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平成19年宝石学会(日本)のご報告

エポカルツクバ

エポカルツクバ

平成19年度の宝石学会(日本)講演会・総会が6月2日・3日の両日に、筑波のエポカルつくば(つくば国際会議場)にて開催されました。本年度は東京近郊ということもあり、参加者数も多く例年以上の盛況ぶりでした。先ず、6月2日(土)に発表のあった特別講演ならびに一般講演の内容について、講演要旨プログラムより抜粋して以下に紹介致します(○:発表者)。
尚、当中央宝石研究所からは、藤田所員と江森所員によりそれぞれ研究成果の発表がありました。発表内容については順次掲載の予定です。

一般講演 1
ミャンマーで産出する宝石の特徴

(株)モリス

  ○

森 孝仁

ジャパンジュエリービジネススクール

  

奥田 薫

一般講演 2
スリランカ産のギウダの分類と特徴について

東京宝石科学アカデミー  ウィジェセカラ チャンダナ

一般講演 3
アメシストからシトリンへの加熱変化について

聖徳大学川並記念図書館

  ○

林  政彦

コスモ宝飾

  

民谷 晴亮

早稲田大学教育学部

  

小松 睦美

 

  

堤  貞夫

早稲田大学理工学部

  

山崎 淳司

一般講演 4
最近分析した石についての報告

発表中の藤田所員

発表中の藤田所員

中央宝石研究所  藤田 直也

一般講演 5
ベリリウムを含むインクルージョンを持つブル-サファイアについて

発表中の江森所員

発表中の江森所員

中央宝石研究所  江森 健太郎

一般講演 6
回折X線分析法のターフェアイトとマスグラバイト識別への応用

全国宝石学協会

  ○

阿依 アヒマディ

  

  

小林 泰介

  

  

福田 千紘

  

  

北脇 裕士

  

  

岡野  誠

特別講演
ダイヤモンド合成の夜明け頃

講演会での岩槻雅男氏

講演会での岩槻雅男氏

筑波大学名誉教授 産総研招聘研究員  岩槻 雅男

特別講演では、筑波大学名誉教授の岩槻雅男氏より「ダイヤモンド合成の夜明け頃」というタイトルで、多くの技術者が苦悩し挑んできたダイヤモンドの合成についてお話をしていただきました。当時のダイヤモンド合成の研究開発には多くの苦難があったことや、表には出なかった話題などが紹介され、参加者全員40分の講演時間が非常に短く感じるほど惹きつけられた講演でした。

一般講演 7
合成ダイヤモンド鑑別の現状-GAAJラボにおける実例―

全国宝石学協会

  ○

北脇 裕士

 

  

阿依 アヒマディ

一般講演 8
天然ダイヤモンドのカソードルミネッセンス像について

物質・材料研究機構  神田 久生

一般講演 9
サファイア、スピネル、ガーネットをセンサに用いた温度計

東洋大学先端光応用計測研究センター

  ○

勝亦  徹

 

  

狩野 夢美

 

  

中山 千栄子

 

  

相沢 宏明

 

  

小室 修二

一般講演 10
分光反射率の比較によるパープルからバイオレット系淡水養殖真珠の考察

東京宝石科学アカデミー

  ○

渥美 郁男

真珠科学研究所

  

矢崎 純子

一般講演 11
貝殻真珠層に見られる「ダイクロイック・ミラー効果」の考察

真珠科学研究所

  ○

森 真奈美

 

  

田中 美帆

一般講演 12
「超てり」の研究1.貝殻真珠層との関連についての考察

真珠科学研究所

  ○

小松 泰子

 

  

矢崎 純子

一般講演 13
クロチョウガイ貝殻に見られる分泌色素の変遷についての考察

真珠科学研究所

  ○

吹田 眞輝江

 

  

小松  博

一般講演 14
タンパク質の変性と合成による異色真珠の作成法とその真珠の物性測定

環境生物工学研究所

  ○

原口 義信

真珠科学研究所

  

小松  博

見学会の様子:3万トンプレスについて説明する神田久生氏

見学会の様子:3万トンプレスについて
説明する神田久生氏

奨励賞を受賞した江森所員

奨励賞を受賞した江森所員

一日目の講演終了後には、国際会議場内で懇親会が開かれました。立食パーティの形式で行われ、参加者同士が交流を深めたり、様々な話題で盛り上がったりと有意義な時間を過ごすことができました。

翌6月3日(日)には、物質・材料研究機構ならびに地質標本館での見学会が行われました。前者では、3万トンもの重さをかけて合成ダイヤモンドを作る装置などを見学したり、後者では、たくさんの原石や化石などを見ることができました。共に数多くの発見や感動があり、大変充実した見学会となりました。
両日とも参加者にとって見識を深める内容であり、次回の宝石学会(日本)にも期待を寄せる次第です。

また、総会では宝石学会奨励賞の発表がありました。奨励賞は前年の研究発表を評価し、将来的に宝石学を担っていく若手に対して与えられるものです。中央宝石研究所からは、昨年の藤田所員に引き続き、本年度は江森所員がLA-ICP-MSを用いたベリリウム拡散処理ブルーサファイアの研究が評価され奨励賞を受賞しました。

ラボトピックス「ガーネット2」

ガーネット2

前回の赤色系パイラルスパイト系列のガーネットに続き、今回はウグランダイト系列とよばれるガーネットの中で、緑色のものについてご紹介します。

『ウグランダイト系列』の分類

『ウグランダイト』とは、ウバローバイト(Uvarovite)、グロッシュラー(Grossular)、アンドラダイト(Andradite)の頭文字をとったところからきています。(因みに、『パイラルスパイト』は、パイロープ(Pyrope)、アルマンディン(Almandine)、スペサルティン(Spessartine)からとっています)
このウグランダイト系列の3種のガーネットであるウバローバイト、グロッシュラー、アンドラダイトはそれぞれ端成分(一切まじりけのない状態)です(図1)。しかし、前号でご紹介した赤色系ガーネットの端成分同士とは関係が異なります。赤色系ガーネット(パイロープ、アルマンディン、スペサルティン)は、任意の割合で混ざり合い連続的な固溶体(※)となりましたが、ウグランダイト系列のガーネットで混ざるのは、グロッシュラーとアンドラダイトの相互間だけで、ウバローバイトとグロッシュラー、ウバローバイトとアンドラダイトとは一部しか混ざり合いません。なぜならば、グロッシュラーとアンドラダイトとを構成している元素、アルミニウム(Al)と鉄(Fe)はイオンの大きさが近いため、お互いが元素を交換し合い混ざり合うことが可能なのですが、ウバローバイトを構成しているクロム(Cr)は、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)とイオンの大きさが異なるため、混ざり合うことができません。
混ざり合うことが可能なグロッシュラーとアンドラダイトは、赤色系ガーネットと同様に連続的な固溶体となり中間タイプが存在します(Gemmy136号P.8、ガーネット化学式と表を参照)。この中間タイプは、マリ・ガーネット(商標ネーム)と呼ばれています。
※固容体:適度な温度と圧力下で相互の成分が混ざり合い、ひとつの結晶体になること。

図1 ウグランダイト系列の分類と特性

図1 ウグランダイト系列の分類と特性

『ウグランダイト系列』の変種

これら3種のガーネットは宝石としての一般的な色相は緑色系と思われがちです。しかし実際は他の色相もあり、その色相によって更に細かく変種が分けられることもあります(表1)。
今回は緑色系ガーネットの代表とも言える、デマントイドとグリーンのグロッシュラーを紹介します。

表1 ウグランダイト系列の変種

 アンドラダイト   ・デマントイド(黄緑~緑色)
 ・アンドラダイト(褐緑色)
 ・トパーゾライト(黄色)
 ・メラナイト(黒色)
 グロッシュラー   ・グロッシュラー(ホワイト・イエロー・ゴールデン・オレンジ・グリーン)
 ・ヘソナイト(褐赤色・橙赤色・橙黄色)
 ・ハイドログロッシュラー(ホワイト・グリーン・ピンク)
 ウバローバイト(緑色)   

デマントイドとグリーングロッシュラーの採掘の歴史

緑色系のガーネットは赤色系ガーネットに比べ歴史は意外と浅く、19世紀半ばにロシアのウラル山脈でデマントイドが最初に発見されました。ロシア帝国の貴族にこよなく愛された宝石のひとつでしたが、ロシア革命により宝石の採掘は途絶えてしまいました。その後、緑色系ガーネットの代表となったのは、東アフリカから発見されたグリーングロッシュラーガーネットでした。小さいながらも濃い緑色のグロッシュラーガーネットは一躍人気を集め、現在でも、最初に発見されたケニアのツァボ国立公園に因んだ「ツァボライト」の名称で親しまれています。また、デマントイドも20世紀末のソ連崩壊により採掘が再開されました。ダイヤモンドと同じようにキラキラとした虹色の輝きをもつデマントイドはとても特徴的で、「デマントイド」という名称はダイヤモンドのようなという意味からきています。現在では、ロシアの他、アフリカのナミビアやカナダ等からも採掘されています。

デマントイドとグリーングロッシュラーの特性

写真1

写真1

次に、デマントイドとグリーングロッシュラーの色相、屈折率、比重についてお話します。
写真1は、左側から、A.グリーングロッシュラー、B.デマントイドです。

〔色相〕
グロッシュラーは、色となる元素を元々持っていないので、理想的な端成分は無色です。そこに、微量のクロム(Cr)とバナジウム(V)が入ることで、緑色のグリーングロッシュラーとなります。一方、デマントイドは、アンドラダイトが化学組成上、色となる鉄(Fe)元素があるため元から黄色や褐色の色相を持っていますが、そこにクロム(Cr)が入り黄緑から緑の色相となります。

〔屈折・比重〕
グリーングロッシュラーとデマントイドとでは、グリーングロッシュラーのほうが屈折率、比重ともに低く、デマントイドは高いです。これは、赤色系ガーネットと同じように鉄(Fe)が原因です。

〔分光性〕
ハンドタイプの可視分光器では、グリーングロッシュラーは特徴的な吸収は観察されません(色因となるバナジウム(V)の吸収は不明瞭)。一方、デマントイドには、440nm付近に鉄(Fe)の吸収バンドが見られ、濃緑色のものには690,685,634,618nmにクロム(Cr)による吸収が見られるものもあります。

デマントイド可視分光

デマントイド可視分光

  屈折率 比重 分光性 インクルージョン
グリーングロッシュラー 1.740 3.66 特徴的な吸収はなし 針状、液体
デマントイド 1.81以上 3.83 クロム(Cr)微弱,鉄(Fe) ホーステール

終わりに

ガーネットにはあらゆる色相があり、また多くの変種が存在します。今回は紹介できませんでしたが、糖蜜状組織と切りかぶ状インクルージョンで有名なヘソナイトガーネットや、アレキサンドライトのように変色性をもつカラーチェンジタイプのガーネット、最近レインボーガーネットの愛称で人気を集めていた天川村のアンドラダイトガーネットなどがあります。ガーネットは、類質同像(※)であるがゆえに多くの特徴的な変種が存在し、魅力的な鉱物のひとつになっています。地球の内部には、何十億年前にできた未知のガーネットがまだまだ眠っていて、そのようなガーネットがこれからも産出されるかもしれません。
※類質同像:類似の化学組成をもち、共通の結晶構造を有する鉱物の関係。

当研究所の分析報告書のご紹介

デマントイドガーネットには、繊維状の結晶が放射状に伸びて馬のしっぽのようにみえる「ホーステールインクルージョン」とよばれる結晶が多く観察されます。このインクルージョンはデマントイド特有のインクルージョンです。当研究所では、ホーステールインクルージョンが入っている場合、ご希望によりそのガーネットの拡大写真付の分析報告書を発行しています。(※通常の鑑別書+内部世界分析報告書という形での発行となります)

大阪支店  山根 千恵

小売店様向け宝石の知識「アンティークジュエリー5」

アンティークジュエリー・Antique Jewellery 5

アンティークジュエリー。それは、百年以上を経過して、なお光り輝きを失わずにいる宝石・貴金属の装身具、小物の美術工芸品、ウオッチ・クロックを含むジュエリーを指す。

職人たちが一点一点に精魂を込めた細工の精緻。今なお、わたくしたちにその素晴らしさと古きよき時代の息吹を伝え、感動を与えるアンティークジュエリー。その素晴らしいアンティークとの出会いの場として有名な二大美術品オークションがある。サザビーズとクリステイーズ。ここで世界中から価値を認められたアンティークが有能なオークショニア(競売人)の采配のもとに、お客の挙げるパドル(番号札)で競り落とされる。優雅で上品な独特な雰囲気の中、美術品と購入者の橋渡しが行われる。二大オークションハウスを案内しよう。

サザビーズ(Sotheby’s)は、ロンドンで書籍の売買をしていたサミュエル・ベーカーが、売主と買主が取引をする場を提供する目的で開催した古物のオークションから始まった。1778年にベーカーの甥、ジョン・サザビーが経営を引き継ぎ、多種のアンティークの取扱いを拡大していった。現在は世界35ヶ国に事務所を設け、18ヶ所で年間約750回以上のオークションを定期的に開催しています。オークションの取扱い分野は、宝石・貴金属ジュエリー、時計、絵画、版画、家具、陶磁器、古書などの美術品など多分野に及んでおり、世界最古の歴史的信用あるオークションハウスとして名声を博しています。

クリステイーズ(CHRISTIE’S)は、一方のオークションの雄として、240年の伝統と歴史を誇る世界的なオークション会社です。現在のオークションシステムは、商取引はオープンな場でフェアに行われるべきだという理念に基づき、イギリスを中心に18世紀末に普及しました。1776年にジェームス・クリスティーズによって創立されたクリスティーズは美術品専門のオークション会社として歴史は古く、世界40ヶ国に拠点を持っています。主なオークション分野は、宝飾装飾美術、西洋美術、東洋美術など、広い美術分野を取り扱っていて、とくに宝石・貴金属ジュエリー、ウオッチ・クロック、20世紀装飾美術(アールヌーボーなど)にも力を入れています。ロンドン、ニューヨーク、ジュネーブ、アムステルダム、香港などで年間500回のオークションを毎日のように開催しています。

この二大オークションでは、アンティークジュエリーの世界的逸品が競売され、そのニュースが世界中に報道されることがたびたびあるので記憶している人も多いでしょう。

とくに1990年前後バブル期には、日本人金持ちが、豪華な西欧ジュエリーや絵画を大枚のジャパン・マネーで競り落としたニュースが世界を駆け巡りました。

ここでアンティークジュエリーのオークションの参加方法について概略を説明しよう。
先ず、興味ある商品カテゴリーのオークション・カタログ定期購読の申し込みをオークションハウスに行う。宝石・貴金属・ジュエリー・時計製品に興味があれば、その旨申し込むと当該カタログが指定の宛先に送られてきます。カタログは各オークション開催毎に発行され、オークション開催日の約2週間前に直接ロンドンから郵送されます。

オークションでは、お客が直接作品を閲覧し、納得の上でのビット(入札)が販売条件となっており、オークション後のキャンセルは出来ません。オークションハウスは、作品についての問い合わせに対してコンディションなどの情報は現地から提供する。しかし購入はあくまでお客の自己責任となります。

ビット参加はお客または代理人が作品を直接閲覧することが条件であるが、オークションハウスが代行することもできる。但し、販売条件を了承済みが前提です。ビットは最高ビット価格の範囲内で出来る限り安く落札するように努めて入札する。オークション落札後、開催地のオークションハウスから請求書が届くので、現地通貨の海外電信送金で指定銀行口座へ支払う。請求金額は「落札価格+プレミアム(手数料)+該当する税金」の合計金額(オークション会場渡し価格)。なお参加者は、銀行照会が必要で、参加が適格か予め審査されます。

アンティークジュエリーをエステート(資産)として購入するのに、二大オークションハウスを利用することは有益な方法です。両社のオークションは誰でも参加できます。

「楽しいジュエリーセールス」
著者 早川 武俊