計・宝石・貴金属商にジャイナ教信者が多いことであった。

デリーにはJayna Time Co.というジャイナ教信者経営のクロック工場がある。ジャイプールには、Jain Jewellery Factoryがあり、ムンバイ(旧ボンベイ)のダイヤモンド商人にもジャイナ教信者が多い。
ジャイナ教は、インド固有の宗教で、戒律は厳しく、「うそを禁じ、信用第一」を重んじている、彼等とビジネスを一旦始めると信用取引は間違いがないといわれるほどである。
インドの国勢調査によると、ジャイナ教の信者は420万人でインド全人口の0.4%。しかし、ジャイナ教の団体によると、インド個人所得税の2割は信者が納めているという。

ジャイナ教の教えは、「うそをついてはいけないから約束は徹底して守る」。それが信用と成功につながっている。また「ジャイナ信徒は死後に、生前の善い行いと悪い行いが会計簿の債権と債務のように計算され来世が決まる」。だから「生前の行いは正しくあれ」という。ジュエリー・ビジネスは商品・金銭の貸借があり多額になるので信用がなければ取引は成り立たない。だから信用の厚いジャイナ教信者は圧倒的な存在感がある。 

インド商人を印僑というが、ビジネス界でジャイナ教信仰者が多く国内外で活躍している。彼等はジェインと名がつけば、過去に一度も顔を会わせていない相手でも、名前を聞いただけでそれほど苦労しなくても取引に応じてくれるほどである。
インド商人は、総じて語学力が強い。英語はもちろん日本にいるインド人は日本語が驚くほど上手だ。また計算が速い。数学思考の原点であり、コンピュータサイエンスの基礎概念である零「ゼロ」という数を発見したのはインド人だ。日本の九九は「9×9=81」までなのに対し、インドの子供は義務教育の段階で「19×19=361」まで暗記させられるというからすごい。ジャイナ教信者の人たちは完全なヴェジタリアン〔菜食主義者〕で食生活はもちろん日常生活の戒律も厳しい。

筆者のビジネスのスタートはインドからでウォッチ・ビジネスが最初である。過去50年にわたり海外取引に関与した。インドにはダイヤモンド買い付けにボンベイに数十回にわたり出かけ、ジュエリーの買い付けにジャイプールにも度々赴き、ジャイナ教信徒の宝石商と折衝した。時計・宝石・貴金属では世界的にユダヤ商人が多い。香港や中国では宝石華僑と付き合うなど多くの国々のジュエラーと付き合った。このジュエリー・ビジネスは、商品の中でも高額であり価値がある専門品なので取引の根底には世界中どこでも信用第一である。

インド人の中でも限られたジャイナ教信者に宝飾品実業家が多いのもうなずける。またジャイナ教徒は社会貢献に熱心で、病院などを多く手がけることでも知られる、「所有のこころを持つなかれ」との教えがそうさせるのだそうだ。「ひとり裸で生まれ、ひとり裸で死んでいく」事業の成功もすべてうたかたのもの。この達観がここ一番の冷静な判断とさらなる成功を呼ぶのかもしれない。インド宝石商にはジャイナ教信者が多く、彼等との付き合いを通して人生学ぶことが多い。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊